ウツギ博士は、『僕の講義で、質問や解説で分かり難い事があれば気軽にメールを送って欲しい』とオリエンテーションの自己紹介スライド──と、言っても受講者の中に博士を知らない者はきっと居ない──でアドレスを生徒にメモをするように指示をしていた。俺の場合、スマホに残っている。それを引っ張って要件を送れば、博士への連絡は完了だ。
【お世話になってます。本日、午前中の授業を欠席しました学籍番号0083190の俺です。
家電事故により、入院となってしまい授業に参加する事が出来ませんでした。
本日提出のレポートを次回の講義で提出させて頂けると嬉しいです。】
要件のみで、簡潔に。そして謙虚にだ。何せ博士は権威である。お手を煩わせる訳にはいかないのだ。
ハカセには、入院した事に始まり、博士の講義に出れなかった事や文字化けして読めなかった文章の事。俺の尻が感電し、尻の毛が焦げた事と物凄く痛かった事、我が家のトイレやメーカーへの恨み節を延々と書き連ねて送りつける。ハカセは、別に何を聞かせても笑い合う位の仲だ。なので、病院の所在地までバッチリと送りつけた。アパートがクチバだと言っていたから、学校帰りに寄ってきてくれる筈だ。
そして、何より横になる事しかない。暇なのだ。
今やれる事は、母親が帰り際に置いていったテレビカードでテレビを見る位だが今は別段見たい番組も無い。
俺はどちらかと言えばラジオ派だ。作業用BGM代わりにコージのポケミュージックを掛けてみたり、寝る時はポケモンの笛の音色を一日流しているだけの局を回して聞いたりしているのだ。無い物を強請っても仕方がないので、ネットサーフィンとメール。後は時間が来れば食事を摂って寝るだけだ。
明日は、尿検査と血液検査とMRIほか健康診断のオンパレードである。
そして、程なくスマホのバイブが手の中で響く。ウツギ博士からだ。
※ ※ ※
件名:俺君、お加減はどうだい?
トイレで感電だなんて、とても大変な思いをしたんだね。
単なる故障や設計ミスの漏電であればメーカーへの訴訟も勝機があるかもしれないけれど、異常動作となると原因はポケモンかもしれない。そうなると負けてしまう可能性が高いと思うんだ。
君は、シンオウのナナカマド博士の論文を読んだ事があるかい?
とあるポケモンにまつわるものなんだ。概要を言ってしまうと、ポケモンが入り込んだオモチャのロボットを新種としてポケモン図鑑に載せるかどうかだ。当時、学会で議論になって権威達が凄く白熱したんだ!
結果は、博士達の熱気に怯えたポケモンが逃走。現物が無いと登録もできないとお流れになってしまったよ。
そのロボットに入り込んで居たのがロトムで、今はパソコンや図鑑、スマホに入り込んで僕達を助けてくれている。
もしかしたら、君の家のトイレもロトムが入り込んだのかもしれないね。新フォルムとして登録をするなら、ウォッシュロトム…いや、もう洗濯機に入り込んだロトムが居たか。
面白い話をありがとう。今日の5番道路の調査が終わったら、是非ともお見舞いに行かせて貰うよ!
P.S メールを送る時には、アドレスを確認しないと駄目だよ。
ウツギより
※ ※ ※
──やってしまった。
アドレス帳に入力する手間を惜しんで、ウツギ博士をはかせ、ハカセはハカセと登録していたのが仇となった。ハカセは、ヒロシと本名で登録しておこうと心に誓う。
しかし、大変だ。博士が来る。来てしまう!
たかだか感電で尻の焦げた学生の見舞いにだ。
慌てているとハカセからメッセージ。『教授か誰かと間違えていませんかな?』との事だ。
もう遅いんだよハカセ!!!!