トレーナーじゃない学生の話   作:白玉善哉

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良薬は鼻に臭し

追いかけなければいけない。

 

強い意志とは裏腹に、とにかく足を動かす事が苦痛過ぎるのだ。弟と母親はポリゴンまっしぐらで此方に気付いた様子はなく、さっさと行ってしまった。

 

ベッドで横になっていた時には気にならなかったが、一歩踏み出す毎にビリビリと感電系のドッキリグッズの痺れだか痛みだかに似た刺激に襲われる。

気合いで病室の扉の前までヨタヨタと数歩は歩いたが、もう無理。辛過ぎるわ。口を真一文字に結んでいると、見兼ねたウツギ博士がポケットから使い掛けのスプレーを振り掛けてくれる。

 

少し湿布に似たツンとした刺激臭がした。ボトルの色は何度も学内のトレーナーが持っているのを見た事がある。なんでもなおしだ。

 

 

「それ、ポケモン用ですよね?」

「そうだね。市販品は治療で扱う物より成分は調整されてるから大丈夫だよ。人間が使うにはもっと薬効が低い方が良いんだけど、こっそり使ってる人は多いんだ。かなり効くだろう?」

 

 

効くなんてレベルじゃない。効き目が瞬間で表れ過ぎて怖いくらいだ。岩や鋼の体を持つポケモンにさえ染み込んで効いてしまうのだから、本当に大丈夫かと訝しげに博士の顔を見る。とても良い笑顔でこう言った。

 

 

「僕も研究で寝る間が惜しい時にはお世話になってるから平気だよ」

 

 

なんと常用者の方だった。そして、ライフハックのように語っているが何が平気なのだろうか。優しそうな見掛けに反して凄く破天荒な人である。

いや、でもニドランに突かれただとかアーボに噛まれた、バタフリーの粉を吸ったなんて話を時々見るが死亡事故に至った続報は見ない。案外、ポケモン用を人間にも使ってるのか?

 

そして何より痛いよりも多少臭い方がまだ良い。良薬は鼻に臭しだ。

 

 

「いってらっしゃい。ポリゴンの行動は興味深いけれど、お客さんがいた方が看護師の人も部屋に入るのを遠慮をしてくれるだろう?」

 

 

と言う博士の言葉に甘える事にした。感謝の一礼をしてから、スマホと護身用のボールを持って部屋を抜け出す。

足の具合も好調だ。

 

 

※ ※ ※

 

診療時間が終わっているからか、病院内の人出は疎らだ。小さい病院だからベッドは20床程度だが、半数以上が埋まっている。

 

漏れ聞こえる声から、おじいちゃんのお見舞に来た子供の声やイビキが聞こえてくる。

見舞い客の出入りに紛れて、病院から抜け出すと座り込んでいる弟を発見した。

 

 

「にいちゃん、あしいたーい…」

「…仕方ねぇなぁ」

 

 

幼児の足で急いで来た事を考えると既にガス欠なのだろう。背中に背負って足早に後を追う。

 

母の居場所は離れているが分かりやすかった。ポリゴンをボールに戻そうとして失敗しているのか赤い光線がチラチラと上空を飛んでいるのだ。その光を目で追っていると弟が呟く。

 

 

「ポリゴン、おれんちにくるのがイヤだったのかなぁ…」

「そりゃ、ポリゴンに聞いてみないと分からないな」

 

 

ポリゴンの気持ちはポリゴンのみぞ知るだ。

本当に嫌なら暴れたり、人間に攻撃したりと昨日の時点でもっと大騒ぎになっている筈だ。だが、今ここで何を言っても気休めにしかならない。弟のポケモンにするつもりで連れて来たのだから、ポリゴンから伝えて貰った方が間違いない。

 

ずり落ちる体を担ぎ直して、腰を叩く。マンションに着くと、クエーとポリゴンの怒ったような声と固いものがぶつかり合う音がする。きっと体当たりだ。

 

 

「もう、ペッペ!止めなさい!!」

 

 

ポリゴンは命令を無視して体当たり!

下から窺い知る事は出来ないが、ポリゴンの固い体でぶつかったならステンレスだろうが傷やヘコみが出来ているだろう。

 

俺は、急いでスニーカーで非常階段を駆け登った。

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