トレーナーじゃない学生の話   作:白玉善哉

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扉の奥

 

駆け登るとポリゴンは居た。ガツンと硬質な音を立てて、隣の家の扉に体当たりを繰り返す。母の言葉は意に介さず、親の仇を前にしたかのような猛攻だ。

 

 

「戻りなさい、ペッペ!」

 

 

ボールを向けてもすぐに出てきて、ポリゴンは攻撃を止める気配が無い。昨日の夜、しっかりと時間をかけて磨き上げた体には傷が付いている。扉の方がポリゴンより頑丈だったようだ。これでは体当たりでなく突進だ。

 

 

「どうしたんだよ、ポリゴン。何があったんだよ?」

 

 

俺の声を聞いてポリゴンの攻撃が止まる。足をグルグルと回し地団駄を踏んでいる。何かを訴えているのが分かる。

 

 

「クエクエー!」

「すまん、分からん。お前昨日は普通だったろ。この家に何かあるのか?」

 

 

俺の言葉に扉をノックでもするように扉をつついている。人の家だからポリゴンが何を気にしているのか確認する手立ては無い。困ったと頭を掠めた時だった。

 

 

「カネナシさんのご親族の方ですか?」

 

 

制服を来たガードマンに声を掛けられてしまった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「トライアルをしているポリゴンが、なんだか突然…此方のお宅に向かって攻撃を始めたみたいなんです」

 

 

俺が口を開くより先に母親が返事をする。ガードマンの表情は固く、横に居るクレッフィのジャラジャラと鍵を打ち鳴らす陽気な金属音が場違いのように響いていた。

 

 

「そうだったんですね。此方にお住まいの方、電話でのご連絡も取れないんですよ。…その様子だと、今もご在宅ではないようですね」

 

 

ガードマンが何度かインターホンを押すが反応はない。鍵を頼む。と短く男はクレッフィに指示を出す。金属の輪の部分が割れて全ての鍵を落としてしまった。少しおっちょこちょいらしい。その中から一本をガードマンに渡すと器用に鍵を戻し始める。

 

 

ガチャリと錠が回り扉が開いた。招かれた訳でも無いのにポリゴンは勝手に薄暗い室内を進んでいく。

獣臭や他の何かが腐ったような臭いがした。換気もされていないため空気が滞留していたのだろう。室内の生温かな風と共に臭気が奥の部屋から流れ込んで来る。咽せてしまいそうだ。

 

 

「あ、眩しいんで直接見ない方が良いですよ。クレッフィ、灯りを」

 

 

頭上でクレッフィが眩く輝く。テレビで見た古代遺跡探検隊ではピカチュウにフラッシュを使わせていたが、アレはもう少し眩かった。マジカルシャインか何かなのだろうか。淡く幻想的ながらハッキリとした光が室内を照らす。間接照明みたいだ。

 

土足のまま、ガードマンは進んで行った。ポリゴンの後を追う為、背負っていた弟とポリゴンのボールを母親とトレードした。俺もその後に続く。

 

※ ※ ※

 

 

廊下は目に見える範囲でもゴミが散乱していて、進む度に袋や何かゴミを踏んで音を立てた。一言で言えばゴミ屋敷の手前のような有様だった。

 

 

奥の部屋の隅。ポリゴンはゴミの中でロコンに寄り添っていた。

 

 

力なく投げ出したロコンの体を気遣うようにクチバシで顔や腹を押す。フローリングにへばりついたモモンの皮。何度も舐めたのか周りのものに比べて綺麗なロコンとマジックで書かれた餌皿。自分で食いちぎったらしいゴミ袋の残骸の傍でグッタリとしていた。生きてはいるが、瀕死だ。浅い呼吸を繰り返している。

本来なら美しいと言われる赤茶色の毛並に毛玉が出来て、かなり汚れてしまっている。いつからこうしていたのだろう。

 

弟の声に反応していたロコン。子供の声に反応して興奮しているのだと思っていたが、そもそも、近隣で大きな声を出すのが弟だけだったのだ。

クエとポリゴンは短く鳴いた。臭いのせいか動悸と頭痛がする。

鼻を摘んだガードマンの人が室内を見渡しながら口を開いた。

 

 

「…可哀想に。この子の様子を知ったからポリゴンが荒れていたみたいですね。暫く帰った様子も無いですし、恐らくは…夜逃げですかね」

 

 

雑にゴミ袋を蹴って通り道を作りながらそう言った。

俺はショックで咄嗟に言葉が出なかった。

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