「…ロコンはどうなるんですか?」
夜逃げの言葉で暫くフリーズしていたが、漸くしてから俺は口を開いた。何となく、検討は付いているが目の前でこの可哀想なポケモンを見てしまったら、聞かずにはいられなかった。
「…他の残置物と同じで投棄された扱いになると思います。ポケモンって、生き物なのに物扱いなんですよ。この子も保健所とか保護シェルターですかね」
事実だけを淡々と。だが気の毒そうにそうガードマンは言った。そして、ガードマンはスマホを手に何処かに電話を掛け始めた。
じっとポリゴンが此方を見つめている。助けて欲しいと言っている気がした。
「ごーふ?」
不明瞭だが聞き覚えのある鳴き声がした。口を一杯に膨らませたゴースが壁を擦り抜けて入って来たのだ。
「もしかして、先生か?」
俺の方を見て笑顔になる。やっぱり先生だった。ゴースは一杯にした口からゴミを吐き出す。飲みかけで放置された封の切れたペットボトル、生ゴミにただのゴミ。どれも人間が廃棄した物ばかりだ。最近はベトベターを連れた清掃会社の緑化運動が話題なため、これだけの量を拾ってきたなら大した物である。部屋のゴミも先生が集めてきたのだろうか?
そして、一頻り口の中の物を吐き出すと倒れているロコンを見つけ慌てたように上空を飛び回った。長い舌でロコンの顔を舐める。反応がない。
──そして、
「ゴォォスッ!!!!」
「クエッ!?」
──急に鳴き声をあげた。ポリゴンが驚いたように飛び上がる。目を閉じてロコンの体にガスの体を寄り添わせる。少しだけロコンの呼吸が穏やかになる。そして、同じようにポリゴンにくっ付いてからロコンに再度纏わりついた。暫くすると普段よりもはっきりしない飛び方で先生は何処かに行ってしまった。
一時期、先生を我が家で飼う事が出来ないかとゴースの技や生態を調べていた時期があった。該当する技は、多分…痛み分けだろうか。
その甲斐があってか、ロコンに劇的な変化があった。息も絶え絶えで、死んでしまうんじゃないかと思っていたのに不意に呼吸が安定した。腹を膨らませ、ぷふーと寝息を響かせている。汚れている事と痩せている事、それから尻尾の数が少ない事を除けば健康そのものだ。
ポケットに手を突っ込む。元々は護身用に買ったボールを手に取り、ロコンの腹に押し当てた。赤い光が小さな体を包む。手の中でボールが一度だけ揺れて動きが止まった。
ロコンを捕まえた。
人のポケモンはとったら泥棒。捕獲と言うよりも保護のつもりだ。弾かれる可能性も考えて、物は試しだったが、結果的に弾かれる事は無かった。部屋の中で逃がしたのだろうか。手の中のボールを眺める。
「ええ、もぬけの殻です。中はゴミと瀕死のロコンが一ぴ…うわっ!」
電話で話したまま足癖悪く雑に袋を蹴っていたガードマンが悲鳴をあげた。振り返るも此方からは何も見えない。
「もう一匹居たんですが、こっちは死んでいて…ええ、生きてる方は近所の方が保護を。床がやられてるんで施工の業者を──」
もう一匹居たらしい。直接見る気にはなれずに、男の背中に向けて手を合わせる。
ただ、安らかに眠れるようにと俺は静かに黙祷を捧げた。
※ ※ ※
電話が終わったガードマンにロコンを連れて行く事を告げて部屋から出る。臭いが鼻にこびりついて取れない。服から臭いがする気がして袖に鼻を寄せる。しかし、鼻が馬鹿になっているのか分からない。
「ねぇ、ペッペちゃんは?」
「にいちゃん、くさーい…」
やっぱり臭うらしい。母にポリゴンのボールを渡し、もう一つのボールはポケットに仕舞う。
「中にボロボロのロコンが居たから保護した。ポリゴンは、心配で暴れてたっぽい。ポケセンに寄ってから病院に戻るわ」
そう伝えると病院までの道を戻る。一応は入院をしているのに、色々と疲れた。
※ ※ ※
センターに着くと匂いに顔を顰めたラッキーにアロマセラピーで問答無用で良い匂いにされた。自分からアロマなお姉さんに似た匂いがするのは微妙だ。アロマなお兄さんの完成である。響きだけは、カフェでラテアートでも作ってモテそうな印象だ。しかし、エナジードリンクが大好きなだけのフツメンの自分からフローラル臭は遠慮したい。ポケモンは言葉が使えない分、反応が正直だ。ちょっとばかり傷付く。
ロコンは経過観察で預かりになった。俺と同じである。ただ、栄養状態が悪いので点滴をされたり精密検査をするようだ。前言撤回、点滴分を加味すると俺より治療が丁寧だ。
ロコンに対してのちょっとした問診があり、料金が心配になったがポケモンセンターは無料である。寧ろ、人間の方が個室代も食事代も掛かるのだ。
そして、肝心の電源を抜いたトイレに注意する話を伝え忘れた。病院に戻る帰り道で電話を掛ける。母も弟もポリゴンが守ってくれるから平気だと言っていた。
ポリゴンは自力で信頼を勝ち取ったようである。