病院に戻ると普通にナースに見つかり、勝手に出歩かないでくださいと怒られた。
…居残り組の二人は何をしていたのか。布団に潜る事を捨てたハカセが皺だらけのスーツでウツギ博士と楽しげに語らっていた。
そりゃあ、俺の一時帰宅もバレますわ。
扉が開いても二人は気付いた様子はなく、部屋を出る前には居なかったサーナイトがラルトスを腕に抱えて静かに佇んでいた。昨日のベイビィちゃんの母なのだろうか。優しい目で眠っているラルトスの寝顔を眺めている。見れば見るほど二匹はソックリだと思った。
「ただいま。それが噂のサナか?」
「おお、待っておりましたぞ。ちなみに、そのサーナイトはベイビィちゃんの二番目の兄で、ヤマブキシティのテレポート移動担当ですぞ」
サーナイトは次男だった。此方を一瞥すると腹に手を当てて恭しい一礼をして見せる。俺はドラマでしか見た事はないが、金持ちの家の執事のようだ。人に近い見た目をしているせいか、つられて頭を下げてしまう。
ギャラドスを見ても全てオスと勘違いしてしまう俺にはポケモンの目利きは無理そうだ。人間相手でさえ時たま怪しいのだから、自分の目は信用しない事にする。
「ヒロシ君はエルレイドにしなかったんだね?」
「次男がキルリアの時代に長兄がエルレイドになりましてな。ブレードでケムッソを一刀両断するのを見てから、めざめいしを拒否するようにサーナイトになりましたぞ!」
サーナイトは静かに頷いた。その通りだという事らしい。確かに素手で幼虫を…なんてのを見たら俺も嫌かもしれない。
「ところで、ポリゴンは落ち着いたかい?」
「落ち着いたには落ち着いたんですが…」
※ ※ ※
ポリゴンが荒れていた理由が隣の家だった事。ロコンを保護するまでの経緯を二人に説明する。博士は神妙に、ポケモン過激派のハカセは激怒していた。
「飼い主を見つけたら八つ裂きにしてやりましょう!死んだポケモンの無念を考えれば、鬼畜の所業は万死に値しますぞ!」
「ゴースが他のポケモンの世話を焼くなんて珍しいね」
ハカセは通常運転。でも、俺も憤りは感じる。
ウツギ博士は手帳を手に俺の言葉をメモしていく。
「あのロコン尻尾も二本しかないし、ガリガリで可哀想だったんですよ。空腹に耐えかねて自分の尻尾を食べたのかもしれません」
あのゴミ屋敷の中でゴース先生が運ぶ僅かばかりの生ゴミや果実を食べて生き延びていた事を加味しても十分ありえる。
俺の脳内では腹を鳴らしたロコンが自分の尻尾を甘噛みし、やがて…そんな図が浮かんでは消えを繰り返している。
「俺氏、実際のロコンを見ていないから分かりませんが…思うに、尻尾の数は子供なのが理由ではありませんかな?」
ロコンって、生まれた時から六本の尻尾な訳ではないのか。目から綺麗な鱗が出そう。まぁ、出てもコンタクトレンズが関の山なんだが。
「尻尾に白い毛が残っていれば、間違いなく子供だね。トレーナーが居ない環境下で生まれたから野生個体の判定になったんだと思うよ。…おっと!」
腕時計を見てウツギ博士は徐に立ち上がる。バタバタと皮のスーツケースにメモや汚れた白衣を詰め込む。博士のカバンを少しだけ覗き込むとボールやデジカメ、ノートパソコンに紙の束が入っていた。
「そろそろ、リニアの時間だ。明日はワカバでポケモンを渡す約束があるんだ。それじゃ、少しだけサーナイトをお借りするよ」
「では、ウツギ博士を丁重に頼みますぞ!」
ハカセが緑のボールにラルトスを戻すと、胸に手を当てながらサーナイトは逆の手で博士の手を取る。不思議な力が体を包みふっと姿を消した。エスパータイプ…とても便利だ。
一人と一体の姿が掻き消えた辺りを俺はまじまじと見ているとハカセが口を開く。
「ところで、俺氏がポリゴンを入手していた件についても、ご説明いただけますかな?」
眼鏡を押し上げながら博士は言った。ポリゴンの事を言った覚えは無い。トライアルを頼んだ件もあったのに昨日は誤爆報告の前にすっかり博士を放置していた。
俺は根掘り葉掘りの追求を覚悟した。