トレーナーじゃない学生の話   作:白玉善哉

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トライアル期間②

 ハカセと別れた後、我が家の夕飯はなんとも気まずいものだった。

 

 俺が居ない間にまた泣いたらしく腫れた目ですんすんと鼻を啜っている弟。

 ぷっぷちゃんの事で未だ上の空な父親。

 流しっぱなしのエレブース対コイキングスの試合中継で若い選手の時に箸の手を止めて集中して見ているらしい母親。

 

 会話らしい会話が成立しそうにない重苦しい雰囲気の中で明日にポケモンのトライアルを受ける事にしたと告げなければならない俺の心労はストレスでマッハである。しかし、迎え入れると独断専行したのは俺だ。明日には父親がまたジョウトにリニアで帰っていくのだからタイミングとしては今しかないのだ。

 

「あのさ…、明日、うちにポケモン来るから」

 

 打ったー……エレブース、特大ホームランと実況の底抜けに明るい声が響く。三人の目が此方に向いているのが酷く居心地が悪い。

 

「友達の家で生まれたんだって。それで、人に慣らす経験を積ませたいって、ウチで預かることになったから」

 

 泣いてグズグズだった弟の顔が一気に日本晴れだ。一方で、両親の顔は非常に暗い。そりゃそうだ。

 

 

「預かることになったって……生き物なのよ?」

「好奇心や一時の衝動で家族にして、粗末にしていい命や価値のない命なんて一つもないんだぞ?」

 

 

 その声には熱が籠もっていた。大好きクラブがスポンサーのポケモン紹介チャンネルで嫌な顔をしているのを見たことがない。本来はポケモンが好きであったのだが、悲しい別れを経験したがために穴を別なポケモンで埋めることを拒否したのはわざわざ言うまでもない。二人の表情は硬かった。

 

「どんなに避けようと思っても、ポケモンを切り離しての生活は無理だと思う。プリンも、トサキントもそうだし……生き物には必ず寿命があるのも分かってる」

「そうは言ってもねぇ……」

 

 父親は目を閉じて何か考えている風だった。母親はそんな父親を気遣うように俺と弟、父と落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

 

「弟もポケモンがどんな生き物なのか知らないまま育って変な関わり方をしても怖い。だから、トライアルって話だからお試しで一週間。我が家とポケモンの相性が良ければ貰えることになってる。俺も事故でポケモンが死ぬのは嫌だから不定形とか鉱物とかのポケモンをお願いしてるから」

 

 お試しという点と、丈夫そうなポケモンを頼む。この二つが決め手になったらしく最終的に父親は「どうするかはお前が決めなさい」とそう言って、試合のハイライトに目線を移していた。その背中はどこか寂しそうだった。

 

※※※

 

 翌日、クチバでハカセとの待ち合わせをしたが中々来なかった。何をそんなに時間が掛かるものだろうとトイレに行こうと場所を移動する道すがら、ジュンサーさんに職質か何かを受けているハカセを発見した。腕には幼女を抱えている。

 ……おまわりさん、ソイツです。どうしたものかと遠目に眺めていたら

 

「俺氏ィィ!! 遅くなって申し訳ないですぞ!!」

 

 大声で此方に向けて声を掛けてくるからさあ大変である。このままでは犯罪歴はマサラタウンな俺に人身売買の疑惑が掛けられてしまう……!! ───と、そんな事もなく普通に腕にいたのはラルトスだったし、他の地方が原産のベイビィポケモンを逃がして生態系を崩さないようにと注意喚起を受けたハカセ。彼は、折角ジュンサーさんに声を掛けて貰ったのだから『初めてポケモンを飼う君へ』だとか『ポケモンの飼い方』なる官公庁にあるような配布冊子を警察署で持っていれば欲しいと頼み込んでいたのが事の真相だった。

 

 全部、話を持ちかけた俺の頼みのためである。後でサイコソーダやミックスオレと言わず何か美味いものを奢ってやらねばなるまい。

 

 ハカセには感謝してもしきれない恩が出来てしまった。

 

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