トレーナーじゃない学生の話   作:白玉善哉

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出会いもあれば別れもあるさ

「この埋め合わせは必ずや!ばってん、今は早くベイビィちゃんをサナに会わせたか!」

 

 普段は標準語を心掛けているのに興奮したハカセはホウエン訛りが出ていた。随分と落ち着かない様子だったので直ぐに別れる事となった。そう言えば実家がトウカシティだかキンセツシティと言ってた気がする…うろ覚えだ。

 

 そして、残された俺は頭を抱える事となる。

 

 トライアルを楽しみにしていた母親は、きっと何を連れ帰るかも分からないのにケージだとか色々と揃えているに違いない。そして、ちびっ子モンスターが嘆きのハイパーボイスを放つ姿が目に浮かぶ。きっと隣のロコンもまたコンコン吠えるし、そろそろ上か下にお住まいのご家庭からドンドンと床だか天井を叩かれるに違いない。

 

 …連れて帰るポケモンは居ない。しかし、その辺の草むらに都合良く捨てられたばかりのベイビィポケモンがいる訳もない。野生のベイビィはどうか親と引き剥がしたくないから、そのまま立派になってくれ。

 

……詰んだわ。

 

 衝動的に頭に浮かんだ四文字に何処か無意味に遠くを眺めたくなる。──ラルトス、ほんのり温かかったなあ。そんな現実逃避をしながら、用事の無くなったクチバを後にする。

 

「すげぇ家に帰りたくねぇなぁ…」

 

 気が滅入り過ぎて、思わずデカい独り言が口から出てしまった。真っ直ぐ家に帰る気も起きずフラフラとタマムシに足が向いてしまう。ああ…遊んで行くか。

 

※ ※ ※

 

ガチャーン、トゥルルルルル、チャリンチャリンチャリーンみたいな感じである。

 

 これがイッシュのセレブ御用達のカジノだったら俺は億万長者だが、健全さが売りのスロットコーナーでそんな事はない。

 

 換金が出来ない代わりにコインを入れるホルダーを進呈してくれたり景品と交換してくれるのが関の山である。

 一時、マフィアの資金調達源だったと噂になっていたがジムリーダーのお膝元であり、有名な大学のある大都会タマムシで流石にそれはないだろう。

 

そして、このコインの数よ…あっ、また出た。

 

※ ※ ※

 

コインケースがパンパンである。もう一枚も入らない。しかし、それを超過してコインがタンマリである。

 

周りのおっさん達が羨ましげに俺の席を見ていて、とても居心地が悪い。そろそろ出るかと腰を上げると死にそうな顔のおじさんが俺の手を握りしめる。

 

 

「た、頼む…!」

「嫌です」

 

 

 何と言っても俺はノーと言えるヤマブキっ子である。即答した。いやー、1000円50枚からのスタートが増えたものである。20万以上の大勝ちだ。普段、全部飲まれているのに今日は金運の女神は微笑むどころか俺と結婚したいんじゃないかと思うレベルである。

 

…気を付けないと明日は運の枯渇で死ぬ気がするので気を引き締めないとな。受付のお姉さんから、コインケースをもう一枚貰い全部を詰めて念願だった景品所に足を運んだ。

 

 当たった者のみが踏み入れる場所。景品所…閑散としているかと思いきやトレーナー達がギラギラと技マシンのディスクコーナーに張り付いている。正直、ちょっと怖い位の熱気である。

 

──そこで俺は運命的な出会いをした。

 

 無機質なつるぴかボディは傷なんか付かなそうで温かみを感じない。どことなくヤドンを彷彿とさせるぼんやりとした瞳。しかし、図鑑に載っているし間違いなく生き物…ポケモンと認識されている。

 

…そう、9999枚のコインを手に入れた者だけが引き換えられる。超高級ポケモンのポリゴン様である。

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