景品所はとても居心地が悪かった。下手に「ポリゴンください」と言い出そうものなら周りのポケモントレーナーに睨まれるんじゃないかと少しドキドキした。
ちょっとした偏見だが、トレーナーは目が合うだけで「バトルしようぜ!」と戦闘民族のような事を言い出し、自分も吠えて跳ねてポケモンは空を飛ばしてるような気がする。
そんな事より、ポリゴンである。トライアル期間としてポケモンの引き受けを失敗した今、弟に金的狙いでメガトンパンチをされる心配がメキメキ浮上中なのだ。相手は園児といえど、急所に当たれば効果は抜群なのが避けようはない。だって男の子だもん。必ずや人工生物で死の概念と無縁そうなアイツを連れて帰らねばならない。
「あのー、すみません」
「何と交換されますか?」
トレーナー連中は単なる冷やかしなのか、奮発して500枚だけ買っちまったとか今日は欲しい技マシンが無いとか仲間内でワイワイしているだけで此方には興味は無いようだった。
「ポリゴンで」
「はい、ポリゴンでお間違いはございませんね?」
「大丈夫です。あっ、トレーナー登録だけ無しでお願いします」
満タンのコインケースをおっちゃんの店員に渡すと蓋を開けて事務的に機械にコインを落とす。銀行に置いてあるコインカウンターより少しチープな型の物だ。
「枚数ピッタリですね、確認しました。…それでは、景品のポリゴンになります。間違いがないかお確かめください」
トレーの上にはコインケースと既にソフトボール大のモンスターボールが台座の上に乗せられている。此処で出してみろって事である。人差し指でそっとボタンを押し込む…ポチッとな。
「×△✩……クエー!」
ビープ音と共に頭を360度にグルグルと回し周囲の状況を確認しているのは超合金ゴルーグZではなく紛れもなくポリゴン様である。暫くして、状況を把握するとポリゴンは俺の方に頭を向けて一声鳴いた。いや、鳴った?ピンクとブルーのツートンカラー。カクカクボディが地上から30センチ位の所で浮いている。何かこう…動き方が独特だ。ゲームで見えない壁に邪魔されてバグったような…RPGの移動中にNPCとオブジェクトの間で操作キャラが詰まった時のような不思議な動きをしている。
「あの…ポリゴンって皆こんな感じなんですか?」
「ポリゴンをお迎えした方は皆さん揃って、そう言われますが…コレは普通ですねぇ」
ポリゴンの通常動作らしかった。見れば見るほどポケモンってすげー!となる。厳密には人工ポケモンを作り上げた科学の力の方かもしれない。
「クエ……ジジッ」
何かを読み込む音がした。少しだけポリゴンの動きが良くなる。そして、床の色を角ばった瞳で見つめるとポリゴンの体はフロアと同じ色に変わった。どうやら擬態のつもりであるらしい。しかし、床の色をしただけの角ばった物体が浮遊しているのだから違和感が物凄い。
「あっ、テクスチャーしてますねぇ。お客さん、水の中のシャワーズ程ではないですが屋外でポリゴンを出す時は見失わないように気を付けてくださいね」
店員はそう俺に忠告をくれると物珍しそうにポリゴンを見ていた。実際にコイン最高値のこのポケモンを引き換える人は少ないんだろうなとおっさんの様子から想像できた。ポリゴンを戻し、コインケースと共にモンスターボールをポケットに仕舞うと俺は交換所を後にする。
空はすっかり日が傾いていて、夕焼けが眩しい。昼にハカセと別れてから随分とタマムシに長居をしてしまったらしい。
──早く家に戻ろう。