ヤマブキの我が家に帰ると、俺の姿を見るまで落ち着かなかったらしく母親と弟が熱烈に出迎えをしてくれた。普段、俺が普通に帰宅した所でこんな事は無いので、よっぽどポケモンが気になるらしい。
「お帰りー、連れて来たの?」
「ポケモンは?どこ?」
ポケットを弄りボールを取り出す。赤くて艶々で新品のモンスターボールだ。この中にポケモンが入っていると思うとどうにも緊張する。
「ん、ちょっと離れてくれ」
テレビで見たシバvsキクコのエキシビションマッチを思い出し、ボールを膨らまして宙に放り投げる。
ゴンッ
普通に失敗した。狭い玄関で上に投げれば天井に当たりますわ。母親に睨まれながら開いたボールは赤い光を吐き出し、みるみると体積を広げ一体のポリゴンへと変わった。
「グエー…」
「あら、この子なの。子供にしては…少し大きいわね?」
「コイツなに?なんてなまえ?なんかゲンキないよ?びょーき?」
我が家の玄関はポリゴンにジャストサイズだった。挟まった足を胴体と壁の隙間から引き抜くために周囲の状況を頭を回して確認していた。
「クエクエェェッ!」
カクカクボディが更に固く鋭くなる。元から丸みのない体は更に角ばった。そして、無理矢理に足を動かす物だからまだまだ割と綺麗な玄関の張り紙はひとたまりもなかった。
「きゃあああ!ボールに仕舞って!壁!破けてるじゃない!」
「あー、おれもまえラクガキやったらママにおこられた!いーけないんだ!」
「クエ」
頭をぐるりと此方に向けて反転させると無機質にポリゴンが鳴いた。ラルトスみたいに思念を飛ばせなくてもコイツが何を言いたいか分かる。
た す け て
口ほどに物を言うタイプの目ではないが、間違いなくそう言ってる。ボールをポリゴンに向けると光となって吸い込まれた。
ファーストコンタクトはどうにも失敗のようである。
※ ※ ※
ポリゴンが破いた張り紙は俺の小遣いから天引きとなる事で沙汰が決まった。玄関でお披露目に踏み切ったのは俺だし諦める事とする。
やっぱり、母はガーディやロコン、弟はヒトカゲやピカチュウに夢を見ていたらしくポリゴンの姿を不思議そうに眺めている。不定形か鉱物を連れてくると言った事はすっぽり頭から抜けていたらしい。
母が連れてくるポケモンの為にやはり購入していたゲージは、どう見てもポリゴンにはサイズオーバーのため返品する事が決まった。
そして、人間は夕飯。ポケモンは餌の時間である。
「ポリゴン、たべろたべろ!」
浅い餌皿に固形のポケモンフーズを弟は流し入れた。ざらざらと小気味良い音を立てて、容器はあっという間に満たされる。
「ウィーン…ガガ、クエクエ!」
餌皿に尖った鼻先だか口元と思われる先端を突っ込みフードを押し砕く。ポリゴンの目が喜んでいるし石柱のような尻尾を振ってご機嫌だ。少しだけ動きがガーディっぽい。
しかし、何となく園児時代にお母さんごっこに付き合い、茶碗に盛った砂山をご飯に見立ててモリモリ食べるフリをして「おいしー!」と叫んでいた事を思い出してしまった。
コイツ、無理とかしてないよな?俺の心配をよそに、どんな原理か分からないが餌皿のフードは減っているからポリゴンはしっかり食べているらしい。いや、待て。口はどこよ?
俺は悶々としていたが、母はカレーを食べながら物珍しそうに…。弟は食事も忘れてニコニコとしたままポリゴンがエサをつつくのを見届けている。よっぽど嬉しいんだろう。ポリゴンの体をぺちぺちと叩いていた。