ここは高層ビルがひっきりなしに立ち並ぶコンクリートジャングル、日本の中でも屈指の人口を持つ都市、東京都。
太陽が照っている時間は人々が右往左往し、喧騒が絶えない都だが、今はすっかり人々が寝静まった深夜帯。昼間の頃の活気が嘘のように鎮まり、通行人も2.3人と極端に少ない。
そのためちょっとした騒ぎでも起きれば目立つ。
「いいから大人しく乗れや!」
「ちょ、ちょっと!警察呼びますよ!放してください!」
そこでは大学生位の女性と30代後半であろう大柄の中年男性が揉めていた。
そこだけ聞いていたのならば良くある事であろう、ましてや男女の喧嘩なんて都会では大して珍しい事では無いのだから。
しかしそこで行われていたのは喧嘩等とは比べ物になら無い程深刻な問題だった。
何故ならそこで行われていたのは誘拐だったのだから。
男性は女性の腕を掴み強引に傍に停車しているワゴン車に乗せようとしており、女性の方は懸命に抵抗しているが筋力の差が激しくワゴン車に乗せられるのは時間の問題だ。
「くそっ!生意気に暴れやがって…!ほら、大人しくしろ!」
「…っ!誰か!」
とうとう女性は力負けし、ワゴン車の後部座席に無理矢理押し込まれ、組伏せられて両手をバンドで縛られてしまう。
女性は両手を後ろに拘束された状態でも尚抵抗する素振りを見せていたが、その目のハイライトは消えており、内心諦めているかの様だった。
だが男が一仕事終えたとため息をつき、スライド式の後部座席ドアを閉めようとした瞬間、男は動きを止めた。
否、動けなくなったと言うべきか。男性の手は確かにドアノブに触れていた、しかしその手はクモの巣の様な白く半透明な物質が付着してドアノブに張り付いており、男性の右手の自由を完全に奪っていたのだ。
「…っ!どうなってんだ?!」
何度も力を込めて手を動かそうとしたり、クモの巣を剥がそうとするが、粘着力は相当な物らしく中々上手くいかない。
「やぁ、良いワゴン車だね。でもごめん、君の手垢でドアノブ汚れちゃったかも。」
突然聞こえた軽口に男性は体をビクッと跳ね辺りを見渡して警戒する。
声の主はすぐに分かった。
先程まで人が居るなんて考えられなかったワゴン車の屋根に片膝を付いて座っている男が一人。
赤色のボディスーツと覆面を着けており、胸には大きな蜘蛛のシルエットが存在し、クモの巣を彷彿とさせる黒色のラインで色付けされている。
「…お前は…!」
男性はその男の名前を知っていた。
「…えっと…スパイダー男?」
「違うよ!スパイダーマン!スパイダーとマンの間にハイフン忘れないでね?」
ただしうろ覚えだが。
「…ん”ん”気を取り直して…見た感じさっきの女の子誘拐しようとしてるみたいだけど、それは感心できないね。今すぐ彼女を解放して。」
上手いこと咳払いをして威厳を見せるかの様な口調で話しかけるスパイダーマン、しかし先程の軽口のせいで余り威圧感を感じない。
「フン…何を言うかと思ったら…スパイダー男だか「スパイダーマンだよ!」……スパイダーマンだか知らないが…こっちは商売なんだ…悪いけどこの娘の解放は出来ないよ。」
名前を間違えた事を話の途中で指摘されたのが勘に触ったのかイラついたかのような口調で返す男性。
「……あー、そっか。じゃあお仕置き。」
「………っ!」
刹那、スパイダーマンは中指と薬指だけを折り曲げる独特なポーズを男性に向けるとスパイダーマンの手首辺りに装着されている装置から蜘蛛の糸の様なものが放出される。
それは男性の顔面に命中し、視界を完全に封じた。
「……~!!~!!」
顔に命中したため視界は塞がれなにも見えず、鼻と口も塞がれ息も出来ない。剥がそうにも右手はドアに張り付いており左手だけでは満足に力が入らずもがくしか無い男性。
「あー、こらこら暴れないの。」
スパイダーマンは車の屋根から降りるや否や後ろ回し蹴りをもがいている男性の頭部に打ち込む、その威力は強力で、一撃で先程まで激しく左手を振り回していた男性を地面に沈ませたのだった。
「…さてと…おーいそこの君、大丈夫?」
男性の顔に着いたクモの巣を剥がし、呼吸が出来るようにした後、開けっ放しだったドアからワゴン車の後部座席にいる女性を確認するスパイダーマン。
「………」
両手をバンドで拘束されている女性は男性にこのワゴン車に乗せられた時と同じ体勢のうつ伏せの状態のままで上体を起こしてスパイダーマンの顔ををじっとと見つめる。
「おっ!やっと目が合った!ん?どした?そんなに見つめて…もしかして僕に一目惚れしちゃった?!」
「……そう言うのいいからコレどうにかして…」
「え?あ…ハイ…」
場を和ませるために冗談を言ったが、威圧的な口調で返されてしまい。内心ビビりながらも彼女の両手を縛るバンドを引きちぎるスパイダーマン。
「これで良いかな?」
「…ありがと…」
「うん、もう大丈夫そうだね!じゃ僕はこれで…」
スパイダーマンは用が済んだと言わんばかりに女性に背中を向け帰ろうとするが、右手を掴まれて止められる。
「ん?どしたの?」
「…さっきまで私誘拐されそうになっていたんだけど…?」
「え?うん…そうだね。」
女性はため息をついて、呆れた表情で続ける。
「…あんたそれでもヒーローな訳?被害者のアフターケアも考えろよ。」
「え?あー…」
女性に言われて気付いた素振りを見せるスパイダーマン。
「ごめん…じゃあ…その…家まで送ろうか?」
「…うん…」
***
その後、女性からの要望で家まで送る事になったのだが…
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が二人を包む。
最初スパイダーマンは女性に気を遣い軽い冗談や簡単な話題を振っていたのだが、女性からは「あっそう」と帰ってくるばかり、めげずに話を続ければ「うざ」と罵られる始末だ。
「…あんたさ」
「は、はい!」
急に話し掛けられ肩を跳ね上げるスパイダーマン、それを見て女性は嘲笑を浮かべながら続ける。
「…辛くない?」
「…え?」
彼女の質問の意味が分からず聞き返してしまう。
「あんなに強くて速ければ強盗だって犯罪だってなんでもできるじゃん?何でヒーローなんてガキみたいな事してるの?」
「…そうだね…強いて言うなら…後悔したくないからかな?」
女性からしてみれば意味不明な回答であろう、しかしスパイダーマンは明確な答えを知っているかの様な口調で答えたのであった。
「…は?馬鹿じゃないの?まじイミフ…」
「ははは、まぁそうかもね…」
「………」
「…………」
再び重い沈黙。
すると急に女性が立ち止まる。
「……ここで良いから。」
「あ、はいよ。」
どうやら家に着いたらしく、女性は玄関に向かい鍵を開ける。自分の用は済んだとスパイダーマンは背中を向けるが、直後女性の声で引き留められた。
「…あのさ…」
「…ん?」
スパイダーマンは何事かと振り替えるが、女性は玄関を向いたままだ。
「助けてくれて…ありがとうね…」
「…うん!」
彼女は玄関を向いたままだった為表情は解らなかったが、声は先程の氷の様に冷たい声色とは違い優しく、何処か温かくに感じられた。
感謝の言葉を貰ったスパイダーマンは今度こそその場を去るべく飛び上がりながら再び手首からクモの糸を放出し、近くの住宅をスイングしながら何処かへと去っていった。
背後からそれを感じ取り、振り替えってスパイダーマンが去っていった事を確認した女性は…七海麻美は静かに遠くでスイングしているスパイダーマンの背中を見つめ小さく呟く。
「本当に…馬鹿みたい…」
スパイダーマンの小説を書いたのは初めてなので、上手く書けたか不安ですが何とか書ききれました。
今の所ヒロインは麻美ちゃんにしようかと思いますが、作者の気まぐれで変わるかも。
ご感想等お待ちしております。
登場人物
スパイダーマン
ご存じ壁に張り付き糸を飛ばす、正体不明で神出鬼没。一年前唐突に姿を現し、自警活動を始めたヒーロー。
男性
女子大生を誘拐しようとしていた30代後半の男性、あっけなくスパイダーマンの一撃でノックアウトされた。女子大生の誘拐を「商売」と言っていたが…
七海麻美
誘拐されそうになっていた所スパイダーマンに助けられた女子大生、スパイダーマンに対してはそっけない態度を示し、彼を困らせたが。最後は感謝を述べ去っていく姿を希望を見出したかのような表情で見送った。
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