蜘蛛、お借しします?   作:通りすがりのゴキブリ

4 / 5
初めて評価が付きました!☆7と9!有り難いです。ご期待に添えるように頑張ります!


でも溜め込みすぎると色々悪いし…僕は聞く事しか出来ないけど。

きっかけはある会話からだった。

 

「…私ね…女優になろうと思うの。」

 

最初は冗談かと思った、でも彼女の真剣な眼差しを見て、僕は彼氏として支え、応援しようと決意した。 

 

「そうなんだ…女優とか芸能関係は大変かもだけど、僕も彼氏として全力で応援するから。だから…」

 

「拓人」

 

けどそんな決意をした僕の手を彼女は、千鶴は振り払った。

 

「私達…別れましょ?」

 

 

***

 

「…千鶴…」

 

「…相変わらずみたいね…」

 

そして今、元カノである千鶴は寂しそうな微笑を浮かべている。…でも違うだろ…君が何で寂しそうな顔をしているんだよ?あの時僕を突き放したのは君じゃないか。

 

でも…こんな状況でも会えて良かったと思っている事は、きっと未だに僕の中で彼女は特別な存在だからなのかもしれない。

 

そう、僕は今でも君の事を…

 

「…その…何でここに?」

 

「私もこの大学なの忘れた?今は授業終わり。」

 

そうだった、確か千鶴も同じ大学だったっけ…この半年一切の交流も無かったから忘れていた。

 

「…ごめん。」

 

「何も謝る事は無いわよ。じゃ私は帰るわね。」

 

正直今彼女と居るのは気まずい、それはきっと半年前まで恋人であり、別れたという事もあるのだろう。

 

彼女から連絡する事も無かったし、僕から連絡する事も無かった。その理由もきっと純粋にお互い連絡するのが気まずかったからだろう。

 

でも今日、半年ぶりに会たのだ。彼女とは確かに別れた、けど完全に関係を終わらせたい訳ではない。せめて恋人じゃなくても良い、ただ友達としてでも話がしたい。

 

今ここで言わないと一生後悔するだろう。だから僕は全霊の勇気をもって彼女を呼び掛ける。

 

「…千鶴」

 

「…何?」

 

立ち止まり怪訝そうな表情を浮かべる千鶴。この表情が憤怒に染まるか、笑顔になるかは僕にも分からない、でも今ここで誘わないと。

 

「…一緒に夕食でもどう?その…ミックで…」

 

「ミック」付き合っていた時もデートの待ち合わせ場所にしたり、よく一緒に二人で食事した馴染みの店だ。勿論別れてからは一度も行っていないけど、久しぶりに二人きりで話がしたいから僕はその場所を選んだ。

 

それを聞いた千鶴は怪訝そうな表情から憤怒でも喜びによる笑顔でもなく。

 

「ミック?…はぁ…この半年間の事は帳消しで?」

 

「…う…」

 

呆れによる嘲笑を浮かべながらそう呟いた。それもそうだろう、僕は半年間ほったらかしにしていた男だ。食事に誘った所で今更だろう。

 

「…そうだよね…ごめん。僕ももう帰るから。」

 

…もう彼女の中では僕との関係は終わっているのだ、だからこれ以上引き留めても彼女の邪魔になるだけ、僕は断られた悲しみを必死に悟られないようにしながら彼女に背を向けその場から立ち去ろうとする。

 

きっと彼女は女優になり、僕よりも良い人と結ばれるだろう。

 

でもそう考えると苦しくて、その場に居る事が辛かった。

 

「……いいわよ。」

 

「…ふぁっ!?」

 

しかし、背後から遅れて予想外の返答が返ってくる。あまりにも突然で驚きすぎて、変な声を出してしまった。

 

「…あははっ何よその声、馬鹿みたい。」

 

顔あげてみれば先程の気まずさは何処へやら、まるで付き合っている時と同じ様に屈託の無い笑顔の千鶴がそこには居た。

 

「えっと…誘った側から何だけど…本当に良いの?」

 

「何よ、別に夕飯くらい友達なら一緒に食べるでしょ?ほら、行くわよ。」

 

「う、うん…」

 

内心今の状況をすぐには理解できなかったが、どうやら機嫌が悪い訳でもなく、僕の事を完全に嫌った訳では無さそうだ。

 

だが千鶴の言っていた友達ならと言う言葉。

 

「…あくまで友達か…」

 

分かってはいたが寂しい、あの時みたく恋人同士にはなれないか…

 

「…拓人!置いていくわよ!」

 

先に歩き始めていたのか、振り返りぎみに千鶴に呼び掛けられ我に返る。いけない、千鶴を置いてけぼりにして一人で考え事をしていた。

 

「ごめん、今行くよ。」

 

取り敢えず今は半年ぶりに再開できたのだ、僕も少し気まずいけれど、会わなかった間の事とかしっかり話し合おう。

 

***

 

俺のぎこちないお誘いに千鶴が乗ってくれてからおよそ20分後、俺達はとある飲食店に来ていた。

 

ここは俺と千鶴が付き合っていた頃世話になった行きつけのファミレス、「ミック」。ここのフライドポテトは特に美味でデートの度にここに来て食べたものだ。

 

つい数年前は普通の洋食メインのファミレスだったが、どうやら最近になって方針を変化させたらしい。

 

「ここ何時からイタリアンになったの?」

 

「分からない、でもフライドポテトは健在。」

 

二人でフライドポテトをつまむ、美味い。だがこのフライドポテトの美味さも霞んでしまう程の気まずさが僕達の間には流れていた。

 

「…そういえば…最近どう?」

 

千鶴も同じ事を考えたいたのか、こちらに気を使ってくれたのかは解らないが。手頃な話題を振ってくれる。

 

「大学では問題無いよ、快と一緒に上手くやってる。…そっちはどう?その…仕事の事とか」

 

上手くこの会話のキャッチボールを成立させるべく千鶴と同じ様な質問を投げ掛けるが、それを聞いた千鶴は少し複雑そうな表情。

 

「…またオーディション落ちたわ…何度目だろ?」

 

「でも演技の練習でやってるんだろ?その…レンタル彼女…」

 

「……ええ…はぁ…」

 

千鶴はころりと顔を複雑な表情から疲れている様な表情へと変え、溜め息混じりにヒョイパクヒョイパクとフライドポテトを口に運ぶ。俗にいう言うヤケ食いと言う奴なのか…ちょっと、僕の分無くなっちゃうよ。

 

彼女がこの話題を振った瞬間態度をガラリと変えたせいか一瞬で解った。

 

絶対レンタル彼女の仕事で何かあったな。

 

「…その…何かあったの?僕で良かったら愚痴くらい聴くし…」

 

「え?良いわよ…私は大丈夫だから。」

 

「でも溜め込みすぎると色々悪いし…僕は聞く事しか出来ないけど。」

 

「…心配性ね…本当に…ただ最近の事なんだけど…」

 

***

 

千鶴が愚痴り初めてからざっと30分が経った。フライドポテトは殆どが無くなり、完食寸前となっていた。僕が食べたのは5.6本程度だけど。

 

「それでね、そのお客さん何したと思う?!私の家に入り込もうとしたのよ?!」

 

「うーん、それは酷いね。」

 

どうやら千鶴姫のお怒りは相当な物のようで、僕は完全に聞き手に回り、相槌を打つ事しかできなかった。千鶴の話の中で出てきた最近出会った「迷惑な客」に対しての怒りも少し覚えたが、今僕の頭を占めているのは千鶴への哀れみだったからだ。

 

千鶴の言う「迷惑な客」の所業はこうだ。

 

・デート中にいきなり意味の分からない事を怒鳴り散らす。

 

・祖母が倒れたと言い千鶴を連れて病室へ

 

・そこで祖母や家族に千鶴を彼女と言い張る

 

・大学で偶然同じであると知ると、レンタル彼女の事を言いふらすと千鶴を脅迫。

 

・家がアパートの隣の部屋と知り、祖母が自分の部屋に来ると知るや否やしつこく千鶴に迫り彼女を演じるよう強要。

 

・その後サービス時間が終了しているにも関わらず友達に見栄を張るために無理矢理千鶴を飲み会に連れていく。

 

等と言ったものだ。

 

…うん、コンビニとかでいきなりキレる客とかよりも質が悪いんじゃないか?しかも常連になってしまうなんて…

 

それに千鶴も千鶴だ。彼女は面倒見が良い姉御肌である故それがに今回の事で悪く動いてしまっている。まぁ客と言う事もあり無下に出来ないという理由も有るのだろうが。

 

だが内心僕はその男に嫉妬している、なんだって自分の好きな女の子が他の男に世話を焼いているのだ。

 

正直に言って千鶴がレンタル彼女をやっている事自体嫌で仕方ない。

 

そもそもレンタル彼女自体があまり好きになれない。

 

でもこれは千鶴の夢を叶えるために必要な事、仕方ないんだ。

 

それに…僕はもう彼氏じゃない僕に彼女の事情に口を挟むのは不躾だろう。

 

そう、例え千鶴に好きな人ができたとしても、僕はもう恋人じゃないのだから。

 

「それにその飲み会でも…」

 

千鶴の愚痴はまだ続く、正直今の話でお腹一杯なのだが言い出したのはこちら側だ、今日は彼女の気が済むまでとことん付き合おう。そして、少しでも彼女が楽をできるようにしてあげよう。

 

***

 

「2500円になります。」

 

レジ前にてフライドポテトの他に料理を数点食べて夕食をとった僕達は会計を済ませる。

 

千鶴が財布を出そうとするが、そうはさせない、真っ先に財布から紙幣二枚と硬貨一枚を出して素早く支払う。

 

「あ…ごめんなさい、あれだけ愚痴聞いてもらったのに奢って貰っちゃうなんて…」

 

「いや、僕が誘ったんだから気にしなくて良いよ。」

 

正直彼女の愚痴が1時間近く続くとは思いもよらなかった、だがその分話終えた千鶴は心なしか表情が緩く、少し元気を取り戻したかの様だった。

 

確かに2500円は手痛い出費だ、だが彼女が元気になれたのなら安いものだろう。

 

「「御馳走様でした。」」

 

「おお!君たちは…」

 

二人でレジから離れ、出口に向かおうとした時、優しい声色をした人に呼び止められる。

 

白髪でサングラスを着けたアメリカ人のお爺さん。この店のオーナー兼店長であり、付き合っていた頃に良く相談に乗ってくれた人だ。

 

「お気に入りのカッポレ…いや、カップルが寄りを戻してくれて嬉しいよ。」

 

「ふふふっ…スタンさん…カップルの事未だにカッポレって間違えるんですか?」

 

スタンさんのお決まりのボケを面白そうに笑っている千鶴を尻目に、僕は何とも言えない気持ちを抱え、一人難しい表情を浮かべるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご拝読ありがとうございますを

今回はただ主人公が千鶴ちゃんに未練タラタラと言うだけの話ですね。

少しずつ物語を進めていくので、どうかご期待ください。


ご感想等お待ちしております。



山城拓人《やましろ たくと》

スパイダーマンの正体である大学生であり、千鶴の元カレ。千鶴には未練たっぷりで彼女の夢は応援しているが、バイトであるレンタル彼女に関して否定気味。だが彼女の夢と自分の気持ちに葛藤しつつ、彼なりに彼女を見守っている。

水原 千鶴

本作のメインヒロイン候補、拓人の元カノであり同じ大学生の同級生、レンタル彼女のバイトをしており最近厄介な客と出会った模様、拓人に対する気持ちは不明だが、「友達」として一緒に食事し、愚痴を聞いて貰う等、破局後も仲は悪くない。



ヒロイン誰が良い?

  • 千鶴
  • 麻実
  • 瑠夏
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