PhantasyStarOnline2-Episode of ALFY- 作:あるふぃ@ship10
...どれほど眠っていたのだろうか。
目が覚めると、私はベッドの上で横になっていた。
傍らには、妹が静かに寝息を立てて眠っている。
「ここは......」
部屋を見渡していると、女性が一人、部屋の扉を開け入って来た。
「よかった、目が覚めたのね。丸一日眠りっぱなしだったから、心配したのよ?」
「.....あなたは?」
自分の様子を見に来たのであろう女性に、あるふぃは何者か尋ねる。
「私はレティシア、気軽にレティと呼んで。この施設の管理をしているの。ここに来るまで何があったかは妹さんから聞いたわ。大変だったわね...」
レティシアと名乗った女性は、こちらへ歩み寄り近くの椅子に腰かけると、持っていたカップをこちらへ差し出した。
「ホットココアよ。妹さんが、あなたはかなりの甘党と聞いていたから、かなり砂糖を多めにしてあるのだけれど...どうかしら?」
私は、差し出されたホットココアを受け取ると、ほんの少し、口の中へ流し込んだ。
「.......うん、とてもおいしい......」
心が落ち着く。
まるで自分の一番美味しいと思える甘さを昔から知っているかのように、ちょうどいい甘さのホットココアだった。
「よかった。いつも作ってる何倍もの砂糖を入れたから、少し心配だったの。お口に合ったようで何よりだわ。」
彼女は、ほっとした様子で、こちらを見て微笑んだ。
「あの......私、ダーカーに身体を切り裂かれたはずなのだけれど......」
ふと、目覚める前の出来事を確認しようとレティシアに話を持ち出すが、彼女は不思議そうな顔をして答えた。
「えぇっと.....少なくとも、ここにたどり着いた時にあなたに大きな傷や出血とかは無かったわ。打撲がいくつかあったぐらいね。」
レティシアは、続けて私の妹から聞いた出来事を話し始めた。
妹が瓦礫に躓き転んだあと、私は近くにあった瓦礫の破片を手に取り、ダーカーと妹の間へ割って入った。
振り下ろされたダーカーの足は、盾となった瓦礫の破片に弾かれ、小さく仰け反る。
一方私は大きく吹き飛ばされ、そのまま身体を強く打ち付け、気を失ってしまったらしい。
仰け反ったダーカーが体勢を立て直し、再び妹へと鋭利な足を振り上げたその時、横から飛んできた光属性のテクニックが、ダーカーを消し飛ばした。
妹はテクニックの飛んできた方へ視線を向けると、そこには一人の女性が立っていた。
その女性はその後何も言わず、すぐさま自分たちが逃げてきた道を進んでいったという。
直後、逃げ遅れた市民の救助のため出撃したアークスに出会うと、妹は自分たちの目的地を伝えた。
そして自分たちは、そのアークスに守られながら、この施設にたどり着いたという。
「私があなたの妹さんから聞いた話はこんな感じよ。」
「そう......」
レティシアから話を聞いた私は、一人不思議に思っていた。
確かにあの時、ダーカーに切り裂かれた感触があった。
切り裂かれた場所から血が流れだす感覚もあったし、少しずつ意識が薄れていく感覚もあった。
それに、意識が完全に遠退いた直後、聞いた事の無い、謎の声を確かに聞いた。
あれは、眠っている間に見た夢だったのか...
にしてはだいぶ現実味のあった感覚に、私は、頭の整理ができないでいた。
「きっと、目が覚めたばかりで少し混乱しているのよ。少し、時間を置いてからまたお話ししましょう。」
そう言うと、レティシアは椅子から立ち上がり、手を振ると、そのまま部屋を出ていった。
「ん.....んん......」
傍らで眠っていた妹が目を覚ます。
「.....あっ....お姉ちゃん.....!!よかった......!!よかった.......!!」
目が覚めた姉に対し、妹は涙を流しながら抱き着いた。
「いたた......あまり強く抱きしめるな....怪我人だぞ?」
「あっ....ご、ごめん.....」
妹は抱き着いていた腕をぱっと離すと、自身の座っていた椅子に座り直した。
「話はレティシアさんから聞いたよ。さすが私の自慢の妹だ。よく頑張ったな。」
妹の頭に手を乗せ、よしよしと撫でる。
妹は嬉しそうに、且つ少し恥ずかし気に顔を下に向けた。
ひとまず、危機は脱した。
命懸けの逃走劇を生き延びた私達は、今この瞬間訪れた安息に、とてつもない幸福を感じていた。
―――翌日。
レティシアが、様子を見に再び部屋に訪れた。
「どう?少しは休めた?」
昨日と同じように、ホットココアを持ってくると、それを私に差し出しながら声をかけた。
「おかげさまで。ベッドもふかふかで気持ちいいし、とても快適だった。」
レティシアの問いかけに言葉を返し、私は一口、ホットココアを口へ流し込む。
「そう言ってくれるのならこっちも嬉しい限りだわ。ところで、何か気になることはあったりするかしら?」
再び問いかけるレティシアに対し、私はいくつか、頭に浮かんだ疑問を口にした。
「この施設は、どういった施設なの?」
「あら、親御さんから聞かされていなかったの?」
レティシアが意外そうな顔をする。
「ここは孤児院よ。何かしらの原因で親が居なくなってしまって、独り身になってしまった子供たちをここで匿ってるの。あなた達の他にも、多くの子供たちがこの施設で暮らしているわ。」
レティシアの言葉を聞いて、一瞬身体が凍り付いた。
「待って、今、"親が居なくなってしまって"って......」
「......昨日、ここに常駐しているアークスに確認してもらったのだけれど........」
レティシアは少し口を閉じたが、ここまで言ってしまったらと覚悟を決めて言葉を放った。
「あなたのご両親は、遺体で発見されたそうよ。万全な準備ができていなかったから、ダーカー因子に侵されて、暴走してしまっていたって.......」
両親の死。
そんなはずはないと必死に言い聞かせる。
だが、最後に見た母親の顔を思い出した私は、不思議とその内容に納得してしまった。
命に代えても家族を守る。
当時は急な出来事とこの区域から逃げることで精一杯だったが、今思い返してみれば、まさにそういった目をしていた。
「........妹にその話は?」
「まだ話していないわ。ここが、どういった施設なのかも。」
レティシアは重々しい雰囲気で話を続ける。
「あの子には、子供たちの一時的な避難施設と言ってあるわ。それも、いつまで信じてもらえるのか分からないけどね.....」
「じゃあ、なぜ私には本当のことを?」
レティシアの言葉に疑問を感じた私は、率直に問いかける。
「あなた達のご両親に言われたのよ。"あの子は勘が鋭いから、隠し事は通じない。何か質問をされたら、正直に話してほしい。"と。」
「母さんと父さんが?」
まるで親しそうな話ぶりに、私はレティシアと両親の関係について聞いてみた。
「あの人たちには、本当にお世話になりっぱなしだったわ。多くの子供たちを匿っている関係で、この施設は常に食糧難で、偶々ここに訪れたあの人たちにそのことを話したら、それ以来、休暇の度にここに来て、食料や支援金を渡してくれていたの。」
その話を聞いて私はピンと来た。
確かに、毎回休暇の度に一度、少し出かけてくると言って、朝から夜まで、2人が不在の時があった。
まさか、そういう経緯があったとは...
「何度か訪ねてくる度に、私とあの人たちは少しずつ世間話をするようになったわ。その話の中にはもちろん、あなたや妹さんの話もあったわ。」
その話を聞いて、私は何故か、ほんの少しだけ恥ずかしくなってしまった。
「そういえば、あなたのお母さんも甘いものが好きだったわね。たまに、シップ内のカフェで買ってきたおすすめのスイーツを、差し入れで持ってくることがあったわ。」
その後も、これまでレティシアと両親がどういう話をしてきたかをしばらくの間聞かされた。
正直、そんなことまで話すかという内容ばかりだった....
「...まぁそんな感じで、昔からお世話になっていたのよ、あなたのご両親とは。」
「そ、そう......」
少しひきつった顔をしながら反応をする私をよそに、レティシアは話を続ける。
「それと、あなたに正直に話したのは、ご両親に言われたのとは別でちゃんと理由があるわ。」
しばらく和やかに話していたレティシアとは一変して、真面目なトーンで話し始めた。
「さっきも言った通り、妹さんが私の嘘をいつまでも信じ続けてくれるとは思えない。周りの子たちから本当の事を聞くかもしれないしね。だから姉であるあなたから、ちゃんと説明してほしいの。」
「.........」
私は、レティシアの言葉を黙って聞き続けた。
「無責任であることは分かってる。でも、親の迎えを信じて待っているあの子を見てたら、私の口からは言えなくて.....」
「.......分かった。妹には、私から話しておく。」
レティシアの気持ちを汲み取った私は、二つ返事でその思いを受け取った。
「ごめんなさいね。辛いことを押し付けてしまって。」
「大丈夫。私に本当のことを言ってくれた。それだけで十分嬉しいよ。妹の事は、私に任せて。」
「それじゃあね」と、席を立ち部屋を出るレティシア。
それから数分して、妹が入れ替わりのごとく部屋に入って来た。
「お姉ちゃん。痛いの、大丈夫?」
妹が心配そうに、こちらを見る。
「あぁ、大丈夫だよ。あと数日休んでいれば、いつもみたいに動けるようになるさ。」
問題ないと言わんばかりに腕をぐるぐると回す。
その様子を見た妹の顔が、ほっとした表情になったのを確認した。
「それはそれとして、少し話があるんだけど、いいか?」
「うん、何?お姉ちゃん」
こういうのは早い方がいい。
期待が長引けば長引くほど、本当のことを知った時の絶望は計り知れない。
「この施設の事なんだけど――――――――」