トレセン学園のシェフ・ソーマ   作:PureMellow

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昨日の夜にふと思いついたプロットを勢いで書いてみたやつ。
色んな娘とわちゃわちゃした感じです。


幸平創真の一日【朝編】

 

 

 

【AM4:20】

 

まだ夜明け前の暗い時間に、創真はパチリと目が覚める。

 

元々実家で朝早くから仕込みをしていた習慣が、小学生の頃から体に染み付いていたため、セットした目覚ましはいつも役目を果たさずに止められる。

 

それでも重たい眠気は残っており、大きく欠伸をしながら創真はお湯を沸かすため電気ポットに水を入れて電源を入れ、洗面所で顔を洗い歯を磨く。

 

幾分覚醒した創真は、中学の頃から日課で飲んでいる薬膳茶を淹れて飲みながら、愛刀の包丁と授業で使う教科書や荷物をチェックする。

 

薬膳茶は、中学時代に父親のツテで働かせてもらった漢方薬善を取り扱う店から、月に一度の頻度で定期購入している。

薬膳の効能の大部分は疲労回復や代謝促進が主だが、小部分が毎月微妙に薬膳の種類と味、そして効能の内容を変えて送られてくる。

 

今月に入って飲んでいる薬膳茶も、先月より酸味と渋みが柔らかくなっていて、その分塩味と辛味と甘味が強調されたような気がした。

パッケージを見た時に『五味子』と書かれた見慣れない薬膳があり、この薬膳の味かと創真は睨んでいる。

 

創真は内心、実験配合の薬膳茶のモニターをさせられているのではないかと疑っている。まあ不味くはない。

あの店で修行中の店主の一人娘は、学級委員長のような頭の硬い性格ながら強かな部分があるのを知っているからだ。

 

次の休みに行って追及してみるか、と創真はほくそ笑んだ後、荷物を持って部屋を出た。

 

「よう、ブルボン。今日も早ぇな」

 

創真が寮から出ると、決まって同じ時間に栗東寮から出てくる無表情がデフォルトのミホノブルボンと鉢合わせた。

彼女は日課の外周のために、準備運動を始めながら創真へと挨拶する。

 

「おはようございます、幸平さん。貴方こそ、いつも朝早くからご苦労様です。今日も、美味しい朝食を期待しています」

 

「おーう、朝飯前はトレーニング程々にしとけよー」

 

「善処します、とだけ告げておきます」

 

「それは言うこと聞かないやつの台詞だからな?」

 

基本的に会話のパターンは変わらない。

あの無表情が崩れる瞬間を創真は一度も見たことがないので、今度新作のゲテモノ料理を食わせてみようかと画策していたりする。

 

そうしてミホノブルボンと別れて学園の校門に向かうと、今度は長い黒髪と青い薔薇が飾られたハットを被る薄幸な印象を纏う少女が、同じく準備運動をしていた。

 

「うぃっす、ライス。お前も朝から早いな」

 

「あ、幸平さん……お、おはよう! ライス、人のいないこの時間に走るのが好きだから……」

 

「そうか……外周に行ってたブルボンとたまには走ってみたらどうだ? ……てか、また痩せてねぇかお前。大丈夫か?」

 

「ふえっ? そ、そうかな……ご飯は、ちゃんと食べてるんだよ? 昨日だって、ご飯を4杯おかわりして、鯖の味噌煮とかきんぴらごぼうとかいっぱい食べたんだけど……」

 

「んー……栄養バランスは良いけどよ、やっぱりもうちょっと肉を食った方がいいんじゃないか? ライスは自主練欠かさずやってるから、動物性タンパク質が足りてねぇんだよ。体脂肪率を減らすのも大事だけど、怪我しないためにはやっぱり筋肉をつけないとな」

 

「そ、そっか……じゃあ、今日はお肉を食べようかな……?」

 

「おう、食え食え。豚肉はビタミンも取れるからオススメだぞ」

 

「ほんと? ライス、今日は生姜焼きいっぱい食べるね!」

 

「じゃあ沢山作っておくからな。それと、今日は日替わりで限定食のメニューがあっから早めに朝飯食べに来いよ」

 

「わかった! ライス、楽しみにしてるね! じゃあトレーニング行ってくる!」

 

「おう、またな」

 

ライスシャワーは上機嫌にグラウンドへと駆けていく。

 

少し幼さが残る喋りと純粋無垢な性格で、見た目は中学生にも間違えそうな小さな体躯なのに、あれで彼女の方が学年が上だから恐ろしい。

 

そんなことを思いながら、創真はライスシャワーを見送ってカフェテリアへと向かった。

 

外は暗いながらも、東京のトレセン学園は強者揃い。

まだ暗い朝にも関わらず、学園に登校して自主トレをするウマ娘はちらほらと多い。

その中でもよく顔を合わすミホノブルボンとライスシャワーは、ほぼ毎日この時間に挨拶をする仲だった。

 

 

 

【AM5:00】

 

 

 

早番の社員スタッフとパートの主婦に混じってエプロンと、手拭いを額に巻いていつもの調理スタイルで仕込みに入る。

前日の夜に決めた日替わり朝食と昼食の仕込み、それからビュッフェで定番の朝食のおかずの下準備をしながら大量の白米を炊き、パンを焼いていく。

 

トレセン学園のウマ娘は日本のみならず、海外からの帰国子女や留学生も多くいるため、幅広いジャンルの料理がビュッフェに並べられる。

基本的にメニューを決めるのは料理長のカロルだが、最近では創真もメニュー作りに携わっていて、創真の独創性溢れるジャンルを超えた料理は国籍を問わずに美味しいと評判である。

 

特に、毎週月曜の朝に出している日替わり限定メニューの『りんごのリゾット』は少食な者や体調の優れない者、週末に調子に乗って二日酔いが抜けない大人にも人気を博すメニューになっていた。

 

今日はそれともう一つ、創真考案の日替わりメニューがあった。

 

「幸平、カルツォーネは焼けそうかい?」

 

「後10分くらいっすかね。いい感じに膨らんできてるっすよ」

 

「全く、幸平がカルツォーネなんてものも知ってるのには恐れ入ったよ。ピザ生地を作ったのも久々だから腕が鳴ったもんだ」

 

「やっぱすげー様になってると思ったけど、カロルさんてイタリア生まれなんすね」

 

「まあね。トスカーナ地方で生まれ育って、アンタと同じ年の頃に料理修行を始めたものさ」

 

「はぁー、そうなんすね。いや、中学生の夏休みに親父に連れられてイタリアのあちこちで料理修行したんで、そん時に色々学んだんすよ」

 

「流石丈一郎さんの息子だよ。その年での知識と経験の豊富さは実地経験があるからってのかい……やれやれ、末恐ろしいもんだ」

 

「へへ、いやーそれのおかげで色んなゲテモノ料理も幅が広がったっすからね。親父がカースマルツゥをアーティチョークで絡んで揚げたやつを食べた時は、俺でも悲鳴をあげる不味さでしたわ」

 

「……丈一郎さんの悪癖も受け継ぐんじゃないよ、このアホ親子は。てかカースマルツゥなんて私だって嫌がるチーズだよ。お腹は大丈夫だったのかい?」

 

「流石に生では食べてないっすからね。熱が通ってたからなんともなかったっす。多分」

 

「多分ってアンタ……」

 

カースマルツゥはサルディーニャ地方で製造されているチーズで、その製法や味はごく一部のニッチな客に好まれるものである。

ここで書くには憚られるものなので、気になった方は検索しましょう。

 

 

 

【AM6:30】

 

 

 

カフェテリアの利用時間が始まり、オープンと同時に多くのウマ娘がカフェテリアへと流れ混んでくる。

 

栗東と美浦それぞれの寮にも食堂があるものの、その食事の量と質はこのカフェテリアとは雲泥の差がある。

故にカフェテリアの利用者は多く、また一部の大食いのウマ娘の影響かカフェテリアのオープン時間は多くのウマ娘のメニューの取り合いとなっていた。

 

「今日は日替わりメニューで焼きたてのカルツォーネがあるぞー! ひとまず先着50名だ! 食べたいやついるかー?」

 

創真が厨房から焼きたてのカルツォーネの山が盛られた籠を持って現れた。

そんな創真の声に、獲物を狙う獣の如き鋭い眼光が創真を射殺さんとばかりに集中する。

創真の日替わりで作るメニューは毎回こんな人気のため、すっかり創真も慣れていた。

 

まず始めに創真の前に現れたのは、溌剌とした瞳とピンクのポニーテールを揺らしたウマ娘。

 

「おっはよーソーマにぃー! カルツォーネってなになにっ!?」

 

「ようウララ、今日も元気じゃねーか。カルツォーネはイタリアの料理でピザとパンの中間みたいなものだな。食うか?」

 

「もちろん食べるよ! ソーマにぃのご飯は何でも美味しいもん! おかず選ばずに待ってたんだから!」

 

ハルウララは元『ゆきひら』の常連であったウマ娘で、その人懐こさと愛嬌のある性格からか、二人は兄妹のような距離感で接していた。

ハルウララも『ゆきひら』が閉まっているのを知った時は酷く落ち込んでいたが、創真と学園で再会した時は創真を轢き殺さん速度でタックルして仰向けで気絶する創真に抱きついて大泣きしていた。

 

その様子をすっぱ抜いたゴールドシップのゴシップ記事のお陰で、ある意味創真の存在が学園に広まるということもあったのだが。

 

創真が次に気がついた時に見たものは保健室の天井と、呆れたネイチャの顔であったりする。

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃねーか。ほい、試しに中割ってみろよ」

 

「中身は何だろう?」

 

ウララは創真に促された通りにカルツォーネを真ん中で割ってみる。

すると、中から爆発するように広がったスパイシーなカレーの香りがカフェテリアに広がっていく。

おかずを取る方に夢中になっていたウマ娘たちはその香りを嗅ぐや否や、動きを止めて二人の方を見た。

 

「わあ! カレーの香りだ! この白いのって……ご飯?」

 

「そうだ。中身はトマトとにんじんの無水カレーで作ったカレーリゾットに、パルメザンチーズをたっぷり混ぜてある。トマトでさっぱりする酸味とパルメザンチーズのコク、そんでリゾットで満足する食べ応えのあるものにしたんだ。ほれ、おあがりよ」

 

「よくわかんないけど美味しそう! いただきまーす!」

 

熱々の香気が立ち上るカルツォーネを、ウララは思い切り齧り付いた。

 

ザクッと外側の甘いピザ生地が、大きく乾いた音を立てる。

生地の中はモチモチとした楽しい食感と、カレーリゾットの濃厚なトマトの旨味とにんじんの甘味に付随して、スパイシーな味が広がっていく。

そして、カレーに溶けているパルメザンチーズがねっとりと糸を引いて生地と口元の間で伸び、見た人の食欲と涎の分泌を増進させる。

 

「んぅ〜!! おいひぃいいいい!!!」

 

ウララの耳と尻尾がパタパタと上下に振り、満面の笑みで噛み締める。

そんな姿が、より周りへの食欲を煽っていく最大級の宣伝になっていた。

 

「ははは、美味えだろ」

 

「創真さんやーい、私にも一つ頂戴な。ウララのこんな顔見て食べないわけにはいかないでしょ」

「ハウディー! ソーマ、ワタシにも一つよこすデース!」

 

「幸平ー! ボクにもちょーだい! こんな匂い我慢できないよー!」

 

「ようネイチャ、タイキ、テイオー。おら持ってけ持ってけ。さっさと取らないとオグリが来るぞ」

 

ウララに食べさせるデモンストレーションは、見慣れない食べ物への好奇と躊躇いを瓦解させて、一人、またひとりと手に取っていき、ものの数分でカルツォーネはなくなった。

創真はそれに満足して、「また30分後に持ってくるからな」と言い残して厨房へと戻っていく。

 

そろそろオグリが来るなと、創真は週5日で一日3回訪れる激しい戦場の一戦目へと繰り出した。

 

 

 

【AM8:30】

 

 

 

朝の仕事を終えた創真は、自身の朝食用に取っておいたカルツォーネを食べながら教室へと向かった。

片付けと清掃に思ったより時間がかかり、小走りでホームルームに間に合うよう急いでいる。

 

あまり行儀の良いことではなく、風紀委員長のバンブーメモリーに見つかった時は「幸平創真ーッ! 食べ歩きは良くないっスよー! その美味そうな食い物は私が没収すクペッ!?」と一時絡まれたが、背後から来たエアグルーヴに首根っこを掴まれバンブーメモリーはそのまま引き摺られていった。

エアグルーヴは創真を一瞥して、「……さっさと食べろ」とだけ言い残してお咎めがなかったのが創真には意外だった。

 

女帝が創真の多忙さを考慮している辺り、創真の素行に一般生徒たちも特に何も言わず、料理の感想や料理のリクエストを創真に投げかける程度である。

 

チャイムの鳴る音がすると共に、創真は教室へと滑り込んだ。

 

「ふぃー、間に合ったぜ」

 

「なんと! 私の占った幸平さんの運勢は凶だったのに間に合いました!?」

 

「イェースッ!! ソーマの滑り込みセーフの賭けのヴィクトリーデース! フクキタルは後で私とスズカにタフネスバー1本奢りデスよ!」

 

「あ、おはよう幸平くん。間に合って良かった」

 

「おはよう、スズカ。フクキタルは朝から何占ってんだよ」

 

教室に入ると、教室の真ん中後ろの席で机に水晶玉を置いてショックを受けているフクキタルを囲んで、賭けに勝って喜んでるタイキとホッと息を吐いたスズカが創真を出迎えた。

 

創真の呆れを無視して再度占うフクキタルは、今度は別の意味でまたショックを受けた。

 

「ふぎゃ!? 幸平さんの運勢が吉に上がっています!?」

 

「そういや、カルツォーネを食べ歩いててバンブーメモリーに絡まれたけど、通りかかったエアグルーヴが回収してくれたな。そのお陰かもな」

 

「エアグルーヴが? そういうのに厳しそうだけど……」

 

「勝利の女神ならぬ勝利の女帝のおかげデスね! フクキタル、ドントフォーゲットですよ?」

 

「ぐぬぬ……わかりました」

 

「私は別に賭けてないのだけど……」

 

「いいんじゃねえの? 貰っとけスズカ。昨日のレースの褒美だと思えばいいだろ」

 

「そう……なのかな……? じゃあそういうことにしようかしら……」

 

「Wow! レースのゴホービがタフネスバーじゃチープではないですか? ここは、購買で一番人気のにんじんスペシャルカスタードシュークリームを景品にした方がーーー」

 

「ちょっとタイキさん!? スズカさんを出汁にして自分の景品も吊り上げようとしてませんか!? スズカさんはともかく貴女はタフネスバーですからね!」

 

「Booo! フクキタルはケチデース!」

 

「なんですとぉー!?」

 

そのまま口論を始めたフクキタルとタイキを尻目に、創真はカラカラと笑いながら自身の席に着く。

 

すると、二人の口論を困ったように見ていたスズカは創真へと歩み寄る。

 

「昨日はありがとう、幸平くん」

 

「なんだよ、別に大したことしてねぇって」

 

「ふふ、私にとってはそうでもないんだけどね……そういえば、私の同室に新しい子が来るみたいなの」

 

「へー……そういや、俺も昨日スズカのレース観てる時に学園に編入しに上京してきたウマ娘に知り合ったな。スペシャルウィークっつー名前なんだけど、スズカの走りに見惚れてたぞ」

 

「……そうなの? じゃあ、その子が同室するのかな……?」

 

「人懐こいウマ娘だったから、多分上手くやっていけるんじゃねぇか?」

 

「そうだといいけれど……」

 

何故か最初のテンションから段々とスズカの言葉が尻窄む様子に、創真は不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

「では! 景品は幸平さん謹製にんじんスペシャルスウィートパフェに決定ということで異議はないでしょうか!?」

 

「イェス! 異議ナシデース!」

 

「おいこら、そこの2人。何勝手に決めてんだよ」

 

「私も異議ないわ」

 

「ええ……」

 

 




創真一人の料理だと案外早くネタが尽きそうなので、個人的に好きだったイサミのカルツォーネを使ってみました。
タクミとイサミはいつ出せるかなぁ。

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