【シンデレラ・グレイ】面白いので、ぜひ。
この作品を思い付かせたオグリキャップの食いっぷりを堪能して欲しい。
ちなみに、作者はまだオグリキャップお迎えしてない(泣)
「……やっと着いたか……無駄に広ぇよこの学校……」
肩で息をする創真は、その扉の前で愚痴を漏らした。
『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』
通称、トレセン学園。
この世界に存在する、『ウマ娘』と呼ばれる少女たちが通う教育機関兼トレーニング施設。
その中でも東京都府中に存在するトレセン学園は、全国に点在する同一機関の中で最大最高規模の土地と設備を揃えている。
そんな学校の一室の前で、創真は既に満身創痍であった。
(ここに辿り着くまでにめっちゃ変な注目を浴びるし、生意気な年下のウマ娘に不審者扱いされるし、セグウェイ乗った変なウマ娘に絡まれるし、全く散々だった……)
創真は深い溜息を吐いた後、背筋を伸ばしてから目の前の扉をノックした。
「すみませーん、面接に来ました幸平創真っすけどー」
『承認! 入りたまえ!』
中からやたら気合の入った返答が聞こえ、創真は『理事長室』と書かれた扉を開いた。
中に入った創真を迎えたのは、二人。
一人はこちらに向かって椅子に座り、白い帽子に猫を乗せた女性と、その横に寄り添って佇む緑の服の女性。
その二人を見た創真は、ふと既視感を抱いた。
「……あれ。お二人って以前……」
「うむ! 私が理事長の秋川やよいだ! ひと月前に『ゆきひら』にお邪魔させてもらった。大変美味かったぞ、幸平少年」
「私は秘書の駿川たづなです。とても定食屋とは思えない素晴らしさでした。またお邪魔させてもらいたいですね」
「あーやっぱり。なんか親父と親しげに話してましたもんね。お粗末様っす」
創真は自身の記憶に合点がいった。
以前『ゆきひら』にこの二人が訪れて食事をしていったのだが、創真は常連でない客のこの二人に丈一郎が親しげに話しているのを目撃していた。
丈一郎曰く、「昔仕事でちょっとな」と言葉を濁していた。
「つーことは、俺がここに入学することに親父と何か関係があるんすか?」
そう尋ねると、二人はキョトンとした顔で創真を見た。
創真は首を傾げた。
「……丈一郎さんから何も聞いてないのですか?」
「うっす。親父は今日トレセンに行けって言ってすぐに仕事でどっか行きましたんで」
「驚愕!? 何の説明もなしにここに来たのか!」
「全く……あの人は相変わらずですね」
秋川と駿川は同時に溜息を吐いた。
息子の進路決定に説明なしで出張に行く父親とはどうなのか。
そしてそれに疑問もなく当たり前に来るこの息子もどうなのか。
まさに親子だと二人は思った。
たづなは咳払いをして、本題へと入る。
「幸平君には、この学園に『特別編入』という形で入学していただきたいんです」
「はぁ……『特別』っていうのは?」
「この学園の学生として勉学に励みつつ、この学園にある食堂の調理スタッフとして就業して欲しいのです」
「調理スタッフ……すか」
幸平はたづなから一枚の書類を受け取り、その内容を確認する。
・学園生として高等部クラスに所属し、ウマ娘と一緒に一般教養科目だけを履修する。
・調理スタッフとしての勤務時間は平日5:00〜8:00、11:00〜13:00、17:00〜20:00の計8時間、週5日勤務とする。
・福利厚生は職員専用の寮に住み込み、施設利用や食事等の権利は職員と同等である。
・正調理師としての給金も支給する。
その他細かな詳細もあるが、創真が一目で理解できる限りではそういった契約内容が記されていた。
(なんか、待遇良すぎじゃねぇか……?)
自身はまだ中学卒業を目前に控えた学生である。
アルバイトとして働くのならまだしも、この紙によれば生徒というより学園所属の正式な職員という部類に入り、調理師として仕事をしながら勉強も受けるということだ。
給料も出るし、週2日で休みもある。
条件としては特に不備はないだろう。
だからこそ、創真は首を傾げて訊いた。
「……俺はまだ調理師免許持ってないし、高校生っすよ? 俺を学園生で招くより、普通に調理師スタッフを募集した方がいいんじゃないすか?」
「無論! 募集はしていたし、現在も募集中である。だが……並の調理師では務まらんのだ」
「……?」
「去年の4月の段階で、トレセン学園は正調理スタッフを10名、パートを30名雇っていました。ですが……去年の夏にパートを5名、年末には正調理師が4名とパートが7名辞めました。それ以降、人員は増えておりません」
「えっ、年内で16人も辞めたんすか?」
「事実! そしてその辞めた理由は全て『調理業務の忙しさに耐えきれない』なのだ」
「はー……『ゆきひら』は親父と二人で切り盛りしてたからよくわかんないけど、まあその数字が異常なことは分かるっすわ」
幸平のそう言う口元が僅かに引き攣る。
一身上の都合を除いて、半年以内の離職率が全体の20%、年内だけで40%などブラック企業のそれと変わらない。
昨今の飲食店の職務待遇が問い質されてる中でこれが公になれば、トレセン学園の知名度を大きく落としかねない。
だが創真には、学内の雰囲気とこの就業率には大きな乖離があるように感じた。
「んー……なんか、ここの学園がそんなに料理人が逃げ出すような雰囲気には思えないんっすよねー。ここに来るまでに何度かウマ娘に絡まれたっすけど、別に嫌な雰囲気はなかったし」
「そう言っていただけるのはとても嬉しいです。勿論この学校にカフェテリアのスタッフを悪く言う娘はいません。ただ……
ウマ娘は
「……まあ、あんだけ走るっすからね。うちの店の常連にウマ娘も何人かいたし」
「平均で、常人の1.5倍以上食べるウマ娘が2000人以上いるとしてでも、ですか?」
「………」
創真は思い出す。
通常の定食メニューでさえ、大の大人よりもおかわりを要求した知人のウマ娘の顔を。
あれが2000人いるというのが、一体どれだけ過酷なのか。
一介の定食屋の倅には、想像ができなかった。
「実は、当初は丈一郎さんにこの仕事を依頼していたんです。ですが、先約で仕事があると断られてしまって……」
「落胆! だが君の『ゆきひら』での手腕を見て、問題はないと私が判断した。無論、こんなことを一介の学生に頼むなど正気の沙汰ではないと分かっている。
だが、どうか受けてくれないか。幸平創真っ!!!」
自身の立場も肩書も、頭の上の猫と帽子の存在も忘れ。
椅子から音を立てて立ち上がった秋川やよいは、机に頭をぶつけるスレスレまで頭を下げた。
隣のたづなは、間一髪で猫と帽子を受け止めた。
創真は少し俯き、考え込むような素振りで黙った。
それを秋川とたづなは静かに見守った。
「いいっすよ」
それは、あまりにもあっけらかんとした声色で。
秋川とたづなは勢いよく創真を見た。
「俺はまだ中坊ですし、親父の背中に追いついたとは全然思ってないっすけどーーー」
「【ゆきひら】も一時休業で研鑽できる場所に困ってたしね」
「まあ、何より」
「腹を空かせた客が大勢いて、それを満足させて見送らないなんて『料理人』としてありえねぇっすから」
そう笑顔で言い切った創真に、秋川やよいは以前丈一郎に電話をした時の会話を想起した。
『悪りぃけど、ひと月前から昔のツテで仕事が入っててな。【ゆきひら】も閉めるつもりなんだ。だから
『……
『ああ。一つ提案なんだが、息子の創真を編入させるってのはどうだ?料理人としての腕は俺にゃまだまだ及ばねぇがーーー
料理人としての心持ちは、俺なんかをとっくに超えてるよ』
『……熟考。折り返し電話する』
そうして、たづなを連れてアポ無しの視察で訪れた【ゆきひら】で、秋川は創真に出会った。
『らっしゃい!! ……あん? 親父の知り合いか?』
『おまかせ2つね。あいよ! 親父ィ! おまかせ2つ! ……え? 俺が作るのかよ!? 親父の知り合いなら親父の方がいいんじゃねぇのか?』
『お二人の好物は? ……にんじん? なんかウマ娘みたいっすね』
『へいお待ち! 【鮭とにんじんの幽庵焼き】だ!!』
『またのお待ちをー! お粗末ッ!』
ああ、そうだ。
あの時の出会いで、彼の調理する姿を見て。
秋川やよいは確信したのだ。
彼ならば、きっと大丈夫だと。
彼ならば、現状を打破する新しい風になってくれると。
その大きな期待を、秋川やよいは再度胸に抱いた。
「さて、っと。帰って荷物整理しなきゃなぁ」
今後の編入手続き、入寮の流れ等を理事長たちと打ち合わせした後、創真は理事長室から出た。
そうして長い廊下を歩き始めた時、創真はふと考えた。
「……あれ。ウマ娘の学園ってことは、男子ってもしかして俺だけ?」
食戟のソーマの他キャラは、一部はサポート的な立ち位置で物語にちょいちょい出す予定です。
先に言っておくと、遠月学園はこの世界線にありません。