五河士道に憑依した   作:山羊次郎

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お久しぶりです皆さん!
毎度毎度更新遅い上に不定期で申し訳ないです……!


絶望の理由

 星が地上を照らす夜。

 月は雲で隠されながらも、家の光が必死に世界を照らしている。

 そんな世界を眺めながらある山の崖にナニカが立っていた。

 ノイズを全身に纏った怪物―――そうとしか言いようのない容姿をした人物だ。

 

【……()()()()、すまないね】

 

 何故かソレは、心底申し訳なさそうに、誰に聞こえるでもなく謝罪をする。

 

【君には苦行を強いる……分かってくれとは言わないよ。けど、()()()()()()()()……どうか、これからも、私のもたらす試練を乗り越えてくれ】

 

 尤も、と。

 僅かに気を落としたような声色で、

 

【それで、君に何かがあるわけではないけどね】

 

 そう呟いた―――始原の精霊、〈ファントム〉は。

 まるで蜃気楼のようにゆっくりと、あっさりと。

 その姿を虚空へと消した。

 

 

 

 

 

 そこは、地上から遥か先。

 高度数百メートルに位置する、空中戦艦。

 名を〈フラクシナス〉。搭乗しているのは、精霊の保護の名のもとに集った様々な有志達。

 彼らは〈ラタトスク〉という、精霊との対話をもって空間震災害の平和的解決を目指す組織に所属する人間であり、同時に五河士道をサポートするために存在している。

 

「司令! 突如として巨大な霊力反応を補足!」

「モニターに出しなさい」

 

 司令――そう呼ばれた、中学生ほどの少女が、冷徹な視線で画面を見上げていた。

 薄紅色の髪を()()()()()()に括り、髪留めとして()()()()()()()を代用している。

 五河琴里。

 士道の妹であり、つい数週間前、この〈フラクシナス〉の艦長、司令となった少女だ。

 

「これは……」

 

 空中に映し出されるスクリーン。

 そこには、まるで魔女のような装いをした少女が、苦しそうに胸を抑え悶える姿が。

 そして、そんな少女に泣きながら手を伸ばす女性の姿があった。

 

「霊力値マイナス! 依然として降下を続けています!」

「司令」

「分かってるわ、神無月。付近に民間人は?」

「既に空間震警報が発令されています」

「いないってことね。じゃあ……――待ちなさい、そこの部分、もっと拡大して」

 

 指示を出そうとした琴里は、映し出される画面に違和感を感じ、拡大を要求した。

 クルーの一人が指示に従い、スクリーンの一部分が拡大される。

 反転精霊に手を伸ばす女性―――より正確には、そんな彼女の背後に控える少年の姿。

 女性の方はともかくとして、琴里は少年の姿に見覚えがあり過ぎた。

 

「……はぁ、なんでアンタはそう……」

 

 呆れたように、諦めたように。

 琴里が息を吐いた。

 

「いかがいたしましょうか、司令」

「……とりあえず、二人をここに転送して」

「あっ、兄様が映ってますよ二亜さん!」

「おー、相変わらずやってるなー少年は。それでこそ、ビバっ、王道主人公! って感じー?」

「……ねえ、大人しくしててって言ったわよね?」

 

 背後の扉から現れたのは、二亜と真那の二人だ。

 彼女たちはその特殊な現状に対応するために〈フラクシナス〉のメンバーの補欠要員的な奴として色々頑張ったりしている……。

 

「……はぁ……」

「大丈夫ですか、司令? ストレスが溜まっているなら、私を踏んでくだされば――」

「貴方も私の悩みの種の一つよ、神無月」

 

 副司令官がシリアス顔で言い放ったドМ発言に、琴里は内心頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、てめぇ離しやがれ! 七罪、七罪――――ッ!」

 

 俺は我武者羅に七罪の元へ駆け寄ろうとする死名さんを羽交い絞めにして拘束する。

 七罪の天使の力の前では、核兵器だろうとクラッカー同然と化す。無策で突っ込んでも天使……いや違った。魔王の餌食になるだけだ。

 

「近づくなっての! 前みたいにカエルにされんぞっ!」

「――っ!」

 

 俺の忠告に、かつてのトラウマを思い起こしたのか、一瞬硬直する死名さん。

 流石にカエルにされるのは堪えたらしい。俺は安堵しながら、拘束する力を緩める。

 と、次の瞬間。

 死名さんはあっという間に俺の拘束を振りほどき、七罪の元へと駆けだした。

 

「ちょ――ッ⁉」

「五月蠅い。もう、どうでもいいんだよそんなのは」

 

 荒々しい口調で、死名さんは懺悔するようにぼやく。

 

「今更こんなことして、許されるとは思ってない。これが七罪(アイツ)への贖罪になんてならないことも分かってる。

 それでも、だ。私と一緒に、やり直したいって言ってくれたんだ……! あの子が、こんな罪深い私にだッ‼

 ……誰かに任せたりしたら、駄目だろ……?」

 

 僅かに肩を震わせながら、死名さんは確認するように言う。

 恐怖がないはずがない。彼女は一度、〈贋造魔女(ハニエル)〉の恐ろしさを身を以て知っている。

 だが、彼女はそれでも。

 七罪を助ける、と。それが自分の役目だと。

 ……アンタは、そう言うのか。

 

「……〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

「――っ⁉」

 

 俺は虚空に手をかざし、息をするようにできるようになった天使の召喚を行う。

 上空に掲げた右手に収まる戦斧。豪炎をまき散らし、七罪に向かって牽制を放つ。

 

「てめぇ、何を――」

「どっちみちあいつを止めなきゃ話になんねえ」

「なっ……」

「悪いが、俺も長くは持たない。加減はするが、期待はするな」

「お、おい……ッ!」

 

 死名さんの呼びかけを振り切り、俺は七罪へと突貫する。

 と、俺の接近に気づいた七罪が箒を俺に向けて構え、

 

「――〈真造魔男(バール)〉」

「あ、そう言う名前なのね」

 

 バール……エクスカリバールかな?

 とかふざけたことを考えていると、箒の先から光が噴き出された。

 俺は〈灼爛殲鬼(カマエル)〉から炎を発生させ、壁のように前方に構える。

 光は俺の炎に当たり、それらすべてをぬいぐるみに変えてしまった。ぬいぐるみが重力に従い落下するのを眺めながら、俺は安堵する。

 直撃してたらやっぱりヤバいな、性能も前と変わってないみたいだし。

 

「――うごっ⁉」

 

 刹那。俺の目の前に接近していた七罪が、箒を鈍器のように振り下ろした。

 直前で躱せたが、続く二撃目は喰らってしまい、地面を氷の上にいるかのように滑る。

 いってぇ……くそ、油断した。まさかそんな物理攻撃をしてくるとは思わなんだ……。

 っと、俺が腰を抑えて立ち上がると、いつの間にか頭上にいた七罪が、箒を掲げて輝かせる。

 あまりの眩しさに俺が手で目を覆う。そして数瞬後、七罪の手にとんでもないものが顕現していた。

 

「……〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

 ――【千変万化鏡(カリドスクーペ)

 反転前の七罪の天使、〈贋造魔女(ハニエル)〉に備わった能力の一つで、自分が視認した天使を能力事再現することが出来る。

 恐らくあれは、その魔王版。

 つまり、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の能力をそのまま再現できるというわけだ。

 しかも今回は天使ではなく魔王。前までの常識は多分通じない。俺ですら知らない、隠された性能があるかもしれない。

 なにしろ、原作では七罪は反転しなかったのだから。無論、〈囁告篇帙(ラジエル)〉なら調べられるのだろうが、今それをしている暇はない。

 よって、俺が今からとるべき行動は一つ。

 

「……【(メギド)】」

「上等だ。【(メギド)】――ッ!」

 

 全身全霊全力の一撃を以て、七罪の攻撃を防ぐしかない。

 七罪が俺を殺さんと放った炎の衝撃波。それに対抗するように、俺もまた同威力の一撃を返した。

 攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。互いの砲撃が上空で衝突し、衝撃を、旋風の如く周囲に巻き起こす。

 瞬間、俺の全身に途轍もない重圧が掛かる。強烈な重力と圧力に、俺の全身は即座に悲鳴を上げた。

 筋肉が軋み、骨にヒビが入る音を聞いた。足場が少しづつ崩れ、地盤が緩まっていく。

 ……それでも。

 俺は攻撃をやめるわけにはいかない。

 

「ぐ、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!」

「――ッ⁉」

 

 咆哮と共に、俺の放った【(メギド)】が火力を増した。

 七罪の砲撃を徐々に、徐々にと押し上げ――

 

「くぅ――っ⁉」

 

 ――競り勝った。

 が、突き抜ける炎柱は七罪に直撃はせず、彼女の柔肌を僅かに掠めるだけだ。尤も、殺すつもりはなかったからそれで十分だが。

 七罪は感情の見えない表情のまま魔王を元の状態に戻した。

 ちっ、撃ち合いでは俺に勝てないと見たのか、面倒な……!

 俺は霊力を操作、身体能力を強化して跳躍する。七罪が俺を迎え撃つために箒を向けるが、俺はそれよりも早く彼女の頭上を取る。

 

「はぁ――ッ!」

「っ――」

 

 やはり接近戦は不慣れなのか。

 俺が振り下ろした斬撃を慌てて身を捻り躱す七罪。だが、隙だらけの背中を俺は蹴りつけ、さらに彼女の腕を引っ張って目前に引き戻し、頭突きを放つ。

 くらり、と七罪の体が後方に傾くのを、俺は左手で支える。

 

「悪い。許せ」

 

 七罪の瞼がゆっくりと閉じられる。

 どうやら気を失ったらしい。助かった、これ以上戦闘をしなくていいなら、それに越したことはない。お互いの為にもな。

 七罪の膝の裏に右手を通し、背中を左腕で支える。所謂、お姫様抱っこと言う奴で、七罪を地上まで運んだ。

 そこで、瓦礫に身を隠して衝撃を往なしていた死名さんが顔を出した。

 

「とりあえず何とかした。あとはアンタの仕事だ」

「……ああ。すまん……あと」

「ん? ……いてっ」

 

 何故か頭を小突かれた。

 

「七罪に頭突きしたろーが」

「あーはいはい、悪かったな」

「ふん。……ん?」

 

 するとその時。

 死名さんと俺の周囲を緑色の光が包んだ。

 

「「へっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然のことだった。

 胸の中を埋め尽くす暖かい気持ち、頭の中で渦巻く感情の嵐。

 それらを纏めて掻き消す、爆撃のような閃光だった。

 瞬間、七罪の脳裏に目まぐるしい記憶の羅列が走り抜けた。

 そして、その全てが……辛く、苦しい物だった。

 

(……なに、これ……?)

 

 呆然と、七罪は蘇る記憶を覗いていく。

 やめておけ、引き返せ。そう、理性が訴えてくるのを、彼女はすべて無視した。……無視せざるを、得なかった。

 かつて、母親と二人で暮らしていた七罪。

 だが、そこは幸福という二文字が辞書にすら存在しないのではないかと疑うほどの、劣悪な環境だった。

 母親はつい先ほどまでの彼女とは別人のように、口も素行も悪く、七罪への対応も辛辣を通り越してもはや虐め。

 その上薬物にまで手を出しており、とことん救いようがない。

 ……そう思わせるほどの―――悪人だった。

 いや、悪なんてチープな言葉で片づけられない、まさしく邪悪。七罪は一瞬、そんな風に考えてしまった。

 そして、意識が現在に帰還する。

 目の前には、記憶の中にいた母親(クズ)と同一人物が――

 

「ひっ――」

 

 つい。

 七罪は、恐れてしまった。仕方のない事とは言え、彼女は母のことを思い出し、死名を恐れてしまったのだ。

 それがダメだった。

 七罪は聡明だ。故に、自分が取った行動が、どんな感情に基づき、下された判断であるか、瞬時に理解した。

 したからこそ、彼女は後悔した。

 不幸になんてならないと言ったのに、絶対にやり直せると言ったのに……ッ!

 

 拒絶、してしまった―――ッ!

 

 その事実が。己の心の脆さが。

 より一層、七罪を絶望へと誘った。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――ッ!」

 

 絶叫。金切り声が天高く突き抜け、爆発するように膨大な霊力が溢れる。

 これが、彼女の見た絶望。

 これが、彼女の感じた後悔。

 これが、七罪の心を、再び閉ざした悲しみ。

 そして精霊は生まれ変わる。

 ただ一人の悪魔。

 後悔と絶望を背負った、反転精霊として―――

 

 




今回で色々たくさん詰め込まれていた気がする……。
あ、次回で七罪編終了だと思います。長いようで短かったな……

もうこの後は原作に突入させる?

  • 他の精霊攻略しろ。きょうぞうちゃんとか
  • イッテイーヨ!

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