吸血鬼な薬屋さん   作:gotsu

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ミーナさんを呼んで

 メルセデスが目覚めた日の午後、冒険者ギルドで、リリルは始めてギルドに来た時みたいに落ち着きなく窓口に並んでいた。

 

「あの、ミーナさん…いますか?」

「あぁ?」

 

 いつもと違う時間帯にギルドに行ったリリルは、窓口でミーナさん以外の、それも怖そうな男の人に声をかけた。

 

「ひっ……あ、あの……。」

 

「お、おう……。」

 

 リリルは髭面のおじさんに睨まれ、涙目になる。一方で、ただ単に目つきが悪いだけの窓口のおじさんはそれを見て、顔に似合わずおどおどする。

 

「みっ、ミーナさん……。」

「おっ、おじょうちゃん、ミーナだね、すぐ呼んでくるから!」

 

 顔に似合わない猫なで声を出し、筋肉質な身体に似合わない素早い動きで髭面のおじさんはギルド受付の奥に慌てて消えていった。

 

「リリルちゃん!」

「ミーナさん!」

 

 奥から出てきたミーナに安堵の表情を浮かべるリリル。

 

「大丈夫?あの髭面に何かされなかった?」

「だっ、大丈夫です、ちょっと怖かったけど……。」

「あのオヤジ、リリルちゃんを怖がらせるなんて!」

「あの、大丈夫です、大丈夫ですから!」

 

 男を追って奥に走って行きそうだったミーナをリリルは慌てて止めた。

 

「冗談よ、あのおじさんも顔は怖いかもしれないけど案外優しいんだから。でも、珍しいわね、いつもは……」

「あの!ミーナさん!私のおうちに来て下さい!」

 

 リリルは珍しくミーナの言葉を遮って声を出した。

 

「おうち?えっ?」

「あの、これが私のおうちの場所です、いつ来てくれますか!?」

 

 リリルはミーナに1枚の紙を渡す。

 

「もちろん、今日行かせてもらうわ!!」

 

 即答であった。話の流れはまったく掴めなかったけど、ミーナにとって妹にしたい女の子に家に誘われたのだ。たとえ仕事を休んででも行くしか選択肢はなかった。

 

「きょ、今日ですか!?」

 

 一方、いつも忙しそうに働いているミーナさんがいきなり家に来てくれるとは思っていなかったリリルは驚きを隠せない。

 

「あら、ダメだった?」

「いいえ、待ってます!!」

 

 そう言うとリリルはぱっと表情を明るくして、ぺこりとミーナにおじぎをして小走りでギルドから出て行った。

 

 一方、残されたミーナは……。

 

(ああ、ついにリリルちゃんのお家にお呼ばれされちゃった!!まずはご挨拶からよね、でもご両親はいないって言ってたし、ここはお菓子でも持って行くべきかしら、ああ、楽しみだわ!!)

 

 あまりにも突然やってきた幸福に天にも昇る気分だった。

 

「ミーナ!」

 

 奥からさっきまで奥で一緒に仕事をしていた同僚から声がかかってミーナは我にかえる。

 

「もう、何やってるのよ、このままじゃ今日は徹夜になっちゃうわよ!早く仕事に戻ってよ!」

「……」

「ねえ、今月の収支報告書、今日で全部やらないといけないのよ!」

「わかってる……。」

「わかってるなら……。」

 

 話しかけた同僚の女性は、ミーナの鬼気迫る顔を見て後の言葉を飲み込んだ。

 

「今日の3の鐘までに終わらせるわ……」

 

 ミーナは静かにそう言って、凄まじい殺気を発しながら奥の事務室に消えていった。その殺気はギルド内にいる一部の熟練の冒険者が武器に手をかけるほどであった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「このお店で間違いないわよね……」

 

 その日の仕事を人間業とは思えないスピードで終わらせたミーナは3の鐘が鳴るか鳴らないかの時間にリリルのお店の前に来ていた。

 ミーナは何度も紙に書かれていた場所と目の前のおんぼろなお店を見比べる。お店にはこの町で決められている薬屋さんのマークである、瓶と包帯の絵の看板がかかっている。

 

「よし、行くわよ!」

 

 ミーナは気合を入れてお店の入り口の扉を開く。

 

「リリルちゃん、お邪魔しま~す。」

「……」

「……」

 

 お店に入っって最初にミーナの目に最初に入ってきたのは、ご年配の方が着るようなだぶだぶな服を着て、団扇を使いながら椅子に踏ん反り返っている金色の髪の女の子だった。

 

「……すみません、間違えました。」

 

 二人の間に数秒間、気まずい空気が流れたあと、ミーナはぺこりと女の子に頭を下げてお店の扉をそっと閉じた。

 

「はぁ、はぁ、お店間違えたのかしら……?」

 

 ミーナは何度も地図を見返すが、ここで間違いないようだった。お店の名前も間違いない、意を決してもう一度扉に手をかける。

 

「すみません、お邪魔します!」

「……なに!」

 

 さっきの金色の髪のおばさんくさい服を着た女の子が、変わらず小さな椅子に座っていた。口をへの字にして見るからに不機嫌そうだ。

 

「このお店はアナトリスさんのお店ですか?」

 

 ギルド職員と依頼人という関係より少しは親しい子の家に行っているはずなのに、なぜこんな訪問販売をするセールスマンのような口調になっているのか、それはミーナにも分からなかった。

 

「そうよ!」

 

 なぜか塩対応をされるミーナ。

 

「では、リリル・アナトリスさんはいらっしゃいますか?」

「あの子ならお店の奥で何か探してるわ!」

 

 その言葉を聞いたミーナはほっと胸を撫で下ろした。建物を間違えている訳ではなかったようだ。

 

「すみません、私、ギルドから来ました、ミーナ・バレンシアと言います。今日はリリルさんに呼ばれてお店にお邪魔させてもらったんですが……。」

「……アンタ、怪しいわね、ギルドの方から来ましたなんて詐欺師の典型的なやり方よ、本で読んだわ!」

 

 確かにミーナも胡散臭い喋り方になっていたのは認めるが、年下そうな子供に面と向かって言われると傷つく。

 

「まあ、いいわ、あの子に会えばわかるでしょ!」

 

 女の子はおもむろに椅子を立って足早にお店の奥に行く。

 

 

「わぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 しばらくして、聞きなれた声の悲鳴とさっきまで塩対応をしていた子の悲鳴が店の奥から聞こえた。ミーナは慌ててお店の奥へ入っていく。

 

「もう、なんでそんな見るからに怪しい箱を開けるのよ!」

「だって、このあたりにメルちゃんが言うような水晶玉が置いてあった気がしたんだもん……。」

 

 奥の物置のような部屋ですすだらけになっている二人、物置の床には紫色の毒々しいデザインの箱が落ちていた。

 

「もう、まっ黒じゃない!」

「ごめんなさい……。」

「まったく……。」

 

 塩対応の女の子はささっと指をふるって短い詠唱をする。

 

「風と水の精霊よ、我と彼の者を清めよ!」

 

 すると青と緑色の淡い光が2人を包み、みるみるうちに真っ黒なすすが綺麗になった。ミーナはその光景を呆然と見ていた。

 

「ほら、綺麗になったわよ。それよりあんたにお客さん、怪しいやつだったけど、あんたの名前を知ってたから表に待たせてあるわ!」

「お客さん?ああっ!」

 

 リリルは何かを思い出したように立ち上がって表に走り出そうとするが……。

 

「わぁっ!」

「きゃっ!」

 

 リリルは倉庫の入り口で一部始終を見ていたミーナに気付かず、胸に飛び込んでしまった。

 

「あらあら、リリルちゃん、慌てんぼうさんね。」

「み、ミーナさん?」

 

 ミーナは胸に飛び込んできたリリルをやさしく抱きしめて頭をなでる。

 

「で、全部説明してくれるのよね?」

「……うう、ごめんなさい!」

 

 それからリリルは昨日あった事を洗いざらいミーナに話した。

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