吸血鬼な薬屋さん   作:gotsu

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メルセデスと借金取り

「はぁ……最近リリルちゃんが来てくれない……。」

 

 冒険者ギルドの受付窓口で暇をもてあましていたミーナが呟く。メルセデスがリリルのお店で働き始めたことで、ギルドへの納品もメルセデスがやるようになってしまったのだ。

 

 そして、今日もフードをかぶったメルセデスが冒険者ギルドに来た。フードはかぶっているが、いまだに服を買えていないのか、あいかわらずお婆さんが着るようなゆったりとした服をむりやり着ているようだった。

 

「今日のぶん、納品しに来たわ。」

 

 不機嫌そうに言って薬の入った袋を差し出すメルセデス

 

「はいはい、赤色回復薬ね、ご苦労さま。」

 

「違うわよ、今日は青色よ。」

 

「へぇ……何ですって!?」

 

 メルセデスの言った事を確かめるため、ミーナは慌てて袋を開けて中の小瓶を取り出す。

 

 

「本当に青色ね……」

 

 取り出した瓶を光にかざして眺めるミーナ

 

「だから言ったじゃない、さあ、今日はいくらくれるの?」

 

 受付の机の上に手を出してお金を催促するメルセデス

(まったく、こんなのが伝説の種族だなんて……)

 

「はいはい、ちょっと待ってなさい。」

 

 ミーナは引き出しから銀貨を取り出しメルセデスに渡す。

 

「あら、ずいぶん多いのね。」

 

 メルセデスは受け取った銀貨3枚を手のひらで確かめる。

 

「当たり前よ、赤色に比べて青色はそんなに作れる人がいないのよ、それにしてもこんなに早く作ってくるなんて……。」

 

 ミーナは瓶を手で転がしてまだ信じられなさそうに言う。

 

「あら、あの子は簡単そうに作ってたわよ。」

 

「そう……。」

 

「じゃあ、次の依頼、もらっていくわ。」

 

 考え込んでいるミーナをよそに、メルセデスはギルド証を取って依頼の張ってある掲示板の方へ消えていった。

(調合士の友人は最低1週間は寝かせるって言ってたけど、ちょっと調べてみる必要があるわね……)

 

 そんな事を考えながらミーナは納品された薬の瓶を懐にしまった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「さて、こんなものね。」

 

 掲示板から、リリルが出来そうな依頼をいくつか取っていく。

 

「でも、あの子、意外といろいろ出来るのね。」

 

 掲示板に書かれた依頼を見ると、薬関係の依頼内容のほとんどは初級の本で何とかなりそうな内容だった。

 関心しながら手に取った依頼の紙を懐にしまう。お昼時だからか、ギルドに冒険者の姿はほとんどなかった。

 

「これなら少しはお金を早く返せるかもね。」

 

 罰金が払えたら、今度はリリルを連れてエルフの森に帰る方法を考えなければならない。

 

(早く町を出られるようになったら、落とした転移の魔法具を探さなきゃ。)

 

 メルセデスはそんな事を考えながら帰路についた。帰りは今日の食事の材料を買わなければいけない。

 

「そう言えば、あの子トマトが好きって言ってたわよね……」

 

 メルセデスは手に入れた銀貨の重みを感じながら、リリルが言っていた事を思い出す。

 

 

「吸血鬼だけに、赤い食べ物が好き、なんて安直すぎよね……」

 

 

 リリルに噛まれた首筋をさする。噛まれた傷はなく、ほんの少し赤くなっていただけだった。寝ているうちに噛まれていたら気づかなかったかもしれない。

 

「でも、エルフの予言も捨てたもんじゃないわね。」

 

 変な予言を信じて半信半疑で旅に出たメルセデス、しばらく様子見を決め込んではいるが、一方で吸血鬼がこの町に2人もいる気もしなかった。

 

 変な予言でも当たるのだから、エルフのエルフたる所以なのだ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「兄貴、この店ですぜ。」

 

「なんだ、ボロい店だな。まあいい、用事を済ませるぞ!」

 

 昼下がりの4の鐘が鳴る頃、リリルの店の前にガラの悪い二人組が立っていた。

 

「おう、邪魔するぜ。」

 

 突然店内に若く目つきの悪い、いかにも裏の仕事をしていそうな男が入ってきた。続いて、きちんとした服装をした、ちょっと人相の悪い男が入ってくる。

 

「はいはい、いらっしゃい。」

 

 メルセデスはその二人が冒険者か何かだと思い、特に興味を持つことなく返事をする。

 

 二人組の男は、無言で店番をしているメルセデスの前に立つ。ようやく異変を感じたメルセデスは椅子から立ち上がった。

 

「なによ、探してる薬でもあるの?」

 

「残念だったな、俺たちは客じゃない、借金取りだ。」

 

「ここのバアサンが借りた金、耳を揃えて返してもらおうか!」

 

 アニキと呼ばれる男に続いて若い男が大声で怒鳴ると、1枚の紙を取り出し、机の上に叩きつけた。

 

「きゃっ!」

 

 急に怒鳴られ、しりもちをつきそうになるメルセデス

 

「聞こえなかったか、この店の借金、金貨10枚を返してもらおう。」

 

「いきなり怒鳴らないでよ!残念だけど、このボロい店に金貨10枚なんてある訳ないでしょうが!それに店主は今学校に行ってるわ!」

 

 メルセデスはリリルが聞いていたら顔を真っ赤にして怒りそうなセリフを言う。

 

「うるせぇ、ないなら金目の物を出しやがれ!」

 

「うるさいのはあんたよ!さっきも言ったじゃない、私は店主じゃないの、出直して来なさい!」

 

 メルセデスは男たちが何かよからぬ事を始めたら、すぐに魔法で対処できるという余裕から、男達のドスの効いた声に動じる事なく話す。

 

「ほう、店主は不在か、じゃあ伝えておいてくれ。ガキに押し付けるのは心苦しいが、バアサンの作った借金の金貨10枚、今月中に返せってな。」

 

「ふうん、これが借金の証文ね……」

 

 メルセデスは机に叩きつけられた紙を拾い上げる。ずいぶん昔に書かれたようなその紙には、確かに金貨10枚の貸付について書かれているようだった。

 

「そうだ、借りた金はきちんと返してもらわねえとな!」

 

 若い男が大声で唾をとばしながら言った。

 

「うるさいわね、読んでるところなんだから黙ってて。」

 

「ンだとこらぁ!」

 

 いつもの調子で話すメルセデスの態度が気に入らなかったのか、若い男が身を乗り出してくる。

 

「へぇ、やる気なの……?」

 

 メルセデスの目がすっと細くなり、右手に魔力をまとわせる。

 

 

「そこまでにしておけ、どうせ返せないと思うが、それなら店を差し押さえるまでだ。」

 

 アニキと呼ばれる男は、落ち着いた声でその場を収めると、若い男を置いて、出口のほうに向かっていった。

 

「アニキ、もう帰るんですかい!」

 

「ああ、用事は済んだ。今月中の返済だ、猶予が欲しいなら直接頼みに来るんだな。」

 

 男は出口近くに1枚の紙を置き、店を出る。若い男もそれに習い、慌てて後を追いかける。

 

「今月中に耳を揃えて返せるようにしとけよ!」

 

 アニキと呼ばれる男が店を出ると、それにくっついている若い男も一言吐き捨てるように言って店を出て行った。

 

 

「もう、なんなのよ、薬屋さんって言うよりトラブル屋さんじゃない!」

 

 残されたメルセデスは借金の証文と男達が出て行った扉を交互に眺めて言った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「アニキ、いいんですかい?」

 

「何がだ?」

 

「この店にゃ女が2人もいやがるらしいじゃないですか、出す所に出せば金貨10枚なんてスグですぜ。」

 

 店を出たあと、若い男が意地悪な顔をして言う。

 

「いいさ、今回は金を返してもらうのが目的じゃない。」

 

「へぇ、アニキは何か考えがあるようで……」

 

「俺たちみたいなゴロツキが、はいはいと堅気の奴の頼まれ事を聞くと思うか?」

 

「へい、そのとおりで、アニキに考えがあるんですね?」

 

「コレだよ。」

 

 アニキと呼ばれる男が手の平に収まるほど小さな紙包みを取り出す。

 

「薬屋ってんならコレも作れるだろう、金で脅してコレを作らせるのさ。」

 

「さっすがアニキ、これでウチの組も潤いますね。」

 

 若い方の男が納得がいったという様子で手をたたく。

 

「あの店の店主にゃ悪いが、運が悪かったな。」

 

 二人は、この町でも比較的治安の悪い西の町の方へ消えていった。

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