吸血鬼な薬屋さん   作:gotsu

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ゲドー商会へご案内

「ただいま、メルちゃん、どうだった!?」

 

 初めて作った青色回復薬が依頼を達成できたか気になり、速足で帰ってきたためか、少し息があがったままリリルはお店に入り、机に突っ伏しているメルセデスに声をかけるが…。

 

「はぁ……」

 

 嬉しそうに聞いてくるリリルを見て、ついため息をついてしまうメルセデス。

 

「えっ、もしかしてダメだったの……」

 

「いいえ、ちゃんと依頼は達成できたわ。」

 

 メルセデスは今日手に入れた銀貨を机の上に置く。

 

「もう、メルちゃん、おどかさないでよ!」

 

 銀貨を見て、メルセデスが脅かそうとしていると思って頬を膨らませる。

 

「それと……これ……。」

 

 おそるおそる、今日来た男から渡された紙を銀貨の横に置く。

 

「えっ、何?」

 

「あっ、えっと、落ち着いて聞いてね、今日借金取りが来てね……」

 

「うん……。」

 

 言いづらそうに切り出すメルセデス、一方で借金取りという不穏な言葉を聞いたリリルは、何が起こったかわからない様子で、机の上に広げた紙を見ながら言葉を待った。

 

「金貨10枚、今月中に払えって……」

 

「………」

 

 机の上に置かれた紙とメルセデスの顔を交互に見る。そして、目に大粒の涙が溜まっていく。

 

「うぅ…、グス……、メルちゃん……どうすれば……」

 

「ちょっと、私も困ってるんだから!この家が差し押さえられたら住む家がなくなっちゃうじゃない!」

 

 泣き出してしまったリリルを見て、つい口を滑らせて不安を煽るような事を言ってしまうメルセデス

 

「差し押さえって…グス……おうちなくなっちゃうの?」

 

「だっ、大丈夫よ、払えればなくならないから!」

 

「グス…今月中に金貨10枚なんて無理だよぉ……」

 

「たっ、頼みに行けば猶予してくれるって言ってたわよ!」

 

「グスッ…ほんとう?」

 

「本当よ、新しい薬も作れるようになったから、今月頑張って払えなければ頼みに行けばいいじゃない。」

 

 メルセデスはなんとか安心させようと、アニキと呼ばれていた男が置いていった紙を見せる。そこには地図が書かれてあった。

 

「……ここに頼みに行ったら待ってくれるの?」

 

 リリルはぐしぐしと目をこすって出された地図を見て、消え入りそうな声で言う。

 

「でも、一人で行っちゃダメよ、行く時は私も呼ぶように!」

 

(ついつい口走っちゃったけど、あんな男達がいるような場所に一人で行かせる訳にはいかないわよね。)

 

 そんな事をしたら相手にとっては鴨がネギをしょって鍋にしてくださいと言っているようなものだ。

 

「どうにもならない事を考えてもしょうがないでしょ、そんな事より明日の納品分を作って、少しでも払えるようにしないと!」

 

「うん……、そうだよね、働かないと金貨も稼げないよね……。」

 

 リリルはもう一度涙をぐしぐしと拭いて、薬の注文が入っている巣箱を見に行く。

 

「今日の注文は……、えっ、何これ……」

 

 巣箱の中には、いつも使っている注文書とは別に1枚の見慣れない紙が入っていた。

 

「手紙かな……。」

 

 2つ折りにされた見慣れない紙を開き中を読んでみる。

 

『猶予して欲しければ一人で来ること』

 

「わっ!?」

 

 

 書きなぐられた文字を見て小さな声を上げる。

 

「どうしたの、変な声出して?」

 

「ううん、なんでもない!」

 

 リリルは紙をくしゃりと握りつぶす。

 

(うう、どうすればいいの……。)

 

「夕食を作っておくから、それまでお仕事でもしてなさい。あと、今日はトマトを買ってきたわ。」

 

「うん…。」

 

「なによ、最近トマトが食べれてないって嘆いてた割には反応が薄いのね、少しは喜ぶと思ってたわ。」

 

「そんなことないよ、メルちゃん、ありがと!」

 

 リリルは不審に思われないように返事をする。

 

「まあいいわ、できたら呼んであげるから、気晴らしに学校の宿題でも薬の調合でもやってきなさい。」

 

 リリルの反応を少し不審に思ったメルセデスだが、きっと借金が増えたショックから立ち直れていないのだろうと思って特に気にする事なく夕食の準備のために動き始める。

 

「はぁ……」

 

 キッチンに消えていったメルセデスを見て、大きなため息をついた。

 

(青色回復薬が作れるようになっても金貨10枚なんて無理だよ……お願いに行くしかないよね……)

 

「明日、学校が終わったらお願いしに行かなきゃ……。」

 

 密かに決意を口にするリリル、最近どこかで見た光景であった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 翌日、学校が終わり、リリルは例の地図の場所に向かっていた。そして、その後ろをこそこそと追いかけるもう一つの影があった。

 

「今日のリリルちゃん、ぜったい何か隠してる!」

 

(今まで困った事は話してくれてたから、今日は話せない理由があるんだ……)

 

 学校で話しかけても反応が薄いリリルを見て、不安に駆られたミアは、いつもと違う方向に向かって帰るリリルの後ろをつける。ミアは今までの付き合いから、分かりやすい彼女の行動を察し、心配になったのだ。

 

(リリルちゃん、そっちは西の町だよ……。)

 

 リリルはコストゥーラの町でも治安の悪いと言われている西の町に続く道を歩いていく。

 

 

 街並みはしだいに陰気なものとなり、道も石畳の綺麗な通りから、凸凹の目立つあまり整備されていない通りに変わっていった。

 

 ミアは止めるべきか悩むが、悩んでいるうちにリリルは西の町のとある建物の前に立ち止まった。

 

(リリルちゃん、この建物、ゲドー商会の建物だよ!)

 

 ゲドー商会とは、西町で娼館やぼったくりの店の後ろ盾をしてお金を稼ぐ、いわゆる裏稼業の商会だ。商業ギルドと結びつきがあり、領主もなかなか処置をすることができておらず、治安のよいこの町でもしぶとく生き残っている商会である。

 

「もしかして、大金が稼げるって乗せられて娼館で働かされるんじゃ……。」

 

 ミアは思考を廻らせる。先日の裁判で二人あわせて金貨20枚の罰金を課せられたらしいのだが、それを早く返せると口車に乗せられると、悪い大人に騙されているのかもしれない。

 

 そんなふうに悩んでいるうちにリリルはゲドー商会の建物に消えていった。

 

「大変、入っていっちゃった!」

 

 リリルが建物に入っていくのを見て慌てる、ミアは建物の外から中の様子が見られないか探ってみる事にした。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「あの、おじゃまします……。」

 

 街並みに似合わず立派な作りをした建物の入り口をくぐる、

 

「おい、ガキがなんの用だ。」

 

「ひっ…、す、すみません!」

 

「まあまあ、せっかく来てくれたんだから用件を聞いてあげましょう。」

 

 入口を入ってすぐの受付らしき所にいる男達二人がリリルを見てそれぞれの反応をする。

 

「お嬢ちゃん、ここがどこかわかってるのかい?」

 

「えっと、あの、あの……」

 

 怪しげな黒いスーツの壊そうな男に話しかけられ、上手く言葉が返せないリリルは、鞄の中から昨日、借金取りが置いていった地図を取り出す。

 

「こっ、これ!」

 

(メルちゃん、こんな怖い人がいっぱいの所だなんて聞いてないよぉ……)

 

「ほう、こりゃカルロのアニキからの招待状じゃねえか、案内しろ。」

 

「へい!」

 

「おっと、子供とはいえ、何か隠し持たれても困る。その帽子とローブは取ってもらおうか。」

 

 リリルはそういうものかと帽子とローブを取った。

 

 

「ほう、ほうほう、なるほど……」

 

「さすがカルロのアニキ、今は青いが、これから仕込めばありゃ金になりますぜ。」

 

 帽子の下から現れたリリルの整った顔を見た二人は、野卑な言葉をかわしながらリリルを奥の部屋へ通す。

 

 

「アニキ、客ですぜ。」

 

 案内の男は、リリルが持ってきた紙をカルロに渡す。

 

「お前があの店の店主か……」

 

 ぎらりと、鋭い目で見られ、たじろいでしまう。しかし、ここは踏ん張りどころだ。

 

「あの、あの、借金が返せないので、もう少し待ってくれませんか!」

 

 リリルは勇気を出してカルロに言ったが、まるで反応を示さず、借金の証文を手のひらで弄ぶ。

 

「あの、お金は必ず払います、だから……」

 

 反応を示さないカルロにもう一度お願いをしようとするが、その声は見知った声にかき消されてしまう。

 

「イヤ、放して!」

 

 突然、聞きなれたミアの声が聞こえてリリルは慌てる、どうしてミアがこんなところにいるのだろうか。

 

「アニキ、ウチの店をちょろちょろ探っているガキを捕まえました、こいつの仲間だろうと思って連れてきやした。」

 

 ミアは首根っこを掴まれてリリルのいる部屋に連れて来られた。

 

「ミアちゃん!」

 

「リリルちゃん!」

 

「ほう、俺は一人で来いと指示をしたと思ったが、そいつは仲間か。」

 

「違います、友達です、ミアちゃんはお店とは関係ありません!」

 

 リリルは男に乱暴に連れて来られたミアを見て、勇気を出してカルロを睨む。

 

「まあいい、お前の店の借金の話だったな。待ってやらんでもない、だが条件がある。」

 

 カルロは小さな紙包みを取り出し、黒塗りの机の上に置いた。

 

 

「これを作るなら、金貨10枚の借金だけじゃない、お前ともう一人の女が抱えている罰金も全部肩代わりしてやるよ。」

 

 カルロはにやりと笑い、紙包みを広げ、中の白い粉を見せつけた。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「遅いわね……」

 すでに5の鐘が鳴り、日も暮れかかっている。いつもなら帰ってきて薬の調合を始めている時間なのに、いつまでたっても帰ってくる様子がないリリルに不安を募らせる。

 昨日の夕食のよそよそしいリリルの態度が気になったメルセデスは、何か手がかりがないか、昨日薬の調合をしていた調合室を探す。

 しばらく探していると、ほとんど空のくず入れの中に1枚の紙がくしゃくしゃに丸められて捨てられているのを見つけた。

 

「あら、注文書かしら。でも注文書ならきれいに綴ってるはずね……。」

 

 怪しく思ったメルセデスは、丸められた紙を開いて目を通す。

 

(猶予して欲しければ一人で来ること)

 

「あのバカ!」

 

 

 メルセデスは事態を察して慌てて店を出た。

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