吸血鬼な薬屋さん   作:gotsu

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ケイマの実

 カルロが出した白い粉を見て、リリルはおそるおそる聞いてみる。

 

「あの、何の粉ですか?」

 

 

「見てもわからんか、体感してもらったほうが早いな。」

 

 カルロはパチンと指を鳴らして黒服の男を呼びつける。

 

「地下室でコイツらにこの粉をたっぷり味合わせてやれ。」

「わかりやした。」

 

 呼びつけられた黒服はミアとリリルの肩をつかんで強引に連れていく。

 

「いや、放して!」

 

「ミアちゃんに乱暴しないで!」

「うるせえ、ここに来たことがお前らの運の尽きなんだよ!」

 

 二人は抵抗しようとするも、大人の男との力の差は歴然で、引きずられるように地下室に連れていかれた。

 

「おとなしくしろ!」

 

「きゃあ!」

「ミアちゃん!」

 

 地下室の牢屋のような場所に叩きこまれた二人、がちゃんという音とともに鉄格子の入り口が閉じられる。

 

「へへっ、ガキ二人なのは残念だが、どうなってるか楽しみだな。」

 

「まったくだ!」

 

 

「おい、巻き込まれちゃ敵わねえ、さっさと出るぞ!」

 

 男達は野卑た笑い声をあげながら地下室を出て行った。

 

 

 

「ミアちゃん、大丈夫?」

 

「いたた…、リリルちゃんこそ……大丈夫?」

 

 地下室に入れられた際に腰を打ってしまったのか、ミアは腰をさすりながら答える。その目には涙が浮かんでいる。

 

「ミアちゃん、ごめんなさい!!」

 

「いいの、私が好きでついてきちゃったんだから。」

 

 ミアは泣きそうな顔で謝るリリルを何とか元気付けようと、無理をして笑顔を作る。

 

「ミアちゃん……」

 

「そんな事より、どうやって逃げるか考えようよ!」

「うん!」

 

 リリルは部屋を見まわしてみる。地下室は狭く、出入り口は鍵で固く閉ざされていた。ガチャガチャと動かしてみるが、びくともしない。

 

「ミアちゃん、ダメだよ、鍵がかかってて開かないよ……」

 

「そうだね、閉じ込められちゃったね……」

 

 二人は部屋の隅で肩を寄せ合って座る。

 

「あの白い粉、なんだか分かる?」

 

「えっと、あんな悪い人が使うものだから、いくつか心当たりはあるんだけど……」

 

 

 

「おい、始めろ!」

 

 話し合っているところで男達が出て行った方から声が聞こえ、部屋の中に甘ったるい香りが漂ってくる。

 

「ミアちゃん……」

 

「リリルちゃん……」

 

 少女二人はぎゅっとお互いを抱きしめあう。

 

(えっと、白くて……燃やすと甘い香りがする薬……)

 

「わかった、ケイマの実だ!」

「ケイマの実?」

 

 リリルはにおいを嗅いで、該当しそうな薬を思いつく。

 

「うん、赤い実を削って樹液を集めて煮詰めると、白い結晶ができて、燃やすと甘い香りがするらしいの。火加減が難しいから、作るのがとっても難しいんだよ。」

「どんな効果があるの?」

 

「えっと、怪我をした時に痛み止めで水に溶かしたものを塗ったりするって……」

「へえ~、さすが薬屋さんだね。」

 

「えへへ……」

 

(他にも効果があったと思うんだけど、忘れちゃった。ミアちゃんには内緒にしておこうっと。)

 

 ミアに褒められて気をよくしたリリルは、他の効果を忘れているのを秘密にした。

 

 

 

「ねえ、リリルちゃん、何だか暑くない?」

 

「えっ、大丈夫だけど……」

 

 甘い香りが部屋を満たしてから、しばらくするとミアが異変を訴える。

 

 そういわれて、改めてミアの顔を見て見ると、顔が赤く、熱があるように惚けた目をしていた。

 

「ミアちゃん、お顔が赤いけど大丈夫?」

 

「うん…、でも、体があつくって……、この甘い匂いのせいかな……」

 

 ミアはもぞもぞと身じろぎをする。

 

「リリルちゃんはなんともないの?」

 

「えっと、大丈夫、いつも薬を作ってるせいかも……」

 

 

 

「そっか……、リリルちゃんが大丈夫でよかった……。」

 

 甘い香りに満たされてから、だんだんと苦しそうに息をし始めたミアを見ていられなくなったリリルは、立ち上がり、男たちが出ていった扉に向かって大声で叫んだ。

 

「あの!ミアちゃんが苦しそうです!助けてください!」

 

 扉の奥からは何の返事もない。再び出せる限りの大声で叫ぶ。

 

「お願いです、助けて下さい!!」

 

 何度か叫ぶが、外からの返事はなかった。

 

 

 

「リリルちゃん……、少し休もうよ。」

 

「ミアちゃん……」

 

 ぽろぽろと涙を流すリリルに声をかける。リリルは助けを呼ぶのをやめてミアのとなりに座り込んだ。

 

「リリルちゃん、もしここからずっとでられなかったら……。」

「なに言ってるのミアちゃん、きっと出られるよ!」

 

 

「ううん、それもいいかなって思ってるの……」

 

「えっ!?」

 

 予想外の言葉にミアの方を振り向く。

 

 ミアは焦点の合わない目でリリルを見つめている。

 

「ふぇ!?」

 

 ミアはリリルの細い肩を抱いて石畳の冷たい床へ押し倒した。

 

 リリルの銀色の長い美しい髪が床に広がる。

 

「えっ、えっ、ミアちゃん!?」

 

 

 とまどっているうちにミアの瞳が近づき、リリルの唇に柔らかいものが触れる。

 

「えへへ、リリルちゃんにキスしちゃった…」

 

 とろんと熱に浮かされたような目をして、恥ずかしそうにはにかむミア

 

(うう、ミアちゃんがおかしいよぉ、これもあの薬のせいなの?)

 

 ミアの目は焦点があっておらず、夢を見ているようだった。そんな様子がおかしくなったミアをどかそうとするが、力が足りなくて逃げられない。

 

 

「ねえ、リリルちゃんは私の事好き?」

 

 目線を合わせてリリルに問いかける。

 

「ええっ、ミアちゃん、こんな時になに言ってるの!?」

 

「そう……嫌いなんだ……」

 

「そんなことないよ、私もミアちゃんの事好きだよ!」

 

 急に悲しそうに顔を伏せたミアを見て、慌てて答える。

 

「じゃあ、両想いだね!」

 

「えっ、それは……うぷ…」

 

 再び、リリルの唇がミアに塞がれる。

 

 

 

「ぷはぁ、ミアちゃん、いつものミアちゃんに戻ってよぉ……」

 

 懇願するように言うリリルだが、ミアの耳には入っていないようだった。

 

(でも、こうなっちゃったのも私のせいだよね、ミアちゃんが楽になるなら……)

 

 リリルは正気を失ったミアの目を見て覚悟を決めた。そして、逃げようと力を込めるのをやめてミアの背中に手を回す。

 

 

「ミアちゃん、ミアちゃんがもとにもどってくれるなら……。」

 

 リリルはそうミアに言うと、きゅっと目をつぶった。

 

 めをつぶると、すぐにミアの体重が体にかかってくるのを感じた。

 

(これが終わったら、きっと元にもどってくれるよね…)

 

 そう信じてミアに身を任す。だが、リリルに覆いかぶさったっきり、ミアは動かなくなった。

 

 

「大丈夫!?助けにきたわよ!」

 

 ミアに覆いかぶさられたまま、おそるおそる目を開け、聞き慣れた声のする方を見てみると、見知った金髪の女の子がいた。片手には角材を持っている。

 

 

「えっ、メルちゃん!?」

 

「間一髪だったわね!」

 

 

 いつの間にか鍵を開けて、リリル達がとじこめられていた地下室に侵入していたメルセデスは、リリルの上で気絶しているミアをどける。

 

「ったく、何やってんのよ!」

 

 メルセデスはリリルの頭に拳骨を落とす。

 

「痛いよぉ、メルちゃん…」

 

「なに一人で行ってるの、あなたバカなの!?」

 

「うう、だって、あんなに怖い人がいるとは思わなかったんだもん……」

 

 拳骨を落とされた場所をさすりながら、涙目で訴える。

 

「あのねえ、借金取りって大半はあんな奴らなの!本で読まなかった?」

 

「ごめんなさい……。」

 

 しょんぼりと目線を床に落として謝る。

 

「はあ……もう、さっさと逃げるわよ!」

 

「待って!」

 

 

「ミアちゃん、メルちゃんが助けに来てくれたよ、起きて!」

 

 リリルは気絶したミアを揺すって起こそうとする。

 

 

「何よ、知り合い!?」

 

「友達だよぉ、一緒に捕まっちゃって……」

 

「なら早く言いなさいよ、襲われてると思って殴っちゃったじゃない!」

 

 

「無茶言わないでよぉ!」

 

「ったく、しょうがないわね……」

 

 メルセデスはミアを背中に背負うと、地下室の出口へ向かった。

 

「メルちゃん、どうしてここがわかったの?」

 

「地図の場所の近くを探してたら、あんたの叫ぶ声が聞こえたのよ。」

 

 エルフの耳は地獄耳なのである。

 

 

 

 暗い地下室を出ると、廊下で黒服の男達が伸びていた。

 

「ええっ、メルちゃん、やっつけちゃったの!?」

 

「そうよ、邪魔するから魔法でぶっ飛ばしてやったわ!」

 

 どうだと言わんばかりに胸を張るメルセデスに、リリルは驚きを隠せない。

 

 

「クソ、お前ら……覚えとけよ……」

 

 2人が脅されていた部屋を通りかかると、頭から血を流しながら倒れていたカルロが苦々しげに言う。

 

「あら、おとなしく寝てればいいのに。」

 

 メルセデスはそう言うと、片手をふるった。するとそれを合図にするように、部屋の中にあった椅子が浮き上がり、カルロ目掛けて飛んでいく。

 

「ぐあっ!」

 

「さあ、さっさと行くわよ!」

 

「うん!」

 

 

 

 飛んでいった椅子が見事に顔面に命中し、気絶したカルロを一瞥してから、二人はゲドー商会を後にした。

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