吸血鬼な薬屋さん   作:gotsu

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レシピ本の秘密

「これなんかどうかしら?」

 

 メルセデスは開いたページを指差す。

 

「うーん、こんなので本当に怖い人たちが来なくなるの?」

 

 メルセデスが開いたのは、催涙効果と風魔法をまぜた魔法薬だ。リリルはその効果に半信半疑である。

 

「あら、もっと過激なのがお好き?なら……」

 

 メルセデスは赤い本をちらつかせる。

 

「もう、メルちゃん、その本はしまってよ!」

 

 リリルは何かと物騒な方向に持っていこうとするメルセデスに抗議する。

 

「ねえ、リリルちゃん、この本、うっすらと文字が見えるんだけど、はっきり読めるの?」

 

「ええっ?読めるけど……」

 

 リリルは思いもよらない事を聞かれ、不思議そうに答える。

 

「ちょっと来なさい!」

 

 ミアが目を凝らして本を読む様子を見て、突然、メルセデスはミアを物置へ引っ張って行く。

 

 何が起こったのかさっぱりわからないミアは急に連れていかれ、おろおろするばかりだ。

 

「あなた、あの子に何かされなかった?」

 

「えっ、ええっ!?」

 

 突然の質問に驚く、心当たりがあるにはあるが、やられたと言うよりやってしまったのだ。

 

 

「……」

 

 

 ミアはもじもじと、恥ずかしそうに下を向く。それを見たメルセデスは、ミアが血を吸われないまでも、噛まれるくらいはあったのだと推理した。

 

「えっと、あの子に何か吸われてない?」

 

 

「………」

 

 

「はあ…」

 

 あいかわらず下を向いて頬を赤らめるミアを見て、その沈黙を肯定と受け取ったメルセデスは大きなため息をつく。

 

 強いて言うとリリルは吸ったのではなく吸われたのだが、それを言えるようなミアではなかった。

 

 

「おかしいと思ったのよ、あんな本が無造作に置いてる訳がないって。」

 

(あの子に血を吸われれば本が読めるようになって、噛まれるとうっすら見えるようになるって所かしらね。)

 

 無二の財産と言えるあの本が誰にでも読める事が腑に落ちなかったメルセデスの疑問は解決した。

 

「いい、あなたははっきりと本が読めてる事にしなさい。この事は秘密よ。」

 

 メルセデスは物置を出る前にミアに釘を刺す。うっすらとしか読めない本をはっきりと読めるように偽れと言うメルセデスに当惑する。

 

 この様子だと、メルセデスははっきりと読めているようだったので、むしろ、どうすれば読めるようになるのか気になってしまう。

 

(リリルちゃんにキスより凄い事をすれば本がはっきり読めるようになるの?じゃあ、このメルちゃんって子は……そう言えばさっきリリルちゃんも罰を気にしてたし……)

 

 ミアの妄想が膨らみ、知らないうちに変な風に誤解されるメルセデスであった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「うーん、催涙効果は少し効果が短いわね。他にいい物はない?」

 

「これなんか、どうかな……」

 

 リリルはとあるページを指さす。

 

「効果はひと月もあるし、誰も怪我をしないよ。」

 

「へえ、どれどれ……。」

 

「えっと……、この魔法薬なんだけど……。」

 

 ミアとメルセデスが本を覗き込む。

 

 

「あら、なかなかいいじゃない、効果が長続きして、解除のための魔法薬があるのがいいわね。」

 

「リリルちゃん、材料の調達は私も協力するね。」

 

 そんな風に話がまとまった所で朝を告げる1の鐘が鳴る。

 

「わっ、ミアちゃん、もう朝だよ、お家に帰った方がいいよ。」

 

「そうね、お父さんやお母さんが心配してるかもしれないわね。」

 

 ミアは二人に言われてからようやく朝になっている事に気づいた。色々ありすぎて、時間の感覚を失っていたのだ。

 

「うん、あんな事の後だし、私も送っていくよ。」

 

「しょうがないわね、道中の安全のために私も行く事にするわ。」

 

「ありがとう、メルちゃん、心強いよぉ。」

 

「違うわよ、おバカに任せられないだけよ。」

 

 リリルに期待を込めた目で見られたメルセデスは照れ隠しに素っ気なくふるまう。

 

「ああっ、メルちゃん、もうおバカって呼ぶのはなしだよぉ!」

 

 リリルは抗議するが、メルセデスに効果はなさそうだ。今回の件でしばらくはおバカと呼ばれそうだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ボス、申し訳ありませんでした!」

 

 でっぷりとした黒服の男が葉巻を加えながらカルロの報告を聞く。

 

「ガキを逃がしたのはいい、薬屋のガキを取り込めなかったのもまあ許す、些細な問題だ、だが……」

 

 ボスと呼ばれる男、ゲドーは手に持った葉巻を灰皿に押し付ける。

 

「ガキにいいようにされて、その上、金貸しの命よりも大事な証文を取られるとは何事だ!!」

 

 大声でカルロを怒鳴る。

 

 

「申し訳ありません!」

 

 

「で、どうするつもりだ?」

 

「はい、必ず金を回収します!」

 

 

「違うわバカ者!」

 

 カルロに向かって灰皿が投げられる。

 

「今日のうちにもう4件、この紙が何かわかるか?」

 

「それは、我々に上納金を収めるという契約書です。」

 

「ガキどもにやられて頭でも打ったか!これはもう上納金を収めないという知らせだ!お前のせいでウチの商会の面目は丸つぶれだ!」

 

 ゲドーは癇癪を起した子供のようにばんばんと机を叩く。

 

 組員が子供にいいようにされたという噂は、徐々に西町に広がり始めていた。その結果、傘下を抜けると言い出す店が現れてきたのだ。

 

「はあ、はあ、残念だが、この噂はもう止める事はできん。それにガキ共を今から煮ても焼いてもいいようにされた事実は変わらん、だが……」

 

 ゲドーは怒りのあまり顔をまっ赤にして息を切らせながらカルロを睨みつける。

 

「俺の腹の虫を収めるためにここにガキを連れてこい!我が商会を舐めたらどうなるか俺様が直接わからせてやる!」

 

「承知しました!」

 

 

 叩きだされるようにして、カルロは部屋を出る。

 

「くそ、なんて事だ!」

 

 今までこのゲドー商会で順調に地位を築いてきたカルロはゲドーの癇癪を受けて毒気づく。ここで下手な手を打てばゲドー商会の商会長の夢など消えてなくなってしまう。

 

「おい、お前ら集まれ!」

 

 カルロは別室で集まっていた部下に声をかけた。

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