吸血鬼な薬屋さん   作:gotsu

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薬の準備と男たち

「必要な材料は揃ったの?」

 

 メルセデスはミアが持ってきた山盛りの材料が入った籠を見て言った。

 

「うん、これだけあれば何とかなると思う、最初は失敗するといけないから少しの量から始めるね。」

 

 リリルは籠の材料の一つ、真っ黒な小指の先ほどの黒い木の実を一つまみする。

 

「まず、この木の実をすり潰して乾燥させる、と……。」

 

 一つまみした小さな黒い木の実を石臼に入れて粉々にしていく。この黒い木の実は今回の薬の主成分となるものだ。

 

「ねえ、リリルちゃん、何か手伝える事ない?」

 

「ミアちゃん、じゃあ、この瓶に切れ目を入れて。」

 

「わかった。」

 

 ミアはリリルに言われ、本に書いてあるとおりに魔法薬を入れる瓶にやすりで切れ込みを入れていく。魔法薬の瓶は割れやすくするために、他の薬瓶よりも薄くできている。それに切れ込みを入れる事で、さらに割れやすくできるようになっていた。

 

「で、あのジルって奴はどこに行ったのよ。」

 

「ジルなら今日の依頼をもらって町の外に行ったよ。」

 

「ふうん、そりゃ好都合ね。」

 

 メルセデスは不敵に笑う、よからぬ事を考えているようだった。

 

「ねえ、リリルちゃん、ジルってだあれ?」

 

「えっとね、昨日から一緒に住む事になった材木屋さんの男の子だよ。」

 

 いつもよりほんの少し低いトーンで話しかけるミアを気にする事なく、リリルは答える。

 

「へえ、そうなんだ……」

 

 ミアは手を休めず、同じように低いトーンで返事をする。その様子を横目で見てメルセデスはさらに、何かを企んでいる悪い顔をする。

 

「メルちゃんも、この魔石の粉に魔力を込めてよ。」

 

「はいはい、任せてちょうだい。」

 

 メルセデスは粉砕された魔石に手をかざして魔力を込めていく。

 

「3人もいればすぐに完成しそうだね!」

 

 リリルは木の実をすり潰しながら嬉しそうに言った。

 

「そりゃあそうよ、なんたってエルフな私がいるんだもの!」

 

 メルセデスがどうだと言わんばかりに手際よく魔力が込められて緑色に輝き始めた魔石の粉を見せつける。

 

「リリルちゃん、どれくらい作ればいいの?」

 

 ミアは真剣な目つきで、魔法薬を入れる瓶に切れ目を入れていく。

 

「えっと……」

 

「たくさんよ、たくさん、あの商会の建物いっぱいに食らわせられるくらいよ!」

 

「うん、ミアちゃん、たくさん作って!」

 

「わかった!」

 

 それから3人は魔法薬を作る作業に勤しんだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「今日は、まあこんなもんだろ…」

 

 ミーナに邪険に扱われるようになったのは納得いかないが、依頼を終えて手に入れた銅貨を懐に入れて居候先へ急ぐ。

 

「おーい、リリル、帰ったぞ。」

 

 建付けの悪い入口の扉を開けて店に入るとリリルが心配そうな顔をして立っていた。

 

「ジル、おかえりなさい!」

 

「ああ、依頼は終わったから、コレ、頼むよ。」

 

 ジルは懐から今日稼いだ銅貨を取り出しリリルに渡す。

 

「ありがとう、えっと、それから……お願いが……あるんだけど……」

 

「なんだよ、居候なんだから何でもするって言ったろ。」

 

 困った顔で上目遣いにお願い事をするリリルに乗せられ、うかつな事を口走るジル

 

「あら、なんでもしてくれるって!」

 

 そのやりとりを聞いたメルセデスが、続いてミアが後ろから出てくる。

 

「ええ、メルちゃん、本当にやるの!?」

 

「当然でしょ、もし使って失敗したら今度はどうなるかわからないわよ!」

 

「リリルちゃん、ここはやるべきだよ!」

 

 ミアが両手をぐっと握ってリリルに訴えかける。

 

「なんだよ、何をすればいいんだよ!?」

 

「えっと、と、とりあえず物置に入ってよ!」

 

 リリルの後ろにいる2人から発せられる不穏な空気を察知してジルは一歩後ろへ下がろうとしたが、ミアに手を掴まれる。

 

「なんだよ、何をする気だよ!」

 

「えっと、この魔法薬の実験台になって欲しいの!」

 

「はあっ!?」

 

 リリルは懐から黒色の禍々しい液体の入った瓶を取り出す。

 

「ちょっとまて、何の薬だよ!」

 

「それはくらってのお楽しみよ、ミア!」

 

「うん!」

 

「うわぁ、何するんだ!」

 

 メルセデスとミアは素早くジルを拘束し、物置に押し込む。

 

「メルちゃん、ミアちゃん、やっぱりやめようよ……」

 

「何言ってんの、本番でもし奴らに効かなかったら今度こそひどい目にあうわよ。それにそいつ、何でもするって言ってたじゃない。」

 

「ううん、けど……」

 

「ああ、もう、まどろっこしいわね!」

 

 メルセデスは、ジルを実験台にする事をためらっているリリルから、魔法薬をひったくって素早く物置に放り込んだ。

 

「ミア、扉!」

 

「うん!」

 

 ぱりんという音にあわせてメルセデスはミアに声をかけると、ミアは物置の扉を閉めて閂をかけた。

 

「うわ、おい!何するんだ、開けろ!」

 

「ジル、ごめんなさい!」

 

「さて、ちょうど4の鐘が鳴ったし、ご飯の用意でもしようかしら。ご飯ができたら扉を開けて効果を確認しましょう。」

 

 メルセデスは悪戯そうに言うと、さっさと台所に消えていった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 夕食の準備が終わったころ、ようやく物置の扉が解放され、満身創痍で額から大粒の汗を流すジルに解除のための魔法薬を使う。

 

「しっ、死ぬかと思った……」

 

 息をきらしながらジルが言う。

 

「よかったわ、魔法薬は成功みたいね。」

 

「リリルちゃん、もっと効果を確認しなくても大丈夫?」

 

 にしし、とわらいながらジルの様子を見に来たメルセデスに、もう一瓶毒々しい色の魔法薬を持ってくるミア。

 

「畜生、お前ら、覚えとけよ!」

 

「ジル、本当に、ごめんなさい。」

 

「あ、あぁ……」

 

 すまなさそうな顔で上目遣いに見つめるリリルを見て怒りを引っ込める。思春期の男は単純なのだ。

 

「でも、どうやってゲドー商会の建物の中に魔法薬を撒くの?」

 

「大丈夫よ、そのうちあっちから動きがあると思うわ。あんたはご飯食べたらできるかぎり魔法薬を作っていなさい。」

 

 メルセデスは今後の展開がわかっているといわんばかりに皆を夕食が置かれたテーブルに促す。

 そこには、いつもの固い黒パンと、どこからか引っ張り出してきたのか、古びたテーブルに不釣り合いな銀色の丸い蓋をもったいぶってかぶせてあった。

 

「さて、あとは戦いに備えて、しっかり食べる!」

 

 そう言うと銀色の蓋を取った。すると部屋には香ばしい匂いが広がった。

 

「うわあ、美味しそう!」

 

「兎肉を赤マンドラゴラと野菜で煮たシチューよ、ちょっと辛いけど元気が出るわ。」

 

「へえ、料理も出来るんだな。」

 

「あら、私をなんだと思ってるのかしら?」

 

 ジルの不用意な言葉にぴくりと眉を動かすメルセデス

 

「わ、悪かったよ、いただきます。」

 

 じろりと睨まれたジルはおとなしくなる。

 

「リリルちゃん、この男といっしょに暮らして大丈夫なの?」

 

「ふぇ、何が?」

 

 ミアは大皿から人数分の小皿にシチューをよそおいながら不安そうに聞く。一方でリリルは何を心配されているのかわからない様子だった。

 

「このバカにそんなこと聞いても無駄よ。」

 

「ああっ、メルちゃん、またバカって言った!」

 

「はいはい、みんなさっさと食べる。」

 

 ぷんぷん怒るリリルを置いて、メルセデスはミアによそってもらったものに手をつける。もはやどっちが家の主人かわからなかった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「美味しかった。メルちゃんってやっぱり料理上手だね!」

 

 さっきの出来事を忘れたように、にこにこしながら言う。

 

「それに、マンドラゴラって食べられるんだね。」

 

 ミアが本当に関心した顔で言う。

 

「叫ばれると美味しくなくなるけど、処理の仕方を覚えれば簡単よ。」

 

「メルちゃんのおかげで、マンドラゴラが家で採れるようになったんだよ。」

 

「「ええっ!?」」

 

 二人が驚くのは当然であった。マンドラゴラは叫ばれると厄介な魔法植物で、そのせいで街中で売っている店はなかった。それに食べられるという話も二人には初耳だった。

 

「人族ではあまり知られてないみたいだけど、エルフでは常識よ。魔力がないと処理できないけどね。」

「なんだぁ……」

 

「あの、今度処理の仕方を教えて下さい!」

 

 魔力がないと処理できないという話を聞いて肩を落とすジル、一方でミアは商人の娘らしく、目を輝かせる。

 

「いいわよ、今日は必要なマンドラゴラを処理し終わってるから、また今度教えてあげるわ。」

「本当ですか、メルセデスさん、ありがとうございます!」

 

 ぺこりと頭を下げるミア

 

「見なさいリリル、これが普通の人族の対応よ。」

 

 メルセデスは頭を下げるミアを見て、得意そうに胸を張って言う。

 

「ええっ、でもメルちゃんはメルちゃんでいいっていったじゃない。」

「行き倒れてた奴にそんな威厳があるもんか。」

 

「ぐっ……。」

 

 ジルの辛辣な言葉に口を噤む。

 

「あんたたちはもう少し私の偉大さを知りなさいよ!」

 

「メルちゃんが凄いのは知ってるよぉ。」

 

「はぁ……」

 

 ほわほわした顔で答えるリリルに毒気を抜かれたメルセデスはため息をついて元いた椅子に座った。

 

 

 

 

 それから、食事を終えてしばらく取り止めのない話しをしていると、5の鐘が鳴った。

 

「あら、もうすぐ日が暮れるわね、ミアは帰ったほうがいいわね。」

「はい、また来ます。リリルちゃん、また明日ね!」

 

 ミアは席を立って、持ってきた籠を手に帰ろうと扉を開けた。それから、すぐに顔を青くして扉を閉めた。

 

 

「リリルちゃん、大変、黒い服の人が通りを歩いてこっちに来てたよ!」

 

「ええっ、メルちゃん、どうしよう!?」

 

「あら、思ったより早かったわね、ミアとアンタは物置に隠れてなさい!」

 

「うぇ!?何の話だよ!」

 

 ミアはこくりと頷き、一方で事情を知らされていないジルは戸惑っていたところ、ミアに引っ張られて物置に入っていった。

 

 残った2人は男達が近づいてきているであろう入口のドアを、息を潜めてじっと見つめた。




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