店内で息を殺して待っていると、入口のドアが乱暴に叩かれた。
「おい、ガキ共、出てこい!」
続いて乱暴な男のだみ声が響く。
「メルちゃん…」
「大丈夫よ。」
メルセデスは臆する事なく扉を開け放つ。
「おいっ……ちっ!」
中からメルセデスが出てきた事から、男は舌打ちをする。つい先日魔法でぼこぼこにされたからだ。
「あら、またぶっ飛ばされに来たのかしら?」
男のしかめ面を見て、メルセデスは小馬鹿にしたようにいう。
「コイツ!」
「おい、やめろ。」
メルセデスの舐め切った態度に腹をたてるも、もう一人の男が低い声で静止する。
「アニキ!?」
「今日は話し合いに来たんだ、店長を、出してもらおうか。」
「へえ、話し合いね、あんまり余地はなさそうだけど、まあいいわ。リリル、悪人共がご指名よ。」
「ええっ!?」
頼りのメルセデスが何とかしてくれると安心していたリリルは、豆鉄砲を食らったような顔をする。
リリルは恐る恐る悪人が待ち受ける店の入り口に近づいていく。
「あの、あの、……いらっしゃいませ?」
そして、黒服の男たちを前にして、消え入りそうな声でいった。
「……いたっ!」
頭にメルセデスの拳骨が落ちる。
「おバカ、こいつらは客じゃないのよ、お前らに用はねえ、さっさと帰りな、くらい言いなさい!」
「えっと…お前らに……用はねえ?…さっさと……」
涙目になり、拳骨を落とされた頭をさすりながら、言われた言葉を言おうとするが……。
「このガキ共、いつまで茶番をやってやがるんだ!」
二人のやりとりに痺れを切らせた男の一人が怒鳴る。
「あら、押しかけておいてひどい言われようね。またぶっ飛ばされたいのかしら?」
メルセデスは両手をワキワキさせて男たちを脅す。
「くっ…」
魔法でぶっ飛ばされたのが、よほど効いたのか、男は言葉を飲み込む。
「待て、今日は話し合いに来たと言っただろう。」
「へえ、借金はなくなったし、何について話し合うつもりかしら?
「借金の話じゃあない、メンツの話しだ。メンツを潰された俺たちは、とりあえず見せしめに、この店を潰す事にした。だが、魔法使いの従業員にまともにやりあっては敵わない。だから、じっくり締め上げる事にしたのさ。」
「穏やかじゃないわね、そんな事を許すと思ってるの?」
メルセデスは油断せずに男たちに向き合う。
「なに、やり方は沢山あるさ、俺たちが店の前でたむろしてりゃ客は来ない、お前らが出かけてる時に店をぶっ壊してもいい、材料を調達する店を脅して売らないようにさせてもいい。」
カルロは低い声で言葉を続ける。
「だが、そんな事をするのは人手もいるし時間もかかって面倒だ。だからウチの商会長と今回の事の手打ちについて話し合ってもらおうと思ってな。」
「へえ、地下室に放り込んで薬を使うような輩の親分なんて、きっとろくな事を考えてないんでしょうね。」
「何だと!」
「やめろ。」
自分たちのボスに触れられ襲い掛かろうとする下っ端をなだめるカルロ
「こんなバラックみたいな店、柱を2、3本へし折ればぶっ壊れる、俺たちには簡単な仕事さ。3日間猶予をやる、おとなしく商会長と会うか、店を潰されるのか選ぶんだな。」
カルロは先日借金を取り立てに来た時のようにそう吐き捨てて踵を返した。
「次来る時が楽しみだな、こんな店、すぐにぶっ潰してやるぜ!」
「お前ら、覚悟しておくんだな!」
取り巻きの男達二人も捨て台詞を吐いて遠ざかって行った。
「ふん、覚悟するのはあなたたちの方よ!」
メルセデスはふんと鼻を鳴らして男達を見送る。
「はぁ……」
リリルは男たちが去って見えなくなると、ぺたんと床に座り込んだ。
「め、メルちゃん、腰が抜けちゃった……」
「ったく、だらしないわね、魔法薬が十分な量完成したら奴らのところに殴り込みに行くのよ、そんなので大丈夫なの?」
「ええっ!?」
「まあ、向こうのボスがわざわざ招待してくれてるんだから、殴り込みじゃないわね。」
「む、無理だよう、そんな事、メルちゃん、怖いよぉ……」
リリルはメルセデスに涙目で訴える。この間は行ってひどい目にあったのだから当然だろう。
「大丈夫よ、私も一緒に行ってあげるから。」
「でも……」
「リリルちゃん、大丈夫だった!?」
いつの間にか物置から出てきたミアが腰が抜けて座り込んでしまったリリルに心配そうに言う。
「何だよ、何があったんだよ。」
突然物置に入れられたジルは状況が分からず困惑気味である。
「ふっふっふ、めでたくゲドー商会の商会長にお呼ばれされちゃったわ!」
メルセデスは腕を組んで得意そうに言った。
「「ええぇ~!!」」
メルセデスが魔法で追い払ったとばかり思っていたミアも含めて、2人は目をむいて驚く。
「ゲドー商会ってあのゲドー商会の事か、あの西町を牛耳っている?」
「まあ、そうでしょうね。」
「何やったんだよ……」
事情を知らないジルはあんぐりと口を開けている。
「そんなことはいいの、どうせアンタにも協力してもらうんだから!」
「うぇ!?」
メルセデスに言われてジルは目をむく。
「当然でしょ、失敗したら私達3人の住む家がなくなっちゃうのよ。」
「はあ!?」
「行かないと怖い人たちが……お家を壊しに来るんだって……ぐすっ……」
リリルは鼻をすすりながら言う。実家を追い出されてしまったジルは、またしても家なき子になるのかと頭を抱える。
「ったく、しょうがねえな、もう乗りかかった船だ、訳わかんないけど協力するよ!」
ジルはしばらく頭を抱え、逃げられない事を悟って、やれやれといった様子で協力することにした。もうやけくそである。
「じゃあ、今から急いで例の魔法薬を完成させるわよ、ほら、しっかりしなさい!」
メルセデスはリリルの手をとって立ち上がらせる。
「メルちゃん、ほんとにいっしょに来てくれるの?」
「当たり前でしょ、あんた一人に行かせたんじゃ、私が煽っただけみたいで無責任じゃない、こんな事になった責任が少しはあるんだから、最後まで付き合うわよ!」
不安そうに目に涙をためているリリルの頭をぐりぐりと撫でる。
「うん……。」
「あれだけ効果のある魔法薬があれば大丈夫だよ、リリルちゃん、やろうよ!」
ミアもぐっと両手を握って不安そうなリリルに言う。
そんな2人を見て、リリルはぐしぐしと袖で零れそうな涙を拭く。
「わかった、頑張る!」
そうして、リリルはついに悪い大人に立ち向かう決心をしたのだった。