吸血鬼な薬屋さん   作:gotsu

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薬の調合と悪人の企み

「よいしょ、よいしょ」

 

 リリルは声を出して気合を入れながら鍋をかき混ぜる。ゲドー商会の男達が去ったあと、大急ぎで魔法薬の調合を始めたのだ。

 

「メルちゃん、もう少ししたらその黒い木の実の粉を入れるから、準備お願いね!」

「わかったわ!」

 

 メルセデスは大量の木の実をすり潰して得た黒い粉を、ぐつぐつと煮立ち始めた大鍋の方に持っていく。

 

「いち、に、さん、えい!」

 

 リリルはいったん混ぜ棒を置いてメルセデスと協力して大皿から黒い粉を鍋にだぼだぼと入れていく。

 

「よっし、あとはマンドラゴラだね!」

 

 調合鍋の混ぜ加減と培った勘で、何となく上手くいっている感触を感じたリリルは一安心する。

 

「マンドラゴラはすりおろしてここに置いてあるから、あとは一人で出来るわね?」

 

「うん、大丈夫だよ!」

 

 リリルは元気に返事をする。調合室で何かを作っている時が一番いきいきしているかもしれない。

 

「メルセデスさん、この大っきな魔法薬の瓶も使っちゃうんですか?」

 

 ミアは両手に顔ほどの大きさの瓶を持ってくる。

 

「それは煙突から投げ落とすから、しっかり切れ目を入れておいて、確かあの商会には煙突が二本はあったから二個ね。」

「わかりました!」

 

 ミアは瓶を机の上に置き、やすりで切れ目を入れていく。ミアのメルセデスの呼び名はメルセデスさんで落ち着いたようだ。年齢はわからないが、何となく大人っぽいからそう呼ぶ事にしたのだ。

 

「よっし、マンドラゴラを入れて……」

 

 リリルはタイミングを見計らって傍に置いてあった赤マンドラゴラのすりおろしを入れた。すると、鍋は突然、ゴトゴトと泡を吹き始める。

 

「わわっ、危ない!」

 

 慌てて火力を弱めて何とか泡が吹きこぼれるのを防ぎ、注意深く調合釜の様子を見守る。

 

「ふわぁ、危なかったぁ……」

 

 泡がおさまり、まっ黒に染まった調合釜を見て胸を撫でおろす。

 

「あとは明日になれば完成かなぁ……」

 

 リリルは祈るような気持ちで釜の蓋を閉めた。この魔法薬が完成しなければ、すべてがとん挫してしまうのである、責任重大であった。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「おい、カルロ、本当にガキ共を連れてこられるんだろうな!」

 

 ゲドー商会の商会長であるゲドーは癇癪を起したようにカルロを怒鳴りつける。

 

「はい、奴らは必ず数日中には顔を出します。来なかったとしても脅しつづければいずれは顔を見せるでしょう。」

 

「分かっていると思うが、失敗は許されんぞ!」

 

 ゲドーは顔を真赤にし、怒りの形相で机の上の紙を見る。そこには傘下をやめる西町の店のサインがまたいくつか書かれていた。

 

「はい、わかっています。」

 

「あのエルフのガキは魔法が使えるそうじゃないか、これで吠えずらをかかせてやる。」

 

 ゲドーは手元に置いた銀色の魔道具を撫でる。。

 

「ええ、この部屋に入れ込んでしまえば、たとえ相手が魔法が使えようが、どうとでもなります。」

 

「ところで、奴らを消す手筈は出来ているのか!」

 

「はい、例の男と連絡を取りました。エルフと魔力を持った女児なら高額で買い取ってくれるそうです。」

 

「ふふん、そうか、奴らにはゲドー商会を舐めた罰として奴隷生活を味わってもらおう。」

 

 ゲドーは一転上機嫌になり、葉巻を吹かし始める。

 

「なあに、失踪が分かったとしても罰金が嫌で夜逃げしたと思われるだけさ。平民が2人消えたくらい何の問題にもならんさ。」

 

「おっしゃるとおりで。」

 

 カルロはゲドーの言葉に相槌を打つ。

 

「昔はよかった、西町の我々が町を好き勝手できたんだからな。」

 

(ちっ、また昔話を始めやがった。)

 

 カルロは内心毒気づく、当然顔には出さないが…。

 

「それがどうだ、今の領主に変わってから、すっかり商売あがったりだ。」

 

 葉巻をぐしゃりと灰皿に押し付ける。

 

「ふたたび我々の住みやすい町を作るために、お前にはあの薬の量産を頼んだのだ。」

 

 ゲドーは豪奢な椅子から立ち上がり、窓の外を眺める。

 

「なあに、心配いらん。お高く留まっている、お貴族様に掴ませてしまえば何でも合法になる。あの薬にはそれだけの力がある。」

 

「おっしゃるとおりで。」

 カルロは同じように相槌を打つ。

 

 ケイマの実から精製された薬は、数回程度なら大丈夫だが、使う回数が増えるごとに薬がなければ我慢ができなくなってくる。その性質を利用して、客から金をむしり取るのだ。 

 一方で、ケイマの実は精製が難しく、現在は西町のほんの一部で高価な娯楽程度の量しか取引されておらず、大した収益になっていなかった。量産できそうな薬師を買収しようとしたものの、薬師は数が少なく、その上薬師ギルドの監視が厳しかったため買収できなかった。

 年端もいかないリリルに脅しつけて作らせようとしたのも、そういった事情があったからだ。

 

「いいか、あのガキ共を片付けたら、エルフの話を持ち込んだ商業ギルドを脅しつけて毟れるだけ毟れ、なあに、奴らも後ろ暗いところがあるんだ、エルフが消えてもそれほど騒ぐまい。」

 

 ゲドーはでっぷりと出た腹をさすりながら、未来の町の姿を想像する。昔のように悪意がはびこる町の姿だ。

 

「おい、ガキどもはいくらで売れる予定なんだ!」

「ははっ、この金額です!」

 

 カルロは素早く懐から紙を取り出しゲドーに手渡す。

 

「くくく、これだけあれば今回の損失のお釣りどころではないな。」

 

 紙に書かれた金額を見たゲドーは、にやりと気持ち悪い笑みを浮かべ、再びどっかりと重そうな尻を豪奢な椅子に収めた。

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