「さっさと全員を治せ!」
カルロは眉間に皺をよせ、大きな声で叫ぶ。
「あら、それはできないわ、この子のお店に詫びを入れにくれば全員分の薬を渡す予定だったもの。今は治せても残り1人って所かしら?」
「ほう、じゃあさっさと店まで取りに帰ってもらおうか。」
「いやよ、どうせ治したらまた襲わせる気でしょう?」
「……わかった、じゃあ取引をしよう、こいつらを治せばお前らには手を出さんと誓おう!」
「ふん、あんたみたいなクズの言うことなんて信じないわよ!」
「ほう、言ってくれるねえ……」
「ひぃ!」
カルロは持っているナイフをジルの首につきつける。ジルの顔は恐怖で真っ青だ。
「メルちゃん、ジルが死んじゃうよぉ……」
「大丈夫よ、そんなに簡単に死ぬもんですか。」
今にも泣きそうなリリルをなだめながら、メルセデスは打開策を考える。
(でも、困ったわね、このデブが人質にならないならジルをやってすぐに襲い掛かってくるかもしれないし、リリルにあのデブを刺せるとも思えないし、アイツが冷静になったら厄介だわ。)
メルセデスは現状を分析して、思った以上に不利な立場にいることに気づく。
(いっそあのジルってのを見捨てて……)
「そこまでだ!!」
メルセデスが物騒な事を考え始めたところで、幼さを残した、それでいて精悍な声が部屋に響いた。
「ちっ、まだ仲間がいやがったか!」
「動くな!振り向くと命はないと思え!」
声のする方へ振り向こうとしたカルロを鋭い声で制止し、後ろからすっと首筋に細身の剣の刃が当てられる。
「くっ……」
「命が惜しければ武器を捨てろ!」
「くそっ!」
カルロは悔しげに持っていたナイフを床に捨てる。
「いい判断だ、…ふん!!」
そう言うと、声の主は、突き付けていた剣を振りかぶり、首筋に打ち込んだ。
「ぎゃっ!」
カルロは短い悲鳴をあげその場に倒れこんだ。その様子を皆は何が起こったか分からないといった様子で唖然として見つめる。
「あっ、アラン様!?」
倒れたカルロの後ろから、見知った顔が現れ、驚きのあまり声を上げる。
「お前らがバカな事を考えてると聞いて来てみたが……。」
アランは部屋を見回し、くしゃみとしゃっくりで呼吸困難になり動けなくなった男達を一瞥する。
「あっ、アラン様!お助け下さい!このガキ共が私たちの商会に押し入って下らん悪戯をしやがったんです!」
乱入者の顔を見て、すぐに領主の息子だとわかったゲドーは助けを求めるが……。
「ふん、いいざまだな、この商会は前から気に入らなかったんだ。」
「そんな、私の商会は何も悪いことはしておりません。」
「それはこれからわかる事だ……。」
アランは弁明するゲドーから視線を外し、床に転がっている銀色のものを見つけた。
「ほう、お前、面白い物を持っているな。」
アランは床に転がっていたそれ、ゲドーが最初に取り出した銀色の道具を拾い上げる。
「これをどこで手に入れた?」
「そっ、それは……。」
「これは魔法封じの道具の一つだが、どうしてお前が持っているんだ? それと、これを無許可で持つ事の意味を分かっているんだろうな?」
「……。」
「ふん、この様子だと叩けばまだまだ埃が出てきそうだな。」
答えに窮したゲドーは顔を真っ青にして額から脂汗を流し始める。その様子を見て商会の問題は一気に解決したと悟ったメルセデスはとっとと退散しようとする。
「はいはい、じゃあ後はアラン様に任せて私たちは帰るわよ。」
「ちょっと待て、このゲドーの件のほかにも、お前らに聞きたい事がある。」
アランはしゃっくりで苦しんでいる男達を一瞥すると、説明しろと目で訴えかける。
「そうね、ここにいるとうるさいから、下の部屋で話しましょう。」
「……わかった。」
アランは室内の雑音、主に男たちの出す不快な音に眉をひそめ、メルセデスに従うことにした。むろん、ゲドーを動けないように拘束した後での話しだが。
◆ ◆ ◆ ◆
「こいつ邪魔ね!!」
三人がかりで手と足を縛りつけ、ゲドーを動けなくした後、メルセデスは入り口近くで伸びているカルロをついでといわんばかりに蹴飛ばす。
「メルちゃん、そこまでしなくても……」
「いいのよ、人質をとるような悪人なんだから、それよりとっとと話しをつけて、家に帰るわよ!」
(くっ……、ふざけやがって……)
メルセデスに蹴飛ばされて目を覚ましたカルロは朦朧とした意識の中、懐の中に忍ばせてあったもう一本のナイフに手を伸ばした。
「悪人どもはくしゃみとしゃっくりに苦しんでおけばいいのよ。」
ふんと鼻を鳴らしてさっさと部屋を出ていこうとする憎い後ろ姿を視界の隅に捉えたカルロは覚束ない足を気合で何とかしてメルセデスに一矢報いようと襲い掛かった。
「メルちゃん、あぶない!!」
「えっ!?」
カルロの行動にいち早く気がついたリリルは、ぼうぜんと立ち尽くすメルセデスの前に体を滑り込ませる。
「うっ…」
「こいつ!!」
気配を感じて走り出していたアランがカルロの後頭部を剣で打つと、カルロは再び短い悲鳴を上げて、その場に倒れこんだ。
「リリル、大丈夫!?」
「えへへ……メルちゃん……刺されちゃった……」
リリルはメルセデスの顔と、自分の胸から生えたナイフを交互に見て、どさりと倒れこんだ。
「えっ、えっ!?」
「おい!」
「ちょっと……何やってんのよ……」
メルセデスは倒れこんだリリルを抱き起こす、胸には深々とナイフが刺さっている。
「ごほっ、ごほっ……」
リリルが咳き込むと、口から赤い飛沫が飛び散る。
「リリル!」
「おい、大丈夫か!?」
「はっ、よくやった、ウチの商会を舐めるからこういう目に合うのだ!」
一部始終を見ていたゲドーは一矢報いてやったといわんばかりに高笑いをした。