吸血鬼な薬屋さん   作:gotsu

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目覚めとお仕置き

「アイツ、何やろうとしてんだよ……。」

 

 ナイフを持って部屋に入ったメルセデスを不審に思ったジルは、部屋の中を覗いてみることにした。

 友達の女の子が寝ている部屋を覗くのに抵抗はあったが、あの高慢ちきなエルフがナイフを持って入っていったのだから、何をしようとしているのか、気になるのは当然だ。

 そんな風に心の中で言い訳をしながら、立て付けの悪いドアをほんの少し開けて光の漏れる隙間から中を覗いて見る。

 魔石ランプの調子が悪いのか、薄暗くなっている室内を見て見ると、鈍い光を放つナイフを振り上げているメルセデスが見えた。

 

「おい!!」

 

 慌てて部屋に飛び込んだジルはメルセデスに飛び掛った。

 

「きゃっ!」

 

 不意打ちを食らったメルセデスは驚いて手に持っていたナイフを取り落としてしまった。

 

「ちょっと!あんた何すんのよ!!」

 

「お前こそ、何やってんだよ!!」

 

「うるさいわね、邪魔しないで!!」

 

 後ろから襲い掛かる形となったジルは後ろからメルセデスを羽交い絞めにして、何とかリリルのベッドから引き離そうとするが……。

 

「放しなさい!!」

 

 そんな言葉とともにジルの鼻面に頭突きが飛んでくる。せいぜい兄弟喧嘩くらいしかしたことがないジルは、その頭突きをしこたま食らってその場に蹲った。

 

「うう……。」

 

「ったく、とんだ邪魔が入ったわね……。」

 

 鼻面を押さえて蹲ったジルをみおろして、メルセデスは取り落としたナイフを拾い上げようとするが……。

 

「ちょっと、邪魔しないでよ!!」

 

 ジルは鼻血を出しながらも、手を伸ばし、メルセデスがナイフを拾い上げるのを邪魔する。

 

「もう!!」

 

 先にナイフを手にしたジルの腕を掴んで何とか奪い返そうとするが……。

 

「なんで邪魔するのよ!」

 

 血を飲ませようとしているメルセデスと、リリルを刺そうとしているメルセデスを止めようとしたジルとは認識に大きな差があった。だからこんな事になっているのだが、その誤解は、メルセデスがナイフを取り戻し、自らの腕を傷つけようとするところまで続いた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

「いいから……」

 

「俺の……!」

 

「うるさい……」

 

「まて……」

 

 聞き覚えのある声が聞こえる。

 

(大変、ケンカしてるみたい、止めないと!)

 

 よく知っている人が言い争っている様子を夢見心地で聞きながら、目を開けようとする。

 

「あたしに、……」

 

「お前はさっき……」

 

「いいから、血を……」

 

「だったら俺の血を……!」

 

(血?血が出てるの?)

 

「野郎の血なんて……!」

 

「なんだよ、やってみないと……」

 

「うるさい、……!」

 

 言い争いの声に釣られて、重い瞼をなんとか開けようとする。

 

(けがしてるなら、治してあげないと……。)

 

 誰かが怪我してるなら、起きて薬を、と思ったものの体は動かないし、瞼は重くて動かない。

 

(なら、声を出せば……)

 

 リリルはぐっとお腹に力を込めて何とか声を出せないかやってみる事にした。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「メルちゃん……ジル……けんかはだめ……。」

 

 消え入りそうなかすかな声を聞いたメルセデスは、慌ててジルを振り払い、振り返った。

 声のした方を見ると、目をつむったまま、リリルが何かを喋ろうとしているのに気がつく。

 

「ちょっと、気がついたの!?」

 

 リリルの両肩をゆすってみると、ほんの少し目が開いたのが分かった。

 

「メルちゃん……、けんか……だめだよ……」

 

「何言ってるのよ、喧嘩なんかしてないわよ!」

 

 弱々しい声で訴えるリリルを安心させるように言う。本当はどちらが血を与えるかで揉めに揉めていたのだが……。

 

「……そっか、よかった。」

 

 安心して笑みを浮かべたリリルにほっと胸を撫で下ろす。

 

「メルちゃん…、それ、なあに?」

 

 リリルはメルセデスが片手に持っていたナイフを見て、不思議そうに言った。

 

「ああっ、これは……」

 

「そうそう、血を、ぐふっ!!」

 

 慌ててよからぬ事を口走りそうになったジルの鳩尾にメルセデスの肘鉄が決まる。

 

「ち?」

 

「ちっ、治療よ治療、あんたの治療方針でコイツとちょっと!」

 

 苦しい言い回しである。

 

「でも……、そんなの持って、危ないよ……」

 

 リリルはメルセデスが持っているナイフを見て、心配そうに言う。

 

「そうそう、起きた時にお腹が減ってると困るから何か作ろうと思ってね!」

 

 メルセデスは何とか思いついた言い訳を並べる。

 

「そっか……ありがと……でも、お腹空いてないよ……。」

 

「これから空くのよ!!」

 

「ふぁっ!?」

 

 もはやごり押しである。

 大きな声でそんなことを言われたリリルは驚いて声を上げてしまう。

 

(ちょっとあんた、何か食べられそうな物残ってたわよね?)

 

(ねえよ、お前が景気づけだって出発前までに全部使っちまったろ。)

 

(ないなら、何か買って来なさいよ。)

 

(なんで俺が……)

 

 一瞬、逡巡したが、思い直してメルセデスの言うとおりにすることにした。今日食べ物がなければ、結局明日買いに出なければいけないからだ。

 

(ちぇっ、分かったよ。)

 

 ただ、おとなしく言う事を聞いたようになるのもつまらないから、一応は悪態をついておく。そして、しぶしぶといった様子で部屋を出て行った。

 すごすごと部屋を出て行ったジルを見送って、しっかり扉が閉まっているのを確認する。それから、メルセデスは真剣な顔でリリルの顔を覗き込んだ。

 

「よっし、邪魔者は消えたわね、体の調子はどう?」

 

「調子?」

 

 きょとんとした顔でメルセデスの問いに答える。

 

「はぁ、刺された所よ、大丈夫なの?」

 

 メルセデスに言われ、はっと思い出したのか、のそのそと胸に手を当ててさすったり押したりしてみる。

 

「そういえば、刺されちゃったんだった……でも、大丈夫みたい。」

 

「はぁ、よかったわね。」

 

「でも……、私、死んじゃうんだと思った。ねえ、どうして助かったの?」

 

「私の力のおかげで何とかなったのよ!」

 

 変に疑われないため、胸を張って自信満々に言っておく。

 

「わぁ、メルちゃんって、やっぱり凄いんだね。」

 

「そうよ、もっと私を崇めなさい!」

 

 嘘をついて少し心がちくちくするが、本当の事を言う訳にはいかない。ここはエルフの力で何とかなった事にしておく。

 何でもエルフの魔法のおかげにしておけば、何とかなりそうな気がしてきたメルセデスである。

 

「メルちゃん、助けてくれて……、ありがと。」

 

 リリルは尊敬の眼差しでメルセデスを見つめる。

 

「いいのよ、大した事ないわ、それより!」

 

 メルセデスは横になっているリリルに一歩詰め寄って珍しく真剣な顔を作る。

 

「どうしてあんな事したの!」

 

「わっ!?」

 

 今まで見たことがないくらい真剣な声で迫られたリリルは驚いて声を上げる。

 

「あんな事って……」

 

「あんたが私を庇ったことよ!!」

 

 メルセデスの言っている事を理解したリリルは、被っている毛布を引き寄せ、目だけを覗かせて困ったように眉を下げる。

 

「どうして私をかばったりしたの!」

 

「えっと、あの、あの、気がついたら……。」

 

「このおバカ!」

 

「いたっ!」

 

 リリルの頭にぽかんとげんこつが落ちる。

 

「いい、あれは油断してた私が悪いんだから、庇ったりしなくてよかったのよ!それに、あんたみたいなちんちくりんに助けてもらったなんて、エルフの恥よ!」

 

「………」

 

「何とか言いなさいよ!」

 

「ごめんなさい……。」

 

「まったく!」

 

 涙をためて謝るリリルを見て、罪悪感が沸かないでもないが、ここはきつく言っておかなければいけない。エルフの代わりは里にいくらでもいるし、いよいよ危ないとなってきたら、頭の固い老人たちもさすがに動くかもしれない。でも、この吸血鬼に代わりはいないのだ。

 

(まあ、世界樹と一緒に滅びようとする奴らが大半でしょうけどね。)

 

 メルセデスは里にいる凝り固まった仲間を思い浮かべてため息をついた。

 

「でも、メルちゃんが怪我しちゃったら、世界樹が枯れちゃって、それなら私が……。」

 

「口答えしない!」

 

 また頭に拳骨を落とされたリリルは頭を押さえる。

 

「いたた……、メルちゃん、けが人には優しくしないとダメなんだよ……。」

 

「もう治ってるんでしょ!」

 

 今度は両方の頬をむにむにと伸ばされる。

 

「へふひゃん、ひはいひょ!」(メルちゃん、痛いよ!)

 

「まったく……」

 

 メルセデスが手を離すと、伸びていた頬ももとに戻った。引っ張られ、赤くなった頬をさすりながら涙目で非難の目を向けるリリルに少し罪悪感が沸く。

 

「でも、まあ助けられたのは事実だし……、悔しいけど、感謝してるわ。」

 

 言ったはいいが、何となく恥ずかしくなって、目を逸らし、そっぽを向く。それから、なぜか恥ずかしさが増してきて、部屋にいられなくなり、用事を思い出した事にしてメルセデスは部屋を出た。

 メルセデスは部屋を出て、赤くなった顔を元に戻そうと深呼吸をする。それから、いつも使っている椅子に座り込んだ。

 

 リリルには少しきつく言い過ぎた気がしないでもないけどしょうがない。

 

「エルフに代わりはいる……。」

 

 話をしている途中にふと思い立った言葉を思い起こす。

 

「そうよね、だから今度は私が、それと、もっと慎重に……。」

 

 あんな事は言ったが、今考えれば今回の作戦は迂闊だったし、油断もあった。だから反省しなければいけない。

 

「精霊魔法がちゃんと使える場所ならよかったんだけどなぁ……。」

 

 ここに来て何度か試したが、残念ながら森も川も近くにないこの町では、精霊魔法の強力な物は使えない有様だった。

 でも、あの魔法薬のせいで、しばらくは奴らは何も出来ないハズだ。頭と交渉して手を出させないようにする作戦は、居候のせいで失敗したから、次は逃れられない不正の手がかりを見つけてやっつけなければいけない。

 

「あんなおバカには任せられないから、私がやらなきゃ、それに……。」

 

 何年も前の、あったかも分からない借金を言いがかりに突然現れた奴らと、今回のゲドーの話から、目的は恐らく自分だろうと既に当たりを付けていたメルセデスは、両手で頬を叩いて気合を入れなおす。

 

「いざとなったら、どかーんとやって、ほとぼりが冷めた頃にまたこの町に来ればいいんだし。」

 

 慎重にと言いながら、相変わらず物騒な考えは抜けていないようであった。

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