ふとアイデアが降って来たので投稿いたしました。
他の小説もあるのでのんびりとやっていくと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
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《幻想郷》
それは忘れ去られし者たちの理想郷。
妖怪、神、幽霊、人、様々な種族が生息しており、普段は《博麗大結界》と呼ばれる強大な結界によって守られている。
その為、外の世界からは入ることも認識することすら不可能とされている。
しかしただ一つだけ例外が存在する。
それは《外来人》と呼ばれる存在だ。
外来人とは外の世界からやって来た人間のことであり、本来認識する事すら出来ない幻想郷へとやって来るにはいくつかの方法が存在する。
その一つが《妖怪の賢者》に連れて来られる事。
妖怪という存在はその殆どが人間を食べ、人里から遠く離れた人間がその対象となる。
しかしだからと言って、人間が妖怪や神よりも下の存在かと言われればそうでは無い。妖怪は人間の『恐怖』によりその存在が保たれ、神は人間の『信仰』によって存在している。よって人里の人間が減ることは、妖怪や神の力が弱まる事を意味するのだ。
だからこそ妖怪の賢者は己の妖術を使い、外の人間を幻想郷に連れて妖怪達の餌とする。
なるべく目立たず、なるべく影の薄く、時には自殺願望者などと言った、騒ぎにならない人間を連れて行く。
俗に言う《神隠し》である。
もう一つは結界の薄い場所に行く事。
日本のどこかにある深い森や山、それらは異界へと繋がっていると言われており、そこから幻想郷に行くことが可能と言う噂だ。
そして最後の方法は幻想となる事。
幻想郷には誰の記憶にも映らない朧げな物達が流れ着く、妖怪や神と言った存在もこうやって幻想郷へ流れ着いた。
なので人間もまた完全に忘れ去られ、幻想となればは自然と流れ着くであろう。
彼のように……
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深い暗い森の中、満月の光だけが灯りとなり緑の海のように広がる木々の中。
ここは《妖怪の山》幻想郷で最も大きな山であり、天狗達が仕切る中様々な人食い妖怪が住んでいる魔の巣窟、人里の者が一歩でも立ち入ればたちまち食い荒らされるであろう。
「…………」
暗い夜の山の土の上で一人の人間が横になっている。
妖怪の遠吠えや争いの音が聞こえるが、人間は横になったままで逃げようともしない。
何故逃げないのか
何故動かないのか
理由は簡単だった、その人間は赤子だったのだ。
「あら? 随分と可愛らしい、外来人さんね」
荒々しく響く雄叫びをにも止めずスヤスヤと眠る赤子の近くに大きな裂け目が出現する。そしてその『スキマ』から紫色の服を着た美しい女性が顔を出し赤子へと近づく。
彼女こそ妖怪の賢者……《八雲 紫》である。
彼女は博麗大結界と対をなすもう一つの結界を管理しており、外来人が幻想郷へ足を踏み入れると直ぐに分かるのだ。
今も外来人の気配を感じ、能力を使って探していたのだが見つけることが出来ず、仕方なくこうして直接やって来たのだ。
「こんなに小さかったらスキマで見つけられないのも当然ね。まったく人騒がせな子ねぇ、私の力が及ばない存在でも来たのかと焦っちゃったじゃない」
紫は赤子を抱き上げると、焦らせたお返しとばかりにその頬を指でつつく。
彼女の白い手袋に負けないくらい白く艶のある肌がプニプニと沈む、その光景を見た紫は自然と笑みが溢れる。
そんな事をしていると、開いたままのスキマの中から青と白の服を着た女性が姿を表す。
「紫様、正体はわかりましたか?」
「あら藍、来たの?」
藍と呼ばれた女性の何よりの特徴は、その大きく膨らんだ九つの黄色い尻尾である。
彼女の名は《八雲 藍》。八雲紫の式、俗に言う従者のようなものであり、彼女自身も『九尾』と呼ばれる大妖怪である。
「相手の正体が分からない以上危険な可能性もありますから……もしやその子が外来人ですか?」
「ええ、なかなか大物でしょ? こんな人食い妖怪ばかりの山で呑気に寝てるんだもの」
一礼して紫へと近づいた藍は彼女が抱えている赤子に気付く、状況から察してその赤子が外来人であると察する。
「まだ赤ん坊じゃ無いですか」
「見たところ生まれてまだ数ヶ月、そんな子が結界の薄い山に来るなんて不可能だし、私が呼んだわけでもなければ後は一つだけね」
「外の世界で忘れられた……って事ですか?」
「そうなるわね。生まれた赤子を山に捨てて帰宅途中に事故か何かで親が死亡、知っている存在が居なくなって幻想入り……って所かしら?」
紫の言う通り、赤子は毛布の巻かれた状態で籠の中に入れられていた。
それはまるで捨て犬や猫のように見える、紫の言っている事は大体合っているのだろうと藍は思った。
「それは可哀想に……」
「ま、人間の事情なんて知った事じゃ無いわ。外の人間なら尚更ね」
「しかしどうなさいますか?そうなると帰す場所が無い事になりますが?」
「そうねぇ、こんなに小さかったら雑魚妖怪ぐらいしか食べないでしょうし、貴女の式にでもあげる?」
「……橙はまだ人間は食べれませんよ」
「あら?なら丁度いいじゃない。何事も慣れよ」
「はぁ……」
藍のツッコミを軽く流しながら、からかうように笑う紫。
そんな話をしていると紫の腕の中の赤子がモゾモゾと動く。
「あら?起きたのかしら。初めまして外来人さん、貴方の目の前にいるのは怖い人食い妖怪よ〜」
「赤ん坊に何言ってんですか……」
二人の会話に起こされたのか、赤子は眉を顰めながらゆっくりと両眼を開いた。幼児のその瞳は海のように澄んでいて、まるで蒼い宝石のように輝いていた。
「…………」
穢れを知らない純粋なる蒼い瞳、見れば見るほど吸い込まれそうになるその美しさに、紫は目が離せなくなっていた。
「あう?……」
紫に見つめられた赤子はコテンと愛らしく首を傾げる。
それを見た紫よ口角が僅かに上がった。
「やっぱり、気が変わったわ」
「紫様?」
藍が赤子を何処に連れて行くかと思考を巡らしていると、突然紫は赤子を抱いたまま自宅に繋がっているスキマを開いた。
「ど、どうするのですか?」
「この子、ウチで面倒みましょうか」
「い、いけませんっ! 外来人を長らく放置するのは危険だと言っていたのは紫様ではありませんか!」
「そうね。でもこの子が外に居たのはほんの数ヶ月、一年もすれば体が幻想郷に馴染んで立派な住人の一人よ」
「それはそうですが……一体どうなされたのですか?」
「別に、ただの戯れよ。偶には人形遊びも面白そうじゃない?私達の仕事に役立つかも知れないし」
「役にって、一体何のです?」
「そうねぇ……今の代の《博麗の巫女》そろそろ限界じゃない?世代交代の時期だと思うのだけど?」
「縁起でもない事を言わないでくださいよ。だいたいその子が女の子かどうかも分からないじゃ無いですか」
「こんなに可愛いんだからきっと女の子よ〜」
「はぁ、もう好きにしてください」
紫のマイペースっぷりや飽きやすさをよく知っている藍は諦め、深く溜息をつきながらスキマを潜り妖怪の山を後にした。
残った紫は、赤子を抱き上げ満月と重ねる、月からの逆光がより赤子の瞳を美しく光らせたように見えた。
「ふふっ、運が良いわね……長生きしたかったら、せいぜい私を飽きさせないようにね」
「きゃっ!きゃっ!」
口角を釣り上げ、含みを持たせた笑みを見せる紫、それに対して赤子は無邪気な笑顔を見せながら可愛らしい笑い声を聞かせた。
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