ひぐらしのなく頃に 夢酔し編   作:りろーでぃん

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衝動

 

 

梨花の元を離れてちょっとだけ飛べば、やけに横長なのが特徴的な、北条家の屋根が見えてくる。沙都子の本当の家……と言えばそうなのだろうけれど、それは果たして本当に正しい表現なのだろうか……? でも、なんにせよ僕に、そのどちらかを決める権利はない。だからここは”北条の家”なのだ。

一年近くも放置されているいつもの世界なら、叩けばいろんな生き物が飛び出してくるのが容易に想像出来るような、そんな廃屋だった。でも今は、やたらと多く小さな窓から静かな灯りが漏れ、そこから時折聞こえてくる物音は、梨花と沙都子が一緒に暮らしているいつもの世界と、何ら変わりのないものだった。

でも……あぅあぅ、この家に明かりが灯っているという事は、それはサイコロの目が最悪を示したという事。なのだけれど、今回の世界では少なくとも最悪の決め手とまではいかないらしい。でもでも、そんな事は結局、何も変わらないに等しいのです。過程がどうであれ、結末が同じであるのならば、それは何一つとして変化の起こらなかった……そんな事と同じなのだから。

家の中からは生活感の伝わる匂い、つまりは晩ご飯の準備やらなにやら、そんなごく当たり前の家庭が、ここでもしっかりと行われている事が伺えるのだ。そんな、普通の家庭が奏でる生活の音が、当たり前のように聞こえてくる。それが僕には、なんとも不思議で仕方がなかった。

 

「叔父さまー! そんなに飲んじゃダメなんですのよー! ほら、これはもうおしまいです。片付けますからね」

「なんねー沙都子、封を開けたらさっさと飲まんと、風味が抜けるんよ。くっくっく! だからなー? ほれっ」

「ダメなものはダメなんですのー!!」

 

吹けば飛びそうな、薄い木の壁から漏れる沙都子の元気な声が、とりあえずの僕の安全を保証してくれていた。これ以上あんな苦いものを飲まされ続けたら、たまったもんじゃないのですよ、あうあう!

とはいえ、さてここはどうするべきなのだろうか。いつまでもここでふわふわ浮いている訳にはいかないだろうか? でも、梨花の様子から察するに、それでは駄目だろう。けれど僕から何かしらの行動を起こす気も、また無かった。梨花はああ言っていたけれど……僕には関係のないこと。何をしても、どうせ徒労に終わる。その努力や期待が、大きければ大きいほどに、登りつめる程に…落ちた時の痛みは増大するのだから……。だったら、最初から頑張らなければいい。だから僕は何もしない。そう、ここでいつもの人間観察に耽っていれば、やがてその時は必ず、残酷なほど確実に訪れる。どんな意思が働いて、鉄平などという最悪の目を再び繰り返したのか、今の僕の預かり知るところでは無いのだけれど、次は梨花を選べばいいだけの話なのだ。それでいつもの通り何も変わらない雛見沢に戻れるのです。

……それでいいのですよ。僕は何もする必要は無いのです。あうあう! ならばこそ、この二人がどの様な家族模様を築いているのか、興味が湧いてくる。いつもの通りに、側から静かに眺めて、観察に徹することにしよう。

そう思い立ち、僕は律儀にも玄関から侵入する。この家に人が出入りする事自体、決して高くない確率の珍しいことなのだ。だから、北条家の中の構造はあまり把握していなかった。屋根から飛び込んで、ネズミさん達の輪にお邪魔するのは悪いのです。あうあう☆

 

「おじさまー!? 一体全体、どこに行くんですのよー! お料理が冷めてしまいましてよー!」

「おう、ちょいとな。ヤニ吸いたいんよ」

 

玄関の扉をすり抜け、はて二人はどこだろうと薄暗く短い廊下をペタペタと歩き回っている時だった。そんな短い会話が聞こえて、僕の目の前からぬっと、大きな影が現れる。鉄平だった。

 

「羽入、ちょいと話があるんね。ここじゃ沙都子がいるん、表行こか」

 

それはごく当たり前に、自然に交わされた会話だった。……いや、会話ではないかもしれない。だって、僕はただただ呆然と鉄平を見上げているだけで、言葉といえるようなおよそ人と人とのコミュニケーションに必要な言語は、たったの一言も発してはいないのだから。

 

「何ボサッと突っ立っとるん。オバケでも見たような顔してからに」

 

鉄平は、まるで不思議な現象でも見たかのように、剃り上げた殆ど残っていない細い眉をしかめる。

もう、僕は認めなくてはならない。だって、それは当たり前の事だったから。梨花と僕の繋がりは、不本意だけれども途切れていた。そして、これまた不本意なのだけれど、鉄平と僕が繋がっている事は、お酒の感覚共有から察する事ができた。つまりつまり、それは……鉄平が僕を視えているという事なのではないか。そんなごく当たり前のことを、僕は今こうして現実として見せつけられて、ようやく事実として受け入れさせられたのだ。

鉄平は未だに呆然と立ち竦み、あぅあぅと見上げているだけの僕を一瞥すると、さっさと外に出てしまう。

……別に、追わなくても良いんだ。このカケラがどんな過程を辿るにせよ、僕にはなんの関係もないこと。どうせ、運命は変わらない。でもでも、それとは別に僕は今、ずっと昔に忘れていた一つの感覚を今まさに感じているのですよ。これは、緊張……?

僕はいま、鉄平に話しかけられて緊張しているのか? 心臓の鼓動が、自分でも分かるくらいに強くなる、いつの間にか握っていた手のひらに汗が滲む……! ありえないありえない!! それは本当に、本当に僕の感覚なのですか!? だって僕はそんな当たり前の、人間だったら普通に起こりうる生理現象なんて味わった事はない…! いや、それは嘘だ。でも、そんな感覚は、もう遥か昔に忘れてしまったこと。それをこの身で感じて、手に残る嫌な湿りを汗だと僕が理解すること自体がありえないありえないのです! じゃあじゃあ、これは、この感覚は一体なんなのですか!? わからないわからない。なんでなのですか……!! こんな時に限って、あうあうあうなどといういつもの、その場凌ぎのかぁいい感情が出てこない。僕の頭が、身体が……! 理性を維持しようと必死にもがいているのが伝わってくる!!

 

「羽入、はよせんか。いつまでそこであぅあぅしとるん」

 

扉の向こうから、鉄平の低い声が通る。どうやら少々風が吹いているらしく、扉や壁の薄い板がしきりに音を立てる。いくら今年が異常気象で、夏到来を思わせる蒸し暑さを感じるとはいえ、いつまでも外に待たせているのは申し訳ない。……そういう事に、しますのです。

 

「いま、いま行くのですよー! あうあう〜」

 

どうでもいい。世界が終わるまで、傍観者に徹しよう。

さっきまでそう思っていた僕の口が、勝手に声を上げる。棒のように立ち竦んでいた足が、命を吹き込まれて勝手に行動を開始する。僕は今この時にようやく、確信したのです。はるか昔に忘れていたこの気持ち、強い好奇心……ワクワクとした感情に突き動かされている事を。




よく考えたら、9000文字くらい書いてるのに全く話が進んでいない笑
でもまあ、自分的にはそれが小説だと思うので……。
羽入の心理描写難しい。あうあう☆
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