ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

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ぎりぎり今年中に投稿出来ました!
あと僅かで変わりますが、良いお年を!!


第四章 停止教室のヴァンパイア
第22話 堕天使総督と魔王来訪


 

コカビエルとの一件が終わってから数日が経った。

新たな眷属であるゼノヴィアも加わり、新しくなったオカルト研究部は今日も放課後に悪魔稼業に精を出していた。悪魔稼業とは、チラシに描かれた魔方陣を使って依頼主が悪魔を召喚をし、契約をすることである。

依頼主は、自分の欲を満たすために悪魔を召喚するのだが、それには様々な理由がある。仕事で疲れたので、家事をしてもらったり、仕事の手伝いをしてもらったり、自身の趣味に付き合ってもらったりと、など。そこで気に入られれば、依頼主は召喚した悪魔を指定し何度も召喚するのだ。

 

人の身ではあるが、翔はリアスの眷属のため、悪魔稼業も行っている。

翔が依頼を受けると、全ての依頼主が翔と契約を交わす上に、非常にいい評価をしているのだ。

そして、今日も翔は依頼人に召喚され、豪華なマンションにいた。

本来は、チラシの魔方陣が展開され、直接依頼主の前に召喚されるのだが、悪魔ではない翔には誤作動のようなものが発動してしまい。依頼主の家の玄関前だったりと召喚されてしまうのだ。そのため、前代未聞ではあるが、玄関から訪問する形となっているのだ。

 

「よぉ、今日も悪いな」

 

インターホンを鳴らすと、扉が開き、そこから浴衣姿の男性が現れた。

お兄さんと言うより、ダンディーという言葉が似合う、若干渋めのおじさんだ。

最近よく翔を指名する人であり、依頼内容は日によって違い。夜釣りに行ったり、翔が作った料理を食べながら雑談したり、と簡単に言うと遊び相手と言った感じだろう。

そして、今日は―――

 

「今日はゲームでもやらないか? 昼間にレースゲーム買ったんだけど、相手がいなくて寂しくてな」

 

依頼者である男が自室にあるテレビにゲーム機のコードを繋げて準備をし始める。

テレビの近くには山積みになっている大量のゲームの数々・・・。

 

「随分と大量に買ったな・・・」

 

「俺は一度熱中してしまったら全部集めたくなる性格でね・・・、俺の同僚はお前のコレクター趣味は異常だって良く言ってくる。よし!セットできたことだし、始めるとするか。いや~、日本って国は時間潰しのアイテムが多くていいな。ほら、コントローラー」

 

「はいはい。ったく、いい歳した男と二人っきりでゲームをやるとはな・・・」

 

渡されたコントローラーを受け取り、レースゲームが始める。

ゲームをしながら翔と男は会話を続ける。

 

「硬いこと言うなよ・・・、一人でやるのはつまらないんだ。それに、お前さんの作る料理は美味いからな。あの味は早々に御目にかかれないレベルだぜ?」

 

「あんたはその後に出る酒のつまみが目的だろ・・・」

 

呆れたように言葉を漏らす翔に、依頼主である男は面白そうに笑い声を上げる。

 

「はははっ! バレてたか・・・ああ、最近じゃそれも理由の一つだな。だが―――」

 

「俺の神器・・・赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が目的だろ?―――堕天使総督アザゼル」

 

男の言葉を続けるように言った翔に、男は僅かに目を見開いて吃驚した様子だが、くくくっ・・・と口の中で笑ってから、口の端を吊り上げて、面白そうな顔を浮かべながら翔に問いかける。

 

「・・・いつから気付いていた?」

 

「最初から・・・」

 

それにテレビ画面から顔を逸らさずに翔は簡潔に答える

答えを聞いて、ますます笑みを深める男・・・アザゼル。

 

「だったら、どうして逃げるなり仕掛けるなりしなかったんだ? お前さんの実力ならどっちも可能だろう」

 

「逃げなかった理由は目的が何なのか知りたかったからだな。・・・仕掛けなかった理由は、そっちが仕掛けてくる気配がなかったのが一つ・・・。もう一つは、今の俺が挑んだとしても、簡単には勝てないから。それに、そっちこそ俺が気づいていることに気がつきながらも、何もしなかったじゃないか?」

 

「最初のころは気づかなかったぜ? お前、顔に全然ださねぇからな。でも、よくよく考えれば、白龍皇の気配に気づいた奴が、堕天使の気配に気がつかない訳ないだろ? なら、俺の存在を知っていながらも俺の召喚に応じるお前に興味が抱いてな、色々と楽しませてもらうことにしたんだ。いや~、そしたら料理の腕は一流だし、俺の遊び相手にもなってくれてな。さっきも言った通り、最近じゃ、そっち関連も目的になってたな」

 

あはははっ! と笑う男に翔は呆れたように溜め息を吐く。

それと同時にレースゲームが終わった。

 

『Drow!!』

 

結果は引き分け。話しながらもお互いに一歩も譲らぬ接戦を繰り広げていたのだ。

握っていたコントローラーを話して、翔に向き合ったアザゼルは不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「じゃあ、改めて自己紹介と行こうじゃないか。俺はアザゼル。堕天使の頭をやっている。

これから、よろしくな。現赤龍帝である御剣翔」

 

瞬間、翔の視界に12枚の漆黒の翼が映った。

 

もうすぐで夜になる時間帯。

今日は悪魔稼業が休みのため、全員がオカルト研究部の部室にて集まっているのだが―――

 

「冗談じゃないわ!」

 

声を荒らげて叫ぶように言葉を放つリアスがいた。

その表情は今のリアスの気持ちをありありと表している。・・・つまり、非常に不機嫌なのだ。

何故なら昨晩に行われた契約についてだ。問題はあったのは翔と契約をした人物・・・・・・アザゼルだ。

 

今まではリアスに気づかれなかったのだが、昨晩の契約を行った後に、魔方陣が描かれたチラシ裏に依頼主が契約に対しての評価をつける感想欄があるのだが、そこに堂々と『堕天使総督アザゼル』と書かれていたのだ。今までは匿名希望と記されていたのだが、翔に正体も明かしたから隠れてやる必要はなくなったからだろう。

 

「・・・確かに悪魔、天使、堕天使の三竦みのトップ会談がこの町で執り行われるからといって、堕天使の総督が何の報告もなく私の縄張りに侵入して営業妨害をするなんて・・・ッ!!」

 

「いや、別に営業妨害はしてないぞ? 対価も支払ってるしな」

 

「翔は黙っていなさい!」

 

やれやれ、と翔は肩を竦めて溜め息を吐く。

それ以上は何も言わずに、黙って事の成り行きを見ることにする。

今のリアスには何を言って無駄だという事を悟ったのだろう。

そして、朱乃が淹れてくれたコーヒーを一口飲む。

 

「む? 腕を上げたな。美味いぞ、朱乃」

 

「ありがとうございます。これも翔くんのご教授のおかげですわ」

 

翔に褒められて、朱乃はいつも以上に笑顔を見せる。

彼女が言ったように、朱乃は翔からコーヒーや紅茶の淹れかたを教わったのだ。

他の者達は部室で各々寛いでいる。

祐斗は翔と朱乃共に談笑を楽しみ、アーシアとゼノヴィアは自分たちの祈りに関して語り合っており、小猫は翔が作ったお菓子の数々を黙々と食べている。

 

アーシアとゼノヴィアは最初の出会いは最悪と言っていいものであったが、ゼノヴィアが眷属になった際にアーシアに謝罪を述べ、今ではクラスで一番仲が良い関係となっているだろう。

 

そんな翔達を蚊帳の外に、リアスは湧き上がる怒りで震えていた。

 

「しかも私の大事な翔にまで手を出そうだなんて、万死に値するわ・・・。アザゼルは神器に強い興味を持つと聞くし、翔に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)があるから接触してきたのね・・・。大丈夫よ、翔は私が絶対に守るから」

 

情愛を司るグレモリーの一族であるリアスは自身の眷属を家族のように大切にする。そんな存在が誰かに触れられたり、傷つけられたりするのを酷く嫌う。特にリアスにとって翔は掛け替えのない存在になっている。

故に今回の一件は、よほど頭に来ているのだろう。

暫くして、怒りも治まり冷静さを取り戻したリアスは翔の頭を撫でようとするが、翔はそれを躱す。

翔の頭を無理やり引き寄せようとするが翔は瞬時に朱乃の隣に移動する。

 

「もう!どうして避けるのよ!」

 

「いや、撫でるのは良いが撫でられるのは苦手でな・・・。まぁ少なくともアザゼルの方から仕掛けてくることはないだろうな」

 

ここ数日、アザゼルと顔を合わせ話したが、向こうから戦いを仕掛けることはないと翔は自信を持って言える。アザゼルは今の平和を楽しみ、護ろうとしているからだ。それとなく、敵側であるはずの翔自身にも忠告するしてくるのだ。

 

『お前と言う存在を狙っている輩がいるかもしれねぇぞ?』

 

と・・・。冗談っぽく言っていたが、その瞳には真剣なものが浮かんでいた。

翔が以前考えた通り、次の三大勢力の会談で何かが起きることをアザゼルは暗に告げているのかもしれない。

 

不意に服を僅かに引っ張られる感触を感じた翔は、視線を横に向けると、アーシアが翔の服を掴んでいた。

 

「大丈夫ですよね? どこか遠くに行ったりなんてしないですよね?」

 

不安そうな表情を浮かべ、上目遣いに翔を見つめながら言う。

そんなアーシアに対して、翔は微笑みながらアーシアの頭を撫でてながら言う。

 

「何も言わずにお前達の前からは消えることは無いさ」

 

アーシアは安心した表情で翔の手に身を任せた。

翔の手に髪の毛をくしゃくしゃにされながらも、気持ち良さそうに目を細めるアーシア。

その光景をリアスと朱乃、、ゼノヴィア、小猫の4人は羨ましそうな視線を向けていた。

すると―――

 

「アザゼルは昔からああいう男だよ・・・リアス」

 

不意に声が響く。

翔を除く全員が声が聞こえた方向へと視線を向けると、そこにはリアスと同じように鮮やかな紅髪の男性・・・魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーが立っていた。その後ろには、男性に控えるようにメイド服姿のグレイフィアがいた。

サーゼクスを視界に収めた瞬間、朱乃と祐斗、小猫は静かに跪き、アーシアも慌てながらも朱乃達に倣って跪く。

ゼノヴィアは、誰だ? と言った風に首を傾げていた。

翔だけはサーゼクスとグレイフィアが部屋に来ていたことを察知していたため、特に驚いた様子も見せずに静かに二人のことを見据えていた。

 

「おっ、お兄様!」

 

リアスが驚愕の声を上げた。

やぁ、とにこやかな笑みを浮かべながら挨拶をしてくるサーゼクス。

 

「頭を上げたまえ。私は今日はプライベートで来ているのだよ。そんな畏まる必要はない。寛いでくれて構わないさ」

 

跪いていた朱乃達に、サーゼクスがそう促す。

 

「お兄様、どうしてここに・・・?」

 

その問いかけにサーゼクスは笑みを浮かべながら、一枚のプリントを取り出し、リアスに見せる。

すると、取り出されたプリントを見て、顔を引き攣らせる。

 

「授業参観が近いだろう? 私も参加しようと思ってね。是非とも妹が勉学に励む姿を見たいものだ」

 

「ッ!? グレイフィアね! 折角黙っていたのに!」

 

リアスの言葉にグレイフィアは淡々と答える。

 

「サーゼクス様がこの学園の理事をしています。それ故に、このような行事に関しての情報は《女王》である私にも伝わります。お伝えするのは当然かと・・・」

 

「そうだ、リアス。例え魔王の仕事が激務であろうと、我が妹の頑張る姿は兄は見たいものさ」

 

「だが、それだけじゃないんだろ?」

 

翔の言葉にサーゼクスとグレイフィアが僅かに驚いた様子を見せるが、すぐに表情を元に戻す。

サーゼクスは微笑みを浮かべ、グレイフィアは我関せずと言った態度だ。

 

「ああ、実は三竦みの会談をこの学園で執り行おうと思っていてね。会場の下見に来たのだよ」

 

「ッ!? ここで!?」

 

驚きの表情を浮かべるリアス。

彼女以外にも、翔を除く者達も驚愕の表情を浮かべている。

 

「ああ。この学園とはどうやら何かしらの縁があるようだ。私の妹であるお前と、伝説の赤龍帝、聖魔剣使い、聖剣デュランダル使い、魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹が所属し、コカビエルと白龍皇が襲来してきた。これは偶然で片づけられない事象だ。様々な力が入り混じり、うねりとなっているのだろう。そのうねりを加速度的に増しているのは御剣翔くん―――赤龍帝だとは思うのだが?」

 

視線を翔に向けるサーゼクスに対して翔は―――

 

「まぁ昔から厄介ごとに自分から突っ込んだり、巻き込まれたりとしたからな」

 

苦笑しながら答える。

 

『ドラゴンはありとあらゆる力に惹かれる』

 

それがドラゴンを宿り者の宿命だろう。

二天龍の片割れである『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』を宿す翔は、特にそれが強いのかもしれない。もっとも翔はドライグを・・・と言うよりこちらの世界に来る前から何かと厄介ごとには自身から突っ込んだり、巻き込まれていたのだが・・・。

 

「さて、これ以上難しい話をここでしても仕方がない。うーむ、しかし、人間界に来たとは言え、こんな時間に宿泊施設は空いているのだろうか?」

 

サーゼクスは困った顔をしながら考える仕草を行う。その際に、一瞬だけ翔に意味ありげな視線を送る。

その視線を捉えてしまった翔は、小さく溜め息を吐いてからサーゼクスに話しかける。

 

「・・・だったら、家に泊まらないか? 元々リアスから貰ったものだしな」

 

「それはいい。そうしよう!」

 

翔の言葉を聞いて、名案だ! と言わんばかりに言うサーゼクス。

 

「元からそのつもりだと言うのに・・・・・・」

 

小さく溜め息を吐く翔にサーゼクスの後ろに控えていたグレイフィアが申し訳なさそうな表情を翔に向けている。

 

「まぁ客人が来るからにはそれ相応の持て成しが必要だな・・・」

 

そう言って、翔はサーゼクスとグレイフィアに軽く一礼してから部室から出ていこうとする。

 

「ちょっと、急にどこに行くのよ?」

 

「食材を買いに行くに決まっているだろ?」

 

リアスの問いに、何を言っているんだか・・・、と言いたげに肩を竦めてから翔。

 

「家への案内はリアスに任せる。朱乃達も来たかったら来ても構わないからな」

 

それだけ言って、翔はさっさと部室から出て行ってしまった。

 

誰もが寝静まった時刻。

翔は1人、縁側で夜空に静かに輝く綺麗な月を眺めていた。

すると―――

 

「隣いいかい?」

 

リアスと同じ鮮やかな紅い髪の男―――サーゼクス・ルシファーが姿を見せた。

翔は彼の言葉に頷き肯定する。

サーゼクスは静かに翔の隣に腰を下ろし、翔と同じように夜空の月を眺め始めた。

 

「アザゼルに会ったそうだね」

 

「ああ」

 

唐突に話しかけてきたサーゼクスに翔は短く答える。

敬語で話せなくもないが、サーゼクス本人がそれを拒否したため、翔は普段通りの口調で話している。

 

「何かされたわけではなさそうだけど、何か言われたのかな?」

 

「・・・改めて会いに行く、と言われたくらいか?」

 

堕天使側は何かしらの情報を掴んでいるかもしれないな・・・

アザゼルが遠回しに警告してきたという事は、まだ確証はもてていないという事かもしれないな・・・・・・ここで言って悪魔側も変に警戒させるのは得策ではないか・・・

 

アザゼルからそれとなく警告されたことは口にしない。

 

「そうか・・・。君が宿す赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)もあるだろうけど、聖書に記されたコカビエルを倒した人間である君も注目してるはずだ。さらに神滅具(ロンギヌス)と言っても、禁手(バランス・ブレイカー)に至っていない状態でだ。それに君が最後に見せた一撃・・・・・・伝説の聖剣エクスカリバーの再現。・・・多くの勢力が君に注目するはずだ」

 

「そうか・・・」

 

サーゼクスの言葉に翔は興味なさそうに答える。

 

「・・・私も独自に君について調べさせてもらったけど、君に関する資料はリアスの眷属になった後のものしかない・・・・・・君はリアスの眷属になる前まで何をしていたんだい?」

 

「・・・・・・本当に何をしていたんだろうな、俺は」

 

自嘲するかのように言葉を漏らす。

見つめる先は夜空だが、翔の瞳には別の光景が映っていた。

己が目指し、憧れ、愚直なまでに貫き通そうとする歪んだ理想・・・。

 

「・・・・・・綺麗な月が出ていることだし、少しばかり昔話をするのもいいかもしれないな」

 

周囲に感じる気配を気づきながらも、翔は静かに語り始める。

 

これまで歩き続けた己の物語の一部を・・・。

 

「さて、どう話をしたらいいか・・・」

 

そう静かに言葉を漏らす翔の雰囲気は年相応ではなかった。

まるで永き年月を過ごした老人のようなものだ。

その姿を見て僅かに息を呑む音が響いたが、気にすることなく、翔は静かに語り始めた。

 

「俺は血の繋がりがない親がいた。名は御剣隼人・・・俺を育て鍛えてくれた人だ」

 

思い浮かべるは一人の男・・・。

老齢のはずなのに、それを感じさせないほどの強靭な肉体。普通の者が持ちえないほどの覇気を纏った人。

 

「出会ったのは、俺がまだ幼い頃・・・。俺が住んでいた場所は、とある災害により消え去った。そして、俺だけが生き残った」

 

思い出される光景は地獄のような場所・・・『死』という概念が蔓延していた。

あまりに酷い想いをしたのだろう。幼い彼はその出来事を受け入れることが出来ずに頭が『忘れる』と言う措置を取ったのだ。それまでの全てを失ったが、彼は―――

 

「歩き続けた・・・。別に生き残りたいとは思っていなかったな。心のどこかではすでに諦めていたのかもしれない・・・。でも、それでも歩き続けた。俺より生きたかった人達はいた。俺よりも未来に希望を持った人達がいた。だが、生き残ったのは俺だけだ・・・・・・だから、少しでも永く生きなきゃいけない、そう思ったんだ。燃え上がる街を背に、何の色にも染まることのない綺麗な夜空の下に広がる永遠に続くかのような平原をただ歩き続けた・・・」

 

目を閉じれば鮮明に浮かんでくる光景・・・。未だに自身の心の中に深く染みついている場所。

 

「心も限界だったが、体も限界を迎えたんだろうな・・・。平原に仰向けに倒れて、夜空を眺めたんだ。焦点が定まらない目で見えた夜空は憎いくらい綺麗に見えてさ・・・意味もなく手を伸ばしたんだ。そしたら、その手を掴んでくれる手があったんだ。そして、遠のいていく意識の中、俺の体を優しく、力強く包んでくれる感覚を感じたんだ」

 

淡々と他人事のように語っていた、その顔に初めて感情が宿る。

目を細めて遠い記憶を懐かしむように・・・。

 

「気がつくと俺は見知らぬ場所にいた。畳が広がり、障子を通して暖かな日差しが部屋に満ちていた。すると、障子が開き一人の老齢の男性が入ってきたんだ」

 

「それがさっき言っていた育て親だね」

 

「ああ・・・。そうで開口一番こう言って来たんだ。『今からお前は儂の息子じゃ!』ってな」

 

年齢的には孫だろうに、と苦笑しながら言う翔であったが、その口元は緩んでいた。

 

「爺さんは、剣術の達人でな。頼み込んで鍛えてもらったんだ。爺さんの伝手で他の達人の人達からも鍛えさせて貰ったんだ。それから色々な事をした。修行のため爺さんと一緒に山籠もりをしたり無人島で暮らしたりと、本当に多くのことを体験した・・・。でも、それも終わりを迎えた・・・」

 

そう言って翔は寂しそうな表情を浮かべる。

 

「何年か経った頃だろうか・・・ある日、爺さんが倒れたんだ・・・癌だった。それから一か月も経たないうちに逝ってしまったな・・・。どうやら一年前からすでに侵されていたみたいでな。本人が言うには良く持った方らしい・・・。爺さんが亡くなる前日に2人で縁側に座って、夜空を眺めたんだ。今日みたいに綺麗な月が浮かんでいてな。それを2人で眺めながら色々な話をした」

 

夜空に浮かぶ月を見上げる翔に倣って、サーゼクスも月を見上げる。

数多くの星が輝く中、太陽とは違った優しい薄い光を放つ月は、酷く幻想的に見れた。

その輝きに目を細めるサーゼクスであったが―――

 

「『全てを救える正義の味方になりたいんだ』」

 

「えっ・・・?」

 

唐突に隣から聞こえた声に僅かに声を上げる。

視線を動かすと、苦笑する翔の姿が目に映った。

 

「その時に爺さんに『夢はあるのか?』と聞かれて答えたのがさっきの言葉だ」

 

自身の夢を語っているのに、その横顔は酷く寂しそうに苦しそうに感じられた。

 

「・・・誰もが幼い頃憧れるであろう存在。そして決して叶わぬ夢だと理解し諦める存在―――『正義の味方』・・・俺はそれになりたかった」

 

あの時、全てを失ってしまった彼だったが、そんな彼の中に残ったものはあったのだ。

 

「あの災害の際に、それまでの記憶を失った俺だったが、一つの想い、誓いだけは残っていたんだ。それが『正義の味方』になる、と言うものだった。何時誰に誓ったのかも知らないものだが、それだけが俺の中に深く残っていたんだ。だから、迷うことなくそれを目指した。きっと少しでも過去の記憶に縋りたかったのかもな・・・それを目指さなかったら、俺自身を否定することだと、子供ながらに考えたんだろうな」

 

『誓い』と呼ばれるそれは『呪い』と言ってもものだ。

もしかしたら、翔には別の人生があったのかもしれない。『正義の味方』などを目指さすに、戦いとは無縁の生活を過ごしたり、誰かと恋をして結婚したりと、そんな生き方があったのかもしれない。だが、その『(のろ)い』によって、それら全ての可能性が消えてしまったのだ。

 

だが、翔に後悔はない。

仮にそのような可能性があったとしても、未練も後悔もない。

何故なら―――

 

「誰かを助けたいと言う願いは決して間違ではない、からな・・・」

 

翔は笑いながらそう告げる。

それを見てサーゼクスはその顔を僅かに歪める。

 

「サーゼクスさん、貴方がそんな顔が必要はないんだよ・・・、これは俺の問題さ。

・・・・・・少し長話になったみたいだな・・・、俺はもう寝るとするよ」

 

おやすみ、と言って、翔は立ち上がって自身の部屋へと足を進めていった。

 

翔が去ってから一人残ったサーゼクスは夜空に浮かぶ月を眺めながら唐突に声を漏らす。

 

「・・・リアス達はもう寝たのかな?」

 

「いいえ。ですが、彼女達も先ほどの話を聞いて、思うことがあったのでしょう。

何も語ることなく、部屋に戻っていきました」

 

サーゼクスの言葉にグレイフィアが姿を現して答える。

 

「君が言うとおり、彼は計り知れないものを背負っているようだね・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

グレイフィアは答えずに顔を僅かに伏せる。

普段は公私分けて何事にも動じない彼女だが、この時その顔が悲しみに歪んでいた。

 

「彼はきっと想像もできないようなものを見てきたのだろうね・・・」

 

翔に何の事情を抱えているのかも知らない。何をしてきたのかも知らない。

だが、これだけは分かる。彼は信用に足る人物である、サーゼクスはそう確信している。

 

「―――ああ、本当に綺麗な月だな」

 

「・・・そうですね」

 

夜空に浮かぶ月。

星の輝きよりは控えめに輝くが、それは心を癒すように感じられた。

サーゼクスの後ろに控えていたグレイフィアは彼の隣に並び立ち、そっと月を見上げる。

 

願わくばこの光のように彼の抱える闇が少しでも癒してくれる者が現れるように・・・

 

そんな想いを秘めて、グレイフィアは月を眺め続けた。

 

 

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