ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~ 作:satokun
ヴァーリが翔達の前に姿を現した翌日、翔とリアス、アーシアの三人は学校に行くために道を歩いていた。
「・・・気乗りしないわね」
深い溜め息を吐きながらリアスはそう呟く。
今日は授業参観が行われる日なのだ。
駒王学園の授業参観は生徒達の親は勿論、この学園の中等部や受験をしようと思っている中学生、およびその保護者なども見学に来る日でもある。そのため、駒王学園の生徒達は親が来るというだけでも緊張するというのに、それ以外の人達からも見られると言う緊張感もあるため、リアス以外にも今日が憂鬱な日だと思う者もいる。
もっとも、リアスの場合はシスコンの兄と父親が来るのが嫌なだけで、他のことはあまり気にしていないのだが・・・。
サーゼクスさんとリアスの親父さんは、リアスと同じく紅髪だからな・・・確実に目立つのは必然だな
それ関係でリアスの周りもいつも以上に騒ぐことになるのは仕方ない事だな・・・
内心でリアスの心中を察して、翔は苦笑してしまう。
そんな話をしていると、学園に到着した三人。
リアスとは学年が違うので、昇降口で別れ、翔とアーシアは二人で自分達の教室に向かった。
「おはよう、翔くん、アーシアさん」
「ああ、おはよう、祐斗」
「おはようございます、祐斗さん」
教室に入ると、すでに祐斗は来ており、祐斗のファンである女子生徒達に囲まれていたが、翔とアーシアが入ってくるのを見ると、そこから抜け出し翔達に近づいた。
「部長はどうだった?」
「憂鬱な表情を浮かべてたな」
苦笑しながら答える翔に。祐斗も苦笑してしまう。
すると―――
「おはよう、翔にアーシア、木場」
ゼノヴィアが教室に姿を現した。
三人がゼノヴィアに挨拶を返していると、翔と祐斗を睨みながら血涙を流す男子生徒二人がいた。
「お、おのれぇえ! アーシアちゃんだけではなく、新しく転入してきたゼノヴィアちゃんまでもが御剣と木場の毒牙に・・・ッ!!」
「何故だ・・・何故なんだッ!! 同じ男子でありながら何が違うと言うのだッ!! やはりイケメンには勝てないと言うのか!?」
「何時もと変わらずにいることに安心していいのか、してはいけないのか・・・」
「あはは。でも、何時もと違ったら違ったで心配しちゃうけどね」
二人の様子を見て、額に手を当てて呆れる翔と苦笑する祐斗。
「元浜と松田、お前らは相変わらず自分の欲望に正直すぎるんだ。捨てろとは言わんが、もう少し自重しろ」
疲れたように溜め息を吐きながら、翔は変態二人にそう告げる。
「自分の欲望に正直で何が悪い!」
「そうだ! 己の欲望を抑えるなど、男ではないッ!」
すると、丸刈り頭をした男子生徒、松田がくだらないことを翔に叫ぶと、それに続くようにもう一人の変態の片割れである眼鏡をかけた男子生徒、元浜が同調するように同じく叫ぶ。
「いやさ、お前らは自分らの普段の行いで、逆に女子から嫌われていることが理解できないのか? 別に煩悩を持つのは構わないさ、そこは個人の自由だ。だが、学校や公共の場では、それを控えろと言っているんだ。お前らの行いで、誰かしらが不快な思いをしているのを理解しろ、いいか?」
最後は若干目を鋭くさせて正論を言う翔に、変態二人は何も言えずにバツの悪い顔を浮かべる。
翔は別にこの二人は嫌いではない、むしろクラスの男子では祐斗の次に交流があると言ってもいい。まぁその半分ほどが彼らが覗き等をして女子生徒達との揉め事の仲介などだが・・・。
だが、それでも好感を持っているのは確かだ。松田は持ち前の身体能力の高さからよく少ない男子生徒の部活に助っ人として活躍しており、クラスのムードメーカー的存在である。逆に、元浜は松田とは違い、身体能力は平均より低いが、その分頭脳が秀でており、前回の中間テストでは上位10以内であった。そのため、周りの人間が勉強のことで分からないことがあると、教えている場面も少なくはない。
「お前らには、それぞれ誇れるものがあるだろ? 松田は身体能力が高いし、逆に元浜は勉強ができる。他人をひがむ前に己の武器を磨け。そうすれば、誰かがお前らに惹かれるさ、世界は広いんだ。お前達のことを好んでくれる奴はいくらでもいるさ」
叱りながらも優しく諭す翔の姿は、まるで出来の悪い弟を厳しくありながらも、ちゃんと導く兄のようだ。
クラスの全員が尊敬にも似た眼差しを送っていると、翔に一人の三つ編みの眼鏡女子生徒が違づいてきた。
「ししし、相変わらず兄貴肌が凄いよね、御剣は」
「桐生か・・・」
桐生藍華。同じクラスメイトであり、アーシアとゼノヴィアの良き友達である。
翔は別に彼女のことを嫌いでも苦手でもないが、悩みの種の原因ではある。
何故なら―――
「それでゼノヴィア。御剣にあの誘いは通じた?」
「いや、駄目だった」
ゼノヴィアに余計な知識を与えるからだ。それはゼノヴィア一人に限らず、アーシアにまでもが、彼女の餌食になっているのだ。それに加え、普段から女子でありながら下ネタを堂々と発言したりする。
だが、それ以外を除けば、学校に慣れていないアーシアやゼノヴィアをさり気なく気遣ったり、フォローしたりと、普通に良い人物なのだ。
翔と祐斗を除く男子生徒からは、黙っていれば美少女と呼ばれていたりもする。早い話、残念美少女と呼ばれる部類でもある。
「へぇ~、御剣は本当にそういうところはお堅いよね~。まぁ、すぐに誘いに乗っちゃうのもどうかとは思うけど・・・。まぁ、そこの毎日盛ってるサル共は論外だけど」
翔を一瞥した後、桐生は先ほどまで反省をした様子で黙っていた元浜と松田に視線を向けた。
「サルとはなんだ、サルとは!?」
「俺達は知能を持って、己の性欲に従っているだけだ!」
自分から振っておいて、突っ掛る変態二人を、適当にあしらいながら桐生はゼノヴィアとの会話を続けた。
「はいはい。それにしても、あれで駄目だったら、最後の手段しかない」
「ほう・・・その手段とやらは、一体どのようなものだ?」
「勿論、御剣が寝ている隙に無理やり襲いかかって既成事実を作れば・・・・・・って、あれ?」
ゼノヴィアと声を潜めて話していたのに、突然ゼノヴィアとは違う声が自身の後ろから聞こえて、言葉を途中で止めて、不思議そうな表情を浮かべていた桐生だったが、目の前にいるゼノヴィアが普段では早々見せない引き攣った表情を浮かべながら冷や汗を流しているのを認識して、桐生も同じように顔を引き攣らせて冷や汗を流し始める。
「ほら、どうしたんだ? 言葉を続けないのか?」
不意に桐生の頭に重みが加わる。それは人の手であった。
叫びたい気持ちを抑えながら桐生はゆっくりと首を動かして、後ろの人物の様子を確認した。
だが、それは失敗であったと後悔した。
彼女の瞳に映るのは、口元を緩めて優しい微笑みを浮かべた翔であった。ただし、その瞳はまったく笑っておらず、心底冷たいものが宿っている。
翔はゆっくりと桐生の頭の上に乗せた左手を締めていく。
「ああ、すまんな。左手は利き手じゃないから、手加減が出来んかもしれない」
「ぎゃあああああああああああ!!!!」
翔の最後の言葉に桐生は我慢していた叫び声を上げた。
クラス中の者達が翔から制裁を受ける桐生に合掌した。
もっとも、事の発端は桐生自身にあるため、合掌するだけで誰も助けようともしない。
「これに懲りたら、これからはもう少し控えろよ」
翔が桐生の頭を締めあげたのは、ほんの少しの間で勿論手加減もしてある。それでもそれなりに痛みを与えたが・・・。
頭を抱えて、痛みに悶える桐生を見ながら、翔は溜め息を吐きながらも笑みを浮かべていた。
翔自身、彼女とアーシア達が交友をして、見聞を広げるのは構わないし、むしろどんどん見聞を広めてほしいとも思っている。なんせ、アーシアとゼノヴィアはこれまで、ずっと教会にいたのだ。
普通の女子がこれまで経験してきたことを彼女達は経験していない。そのため、桐生はそんな彼女達に新たな世界を見せる良き友達である。
アーシアとゼノヴィアには今の学生と言う期間でしか経験できない様々な事、所謂『青春』ってのものを楽しんでもらいたいからな・・・
あいつには感謝しないとな・・・・・・まぁその過程で余計な知識を与えるのは少しばかり勘弁してもらいたいがな
翔は桐生に感謝しているが、余計なことまで事細かく教える彼女に内心で苦笑する。
桐生の頭の痛みはすぐにとれた。理由はアーシアがこっそりと周りにばれないように
朝のSHRまで、あと数分となり、誰かと話していたクラスの者達も自分達のクラスに戻ったり、席に着いたりし始め、翔達も自分の席に着こうと動き出したところ、ゼノヴィアが翔に近づいてきた。
「先日はすまなかった。どうやら私は翔のことを考えずに突っ走りすぎたようだね」
「先日・・・? ああ、プールでの出来事か。気にする必要はないさ」
突然の謝罪に、怪訝な表情を浮かべた翔だが、すぐにプールでの出来事のことを言っていると理解し、気にしていないことを告げた。
「私もきちんと段階を踏む事にした・・・・・・そこでだ」
両手で翔の手を包みこみ、ゼノヴィアはとんでもない事を言う。
「私と恋人になってくれ」
SHRも近づいており、そこまで騒いではなかった教室であったが、それが今のゼノヴィアの一言で一瞬で静かになった。
だが、それも束の間。一呼吸おいて、クラス中の全員が―――
『・・・・・・どぇぇえええええええええええええええええ!!!!!?????』
驚きの絶叫を上げて教室を震撼させた。
当の本人はといえば、返事も出来ずにゼノヴィアに手を握られたまま目を見開いている。
「やはり、戦闘でも初手が肝心だからな。まずは恋人になるところから始めよう」
して、返答は?と、ゼノヴィアに返事を求めよとしたところ、若干涙目のアーシアが最大級に焦った様子で、二人の間に割って入る。
「だだだだだ、駄目です! 翔さんとゼノヴィアさんが恋人だなんて・・・とにかく駄目ですぅぅ!!」
「うん、この際だ。アーシア、君も翔の恋人にしてもらったらどうだ?」
何でもないことのようにこんなことを言える辺り、彼女の肝が据わり過ぎているのが窺える。
「しょ、翔さんの恋人・・・?」
一瞬、ゼノヴィアの言葉にキョトンとしたアーシアであったが、次の瞬間―――
「えへへ・・・////」
顔を棗のようにさせてアーシアは別世界へとトリップしてしまった。
桐生が目の前で手を振ってみるが何の反応も示さない。
「アーシア~・・・・・・うん、駄目だこりゃ。んで、御剣。あんたはゼノヴィアにどう答えるの?」
桐生の眼鏡のフレームを光らせながら、黙っている所に追及する。
それが合図だったかのようにクラスメイト全員の視線が翔に集中される。
注目されている本人は、苦笑しながら告げる。
「・・・俺とゼノヴィアじゃ不釣り合いだ。前にも言ったが、俺よりいい男などこの世界にはたくさんいる。俺なんかよりもっと相応しい奴が現れる時が来る。さ、これでこの話は終わりだ。ほら、皆席に着け。授業が始まるぞ」
そう言い、ゼノヴィアの頭をポンポンと撫でてから自身の席へと座る翔。
そんな行動を見て、クラスメイトは驚愕する。翔は自分の評価を過小評価しすぎだと・・・。
翔は誰にでも優しく、よく色々な人の手伝いなどをしたりと、翔のお人好しはクラスだけではなく学園の全員が知っている。困っている者がいるのならば、教師や生徒関係なく、助けるため、女子はもちろん、男子からイケメンという事で嫉妬はされているが嫌われているわけではない。むしろ、面倒見がよく、兄貴肌も見せるため、尊敬や憧れている男子生徒も少なくはない。
なのに、翔は自分の行いをただの偽善だ、と自嘲しながら言う。
「おら~、席に着け。朝のSHRを始めるぞ~」
そんな気の抜けた声を出しながら、教室の前の扉から担任が入ってきて、強制的にこの話題は終わらせられた。
・
・
・
・
「一体何故、こんな事態に陥っているんだ・・・?」
珍しく訳が分からないと言った表情を浮かべて、現状を受け入れられない状態の翔がいた。
何故なら―――
「さぁ、皆さん! 今自分の手元にある紙粘土を使って、自身の中にあるイメージを膨らませるのです!」
黒板の前に立つ教師が熱く叫びながら、力説している。
教室の後ろには、生徒達の保護者がすでに来ており、その中には中等部及びその保護者も混じっていた。
朝のSHRを終えて、翔達のクラスの者達は最初の授業に向けて、準備をしていたのだが、何時もより早く教室に来た教師が持ってきた段ボールから袋に入った紙粘土を取り出すと、生徒の一人一人に配りだしたのだ。
別に紙粘土が可笑しいわけではない。美術の授業ならば、紙粘土を使った創作もあるだろう。そう
「―――英語の授業で紙粘土を使う必要がどこにある」
もっともな疑問をこぼす翔なのだが、その言葉は無駄に暑く燃え上がっている教師の声にかき消された。
「いいですか!渡した紙粘土で好きなものを作ってください!動物でも人でも家でもいい。自分が今思い描いたありのままのものを形創ってください!そういう英会話もある!!」
「あるわけないだろ・・・!!」
通常の授業とは違い、後ろには保護者等がいるため、翔は叫ばずに小さな声でそう吐き捨てる。
「Let’s try !!」
英語の教師のため非常に無駄に良い発音で告げる。
翔だけではなく、他のクラスメイト達も教師に冷めた視線を送っている。
「むぅ・・・難しいです」
隣から聞こえてくる声に、翔が視線を横に向けると、そこには真剣な表情で紙粘土を捏ねているアーシアの姿が映った。
他を見渡せば、誰もが諦めたように紙粘土を捏ねて何かを創りだそうとしていた。
アーシアは順応が早いな・・・
それにしても、保護者達は疑問の声を上げないのだろうか・・・
『相棒、もう諦めて現実を受け入れろ』
ドライグか・・・随分と久しぶりな気がするな
『ああ、最近は
劇的な変化、か・・・
って、言われてもな・・・この前のコカビエルの一戦でも至れなかったと言うのに、俺は本当に至れる可能性があるのか?
『相棒にとって、コカビエル自体は然程脅威ではなかったからだろうな、それが原因だろう。相棒が言っていた通り、相棒には何かしらの原因で力が封じられているようだな。コカビエルの一戦で死にかけから復活した際に、力は格段に上がった。あの状態ならば、コカビエル程度なら圧倒できたはずだ』
死にかけないと、解けない枷か・・・・・・随分と厄介なものだな
それでと、俺は毎回死にかけないといけない破目になる・・・
ドライグの言葉に内心で苦笑してしまう。
『いや、そうでもないぞ。あのフェニックスの三男坊とは死にかけずともゲームが終わった際に枷が外れただろ?』
ああ、そう言えばそうだったな・・・
あれはリアスを護れなかった、救えなかった自身に対する怒りで頭の中が占められてた時だったな
どうやら、この枷とやらも劇的な変化みたいなことで外れる可能性もあるようだな
『まぁ、今はそのくらいにして、何か創ったらどうだ?』
そうだな・・・
ドライグにそう言われ、頷きながらも手元にある紙粘土を袋から取り出し捏ね始める。
何を創るか・・・・・・これにするか
そう思いながら、何を創るか考えていた翔であったが、創るものの案が決まり、それの製作に取りかかった。
『相棒は何を・・・・・・ぬっ!? まさか―――』
どうやら、ドライグはいち早く分かったようだな
それもそうか、なんせ・・・・・・自分だからな
翔が創り出したのは一匹のドラゴンであった。
鋼のような肉体を持ち、それを支えるのは強靭な四肢。その四肢には全てを切り裂く鋭い爪。
背中には、どこまでも飛んでゆける逞しい大きな翼。全てを噛み砕く大きな顎に鋭い牙。エメラルドのような透き通った気高き誇りを宿した瞳。そして、その体全てが紅蓮の鱗に包まれていた。
ちなみに色は用意された染色で行った。
『俺を創り出すとはな・・・。それにしてもいい出来だ』
本人から褒められると自信がつくな
ちなみに翔の作品を見た他の者達は、あまりの完成度に授業そっちのけでオークションを開始したため、それを治めるのに苦労した翔。
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「そっちはそっちで大変だったみたいね」
「あらあら、少しばかり変な人のようですわね」
昼休みになり、翔とアーシア、ゼノヴィア、祐斗の四人は飲み物を買うために自動販売機に行くと、そこには少し疲れた表情を浮かべるリアスと、何時も通りの笑みを浮かべている朱乃の姿があった。
そこで、翔達は二人に一限の授業での出来事を話していた。
すると―――
「魔女っ子の撮影会だとぉおおお!」
「それは何としてもファインダーに収めねばならないぃいいい!」
全速力で翔達の目の前を走り去っていく、クラス・・・学園の問題児、元浜と松田。
その二人に続くように多くの男子生徒達も廊下を走っていた。
「魔女っ子・・・?」
「あっちは体育館に続く通路だったよね?」
変態二人の言葉に怪訝な表情を浮かべる翔と行先を推測させる祐斗。
「そうだな。・・・・・・正直関わりたくはなかったんだが、あの二人が問題を起こすと困るからな、仕方がないか」
軽く溜め息を吐きながら翔は体育館に向けて足を進めた。
祐斗達も翔の呟きに首を傾げながらも、後に続いていった。
ただ、リアスと朱乃だけは、魔女っ子と言う言葉に僅かに顔を引き攣らせていた。
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「ポーズお願いします!」
「こっちに目線下さい!」
翔達が体育館に着くと、カシャカシャとカメラのフラッシュ音と男子生徒達の喜びの声が耳に届いた。
「あれが魔女っ子だな・・・」
そう呟いた翔の視線の先には、体育館の檀上の上で次々とポーズを決めている女性がいた。
「『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』のコスプレか・・・随分と個性的だな」
「翔さん、お詳しいですね?」
「ああ、俺の契約者にあれ関連が好きな人がいてな。話を聞いているうちに自然と覚えていた」
アーシアの問いに答えながらも翔の脳裏に浮かぶのは、屈強な体躯を持つ漢の娘の姿が浮かんだのだが、すぐに頭を振って、それを振り払う。別に嫌いではないのだが、思い出す必要もないからだ。
すると―――
「オラオラ、天下の往来で撮影会なんかしてんじゃねぇぞ!」
何時の間にか現れた匙は男子生徒達の前に躍り出て、この馬鹿騒ぎを終わらせるように促していた。
「そんなの横暴だ!」
「生徒会役員だからと言って調子に乗るなよ!」
だが、魔女っ子に興奮していた男子生徒達は匙の言葉に耳を貸すことはなく、引き続き撮影会を始めただした。
「公開授業の日に面倒事を起こすな!」
匙は、さっきと同じように騒ぎを止めるように促すが、誰も聞き入れることはない。
それを遠目に見ていた翔は、やれやれ・・・と肩を竦めてから群がっている男子生徒達に近づいて行った。
「ほら、そのくらいにしておけよ。唯でさえ、公開授業で忙しいと言うのに、これ以上生徒会を困らせるんじゃないさ」
「うるせぇぞ!部外者は黙って・・・いろ・・・よ・・・・・・・・・」
文句を言いながら男子生徒達は振り返ったのだが、そこに翔がいたのを確認すると、血の気が引いたような表情を浮かべた。
「ふむ。確かに俺は生徒会には属してはいないが、多少の礼儀は心得ているぞ。別に盛り上がるのは構わないが、それは放課後とかにしてくれ―――それでいいか?」
『は、はい・・・』
僅かに眼を細めて告げる翔に、先ほどまで騒いでいた男子生徒全員が素直に頷いて、蜘蛛の子の様に体育館から散って行った。
「助かったわ、御剣。あいつらマジで言うこと聞かなかったから・・・」
「お前も生徒会の仕事で大変だからな、何か手伝えることがあったら言ってくれ」
そう言う翔に、匙は素直に感謝の言葉を述べる。
そして、先ほどまで壇上にいた魔女っ子に話しかけた。
「誰かのご家族の方ですか?」
「うん☆」
「そのような格好で来られると困るのですが・・・」
「えー、だって、これが私の正装だもん☆ ミルミルミルミルスパイラルー☆」」
匙の注意には耳も貸さずに、魔女っ子はステッキを振り回して可愛くポーズを取る。
あまりの行動に注意していた匙も、どうしていいのか分からず困惑した様子だ。
すると―――
「何事ですか? 匙、問題は簡潔に解決しなさいと何時も言って―――」
体育館の扉が開き、厳格な生徒会長・・・ソーナ・シトリーが現れた。
騒ぎに対処できていない匙を叱ろうと、視線を動かした時、魔女っ子を視界に収めると言葉を途中で止めてしまった。
「あ!ソーナちゃん!みーつけた☆」
現れたソーナを見るなり、魔女っ子は目を輝かせて、ソーナに抱きついた。
「ソーナちゃん、どうしたの?お顔が真っ赤ですよ?せっかくのお姉ちゃんとの再開なんだから、もっと喜んで『お姉さま!』『ソーたん!』って抱き合いながら百合百合な展開でもいいと思うのよ、お姉ちゃんは!」
ソーナのことを抱きしめた魔女っ子は、いったん離れてソーナに話しかける。
「なぁ、リアス。俺の勘違いであってほしいんだが、現魔王の一角のレヴィアタンは、確かソーナの姉だったと聞いているのだが・・・・・・まさか、あの魔女っ子がそれだとは言うまいな。あの人はソーナの従姉か何かだろ?」
「翔・・・現実を見なさい。今ソーナと話しているのは、セラフォルー・レヴィアタン様。現魔王の御一人よ」
頭が抱えそうになるのを必死に堪えながら、自身の記憶が間違いではないか、と確認するが、リアスはそれを否定する。
リアスはセラフォルーに近づき挨拶をする。
「お久しぶりです。セラフォルー様」
「あら、リアスちゃん。おひさ~、元気してましたか~?☆」
「はい、お陰様で」
「うん☆ もうソーナちゃん酷いんだから!どうして今日のこと黙ってちゃうの?お姉ちゃんショックで天界に攻め込もうとしたんだから!」
随分と物騒な言葉を漏らすが、冗談だろう。と言うより、冗談じゃなかったら洒落にならない。
「あ、お姉様・・・私はこの学園の生徒会長を任されているのです。いくら身内とは言え、そのような行動や格好は容認できません」
「そんなソーナちゃん!ソーナちゃんにそんな事言われたら、お姉ちゃん悲しい!お姉ちゃんが魔法少女に憧れてるって、ソーナちゃんは知ってるじゃない!この煌くステッキで、天使堕天使をまとめて抹殺なんだから☆」
「お姉様、ご自重ください。お姉さまが煌めかれたら、小国が数分で滅びます!」
「まぁ確かに魔王の一角が煌めいたらそうなるよな・・・」
二人のやり取りを見ながら、翔は遠い眼をしながらそう呟く。
学園にコカビエルが攻め込む前にサーゼクスさん以外にも魔王の要請を朱乃に頼んだが、朱乃があの時、断った理由は、こういうことだったのか・・・
妹を溺愛しているあの姉に、ソーナの通う学園に堕天使幹部が手を出したって話を聞いたら、悪魔と堕天使の戦争が始まっても可笑しくはないな・・・
その流れで再び三大勢力が大戦を起こす可能性もありうる
翔が現実逃避のため、先日の件を考察していると―――
「翔さん! 妹である私が許可します! すぐにこの人を殲滅してくださいッ!!」
「いや、それやったら、逆に俺が殲滅される」
「貴方ならば出来るでしょ!?」
「落ち着け、ソーナ会長。ゆっくりと深呼吸を繰り返すんだ。吸って・・・・・・吐いて・・・・・・」
色々と吹き飛んでいるソーナに、落ち着くように促す翔。
翔に言われる通り、ゆっくりと深呼吸を繰り返して、ひとまずは落ち着くソーナ。
「・・・すみません。少しばかり冷静さに欠けていました」
「いや、仕方ないさ」
申し訳なさそうな表情を浮かべるソーナに、翔は苦笑しながら答える。
「あら? 君が噂になってるドライグくん?」
すると、リアスと話をしていたセラフォールが翔とソーナの元に来た。
その際に、再び顔を引き攣らせたソーナ。
彼女的にはこれ以上、身内の醜態を晒したくはないのかもしれない。
「はい。自分がリアス・グレモリー様の《兵士》を授かっております、御剣翔です。御会いできて光栄です、魔王セラフォルー・レヴィアタン様」
「はじめまして! 私、ソーナちゃんのお姉ちゃんであるセラフォルー・レヴィアタン!☆ 別にそんな硬い口調じゃなくていいよ、気軽に『レヴィアたん』って呼んでね☆」
「それは御免蒙るが、普通に喋っていいのなら、そうするか」
本人から言われ、翔はすぐに話し方を何時ものにする。
「ふ~ん、確かに強いね~。でも、ただ強いだけじゃない・・・サーゼクスちゃんが気に入るわけだ☆」
急にじっと翔の顔を見たセラフォールは、何か納得したような表情を浮かべて、そう告げる。
「強くないさ。俺が強かったら・・・・・・いや、なんでもない」
途中で言葉を止めて誤魔化すように苦笑する。
だが、その表情には僅かな自嘲的なものが混じっていることにリアス達は気づきはしなかった。
「・・・そっかー☆」
一瞬、真剣な表情を浮かべて翔を見たセラフォルーだったが、すぐに笑みを浮かべる。
誰もセラフォルーの表情の変化には気づかなかったが、翔だけは気づいていた。
流石は魔王と言ったところか、薄っぺらい偽りの仮面など見破るのだからな・・・
『相棒・・・』
ドライグ、お前が気にすることはないさ・・・
気遣うように声をかけてくるドライグに、翔は気にしないように伝える。
すると―――
「やぁ、セラフォルー。やはり、君も来ていたか」
体育館に新たな来客があった。
この場にいる者達が声のした方へと視線を向けると、そこにはサーゼクスとリアスの父親であるグレモリー卿の姿があった。
「やっほー、サーゼクスちゃん。それとグレモリーのおじ様」
「ふむ、セラフォルー殿。これはまた奇抜な格好ですな 。いささか魔王としてはどうかと思いますが・・・」
「あら、おじ様☆ ご存じないのですか? 今のこの国ではこれが流行りですのよ?」
「ほう、そうなのですか。これは私が無知だったようだ」
「ははは、父上。信じてはなりませんよ」
サーゼクス達の登場で一気に明るい雰囲気になったのだが、あまりにも愉快すぎる会話に翔はわりと真面目に冥界が大丈夫なのか、心配になった。
「もう・・・耐えられません!」
遂に限界を超えたソーナが涙を煌めかせながら走り去って行った。
「待って! ソーナちゃん!」
「来ないでくださいっ!」
「お姉ちゃんを置いてどこに行くの!? 見捨てないでぇえええ! ソーたぁぁぁぁん!」
「『たん』はおやめになってくださいと、あれほど言ったじゃないですかぁあああ!!」
体育館から走り去って行く二人を眺めながら、翔は額に手を当ててリスに問いかける。
「リアス・・・魔王って全員がこうなのか?」
「ごめんなさい、言うのを忘れていた・・・と言うより、あまり言いたくなかったのだけれど、現四大魔王様方は、どなたもこんな感じなのよ。プライベート時、軽いのよ・・・酷いくらいに」
疲れたように告げるリアスを見て、昔から苦労していたと考えられる。
「魔王様は皆様、面白い方々ばかり・・・ですが、逆にそのご兄弟は例外なく真面目な方ばかり。
うふふ、きっと自由気ままなご兄弟が魔王様になったせいで真面目にならざるを得なかったのでしょうね」
「魔王になってそうなったのか、前からそうだったのか。・・・・・・きっと前者だろうな」
はぁ・・・、と溜め息を吐いていると、グレモリー卿が翔に近づいてきた。
「御剣翔くん」
「何でしょう?」
「今日は君の家に行こうと思うんだが、構わないか? 息子から君の料理は絶品だと聞いていてね。一度、食べてみたいのだが、どうだろうか?」
「光栄です。では、今日は腕によりをかけて作らせていただきます。それでは、そろそろ授業になりますので失礼させていただきます」
翔はそう言って、一礼しアーシア達と自分達の教室に向かった。
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「これは・・・・・・かつてないほどの地獄だわ」
顔を俯かせるリアスが深刻そうな表情でそう言葉を漏らす。
今現在は、翔とリアス、アーシアが暮らす家に、グレモリー卿とサーゼクス、グレイフィアの三人が招かれていた。
約束通り、翔が腕によりをかけて夕食を作り、全員で美味しい料理を堪能していたのだが、途中からサーゼクスとグレモリー卿がお酒を呑み始めたのだ。
そして、何時の間にか撮られていた翔とアーシアの授業の映像を見ていたのだが、リアスのに切り替わった瞬間、サーゼクスとグレモリー卿のテンションが最高潮に達したのだ。
「ハハハ! やはり娘の晴れ姿を視聴するのは親の務め!」
「見てください! うちのリーアたんが先生にさされて答えている!」
遂にリアスは昼間のソーナ同様、我慢の限界に至り、その場から逃げだす。
「耐えられないわ! お父様とお兄様のおたんこなす!」
スパーン!とグレイフィアにハリセンで張り倒される魔王サーゼクス・・・。
「はぁ・・・。アーシア、少しばかり席を外す。リアスの様子を見に行って来る。グレイフィアさんも後のことはよろしく頼む」
「分かりました!」
「お嬢様をお願いします。後のことはお任せください」
翔は騒ぐ二人を背にしながら、リアスの後を追う。
廊下を歩いていると、リアスは縁側に不機嫌そうに座っていた。
「リアス、取りあえず俺の部屋にでも入るか?」
翔がそう言うと、リアスは無言で頷き翔の部屋に入って行った。
リアスは翔の部屋に入るなり、元々敷いてあった布団の上に飛び込み、うつ伏せのままに黙る。
「子供じゃないんだから、あれくらいでいじけるなよ」
「・・・別にいじけてないわよ。ただ、恥ずかしかっただけよ」
それをいじけてるっていうんだよ・・・、と翔は言いそうになるが、その言葉を飲み込む。
ここでそんなことを言ったら、絶対に爆発すると悟ったのだ。
「まぁ、少しばかり愉快すぎるかもしれないな」
苦笑しながら翔がそう言うと、リアスはしばらく沈黙し、やがて起き上がり翔をまっすぐ見つめた。
「ねぇ、翔は私に出会えて幸せ?」
翔はいきなりの事で頭の上に疑問符を浮かべてる。それに構わずリアスは続ける。
「私は貴方と出会えて幸せよ。もう貴方の居ない生活なんて想像できないわ。光栄に思いなさい、私の心の中は貴方で結構占められているのよ?」
「それは光栄なことだな」
「真面目に答えて!」
少しおどけた感じに答える翔にリアスは言葉を強める。
「・・・本当はどう思っているの? 貴方は望んで私の眷属になったわけじゃない。偶然なってしまった。心の底では私のことを恨んでるじゃないの?」
泣きそうな表情で告げるリアス。
翔のことが好きなればなるほど、彼女の中では勝手に彼を自身の眷属にしてしまったと言う事実が大きく圧し掛かり、苦しんでいるのだ。
「そんなことはないさ。確かに断ったというのに眷属になったのは驚いたが、別にお前のことを恨んではいない。俺はお前やアーシア達と出会えて良かったて思っている。今の俺の周りは平和だ。少し前の俺だったら予想できないほどにな、これを普通は幸せって言うんだろう。・・・・・・でも、俺なんかが味わっていいものじゃない」
「翔・・・」
苦しそうに悲しそうに告げる翔に、リアスはただ名前を言う。否、名を呼ぶ事しか出来なかった。
彼女も翔の過去を少しは知っているが全てを知ったわけではない。
だが、それでも翔の過去は悲惨としか言えない。
幼い頃に全てを失い。僅かに残った『誓い』を愚直に目指す姿は見ていて痛々しい。
何時の日にか、彼は自分の理想のために死んでしまうのではないかと、考えたところでリアスは唇を噛みしめる。
「・・・・・・翔」
リアスはだんだんと翔の顔に自身の顔を近づけていくが―――
「悪いな」
それは翔に止められる。
リアスの額には、人差し指と中指で小突く形で翔の指が当てられた。
すると―――
「取り込み中のところ悪いが、リアス。話がある」
サーゼクスとグレイフィアが部屋に入ってくる。
「もう一人の《僧侶》について話をしよう」
報告。
第0章と第1章の脱字誤字の修正を行いました。
それに伴い、翔の眷属の場面を変えました。
読み返して、翔が進んで誰かの眷属になるのは不自然ではないか?と思ったからです。