ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~ 作:satokun
友人の家で久々にある漫画を軽く読んだら溢れ出る衝動を抑えきれませんでした!
次こそはエヴァの方も更新致しますので今しばらくお待ちください!
タイトルで何の漫画かわかっちゃいますよね?ww
またこの夢だ・・・
自分とどこか似た誰かが戦っている光景が映像として流れている
拳と額に橙色の炎を灯して戦うその男・・・
だが、その映像にはノイズが酷く、映像も荒れているため詳しいことが分からない
「・・・ッ。朝か・・・」
ゆっくりと沈んでいた意識が覚醒する。
上半身だけを起こして、先程まで見ていた夢の内容を思い出す。
だが―――
「やっぱり、上手く思い出せないな・・・。夢を見てる時は、はっきりと覚えているのに起きた途端、殆どが思い出せない・・・。一体なんなんだろう?」
不思議に思うのも束の間、彼は考えても仕方ないかと割り切って、完全に起きる。
軽く体を動かして、頭も体を完全に覚醒させて、動きやすい服装に着替える。
「今は朝の5時半か・・・。ちょっと寝過ぎたか?」
普通の高校生からしたらバイトでもないのにこんな時間に起きるのは十分早いと言えるが、彼は普段は5時に起きてるため、少し寝坊したうちに入ってしまうのだ。
日課のトレーニングをするために着替えた彼は、自身の部屋から居間に行く。
「おはよう。母さん、父さん。何時もの日課に行ってくるよ」
そこにある仏壇に飾られている写真に挨拶をする。
これで彼、沢田綱吉の1日が始まるのだ。
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「ごちそうさま」
合掌をしながらそう呟いたツナは使った皿を洗い、朝食を作るときに一緒に作っていた弁当を袋に包むと、それと水筒をテーブルに置き、制服に着替えため、自室に向かった。
数分ほどで身支度を整えた彼は弁当と水筒をカバンに入れて、再び仏壇に、行ってきます、と告げてから学校を目指した。
ツナが通うのは彼が住んでいる町にある一番大きな『駒王学園』と呼ばれる高校だ。
今は二年生であり、また始業式を終えて間もなく、通学路には未だに頑張って桜の花を咲かせている木々が見られた。
「そういえば、明日は土曜か・・・ってことは、フィア姉さんが来るのか。
別に様子を見に来なくても大丈夫なのにな」
今晩に自分の家に来るであろう女性を思い浮かべると、軽く悪態をつく。
だが、その口元は嬉しそうに緩んでいたことに本人は気づいていない。
彼は幼い頃に両親を失っている。
勿論、涙を流したし、誰かと会うことさえ拒んでいた時期があったが、母親の友人である彼女がそんな辛い時を共に過ごしてくれたからこそ、今こうして暮らしていることができているのだ。
親を失った彼に時には厳しくしながらも、ちゃんと愛情を与えてくれた女性。
ツナにとって親というより姉のような存在であった。
もう一人、似た存在が数年前にイタリアに住んでいた時期にいたのだが、今は共に暮らしておらず偶に連絡は取りあっているくらいだ。
だが、長期休みの時などを利用して彼女に会いにイタリアに行くこともあるため、まったく会わないわけでもない。
ただ、この二人は仲が良いのか悪いのか分からず、時々牽制し合うように睨み合うときがある。
そんなことを考えていると周りに同じ駆王学園の生徒がちらほらと見え始めた。
どうやら学園に近づいて来たようだ。
「おはよう、ツナ君」
「おっす! ツナ!」
「おはよう。朝から元気だな」
教室に着くと、同じクラスメイト達から挨拶をされ、それに返すツナ。
彼はクラスメイトのみならず、学園の者達から人気が高い。
学園の生徒達からは『駆王学園の二大イケメン』と呼ばれている。
ツナ自身、自分の容姿についてはあまり気にしていないため、何故そう呼ばれているのか不思議で仕方ないのだが・・・。
「おはよう、ツナ君。相変わらず、人気者だね?」
ツナが自身の机に荷物を置いて、椅子に腰を下ろすと、遅れて座ってきた者が話しかけてきた。
横に視線を向けると、そこには綺麗な光でも放っているかのような錯覚を受けるほど綺麗な金髪の持ち主が笑みを浮かべながら、ツナの隣の席に座っていた。
「おはよう、木場。お前のほうがそうだろう。女子の人気が凄まじいじゃないか。
流石は『駆王学園の二大イケメン』だな」
「それはツナ君もでしょ?」
「俺はなぜ自分が選ばれたのかが不思議でならないんだがな・・・」
そう言ってツナは肩を竦める。そんな彼に対して祐斗は苦笑いを浮かべる。
そこから二人は他愛のない話をして、朝のSHRが始まるまで時間を潰した。
ちなみに、その光景を同じクラスの女子は恍惚といった表情で眺めていたのは完全な余談だ。
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午前中の授業も全て終えて、昼休みの時間となり、ツナは屋上で自分が作った弁当を食べていた。
そんな彼の目の前には小柄な女性とが一人座っていた。
「よく俺がここにいるってわかったな、塔上」
「・・・ツナ先輩の匂いがしたので」
「匂いって・・・。動物じゃあるまいし」
まるで猫のような雰囲気を持つ、白髪の少女の言葉に呆れた声色で言葉を返す。
今一緒に弁当を食べているのは、ツナの一つ下の後輩である塔上小猫だ。
一年生の中で絶大な人気を誇る彼女。可愛らしい見た目と小柄な体躯であり、是非妹に欲しい!と思っている男子生徒は少なくはない。
ツナと小猫が話すようになったのは、つい最近であり初対面の時に―――
『何故か懐かしい匂いがします』
と言われてから、少しずつ話しているうちに何故か懐かれた。
彼女曰く―――
『傍にいるとポカポカします』
随分と抽象的な表現だが、ようはツナの傍にいると妙に落ち着くとのことだ。
それで彼女は週に何回かツナと共に昼食をとる時がある。
ツナは日によって食べる場所を気分で決めているため、特定の場所にはいないのだが、何故か彼女はそんな彼を見つけては一緒に昼食をとっている。
「ほら、今日は白身魚の唐揚げだ。横にあるタルタルをつけて食べてごらん」
ツナは自身の弁当に入っている唐揚げを何個か弁当の蓋に置くと、それを小猫に差し出す。
何時も無表情な彼女だが、その顔はどこか嬉しそうに感じられた。
もし彼女に尻尾があったならば、きっと激しく揺れているに違いないだろう。
「・・・いただきます」
小猫はゆっくり味合うように食べる。
「また腕をあげましたね。以前、食べた時よりもこの品のレベルが上がっています。
サクッとした衣に白身魚の奥にまで浸透した味がとてもマッチしています」
「お前は料理評論家かよ・・・」
呆れた表情を浮かべるツナに対して、ホクホク顔で自身のお弁当にある白米とツナがくれた唐揚げを食べてる小猫。
ツナは今日の弁当の量を多めに作って良かった、と思う。
昔から勘がいいのか、こういった場面が何となく予想できるため、小猫が来る日は殆どの確率で弁当の量を多めに作ってきているのだ。
「ツナ先輩。お弁当を食べないのなら私が食べるからください」
「お前、まだ食べるつもりかよ? そんなにいっぱい食べたいなら学食に行けばいいだろ」
駆王学園は学食のメニューも充実して、そのレベルも低価格のわりに高品質である。
学食のメニューもそうだが、学園の規模や設備を見ても、私立にしては学費が安いため、時々思うのはこの学園の経営者であり理事長である人の趣味でやっているんじゃないか?と疑ってしまう。
「学食の料理よりツナ先輩の料理のほうが美味しいです」
えっへん!とない胸を張って告げる小猫に、彼女の額をツナは右手の指で軽く小突く。
「お前が威張るな。まぁ、でも美味しいて言ってくれてありがとな。
あとちゃんと自分で食べるよ、流石に何も食べないで午後の授業を受けるのは辛いから」
「うぅ・・・」
小突かれた額を抑えながら軽く呻く小猫。
「・・・痛いです。この罪は重いですよ。だからツナ先輩の弁当の半分をください」
「もう少し控えるということを学べ、後輩」
そんな話を繰り広げながら昼食の時間は過ぎていった。
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午後の授業も消化して、放課後となった。
部活動がある者は、運動部はグラウンドや体育館で汗を流したり、文学部はダラダラと過ごすものも言えば、専門的な知識を深める者もいる。
ツナは何処の部活にも所属しておらず、放課後はバイトがある日はバイト先である喫茶店に向かったり、ない日は夕食の買い物をしたりと過ごしている。
さて、今日はバイトもないし夕食の買い物でも済ませるかな・・・
ツナは今晩のメニューを考えながら歩いていると―――
「あ、あの!」
「ん?」
突然、声をかけられ立ち止まるツナ。
声がした方へ視線を向けると、そこには腰まで伸ばした綺麗な黒髪の女の子がいた。
制服を着ているため、中学生か高校生のようだ。
彼女は頬を軽く赤く染めて、視線をツナに向けては行き場所をなくしたように視線を外したりと、落ち着いた様子を見せない。
そんな彼女の行動に怪訝な表情を浮かべるツナであったが、このまま無反応では話が進まないと思い彼女に問いかける。
「それで俺になんか用なのか?」
「はい。沢田綱吉くんで間違いありませんよね?」
「ああ、そうだけど・・・。それで再度聞くけど俺に用か?
間違っていたら悪いんだけど、俺と君とは初対面のはずだよな?」
「は、はい!そうです!えっと、いきなりで困ると思いますけど、前から綱吉くんのことが好きでした!私と付き合って下さい!」
彼女が告げた言葉に惚けた表情を見せたツナだが、すぐに彼女の言った言葉を認識して少しの沈黙の後に言葉を返す。
「・・・・・・もう一度言ってくれないか? 俺の耳が確かなら俺と付き合って欲しいと言ったように聞こえたんだけど・・・」
「は、はい!そうです!私は前から綱吉くんが好きでした!付き合って下さい!!」
「どうやら告白というのをされたみたいだな、俺は・・・初めての経験だ。どうすればいいんだろう?」
「えっ!?嘘でしょ!?こんな高物件、周りの女達は何考えてるの!」
先程までの清楚な雰囲気だった彼女だが、ツナの思わぬ発言でそれが消え去ってしまった、
「それが素なのか?」
「あ、やばっ・・・。まぁいいわ。そうよ!これが私の素の性格よ!文句ある!?」
自身の墓穴で猫を被っていたのがバレるが、あっさりと素の自分を曝け出す彼女。
「別に文句があるわけじゃないさ。ただ、そちらの素の方も十分魅力的だと思うけど?」
「なっ!?」
ツナの言葉に一気に顔を赤く染め上げる彼女。
「・・・何よ、そんな事言われたら、心に迷いができちゃうじゃない」
すぐに落ち着かせた彼女はツナには見えないように寂しそうな表情で小さく呟いた。
だが、すぐにその表情を潜ませて、彼女はツナに問いかける。
「ところでさっきの話は本当なの?」
「ん?」
疑問を疑問で返されたので若干苛立ったように再び問いかける。
「だから、今まで告白されたことがないってことよ!」
「そうだけど? そんなことで嘘ついて何か得でもあるのか?」
「ふーん・・・。(大方、こいつがものすごい鈍感で告白されたことにすら気づいてないって可能性が大ね。きっと彼に告白してきた子は遠回しに付き合いを申し出たけど、全部それをその通りに受け取ってきた訳ね・・・。不憫で仕方ないわ)」
色々と察したようで内心で呆れる彼女。
「それでどうなのよ?」
「ん・・・。その前に聞きたいことがある。君の名は何は? 話はまずそれからだと思うけど・・・」
「あ、あれ?言ってなかったかしら、それは悪かったわね。私の名前は天野夕麻よ」
「そうか、夕麻か」
名前を聞いたツナは考える仕草をする。
なんか彼女のことをほっとけない自分がいるんだよな・・・・・・何でだろう?
それに彼女は何かを隠している気がするのは気のせいか?
僅かに目を細めて、目の前にいる夕麻のことを見つめる。
先程から、ツナの頭の片隅に警報のようなものが鳴り響いている。
今までこんな経験は何度かあった。
その度に自身の直感に従ってきたのだが、そうすると危険を回避することができた。
だが、ツナはそうしなかったことのほうが多い。
何故なら、そうすればきっと自分一人は助かったとしても他の誰かが傷つくことになっていたからだ。
心優しい彼はそれを良しとはしない。
だから、いつも彼は困難な道に自分から頭を突っ込んできたのだ。
「まずは友達から始めよう? お互いに何も知らないし」
「そうね。じゃあ、明日暇かしら? デートでもしない?」
「デートって、そんな大袈裟なものじゃないよ。じゃあ、明日の13時頃に駅前に集合でいいか?」
「わかったわ。明日楽しみにしてる」
笑みを浮かべる彼女は本当に魅力的だった。
その笑みを見た男子はきっと彼女に魅了されてしまうんじゃないかと思われるほどなのだが―――
「ああ、俺も楽しみにしてるよ」
「ッ!?」
夕麻の笑みに笑みで返したツナの表情のほうが破壊力が凄まじく。
真正面からみた夕麻のほうが赤面をしてしまった。
「どうした?」
「な、なんでもない! それじゃ、この後用事があるから先に帰るね!」
やや早口でそう告げた彼女はツナに背を向けて、走っていった。
「何だったんだろう・・・」
走り去っていく彼女の背を見ながら先ほどの彼女に怪訝な表情を浮かべていたツナだったが、背後から悪寒が奔り、直観に従ってその場にしゃがむと頭上に襲い掛かった風圧。
視線を僅かに上げてみるとそこには先ほどまで自身の頭があった位置を通り抜けていく腕が二本見えた。
通り過ぎたのを確認したツナは立ち上がり、仕掛けてきた二人に呆れた表情を向けた。
彼の視線の先には鬼の形相ともいうべきほど嫉妬に捉われた表情を浮かべる男子生徒二人がいた。
「ツナーーーッ!!」
「何故貴様だけ!!」
「一体何の用だよ、松田に元浜」
ツナが名を呼んだ二人は彼と同じクラスの男子生徒だ。
松田と呼ばれたのは丸刈り頭の男子生徒は身体能力が高く、一見すると爽やかなスポーツ少年に見えるのだが、常日頃からセクハラ発言をしており、「エロ坊主」「セクハラパパラッチ」の別名で女子生徒からは蔑まされている。
元浜と呼ばれたのは眼鏡を掛けた男子生徒は一言でいえばロリコン。眼鏡を通して女子の体型を数値化できることから、「エロメガネ」「スリーサイズスカウター」の別名を持つ。また眼鏡を取ると戦闘力が激減する。松田とは違い、運動能力に乏しい。彼も松田同様に女子生徒から蔑まされている。
「俺たち友達だろ!?」
「そうだけど?」
何故か号泣しながらそう問いかけてきた松田にツナが言葉を返す。
「ならなんで、あんな可愛い娘と仲良く話しちゃってんだよ!?」
「そうだぞ、ツナ! 我らは熱い友情で結ばれた友! 女子とデート付き合うときは共にと約束したではないか!? あの言葉は嘘だったのか!!」
「いや、松田。俺が誰と話そうと俺の勝手だろ? それに元浜。確かにお前達とは友達だけど、いつ俺がそんな約束したんだよ。聞いたこともないぞ?」
二人の言葉にツナは至って冷静に返す。
流石に常日頃からこのような絡みを経験すれば慣れてしまう。・・・・・・いやな慣れだが。
「それに俺は知ってるんだぞ! お前が時たま昼休みの時に我が学園のマスコットである小猫ちゃんと二人でお昼を食べているのを!!」
「なん、だと・・・」
松田の言葉に元浜が呆然とした表情を浮かべて膝から崩れ落ちる。
ロリコンである元浜にとって、小猫という存在は崇拝する女神にも等しい存在である。
彼女が入学して以降、彼はしつこくというほどではないが、かなりの頻度で小猫に話しかけようとしているのだが、その度にその可愛らしい姿からは想像もできないような毒舌が襲い掛かってきた。
最初こそ容赦のない毒舌に心が折れそうになっていた元浜だが、それすらも喜びに変えてしまい、毒舌を吐かれるたびに悶えている彼の姿がよく目撃されている。
・・・・・・・・・まぁ、一言で言ってしまえば頭が可笑しいのだ。
「・・・き、貴様ぁああ!! なんと羨ま・・・けしからんことをしているのだッ!!」
「おい、今お前羨ましいといっただろ?」
怒りと嫉妬に燃えた元浜は立ち上がりツナの胸ぐらを掴みがくがくと揺らそうとするが、ツナはびくともせずにそのまま立っていた。
元浜はそのまま己の思いの丈をツナにぶつける。
それに対して、ツナは心底呆れた表情で返す。
「あの可憐な少女を誑かせて、お昼ご飯を食べさせてもらったり、膝枕とかしながらあの柔らかそうな髪を撫でていたりしているんだろ!?」
「いや、そんなことはない。逆に俺の弁当をあいつが食べてる」
「どっちにしろ、羨ましいわ!!」
もう隠す必要性を感じなかったのか、今度は正直にそう告げてきた元浜にツナは一度溜め息をつくと、彼の額にでこピンを放つ。
「ぬぅおおおおおおお!!」
ツナのでこピンを喰らった元浜は胸倉を掴んでいた手を放して変な叫び声と共にその場に沈み、額を抑える。
「さて、次は松田だな」
僅かに細められた視線にビクッ!?と身体を震わす松田。
「お前の疑問に答えると、先ほど話していた彼女は天野夕麻。色々とあって明日に一緒に遊ぶ事となっただけだ」
「えっ、それってデート・・・!?」
「いや、ただ単に遊ぶだけだ。まぁこれで疑問は解決しただろ。色々と騒がせてくれたお礼にお前にもでこピンをくれてやろう」
「俺は元浜とは違うぜ!」
でこピンの構えを取ったツナを見ると、松田は未だに痛みで悶えている元浜を見捨て、この場から逃げようとするが―――
「それはフラグっていうんじゃないのか?」
「のぉおおおおおおおお!!」
いつの間にか先回りしたツナによってちゃんとでこピンを喰らい、その場に沈んだ。
「2分もすれば痛みは引くから、大丈夫だぞー。んじゃ、また月曜日にな」
片手をひらひらと振って、その場から立ち去るツナ。
彼の背後には未だに額を抑えて蹲っている二人の男子生徒の姿があった。
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「特売が多かったから思わず買ってしまった・・・」
テーブルに置かれたレジ袋から特売と書かれたシールが張ってある商品の数々。
それを目の前にして唸るツナ。
松田と元浜を相手にした後、ツナは目的である買い物へと向かった。
今日は姉ともよべる存在が帰ってくるので、少し豪勢な夕食にしようとは思っていたが、スーパーのタイムセールで思ってた以上に良い品が多かったため、予定より多く買ってきてしまったのだ。
「とりあえず、今日中に使わないといけないのだけ使って、あとは明日にでも食べるか」
そういって、冷蔵庫に買ってきた品々を収めていると―――
「にゃー」
「うん? なんだ
足元にすり寄ってきた黒猫の鳴き声に気づき、ツナは持っていたものを全て冷蔵庫に収めると、黒歌と呼んだ黒猫を抱き上げる。
「猫は気まぐれっていうけど、お前は群を抜いて気まぐれだよな。
何時の間にかいなくなってたら、今度は何時の間にか帰ってきやがって」
黒歌の顎を指先で軽くなでながら、そう告げるツナに黒歌はまるで言っていることが分かっているかのように申し訳なさそうに小さく鳴いた。
「まぁ、最後にはちゃんと俺の元に帰ってきてくれよ。お前はもう俺にとって大切な家族なんだから」
優しい笑みを浮かべてそう告げたツナに黒歌は嬉しそうに鳴くとツナの頬を猫特有のざらざらした舌で舐めてきた。
「おい、くすぐったいぞ。おっと、そうだ。ちょうどにここに・・・」
舐められていたツナであったが、あることを思い出し黒歌を一度下すとキッチンの戸棚の中を探し始める。
「あった。ほれ、煮干しだぞ」
戸棚から取り出したのは煮干しであった。
それを黒歌の前に差し出すが―――
「にゃ!」
いらないといった風に鳴きながら顔をそらす黒歌。
「相変わらず、お前は俺の作った飯しか食べらないのか・・・。煮干し美味しいと思うんだけどな」
差し出した煮干しを食べなかったことにがっくりしながらツナは手に持っていた煮干しを自身で食べながら呟く。
「確かに煮干しとか鰹節の与えすぎは良くないって聞いたけど、猫の好物じゃないのか?
俺が作った飯は猫用じゃないのに好んで食べてるからあまり気にしてなかったけど、今度ペットショップにでも行って聞いてみるとするか」
黒歌のことを考えているツナであったが、それは無駄な努力と終ることになる。
それをこの時のツナは思ってもいなかったのは完全な余談だ。
「さてと、そろそろ夕食の準備を始めるか・・・」
裾を捲って、黒いエプロンをつけるツナ。
これは数年前の誕生日にイギリスに住んでいるもう一人の姉と呼べる人から貰った物だ。
なんでも、彼女が一から作ってくれたもので手触りがよくとても丈夫なためかなり良い素材が使われているのが分かる。
彼女曰く、愛を込めて一針一針丁寧に作ったのでとても素晴らしい加護があるとのことだ。
確かにこのエプロンを身に纏うと心が落ち着くのだ。
そのためツナもこのエプロンはかなり気に入っている。
「えっと、和食にしたいから定番の肉じゃがと・・・あとは黒歌もいることだし今が旬な鯛を柚子胡椒で焼いてみるか」
今日作るメニューも決まったのでツナは早速調理に入る。
あらかたの調理も終わり後は米が炊き上がるまで数分黒歌と軽く戯れていると、ガチャっと玄関が開く音が聞こえ―――
「ただいまー」
鈴の音のような綺麗な声が玄関から聞こえた。
ツナは黒歌を抱き上げ、玄関へ足を進めた。
「おかえり、フィア姉さん」
玄関に着くとそこには美しい銀髪の女性が立っていた。
その女性にツナは笑みを浮かべて言葉をかける。
「ええ、ただいま。ツナ」
ツナ同様にフィア姉さんと呼ばれた彼女はツナの姿を視界に収めると優しい笑みで改めて言葉を告げた。
「夕飯もう少しで出来るから、先に手を洗ってきて楽な格好になったら?」
「そうね。じゃあ、お言葉に甘えるわ」
靴を脱いで家に入る彼女はツナに抱きかかえられてる黒猫を見ると、ツナにバレないように鋭い視線を向けてから自身の部屋へと足を進めた。
すると、炊飯器の音が聞こえてツナは再びキッチンへと戻っていった。
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「「ごちそうさまでした」」
2人で仲良く合掌をする。
「じゃあ、皿洗っちゃうから」
「いいわよ。それくらい私に任せても」
「いいさ、フィア姉さんは仕事で疲れてるんだからお茶でも飲んでゆっくりしてなよ」
そう言ってツナは空になったコップにお茶を注ぎ足して、食べ終わった皿の全てを器用に流しに運んで皿を洗い始める。
「・・・あれから9年経つのね」
手持ち無沙汰となったフィア姉さんこと、グレイフィアはツナが入れてくれたお茶を飲みながら皿洗いをしてる彼の後姿を眺めながら感慨深く呟く。
ツナの両親が亡くなってからグレイフィアはツナの親代わりとして共に暮らすこととなった。
元々、面識があったから大丈夫だろう、と最初は思っていたがツナが負った心の傷は計り知れなかった。
ツナは誰にも心を開くことなくただ毎日涙を流し続けていた。
それをどうすることもできず、精々グレイフィアができたことと言えば、傍に居てツナをずっと抱きしめていただけだった。
私は本当に情けないわね・・・
あの子が辛かった時期に何もしてあげられなかった
昔の事を思い出して、彼女は奥歯を噛みしめる。
あの子は1人で立ち上がって、また歩き始めた
きっとこう言えば、あの子は私や周りのおかげって言うのでしょうけど、それは違うわ
グレイフィアはその時の光景を今でも鮮明に覚えている。
『グレイフィアさん・・・。―――俺生きるよ。
どれくらい生きてられるかわからないけど、父さんと母さんがくれたこの命ある限り精一杯生きてみるよ。
このままずっと泣いたままだったら2人が護ってくれたこの命に意味がなくなっちゃう。それにきっと2人はそれを望んでない。
父さんと母さんが俺のことを護ってくれたみたいに他の誰かを護っていきたいんだ。
このまま死ぬのは死んでも死に切れねぇって、そう思うんだ。
だから、グレイフィアさん・・・・・・いや、フィア姉さん。これからよろしく』
目元を腫らしながらも精一杯の笑みを浮かべながらそう語ったツナ。
とても8歳の子供の言葉とは思えない。
元々、他の子達に比べて精神が成熟しているところはあったが、あの一件を経て彼はますます他とは一線を画すほどの精神的成長を遂げたのだ。
あの時の出来事は幼い頃のツナにとっては、受け入れがたいと思い、グレイフィアや他の者達の力でツナの記憶を軽く改竄したのだ。
それは裏の世界に関わらせることを避けたためだ。
そのため、ツナは両親が死んでしまった理由を知らないのだ。
だが、彼の心の奥底にはしっかりと刻まれていたのだ。
―――父と母が命を賭して自身を護ってくれたことを。
今思えば、あの時から私とツナは本当の意味で家族になれたのね
昔のことを思い、黄昏ていたグレイフィアは洗い物が終わったツナの姿を見て、意識を戻すのだ。
「どうしたんだ?」
「いえ、ちょっと昔を思い出してね」
ツナの問いかけに対して、グレイフィアは優しい笑みを浮かべて答える。
ツナはいつの事を思い出したのかを察して、苦笑する。
「あの頃はフィア姉さんには迷惑ばかりかけてたからな。
あんま思い出さないで欲しいのが本音だ」
「そんなことないわ。私にとっては大切な思い出よ」
「・・・それは俺もだよ。フィア姉さん。俺は貴女に出会えて本当に良かったと思ってるよ」
ドクンッ!
優しい笑みを浮かべてそう言うツナにグレイフィアは胸が高鳴るのを感じた。
ああ、まさかよりによって奈々の息子に恋をするなんて人生分からないものね・・・
そう思い内心で苦笑してしまうグレイフィア。
以前、奈々に言われた言葉を思い出す。
『グレイフィア! もしかしたら貴女、ツナくんに恋するかもね?』
『そんなことはないわよ。確かにツナくんは将来有望だとは思うけど、一体いくつ離れてると思ってるのよ』
『うふふ、私の直感を舐めちゃいけないわよ。断言するグレイフィアはいつかツナくんに惹かれる日が来るわよ。母親であり友人である私が言ってるのよ?きっと当たるわよ』
舌を出しておどけたように言う彼女に当時のグレイフィアはまた彼女の好きな冗談だと思っていたが、共に暮らしていくうちにツナに何時の間にか惹かれていたのだ。
ええ、奈々。貴女の言う通りになったわね・・・
「ん?急に笑ってどうしたんだ?」
「いえ、何でもないわ」
でも、今はこの関係で・・・
彼の運命が動き出すまではこの心地良い関係のままで・・・
そう思ったグレイフィアはますます笑みを浮かべる。
それに対して、首をかしげるツナ。
「まぁいいや。それで明日なんだけど、昼頃からちょっと出かけてくる」
「あら、アルバイトかしら?」
「いいや、別件だよ。ちょっと遊んでくるんだ」
「遊びに? ・・・もしかして以前紹介してくれたエロ坊主とエロ眼鏡のことかしら?」
ツナの言葉を聞いて、グレイフィアは一瞬考えると頭の隅に以前ツナの家に予告なしで言った際に出会った二人の男の子を思い出し、顔をしかめた後、冷たい口調で問いかける。
「いいや、違うよ。それにしても未だにあいつらのことが嫌いなんだね」
グレイフィアの態度に思わず苦笑してしまう。
確かに彼女が松田と元浜に対してそういう態度をとってしまうのも仕方がないとは思っている。
ツナが中学生となってからは、以前から決まっていた通りに彼は一人暮らしをすることとなっていた。
一人暮らしといっても中学生になるまでグレイフィアと共に住んでいた家からツナが出ていくのではなく、グレイフィアが出ていくのだ。
だが、それを断固拒否したのは他ならないグレイフィア。
彼女の強い要望で土曜と日曜だけは共に暮らすこととなったのだ。
まぁ兎に角それで普段は家にいないグレイフィアなのだが、ある日たまたま仕事が休みでツナに用事があったため彼が学校に行っている間に一度家に帰って彼を待っていたのだ。
そのことを知らないツナは友人である松田と元浜が一度ツナの家に行ってみたいという強い要望に応えて、彼らを放課後に自身の家に招き入れたのだ。
―――そのタイミングが悪かったのだ。
グレイフィアは何時も通りツナが帰ってくると思い随分とラフな格好でいた。
ツナが玄関を開ける音を聞いたグレイフィアはすぐさまツナのもとへといった。
普段の彼女ならば、ツナ以外に誰かいるのも事前に察知でき、ちゃんと身嗜みを整えていたのだろけど愉快な上司と今まで一緒にいたツナに会えなくなったストレスで彼女の精神はかなり追い詰められていたため、何時もより状況把握能力は低下していたのだ。
結果見事にラフな格好をしたグレイフィアと思春期に入ったばかりの松田と元浜が鉢合わせ。
思春期に入りたての彼らは自身の欲望を抑えることは知らずグレイフィアに興奮した表情を向けて襲いかかろうとした。いや、きっと今でも欲望を抑えることは知らないと思われるが・・・。
兎に角、急に襲いかかってきた男子中学生というより、理性をなくしたエロ猿二匹を前にグレイフィアは容赦のない平手打ちをかましたのだ。
それにおり僅かに理性を取り戻した二人が最後に見た光景は、急いで家の奥へと行くグレイフィアと全身から黒いオーラをにじませながら満面の笑みを自身達に向けているツナだった。
そんなことがあってグレイフィアは松田と元浜にあまりいい感情を抱いてはいないのだ。
「まぁ、あの時はフィア姉さんも悪いよ・・・」
「それはそうだけど・・・」
ツナの指摘に気まずそうに視線をずらすグレイフィア。
そして、このままでは自身が不利だと悟り話題を無理やり戻す。
「・・・それであの二人じゃないってことは他に誰と行くのかしら?」
「ああ、天野夕麻って娘だよ。いやさ、今日放課後にいきなり告白されて、そのまま話してたら明日とりあえずお互いを知るために一緒に出掛けることになったんだ」
「なっ!?」「にゃっ!?」
目の前に座っていたグレイフィアはツナの言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべ、ツナの膝の上で丸くなっていた黒歌も同じように驚愕したような鳴き声を漏らした。
「そんなに驚くことなのか? まぁ、そんなわけだから昼過ぎから俺いないけどゆっくりしてていいよ。んじゃ、少しトレーニングしてるから先に風呂に入ってていいから」
それだけ言ってツナは自身の部屋とは別にトレーニング部屋として使っている部屋に向かった。
残っているグレイフィアと黒歌はツナの発言に未だに固まっていた。
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「はぁ・・・」
グレイフィアは湯船につかりながら大きな溜め息を吐いた。
ツナに言われた通り先にお風呂に入っているグレイフィア。
シミ一つない白い肌、黄金比を体現するかのような美しいその体。
長い銀髪は濡れないように結ばれていた。
「貴女も黙ってないでいい加減喋ったらどうです―――黒歌?」
目を細めて桶に溜められたお湯に浸かっている黒猫・・・黒歌に問いかけるグレイフィア。
「にゃははは、やっぱりあんたと話さないといけないみたいね」
すると黒猫は突如喋りだした。
その妖艶な声は聴くだけで魅了されてしまうのではないかと思われるものであった。
黒歌は桶から出ると、その体を突如光らせる。
光っている黒歌はその輪郭を猫からヒトの姿に変え、光が晴れるとそこには一人の女性が裸で立っていた。
グレイフィア同様シミ一つない柔肌を見せ、結ばれた黒髪の頭部には猫の耳が生え、腰には二本の尻尾がゆらゆらと揺れていた。
「それで私と一緒に風呂に入ってまで話したいことってにゃんなの?」
桶にお湯を溜めて全身にかけた黒歌は手にボディソープを取ると手で軽く泡出せて、全身を洗いながら問いかける。
「決まってるでしょ。『はぐれ悪魔』である貴女が何故未だにツナと一緒にいるのよ。
ツナがいるから貴女には何もしないけど、もしあの子を利用しようと思っているのなら容赦はしないわ」
全身から僅かに魔力を迸らせるグレイフィアに対して、黒歌は冷や汗をかきながら弁明する。
「そんなつもりなんてないにゃん! だから、その物騒な魔力は抑えて! あんたが暴れたら、いくら結界でこの空間を隠蔽しているって言っても限度があるにゃん!」
「・・・それもそうね。じゃあ、どういうつもりなの?」
あっさりと魔力をおさめるグレイフィア。
それを見て軽い脅しだと気づいた黒歌は深いため息を吐く。
そして、全身を洗い終えた彼女はシャワーで泡を洗い流して、桶にたまった水面に映る自身の顔を見つめながら自身の想いを語り始める。
「・・・私だってご主人様から離れないといけないなんて一番わかってるにゃん。
―――でも、駄目だった。ここにいちゃいけないのに、ここは私の居場所じゃないのに。そういくら思ってもご主人様のあの笑みを・・・家族として私を見てくれるあの優しい笑みが、温もりをくれるあの手が、私の心を搔き乱す・・・。何度もここから去ろうと思った。でも、気が付くと私は何時もご主人様のもとに戻っていたにゃ・・・。だって、ご主人様だけが唯一私に手を差し伸べてくれた存在だから・・・。
まるで大空のように優しく包み込んでくれるご主人様に私は囚われてしまったにゃん」
悲しそうに嬉しそうに語る彼女。
「・・・そう。貴女も大空に惹かれたのね」
「にゃ? それってどういう意味だにゃ?」
グレイフィアが呟いた言葉を聞いて黒歌は疑問の声を上げる。
「いずれ知ることになるわ。彼と運命を共にするなら、ね・・・」
全ては語らないグレイフィア。
黒歌もツナには何かしらあるというのは何となく察しているが、それを今は追求しない。
彼女だってグレイフィア同様、今の生活をできるだけ崩したくはないのだ。
「それにしても、天野夕麻って誰にゃん!?」
まじめな話も終わって二人がリラックスして湯船に浸かっていると突如黒歌が苛立ったように言葉を吐く。
「いきなり横からご主人をかっさろうとする不届き者には制裁を与えにゃいと!」
「落ち着きなさいよ。まだ付き合うと決まったわけじゃないのだから」
「グレイフィアは平気なの! そこの馬の骨も知らない小娘如きがご主人様とデートするにゃんて!
腕組んで街を歩いたり、お互いにご飯を食べさせあったり、そして最後には夕日が沈みかけている公園でキスなんて!?」
「・・・・・・・・・・・・」
黒歌の言葉を聞いて、グレイフィアは頭の中で想像する。
自身が知らない女とツナが仲良しそうにデートをする光景を・・・。
「・・・平気なわけないじゃない。今までずっと一緒に暮らしていたのよ?
イギリスに行ったときなんてあの女が私からツナを奪おうとするし・・・」
全身から怒りのオーラを滲ませるグレイフィアと黒歌。
だが、グレイフィア不意にそのオーラを潜ませる。
「でも、私はあの子、ツナの意思を尊重したいわ。
だから、この件に関しては何も関与しない。いいわね?」
「それは私も同じにゃん。別にご主人様を束縛するつもりなんてこれっぽっちもないにゃ」
グレイフィアの言葉に黒歌も同意してオーラをおさめる。
「―――でも、もしその小娘がツナを悲しませたら何をしでかすか私自身も予想できないわ」
心底冷えるような冷徹な笑みを浮かべるグレイフィアに黒歌は湯船に浸かっているというのに冷や汗が止まらなかった。
「じゃあ、私はもう出るにゃん。そろそろご主人様もトレーニングを終わらせる頃だし。・・・それにこのままだと湯船に浸かってるのに湯冷めしそうにゃん」
最後はグレイフィアに聞こえないように小さく呟いて黒歌は風呂から出て行こうととする。
そこにグレイフィアが一言。
「・・・この街で堕天使の一部が動き回ってるから精々滅せられないように気をつけなさい。SSランクのはぐれ悪魔、黒歌」
「忠告ありがとにゃ。最強の女悪魔、『
今度こそ黒歌はお風呂から上がり、脱衣所で体を拭いてから猫の姿に戻る。
「―――願わくば、もう少しこのままで」
グレイフィアの切なる願いを小さく呟くが、だが運命はそんな彼女の想いを嘲笑うかのように動き出していた。
・
・
・
・
「念のため30分前に来てみたけど、流石に早かったみたいだ」
ツナは左腕に巻いている時計に視線を落としながら小さく呟く。
土曜の12:40過ぎの時間にツナは昨日夕麻と約束をしていた駅前で彼女を待っていた。
ツナにしては珍しくいつもよりお洒落な格好をしていた。
何時もならば動き易さを重視したラフな服装なのだが、今日は以前にグレイフィアがコーディネートしてくれたカジュアルな服装である。
ツナ自身は普通だとは思っているが、周りから見ればツナはとても魅力的な男であり、駅前で待っている彼に話しかけようとする女性が何人か見られる。
「ごめん、待ったかしら?」
ツナが待つこと数分、清楚な雰囲気を残しつつ活発な女性とも印象を取れる服装の夕麻がツナの前に姿を現した。
「いや、そんなに待ってないよ。それにこういうのは男のほうが先に来てるもんなんだろ?」
「なにそれ? まぁ確かにそうかもしれないけど」
そういって笑みを浮かべる夕麻。
すると、急に頬を赤く染めながらチラチラと視線をツナに向ける。
一瞬怪訝に思うツナであったが、すぐに視線の意味を察知して、笑顔を浮かべながら夕麻に告げる。
「その服良く似合ってるよ。君らしくて俺は好きだな」
「ッ!? ふ、ふん! 似合っていて当然よ!」
ツナの言葉に一瞬満面の笑みを浮かべた彼女であったが、すぐに顔をそらして早口で言葉を放った。
だが、耳まで真っ赤にしている彼女を見れば照れ隠しなのは一目瞭然なのだが・・・。
それにツナは夕麻に気づかれないように苦笑をして、彼女に手を差し出す。
「ほら、時間が勿体無いから行こうか」
「ふん!精々、楽しませなさい!」
鼻を鳴らしながらそう言ってツナの手に己の手を重ねる夕麻。
彼女の表情は言動とは違って笑みを浮かべていた。
「ああ、途中で帰られないように頑張るさ」
こうして2人の交友という名のデートが始まったのだ。
そこから2人は商店街を回って服屋を見たり、途中で買ったクレープを片手に話しながら時間を楽しんだ。
途中で休憩がてら立ち寄った喫茶店でツナはコーヒーを夕麻は紅茶を飲みながら話をする。
「こうして話してみるとますますあんたが彼女がいないのが不思議で仕方ないわ」
「そうか? まぁ、俺自身がそこまで積極的に異性との交流を広げてないからだろ」
そう言うツナであったが、その言葉はある意味では正しいが間違いでもある。
確かに彼自身は彼女が欲しくて異性と交流をするつもりはなく、ただ単に困っている人がいたら一緒に仕事を手伝ったり、手を差し伸べてるだけなので、彼自身にそこまで自覚がないだけなのだ。
「ふーん。まぁどうでもいいわ。そのおかげで私は今日一日暇しなくて済んだんだから」
「確かにな。俺も天野とこうして話せてよかったと思ってるよ」
夕麻の言葉に苦笑しながらそう告げるツナに、夕麻は頬を紅く染める。
「・・・夕麻」
「ん?」
「今から私のことは夕麻って呼びなさい」
視線をツナに向けてそう告げてきた夕麻。
その頬は少し熱を持っていることに自覚をしながらも夕麻は真っ直ぐとツナを見つめた。
「―――夕麻」
ドクンッ!
名を呼ばれただけで心臓が飛び跳ねたんじゃないかというほど高鳴った。
「これでいいのか?」
「え、ええ・・・。(名前呼ばれただけでこんなに動揺するなんてね。でも、私は・・・)」
その問いかけに僅かに顔を紅くさせながら頷く夕麻であったが、すぐに内心で複雑な気持ちが駆け巡る。
そんな彼女の事をツナは寂しそうな笑みを浮かべる。
やっぱり、彼女は何か隠してるみたいだな・・・
それがどんなことだろうと俺は―――
互いが黙って自身の思考に落ちかけていると、そこに喫茶店のマスターが珈琲のお代わりを持ってきた。
「どうしたんだい、お互い黙っちゃって」
「士郎さん」
士郎と呼ばれたこの店のマスターは優しい笑みを浮かべながらツナの前に新たなカップを置く。
「はい、珈琲のお代わり。それにしてもツナ君がこんな素敵な女の子とデートしてるなんてね」
「ツナ君。ここのマスターと知り合いなの?」
ツナと夕麻はマスターに話しかけられて一旦考え事をやめて、マスターを交えて会話を再開する。
「そりゃ、俺ここでバイトしてるからね」
「えっ?あんたここでバイトしてるんだ」
「そうだよ。お嬢さん。彼はここでエースなんだから」
驚きの声を上げた夕麻の言葉にマスターが肯定するようにそう告げるとツナは苦笑しながらやんわりと否定する。
「それは言い過ぎですよ、士郎さん。確かに、ここで働かせてもらってから結構経ちますけど、俺なんてまだまだです。未だに士郎さんのように珈琲豆の美味しさを引き出せてませんって。それにお菓子だって桃子さんレベルには到達してませんし」
「確かにそうかもしれないけど、君の淹れた珈琲は評判良いんだよ。一口飲むだけで心の底から温まるような優しい味がするって。それにお菓子だってパティシエの桃子に匹敵するほど美味しく作れるし」
「そう言って貰えるのは嬉しいですけどね」
照れたように自身の頬を指で掻きながら呟くツナ。
すると、ツナ達の周りにいた常連客が士郎の言葉に同意するように声をかける。
「そうだぞ、ツナ。俺はお前が淹れてくれた珈琲が好きだぞ。
マスターにマスターの。ツナにはツナの良さがあるから」
「それにツナ君が考案してくれて低カロリーのケーキだって私の大好物なんだから。これは女子にとっては最高のお菓子よ? まぁ、ツナ君が作ったお菓子は全部美味しけどね?」
休憩時間によく来るサラリーマンやOL、様々な人達がツナに声をかける。
その表情はとても綺麗な笑みを浮かべていた。
「ははは、それじゃこれからもっと頑張らないとな」
周りの人達の言葉を聞いて、ツナはとても穏やかな笑み浮かべながら呟いた。
それを見た女性客のテンションが最高潮になる。
「これはレアよ!」
「はいキター。これで明日も戦える!」
「これだからここに来るのをやめられない!」
「・・・あんたすごい人気ね」
その光景を見て、僅かに引き攣った表情を浮かべる夕麻。
まぁ確かにお祭りでも何でもないのに狂喜乱舞している光景を見れば、彼女の反応は正しいかもしれない。
「ああ、そうみたいだな。ちょっと大袈裟かもしれないけど・・・。まぁでもここは俺にとって大切な場所だよ」
苦笑しながら夕麻に応えたツナだが、その表情は本当に穏やかであった。
「・・・それにしてもそこまで美味しいなら食べてみたいかも」
「流石にお菓子は無理だけど、珈琲や紅茶くらいなら淹れられると思うけど、どうする?」
小さく呟いたつもりだったのだが、どうやらツナには聞こえたようでツナはどうするか尋ねる。
「それじゃ珈琲を一杯頂こうかしら」
「ああ、了解した。いや、ここはあれか」
夕麻の言葉に一度頷いたツナであったが、何を思ったのか一度立ちあがて夕麻の傍による。
突然の行動に怪訝な表情を浮かべるが、それはすぐ崩れることとなった。
「畏まりました、お嬢様」
執事のように振舞って優雅なお辞儀をするツナに夕麻を含めて店内にいる女性が赤面をする。
それを無視して、完全に仕事モードへと入ったツナはカウンターにいる士郎に一言言って夕麻のために珈琲を入れる準備をする。
この士郎がマスターを務める『喫茶店 翠屋』は士郎が入れる珈琲は人気あり、その妻でパティシエである桃子が創るお菓子、その中でもシュークリームが絶品でツナが住む町では人気の喫茶店の一つである。
ツナはその喫茶店で働きだして今年で三年目となる。
中学生のころから働いていることになるが、彼の場合は幼い頃に両親が他界しているのに加え、丁度一人暮らしを始めたため、特例として中学校のほうから許可をもらっているため大丈夫である。
この店では普通は士郎がブレンドした珈琲を提供しているのだが、普段のものとはブレンドを変えた『ツナブレンド』という裏メニュー的なものが存在しており、その名の通りツナが担当しているメニューがある。
それは注文を受けてからツナがその人が今どんな珈琲を飲みたいのかをその場で考えてから淹れられる。
勿論、普段の珈琲も美味しいのだが、その一杯が飲みたくて通っている常連さん達もいる。
この『ツナブレンド』を飲むためには十個のツナポイントと呼ばれるポイントを貯めなければならない。
それは一回の来店ごとに1ポイント貯まるようになっており、会計時に押されるスタンプなのだ。
ツナが夕麻のことを想って珈琲豆を選出し、手挽き珈琲ミルを使って丁寧に豆を挽いていく。
他のお客さんから自分のも!という声が上がるが、それをやんわりと断るツナ。
粉状になった珈琲をセットしたペーパーフィルターに入れて、お湯を少し注ぎ、珈琲粉を蒸らす。
これにより含まれるガスが放出され、珈琲とお湯がなじみやすくなり、お湯の通り道ができる。これは珈琲の美味しい成分を十分に引き出すための大切な工程なのだ。
蒸らしを終えて、珈琲粉の中心に小さな『の』の字を書くようにお湯を数回に分けて注いでいく。
ツナが珈琲を淹れる一連の姿を見て、女性客は見惚れながら甘い溜め息を漏らす。
夕麻も今日見たツナとは違った一面を見ることができ、嬉しき思いながらも、その姿に見惚れていた。
「お待たせしました、こちらがオリジナルブレンドです」
一杯分の珈琲をカップに注いで、夕麻の前に差し出すツナ。
「い、いただきます」
夕麻は恐る恐るカップを手に取り、ツナが淹れた珈琲を一口飲む。
「・・・美味しい」
一言だけ飲んでそう小さく呟いた彼女は、そのまま無言で香りを楽しみつつ、珈琲を味わって飲んでいた。
そんな彼女の姿を優しい微笑みを浮かべてツナは見つめていた。
・
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・
日も沈み始めた時間帯にツナと夕麻は公園にいた。
あたりに人の気配はせず、まるでこの世界にはツナと夕麻の二人しか存在しないと錯覚させるほどであった。
「ねぇ、今日は楽しかったわ、ツナ君」
ツナの前を歩いていた彼女は振り返って、そうツナに告げた。
丁度夕日の光の影響でツナの視点からはいま彼女が浮かべている表情はよく見えなかったが、その声が僅かに震えていたことにツナは気づいた。
それに気づきながらもツナはそれに関しては何も言わずに、ただ肩を竦めて言葉を返す。
「それはよかった。これでつまらなかったって言われたは流石堪えるからな・・・」
ツナの言葉に対して夕麻は何も言わずに顔を俯かせながらツナに近づいた。
「・・・・・・ねぇ、ツナ君。お願いがあるの」
公園にある木々が風によって不気味にざわめく。
「・・・何だい?」
「―――死んでくれないかな?」
背筋が凍るような冷たい声でそう告げた。冷徹な表情を浮かべる彼女。
だが、ツナにはその表情は無理をしているようにしか見えなかった。
「それはどういうことだい?」
「・・・こういうことよ」
バサッと彼女の背から一対の黒い翼が生えると、可愛らしい服装から露出度の高い黒のボンデージ姿へと変わった。
彼女は軽く宙に浮き、ツナを見下ろしながら語る。
「私は堕天使。貴方を殺すために貴方に近づいたのよ」
さっきまでの口調とは別で冷たい声色で語る彼女であるが、それはまるで感情を抑えるためにあえてそうしているように感じられた。
「俺を殺すためにか・・・」
突然、殺されるかもしれない状況に陥っているのにツナは至って冷静な態度をとる。
「・・・もしかして気づいていたの?」
「何となくな・・・。最初に君が話しかけてきたときに、君の表情にどこか影を感じてな。
あとは勘だな」
「そう・・・」
僅かに目を伏せた彼女。
光で形成された槍を創り出し手に握る。
「ごめんなさいッ!!」
夕麻は伏せていた目を上げると、そこには大粒の涙を流しながら手に持った光の槍をツナに向けて投擲する。
ドォオオオオオオオンッ!!
大きな音を上げ砂煙が舞う。
それによりツナの姿は確認できない。
だが、夕麻は地面に降り立つとそのまま膝から崩れ落ちて、両手で顔を隠しながら涙を流す。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
ただ繰り返す謝罪の言葉。
思い浮かぶのは今日一日のツナとのデート。
最初の印象は他の男に比べれば顔がいいという印象しかなかったが、彼と会話するたびに不意に見せる彼の優しい笑みが言葉が心の奥底に染み渡るのを感じた。
そして、彼と共に商店街を歩くと、彼は色々な人から声を掛けられていた。
話を聞くと、そのどれもが彼の優しさに助けられた人達であった。
荷物が多くて運べなくなったお婆さんの荷物を家まで一緒に運んだり。
交通事故に巻き込まれそうになった子を身を挺して救ったり。
ひったくり犯を捕まえたり、と。
挙げたらキリがないが、彼はこれまで多くの人達を助けてきた。
本人は大したことはしてないというが、それは違うだろう。
確かにほんの一部を除けば、誰にでもできることだろう。
でも、それは誰しもが進んで自分からやることはしない。
何故なら得にならないからだ。
だというのに彼は進んでやる。
夕麻は彼に理由を尋ねてみた。
『どうして、そんなに他人を助けられるのよ?』
彼は困ったように笑い、そして穏やかな笑みを浮かべて応えた。
『俺の両親は俺が子供の頃に死んでさ。その事をあまり覚えてないんだ。
何で両親が死んだのかさえも俺には記憶がない。―――でも、一つだけ断言できることがある。
きっと俺の両親は、父さんと母さんは俺のことを護ってくれたってことだ。断言できるって言っても確証はないんだ。ただ俺がそう思っているだけでもしかしたら違うかもしれない。でもさ、もしそうだったら二人が俺を護ってくれたように、俺も他の誰かを護れるようになりたいって、そう思ったんだ』
そう語ったツナの笑みは本当に綺麗で、その瞳は一転の曇りもなく澄んでいた。
その時夕麻はこう思った。
彼と出会えて良かった・・・・・・でも、出会いたくなかったわ
矛盾した言葉。
だが、その意味が今ここでようやくわかる。
夕麻は止まらない涙を拭いながら晴れた砂煙の先に視線を向ける。
そこには自信が投擲した光の槍によって体を貫かれて横たわるツナの姿が―――
「えっ・・・」
―――なかった。
あったのは先程同様に夕麻を優しい笑みで見つめるツナの姿だった。
「な、んで・・・?」
戸惑いを隠せない夕麻。
あの速度で放たれた槍を普通の人間が躱すのは無理なはずだ。だというのにツナは未だ健在。
彼の体にはかすり傷すらもついていない。
「どうして・・・?」
「そんな悲しい顔している君を放っておくわけにはいかないだろ?」
「ッ!? ごめんない! 私・・・ッ!?」
優しく笑みを浮かべたツナの顔を見て夕麻は再び大粒の涙を流す。
そんな彼女にツナは優しく頭を撫でた。
すると―――
「たかが一匹の下等な人間如き始末できんのか?使えん奴だな・・・」
第三者の声が響いた。
「そうか・・・お前が夕麻に俺を殺すように指示を出したんだな」
視線を上げるとそこには、夕麻同様に背から黒い翼を広げた中年の男がいた。
「ドーナシーク様!?」
先程まで泣いていた夕麻もツナ同様に視線を上げて、その先にいた人物を見て驚きで声を上げる。
「ふん。お前がグズグズしているから私自ら来てやったのだ。ありがたく思うのだな」
ドーナシークと呼ばれた堕天使は随分と高圧的な態度でそう告げる。
「まったく、この機会にお前の弱さを克服させてやろうとした私の想いを無碍にするとはな・・・。
まぁいい。それ以外を除けばお前は中々優秀だ。今回の事は眼を瞑ろう。
おい、そこの人間。貴様はその身に
そう告げた男は夕麻と同じように光の槍を創り出すとツナに向けて放った。
だが、男の思惑とは違ったように事が進もうとした。
「ツナ君!」
夕麻がツナを庇うようにツナの前に躍り出たのだ。
「ごめんね。でも、私は貴方に生きてほしいって思うの」
それだけ呟いた夕麻は眼を瞑り、これから襲ってくるであろう痛みに覚悟を決めた。
さっきは自分の槍の投擲を躱せたツナであったが、次はそうはいかない。
自分より力のあるドーナシークが投擲した槍は自分のとは比じゃない。
だから、夕麻は自分の身を挺してツナを護ろうとした。
これだけ騒ぎを起こせば、この土地の管理者である悪魔が様子を確かめに来るはず・・・
ここはグレモリー家の次期当主が受け持っていた
情愛に深いグレモリーならば人間の彼をドーナシーク様から護ってくれるはずだわ
・・・ごめんね。こんな賭けみたいなことで貴方を助けようなんて
でも、私にはもうこれしか残されてないの・・・
許されるならもう一度―――
「―――貴方の珈琲が飲みたかったわ」
最後に呟いた夕麻。
死ぬことに後悔はない。だって、私を私で見てくれた彼を護ることができるのならば、喜んでこの命を捧げよう。
だが―――
「えっ・・・?」
軽い衝撃と共に後ろに下がる自身の体。
そのことに疑問を持った夕麻が目を開けると―――
「なんで、どうして・・・ッ!?」
後ろにいたはずのツナが自分の前におり、その腹部には深々と光の槍が刺さっていた。
背中まで貫通しており、ツナの血飛沫が夕麻の体を汚した。
「フハハッ! そういうことかレイナーレ! お前はわざと庇ったふりをしてこいつを誘導したわけだな!!」
「ち、違う・・・私はそんなつもりじゃ・・・」
まともに思考ができない彼女は弱々しくドーナシークの言葉を否定する。
貫かれた光の槍が消失し、崩れ落ちるツナの体を夕麻―――レイナーレは抱きとめる。
「いやよ・・・どうして私なんかを・・・」
自身の手が血で汚れるのをかまわず、レイナーレはツナの腹部に手を当てて血を止めようとするが、
その程度で止まるはずもなく、どんどん流れていく血・・・。
「何で、よ・・・。私は、貴方を・・・騙してたのよ・・・それなのに・・・ッ」
滲む視界など気にせずにレイナーレはツナに語り掛ける。
すると―――
「何、でって・・・。俺、が・・・護り、たかった・・・だけだ、からな・・・」
途絶え途絶えに言葉を紡ぐツナ。
彼は弱々しくレイナーレのほほに手を添えて、血の気が引きながらも笑みを浮かべる。
「貴方はッ! どうして、そんなに・・・ッ!?」
添えられた手を握ってレイナーレはツナを見つめる。
「ふん。たかが人間一人死んだことでそこまで取り乱すとはな・・・。もういい、私の計画が完成すれば貴様の代わりはいくらでも手に入る。ここで、貴様もろとも私の手で殺してやろう。精々、仲良く死んで逝け」
その言葉と共にドーナシークは再び光の槍を生み出すと今度はレイナーレに向けて投擲しようとするが―――
「そ、んな・・・ことは、させない・・・」
死に体を無理やり起こして、レイナーレの前に立つツナ。
パキッ!
ツナの首にぶら下がれている指輪に巻かれた鎖に罅が入るが誰も気づきはしない。
「ほう、よくその体で立ったと褒めてやりたいが、貴様なんぞが立ったところで何が変わるわけでもない。無駄な努力というものだ」
「もういいわ! ツナ君、これ以上無理をしたら!!」
「大丈、夫・・・だから・・・」
パキパキッ!
指輪に巻かれた鎖の罅が大きくなっていく。
まるで何か巨大な力に耐えきれないかのように鎖にどんどん罅が刻まれていく。
「ここで、俺が・・・倒れたら・・・お前は、迷わず彼女を・・・殺すだろう・・・」
「ああ、そうだな。そんな使えない者だど、傍に置いていても仕方がない。寧ろこれから邪魔になるだけだ」
「な、ら・・・俺は、ここで倒れ、るわけには・・・いかな、い・・・」
視界が霞み、満足に息ができない状況なのにツナは宙に浮いているドーナシークを睨む。
「ここ、で・・・倒れ、たら・・・」
「ふん。戯言は聞き飽きたわ。潔く逝け」
ドーナシークはツナとレイナーレに向かって今までより巨大な光の槍を投擲した。
後ろでレイナーレが何かを叫んでいるがツナの耳には届かない。
彼が意識を向けているのはレイナーレでも目の前に迫ってくる光の槍でもなく、ただドーナシークただ一人。
「―――死んでも、死に、きれねぇ・・・」
パキッ!!
その一言と共に指輪に巻かれた鎖が完全に砕け、ツナの全身が橙色の炎に包まれた。
―――なら死ぬ気でやってみろ
そんな声がツナの頭に響いた気がした。
・
・
・
・
「な、何が起きた!?」
突然の事態に驚きを隠せないドーナシーク。
だが、ツナの背後にいたレイナーレはツナの全身を包んだ橙色の炎を見てとても穏やかな気持ちになった。まるで一転の曇りもない綺麗な大空が目の前に広がっているのではないかというほど、心が落ち着いていったのだ。
やがて、ツナを包んでいた炎が晴れると、そこには腹部から大量の血を流していたというのに貫かれた傷は綺麗に塞がっており、先程まで立っているのがやっとであったツナは大地にその足を力強く踏みしめていた。
「ツナ君・・・」
「―――大丈夫だ」
レイナーレの言葉にツナは僅かに顔を振り向かせて、安心させるように微笑みを浮かべた。
彼の瞳は琥珀色から澄んだ橙色に代わっており、何よりも注目するのが、額に橙色の炎を灯していた。
「ドーナシーク。貴様を死ぬ気で倒す」
視線をドーナシークへと戻し、先程までの表情とはうって変わって、視線を鋭くさせて、ドーナシークを見据えるツナ。
「だ、だから、それが何だというのだッ!! 下等な人間はさっさと死ねぇえええ!!」
動揺を隠すこともせずに光の槍を手に持ち、突っ込んでくるドーナシーク。
だが、ツナは慌てることもなくただ自然体でその場に留まっていた。
「ツナ君、避けて!」
ドーナシークが手にもつ槍をツナに向けて振りかぶった。
レイナーレは叫び声をあげる。
だが―――
「なん、だと・・・」
呆然とした声を漏らすドーナシーク。
何故なら、容赦なく振り下ろした光の槍をツナは右手で受け止めていたのだ。
「この程度か・・・」
小さくそう呟いたツナは額に灯る炎と同じ炎を右手に灯し、光の槍を握り潰す。
「何ッ!?」
「眠れ」
右手に灯った炎をさらに強く灯して、ツナはドーナシークの顔面に思いっきり拳を放った。
「ぬぅおおおおおおおおおお!!!」
叫び声と共に遥か後方へ吹き飛んでいくドーナシーク。
「噓でしょ・・・。ツナ君にこんな力があったなんて・・・」
目の前で起きた出来事にレイナーレは呆然とした様子で呟いた。
「うっ・・・」
だが、うめき声と共にその場に崩れたツナの姿を見て、意識を戻し、彼女は慌てて、ツナの傍へと駆け寄った。
「大丈夫!」
その場に崩れたツナの頭を自身の膝にのせて彼の様子を確認する。
彼の額にはもう橙色の炎はなく、瞳の色も元の琥珀色へと戻っていた。
「ぅ・・・。夕麻・・・」
「ええ、そうよ! お願いしっかりして!」
小さな呟かれた言葉に反応してレイナーレは必死にツナに呼びかける。
それにうっすらと目を開くツナ。
そして、弱々しい動きでゆっくりとレイナーレの頬に左手を添える。
「あぁ、俺は護れたのか・・・」
それだけ呟いて一気に力がなくなったように地面に落ちる左腕。
「ツナ君!」
それを崩れ落ちる手を掴んだレイナーレは必死に呼びかける。
だが、それでもツナは目を覚まさない。
「ッ!? こんなになるまで私を・・・ッ!!」
不意にツナの右手が視界に入る。
それを見たレイナーレは絶句し、また涙を流す。
ツナの右手は先程の炎の影響か、軽く炭化しており、何とか原型をとどめている状態であった。
「ごめんなさい、ごめんない・・・ッ。私が貴方と出会ったばかりに・・・」
ただひたすら涙を流しツナに謝り続けるレイナーレ。
すると、すぐ傍に一つの魔法陣が形成された。
銀色で描かれたそれから感じる気配にレイナーレは悪魔のものだと感じ取った。
魔法陣が光り輝き、魔法陣から現れたのは銀髪の女性と着物を着崩した黒い猫耳が生えている女性であった。
「ッ!? ツナッ!!」
その二人の女性はレイナーレの膝に頭を預けているツナを視界に収めた瞬間、すぐに彼に駆け寄る。
「黒歌ッ! 貴女の仙術で治療を始めなさい!」
「そんなのわかっているわよ!」
黒歌は全身から仙術のオーラを放ってツナの胸に両手を添える。
「傷は塞がっているけど、思ってる以上にダメージが大きいにゃん! それにこの右手はもう・・・」
「ッ!? 家に『フェニックスの涙』があるわ! すぐに飛ぶわよ!」
「わかったにゃん!」
再び銀色の魔法陣を展開する銀髪の女性・・・グレイフィアはレイナーレの存在に気付く。
「貴方も来なさい!」
有無を言わせずにレイナーレの腕を掴むと、グレイフィアと黒歌、レイナーレ、そして眠っているツナはその場から消え去った。
・
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・
「何があったの・・・?」
グレイフィア達が去ってからすぐにここに転移してきた紅髪の美少女・・・リアス・グレモリーが思案顔で公園を見渡す。
そこには戦闘が行ったであろう形跡が残っており、先程まで誰かがいたのが確認できる。
「リアス、堕天使は既に去っているようですわ」
彼女に言葉を投げかける一人の女性。
黒い髪をポニーテイルにした美少女、姫島朱乃だ。
彼女達は、堕天使の気配を感じ取ったため、二人で調査のために反応があったこの公園に転移してきたのだ。
だが、少し遅かったため堕天使は既に去っていた。
「それにしても堕天使が誰と争っていたのかしら?」
「ええ、それが分かりませんわ。何か手掛かりがあれば・・・あら?」
言葉の途中で何かを発見する朱乃。
「どうしたの、朱乃?」
「いえ、ここにお財布が」
「財布・・・?」
朱乃の言葉にリアスは疑問の声を上げる。
確かに公園なら財布を落すものもいるかもしれないが、そうそう財布を落とすものなどいないだろう。
「まぁいいわ。とりあえず、中身だけ確認しちゃいましょう」
そう言ってリアスは財布の中身で持ち主を判断できるものを探す。
「これは、駆王学園の学生証ね・・・」
リアスと朱乃が通う高校、駆王学園。
その学園の学生証を財布から発見した二人。
「沢田、綱吉・・・。確か祐斗が言っていたクラスメイトだったわよね?」
「ええ、そうですわ。祐斗くんが珍しくお友達のことを話すんでよく覚えています」
何故、彼の財布がここに落ちているのかしら・・・?
祐斗の聞いた話ではまったく裏の世界とも関りがないと言っていたし
いや、誰も気づけないほど隠蔽に長けているのかしら?
色々と思考するリアスであったが、結局分からないことだらけなので、月曜日に祐斗に頼んでツナのことを部室まで連れてくるように伝えるようにした。