ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

30 / 40
お待たせしました!



第26話 龍殺しの聖剣。そして語られる過去・・・

 

「ここが朱乃が言っていた場所か・・・」

 

そういって見上げるのは神社まで続く石段。

 

「悪魔である朱乃が神社に呼ぶなんてな」

 

『そう珍しいこともないさ。日本神話の連中は他の勢力にはあまり興味を持ってないからな。裏で取引さえすれば、悪魔や堕天使だろうが気にしない』

 

「日本人も宗教とかには興味ないからな・・・。それと似たようなものだろう」

 

人目がないため、ドライグと話しながら石段を登っていくと、鳥居が見え始め、そこに巫女衣装に身を包んだ朱乃が立っていた。

 

「待たせてたみたいだな」

 

「そんなことはありませんわ」

 

翔の言葉に朱乃は何時も通りのニコニコとした笑みを浮かべて答える。

 

「それで、俺に会いたい人とは誰なのかな?」

 

「それはこの先に行けば分かります」

 

「先ってこの鳥居の向こうか・・・。悪魔のお前が入っても大丈夫なんだな」

 

「ええ、この神社は先代の神主がお亡くなりになり、荒廃していたものを裏の取引により悪魔でも入れるようにしていますので、大丈夫ですわ」

 

そう言いながら朱乃は実際に見せた方が早いと言わんばかりに、何の戸惑いもなく鳥居を潜るが、平然としている。

 

『言ったとおりだろ?』

 

そのようだな

 

少しだけ得意気に言うドライグに翔は頷きながら、朱乃に続くように鳥居を潜る。

鳥居を潜ると、そこには神社の立派な本殿が建っていた。随分と古そうではあるが、壊れていたり汚れている箇所は見当たらず、手入れが行き届いた。

 

翔が本殿を眺めていると、ある気配が近づいてくるのを察知する。

 

「この気配は堕天使・・・・・・いや、感じる気配からは神聖さを感じるってことは天使か。それも相当の実力者だ」

 

そう言った瞬間―――

 

「噂通りのようですね」

 

翔と朱乃ではない、第三者の声が聞こえた。

聞こえた声を辿ると、そこは空であり、一瞬怪訝な表情を浮かべた翔であったが、次の瞬間、翔の視界に金色の光が覆った。

 

翔が言った通り、神聖さを感じるその輝きは、ゆっくりと翔と朱乃の前に降り立った。

輝きが弱まり、その正体が姿を現した。

端正な顔立ちしながらもその表情は優しげなものであり、穏やかな雰囲気を放ちながらも、荘厳な空気を纏った金髪の男性。

周囲には黄金の翼が舞い、頭上には光る輪を輝かせていた。

 

「初めまして赤龍帝、御剣翔くん。私はミカエル、天使の長をしております。このオーラは、まさしくドライグですね。懐かしい限りです。それに貴方自身、抑えていますが、内に秘めるオーラが凄まじい」

 

ミカエルは優しげに微笑みながら翔に言葉をかけた。

 

熾天使(セラフ)を率いる天使の長とは・・・。随分と大物が来たものだな」

 

予想外の来訪者に翔は苦笑いを浮かべるのであった。

 

朱乃の先導のもと、翔とミカエルは本殿の中へと入っていった。

広々とした部屋に翔とミカエルは対面するように正座しており、朱乃は翔の少し後ろに控えるように正座をしている。

既にミカエルは翼を消しているが、頭上の光の輪だけは消えていない。

 

天使の長であるミカエルが座敷で正座をしている光景なんて、そうそう目にかかれるものじゃないな・・・

 

天使長であり、四大熾天使(セラフ)の一人を前にして、翔は呑気なことを考えている。

きっと、口に出していたらミカエルはその微笑みを引き攣らせることになるだろう。

 

「本日は時間を作っていただき感謝します。何分、時期が時期でして、中々貴方と会う機会がなかったので」

 

「それで天使長である貴方が、たかが上級悪魔の眷属である人間に何の用だ?」

 

「・・・その前に少し話をしましょう。先日は堕天使の幹部であるコカビエルを撃退していただき感謝いたします。そのおかげでこちらに聖剣が無事に戻ってきました」

 

「その代り、ゼノヴィアは追放されたがな」

 

礼を言うミカエルに翔は僅かに冷たい視線を向けながらそう返した。

 

「しょ、翔くん!」

 

天使の長に対して、あまりの物言いに翔の後ろに控えていた朱乃が、驚きながらも咎めるように声をかける。

流石のミカエルも目を見開いて驚いていた。

それに対して、翔は特に気にすることなく言葉を続ける。

 

「ゼノヴィアだけじゃない。アーシアも、貴様ら教会の勝手な考えで居場所を失い、命を落としかけた。無礼なのは百も承知で言う。―――貴様らは本当に天使なのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

翔の問いかけにミカエルは、ただ瞑目しているのみ。

朱乃は、どう対処すればよいか分からずに、ただ静止して事がどう進むかを見守る。

 

「・・・・・・・・・神の不在は知っていますね?」

 

しばらくの間続いた沈黙は、ミカエルの言葉で破られた。

 

「ああ」

 

「神の不在が公になれば想像できないほどの混乱が生じ、対処できなくなる。故に我々はその真実を隠すことにしました」

 

「確かにそうだ。神を心の依代としている者達にとって、神の不在は心の均衡を崩しかけない。天使達にもそのことが広まれば、堕天する者も出てくるだろうな・・・」

 

「その通りです。それに加え、神が消滅したため、神が作り出した『システム』だけが残りました。『システム』は加護や慈悲、奇跡を司り、それを神が用いることによって地上に奇跡をもたらしていました。それが神の奇跡。教会の者が使う、十字架や封魔弾といったものに宿る効果も、その『システム』によるものです」

 

「神が作ったもの故に、神でしか十全に扱うことが出来ない・・・ってところか」

 

翔の言葉にミカエルは顔を僅かに歪めながら頷く。

 

「貴方の言う通り、『システム』を神以外の者が扱うには困難を極めます。私をを中心に熾天使(セラフ)全員で『システム』をどうにか起動しておりますが・・・・・・神がご健在であった頃に比べると、神を信じる者達への加護も慈悲も行き届いておりません 」

 

「十全に扱え切れていない『システム』のため、聖と魔の均衡が崩れてしまう恐れがあった。故に、『システム』に影響を与えるかもしれない存在を遠ざけた・・・と?」

 

「はい。アーシア・アルジェントの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は悪魔や堕天使さえも癒してしまう神器(セイクリッド・ギア)。神の不在を悟られてしまう可能性があった。故に―――」

 

「異端者扱いをし、教会から追放した」

 

ミカエルの言葉に続くように言った翔の言葉にミカエルは頷く。

 

筋は通っている

これで異端の神器(セイクリッド・ギア)が存在する理由もわかる・・・

だが、その考え自体が違うなら・・・・・・始めから人間だけではなく、悪魔や堕天使が治療できる能力を持った神器(セイクリッド・ギア)が神自ら創ったとしたのならば・・・・・・・・・いや、この場でそれを追及することではないな。次の会談の時にでも言えばいい・・・

 

ミカエルの話を聞いて、自身の考えをまとめる翔であるが、この場で追及することではないと思い、考えを頭の隅に追いやる。

 

「こっちの勝手な都合でアーシア・アルジェントだけではなく、ゼノヴィアまで異端者扱いしたことを謝罪します。・・・・・・いえ、貴方に謝っても意味がありませんね。会談の時に直接本人達に謝罪の言葉を」

 

「別に俺は謝罪を求めたわけじゃない。・・・ただ貴方があいつらに謝るというのなら、俺からいうことは何もない」

 

「わかりました・・・」

 

「話を長引かせてしまって申し訳ない。それで今日は何の用で、俺を呼び出しなんだ?」

 

「はい。貴方にこれを託そうと思いまして・・・」

 

そう言って、ミカエルは立ち上がり、掌に黄金の魔法陣みたいなものを展開させると、ミカエルと翔の間に光を纏ったものが展開された。

 

『これは・・・!?』

 

ドライグが驚きの声を上げる。

 

光は徐々に形状を変えて、やがて一本の剣となった。

 

―――聖剣だ。

 

放たれるオーラは聖なるもの・・・。だが、ただの聖剣ではない。

 

『相棒、あれは龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖剣だ』

 

龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)

ドラゴンを殺す事を生業としている者達が持つ武具の総称だ。

このアスカロンは龍殺しの中でかなり有名なものだ。他には、アーサー王に仕えていた円卓の騎士、ランスロットの愛剣とされる無毀なる湖光(アロンダイト)や八岐大蛇を退治した時にスサノオが振るったとされる天羽々斬剣(あまのはばきりのつるぎ)などがある。

 

「ええ、ドライグの言う通り、これは龍殺しの聖剣、アスカロンです」

 

「アスカロンと言えば、聖人の一人であり、古代ローマ末期の殉教者、ゲオルギオス―――聖ジョージが持っていた聖剣じゃないか・・・。随分と有名なものを・・・」

 

まさかの贈り物に、流石の翔も目を見開いて驚きを示している。

 

「これから貴方用に特殊儀礼が施しますので、ドラゴンを宿している貴方でも扱えるはずです。貴方が持つというより、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に同化させるという表現の方が正しいかもしれませんね」

 

「いや、その必要はどうやらないみたいだ」

 

え・・・?とミカエルが疑問の声を上げるが、すぐに翔の言葉の意味が理解できた。

 

「ッ!? アスカロンが貴方を担い手と認めた・・・?」

 

アスカロンは翔に共鳴するように淡い光を放っているのだ。

 

始めから違和感を感じていた

龍殺しの聖剣だというのに、ドラゴンを宿す俺は何も感じなかった

敵意や殺意は感じない・・・むしろ、友好的な光を放っている。

 

「俺と共に戦ってくれるか?」

 

それに応えるようにアスカロンは強く輝くと、翔のもとへと勝手に飛んでいき、目の前で浮かんでいる。騎士が頭を垂れるように・・・。

 

翔はその様子を見て僅かに笑みをこぼすと、左腕に神器(セイクリッド・ギア)である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を顕現させると、左手でアスカロンの柄を掴む。

 

カッ!

 

アスカロンの聖なる輝きと赤い閃光が部屋を満たす。その場に居た、ミカエルと朱乃は咄嗟に目を塞ぐ。

目を開けるとそこには、左腕の甲から刃を生やした赤い籠手をつけている翔がいた。

 

「これは・・・」

 

ミカエルは目の前に起きた出来事に呆ける。

朱乃も翔の起こす出来事には慣れたつもりでいたが、まだまだのようだった。

そんな二人を余所に翔は自分の左腕を見つめる。

 

「どうだ、上手くいったか?」

 

『ああ。まさか、こうも簡単にいくとは思わなかったぞ。それに、普通ならば龍殺しだから最初は違和感があるはずだと思うが・・・・・・アスカロンがお前を完全に担い手として認めているから、まったく違和感がない。これならアスカロン本来の力が存分に使えるだろう』

 

ドライグがそう言うと、籠手に生えていた刃が収納されていく。

籠手から刃が無くなり、翔は左手を握ったり開いたりしてから、左手を左腰に持っていき、左手に右手を添える態勢をとる。そして、右手で剣を抜刀する動作をしながら、新しい相棒の名を呼ぶ。

 

「―――アスカロン」

 

振り抜いた右手には剣状態のアスカロンがあった。

 

「無事に成功したようですね。それにしても、まさか特殊儀礼を施さずに、担い手として選ばれるとは思いもしませんでしたよ・・・・・・いえ、報告では聖剣エクスカリバーを一時とはいえ、復元して見せた貴方ならば、当然の結果だったのかもしれません」

 

「何故俺にアスカロンを?」

 

翔の問いかけにミカエルは笑みを浮かべて答える。

 

「私は此度の会談、三大勢力が手を取り合う最大の機会だと考えているんですよ。すでにコカビエルから聞いているだろうから話しますが、我らの創造主、神と敵対していた旧魔王達は先の戦争で死んでしまいました。そして堕天使の幹部達も沈黙を貫いている。サーゼクスは勿論、アザゼルも建前上は戦争を起こしたくないと言っています」

 

サーゼクスさんもアザゼルも理解しているのだろうな

これ以上の争いは無意味に新貝の種族を滅ぼしていくだけだ、と・・・

 

内心でそんなことを考えながら、翔は話の続きを聞く。

 

「このまま小規模な争いが断続的に続けば、三大勢力はいずれ滅んでしまう。そうならなくとも、横合いから他の勢力が攻めてくるかもしれない。ですが、三大勢力は以前に一度だけ手を取ったことがあります」

 

「二天龍の討伐・・・」

 

悪魔、堕天使、天使が覇権を巡って戦争を行っているときに、二頭の馬鹿なドラゴンの介入によって戦争に水を差された。

 

「ええ。ですから、赤龍帝である貴方にアスカロンを授けようと思いました」

 

「何故、俺なんだ? 堕天使側には白龍皇もいるだろうに・・・、彼女はすでに禁手(バランス・ブレイカー)にも至っている」

 

「そうですね・・・。最初はそれも考えました。ですが、私は貴方に授けたことは正しい選択だったと思います。・・・貴方の瞳には計り知れないものが宿っている。貴方が何を抱えているかも知りません。でも、それ以上の覚悟が秘められている。貴方はコカビエルの時も町の人々のことを考え戦いました。誰かを護るために、救うために力を振るう貴方にこそ、この聖剣は相応しいと考えました」

 

「そうか・・・・・・贈り物、確かに受け取った。感謝する」

 

「いいえ。それでは私はこの辺で・・・、会談まで時間がありませんから。二人には会談の時に謝罪の言葉を・・・」

 

そう言って、ミカエルはこの場から去ろうとするが、そこに翔が声をかけた。

 

「あ、そう言えば、貴方に一つ訂正がある。・・・奇跡は『システム』がもたらすんじゃない、最後まで諦めずに足掻き続けた者が手に入れる勝利の結果だ」

 

最初ミカエルは首を傾げるが、翔の言った言葉に一瞬驚きを示したが、すぐに微笑みを浮かべながら言う。

 

「そうですね。私もそうだと思います」

 

ミカエルは微笑んで見せてから、全身を光に包んだ。一瞬の閃光が部屋に奔ると、翔と朱乃の目の前には既にミカエルの姿は無かった。

 

「どうぞ、粗茶ですが」

 

「ありがと・・・って、このやり取り前にあったな」

 

苦笑しながら言う翔に、あら、そうでしたね、と笑う朱乃。

ミカエルが去った後、翔は朱乃が自宅として住んでいる境内にある家へと足を運んでいた。

和室へと通され、お茶を出されてもてなされている。

 

「それで、俺に何か話でもあるのか?」

 

「ッ!?・・・・・・翔くんには隠し事はできませんね」

 

翔の言葉に朱乃はビクッ!と驚きを示したが、すぐに苦笑いを浮かべる。

そして、真剣な表情を浮かべて、真正面から翔のことを見つめて、口を開いた。

 

「私は堕天使の幹部の一人、バラキエルと人間の間に生まれた者です」

 

そこから朱乃は自分の生い立ちを語りだした。

 

この国のとある神社の娘だった朱乃の母親は、重症だった堕天使幹部であるバラキエルを見つけて、手厚く看病をしたことが出会いだったらしい。

その後の展開は、ありふれた恋物語のように二人は恋に落ち、その縁で生まれたのが朱乃ということだ。

 

語り終えた朱乃は巫女服をずらし、背中をさらけ出すと、漆黒の翼が広がった。

悪魔の翼と堕天使の翼が・・・。

 

自嘲気味な笑みを浮かべながら朱乃は堕天使の翼から舞い落ちた黒い羽を手に取る。

 

「忌々しい、穢れた翼。悪魔と堕天使、両方の翼を私は持っています・・・。この翼が嫌で私はリアスと出会って、悪魔になったの。なのに、生れ落ちたのは堕天使と悪魔の翼を持ったもっとおぞましい生き物。ふふふ・・・穢れた血が流れている私にはお似合いかしら」

 

己を蔑み、自信を否定する言葉。

 

「この話を聞いて、翔くんはどう思います? 堕天使のことは嫌いよね? アーシアちゃんを殺しかけ、この町を破壊しようとし、あまつさえ貴方を殺しかけた堕天使にいい感情を抱くわけ無いわよね」

 

顔を俯きながら、自嘲気味に言う朱乃。その体はわずかに震えている。

これまで黙って話を聞いていた翔がようやく口を開く。

己の本心を言うために―――

 

「で、だから何だ?」

 

え?と朱乃は顔を上げ、素で疑問の声を返してしまった。

それだけ翔の返答は予想外だったのだ。

 

「で、ですから、私は貴方に堕天使の血が流れていることを黙って、貴方に近づいたのですよ。私は最低なおんn―――」

 

「ほら」

 

「あうっ!?」

 

朱乃の言葉の途中で、翔は彼女の額を人差し指と中指を使って軽く小突いた。

その結果、朱乃は突然襲いかかってきた痛みに思わず間抜けな声を漏らしてしまう。

本気ではやってないが、それなりに強く小突いたため、朱乃は若干涙目になりながら額を手で押さえる。

 

「それ以上先は言わせないぞ」

 

「しょ、翔くん・・・?」

 

僅かに瞳に怒りを宿らせながら、そう告げる翔に朱乃は、ただ名前を返すしかなかった。

 

「あまり自分のことを否定するな。・・・確かに今は受け入れ難いものなのかもしれない。でも、お前が自身を受け入れないというなら、俺がお前を受け入れる。堕天使や悪魔、人間とかなんて関係ない。確かにそれらは個人を構成する上で必要な部分もあるだろうが、それはあくまでも後でしかない。堕天使や悪魔である前に、お前は朱乃だろ? 姫島朱乃なんだろ? なら気にすることなんてないじゃないか」

 

「ッ・・・!?」

 

朱乃の頬に一筋の涙がつたわる。

悲しいからじゃない・・・嬉しいのだ。こんな自分を受け入れ、肯定してくれて。

翔は朱乃の頬に手を添えて、涙を優しく拭う。

そして、微笑みを浮かべながら彼女を見つめ、言葉を紡ぐ。

 

「だから、そんな悲しいことを言うな、辛そうな顔をするな。俺はお前の笑っている顔の方が好きだ」

 

ドクンッ!

 

朱乃は自身の心臓が高鳴るのを感じ取った。

 

ああ、これはもう駄目だ・・・

この気持ちを受け入れてしまったら、もう抗えない

彼に見つめられるだけで、全身に歓喜の気持ちが駆け巡る

彼と触れ合っているだけで、こんなにも心が満たされる

彼が微笑むだけで、他のことなど、どうでもよくなってしまう

こんなの耐えられるわけがない・・・。男女がこの感情で破滅するのも理解できる

 

リアスとアーシアちゃんは絶対だとして、小猫ちゃんもいずれ惹かれるかもしれない・・・

だって、彼はこんなにも魅力的なんだから、身近にいて惹かれないほうが可笑しい

 

愚直に前へと進み続け、己の信念を貫き通し、例えどんな敵を前にしても臆することも絶望することもなく、ただ前を見据えて戦い続ける・・・

 

私はそんな彼に惹かれてしまった・・・

 

最初は三番目でいいと思っていた。でも、そんな馬鹿な考えはやめよう

だって、彼以上の人なんて絶対にいない・・・だから誰かに譲るなんて絶対に嫌だ

 

「・・・負けないわよ」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「いいえ、何でもないわ、翔くん。・・・いえ、これから二人っきりの時は翔って呼ぶわね?」

 

「別によほど酷い呼び方をしない限り、構わないが・・・」

 

「翔♪」

 

翔でも聞き取れない声量で呟いた朱乃は、翔の問いかけに満面の笑みを浮かべて答えた。

その笑顔は何時もの仮面のような笑顔ではなく、朱乃の本当の笑顔のように感じられた。

喋り方も何時ものとは変わっており、翔のことを名前で呼ぶときは、何処にでもいる女の子のようであった。

今見せている朱乃が、本当の朱乃の姿なのだろう。『オカルト研究部の副部長』でもなく、『二大お姉さまの片割れ』でもなく、これがただの『姫島朱乃』なのだろう。

プライベートの時に見せる一面とは、また違った一面を見せてくれた。

 

どうやら気持ちの整理ができたようだな、と思った翔は朱乃の頬に添えていた手を放して、離れようとしようとしたが、朱乃はそれを許さなかった。

離れようとした翔に、朱乃は逆に近づいてきた。というより抱きついてきた。

 

「朱乃、離れてくれると嬉しんだが・・・」

 

「嫌です♪」

 

翔の言葉に朱乃は満面の笑みで断る。

 

まぁ、今回ばかりは好きにさせるか・・・

 

そう思った翔は、抱き付く朱乃をそのままにして、空いている手で彼女の頭を髪を梳くように優しく撫でる。

数分の間そうしていたので、もういいだろうと思った翔は、朱乃に離れるように促すのだが―――

 

「嫌です♪」

 

先程と全く同じ返答を返された。

 

「いや、あのな? そろそろ離れないと―――」

 

「随分と楽しそうじゃない」

 

不意に部屋に響いた声を聞いた翔は諦めにも似た表情を浮かべながら顔を上げると

そこには―――

 

「二人して何をしているのかしら? 翔に朱乃?」

 

何時の間にか開かれていた襖には、限界を天元突破したオーラを纏うリアスが腕を組んで仁王立ちしていた。紅い髪は放たれるオーラの影響で逆立っており、その姿は阿修羅を連想させる。いや、放つオーラは阿修羅そのものと言ってもいいだろう。

 

実は少し前からリアスがこの部屋に近づいてきているのを察知していた翔であったが、特に言う必要もなかったので、言わなかったのだが、朱乃にそのことを言わなかったのを軽く後悔した。

言っていたのなら、これから起こる面倒事を回避できたかもしれない。

 

何故か、最近よくリアスと朱乃が軽い衝突みたいなのが起こる。衝突といっても、子供の軽い言い合いみたいなものなのだが、お互いに熱くなると周りが見えなくなるのか、魔力を用いた物理的な衝突を起こすのだ。

その度に、翔が二人を止めようとするのだが、それも一苦労。熱くなっていて話しかけても聞く耳を持たない。故に、最終的には翔が二人を軽く小突いて、強制的に止めさせることが多い。

 

だから、回避できることはできるだけ回避したかったのだが・・・後悔先に絶たず、とはこのことだろう。

 

「本当に油断も隙も無いわ・・・ッ!」

 

声を荒らげながら部屋に入ってくるなり、リアスは翔に抱き付いている朱乃を引き剥がそうとするが、朱乃は離れようとしない。

 

「あらあら、どうしたんですか? 今、私達は下僕同士の交流を深めているんですわ。だから、主はお下がりくださいませ」

 

「主が下僕を可愛がるのは普通だと思うけど?」

 

「貴方の場合、それが誰か一人に執心し過ぎだと思いますわ。―――悪いけど、リアス。私も本気で行くことにしたから」

 

「そう・・・。いずれはそうなるとは思っていたけど、こんなに早くだとは思わなかったわ。いえ、それは甘い考えよね・・・」

 

そういって、リアスは翔を連れて部屋から出ていこうとした。

その際に朱乃が―――

 

「誰でも一番になりうるわよ、リアス」

 

「そんなの分かってるわよ・・・」

 

そう呟いた。

リアスはその言葉を聞いて、一度立ち止まって、同じように小さく呟いた後、翔の腕を引っ張りながら、再び足を動かした。

翔は二人が言っている意味がよく分からずに首を傾げるだけだった。

 

翔とリアスは、何も話さずに石段を下りていく。

私は不機嫌です、というオーラを出しながらリアスは翔の先を歩いて行く。

コツコツコツッ!と響く足音にも不機嫌さが窺える。

 

翔は特に気にした様子もなく、後について行くのだが、不意にリアスが立ち止り、翔の方に振り向く。

 

「・・・・・・・・・」

 

真正面から翔のことを見つめるリアスに、翔はどうしていいのか分からず、少しばかり困ったように頬を軽く指で掻いていると、リアスはぷいとそっぽを向いてしまった。

女の子がいじけたような姿に、翔は内心で笑みをこぼしてしまう。

 

「・・・朱乃ばっかり」

 

そんな呟きが翔の耳に届く。

翔はリアスの呟きを聞き、まったく・・・と溜め息を小さく吐きながら、リアスの隣に歩み寄って、彼女の頭の上に手を乗せ、やや乱暴に撫でてから言葉を紡いだ。

 

「ほら、さっさと帰って晩飯の支度するぞ・・・・・・一緒にな」

 

翔がそう言うと、リアスは少し呆けた後、笑顔になって頷く。

そして、翔の腕に自身の腕を絡ませる。

何時もは避けたりするのだが、今日はリアスの好きにさせることにした。

 

純潔悪魔故なのかは分からないが、リアスは独占欲が強い

だから、子供が自分のおもちゃを取られた嫉妬と似たような感情を朱乃に抱いたんだろうな・・・

 

『やれやれ』

 

当たっているようで当たっていない考えをする翔に、ドライグは内心で溜息を吐いた。

だが、これはこれで見ているほうが楽しいので、ドライグは人知れず、笑みを浮かべていた。

 

『本当に相棒は楽しませてくれるな』

 

そんなことを思われているとはつゆ知らず。

翔はリアスと共に歩いて帰って行った。

 

「うわぁ、ここが翔先輩の家なんですね!」

 

翔に抱えられたダンボールの中から顔を出して嬉しそうに言うギャスパーに翔とリアスは苦笑する。

 

「そんなに楽しいところだとは思わないんだが・・・・・・まぁ本人が楽しそうならいいか」

 

「ええ、そうね。さて、早く夕食の準備しないと、今日は何時もの倍以上作らないといけないんだから」

 

翔の呟きを聞きながら、リアスは少し気分が高揚したような声色でそう言う。

 

神社から帰っている途中で、翔は夕食まで少しばかり時間があるので、買い物に行く前に旧校舎にいるギャスパーのところに顔を出すことにした。勿論、一緒にいるリアスもついて来た。

少し会話して買い物に行こうとした翔とリアスであったが、ギャスパーが、翔先輩の家に行ってみたいです!と言ってきたので、特に断る理由もなかった翔は、すぐに了承した。リアスもギャスパーが自分から我が儘を言ってくれたため、嬉しそうに了承した。

 

すると、ちょうどよく翔の携帯にアーシアから連絡があった。

なんでも、今は翔の家で、アーシア以外に小猫とゼノヴィア、祐斗の三人がいるようで、このまま夕食も一緒にしていいかと連絡が来たのだ。

ギャスパーも来ることだし、別に増えようが構わないと思った翔はリアスに了承を得てから、アーシアに大丈夫だ、と返信した。

その際に、どうせなら朱乃も誘おう、と告げた翔に、リアスは少し不機嫌になりながらも了承した。

 

「そうだな。特に小猫はよく食べるからな・・・」

 

苦笑いを浮かべながら、翔とリアスは両手一杯に持っている食材とダンボールに入ったギャスパーを携えて、自分達の家へと入って行った。

 

リビングにはすでに翔とリアス、ギャスパーを除く全員が集まっており、仲良く集まって、トランプをしていた。

 

「お帰りなさい、翔さん、部長!」

 

「ああ、ただいま。アーシア」

 

「ただいま。もう朱乃も着いていたのね」

 

「ええ、お邪魔してますわ」

 

二人がリビングに入ると、アーシアは入ってきた二人に気づいて、声をかける。

それに返す翔とリアス。リアスはすでに来ていた朱乃にも声をかけて、朱乃もそれに答える。

それに続き、他の者達も翔達に声をかける。

 

「じゃあ、お前らは寛いでいてくれ。客人だからな。アーシアも今日は手伝わないで皆とゆっくりしておいてくれ」

 

翔の言葉にアーシアは分かりました、返した。

 

「いえいえ、お邪魔になるんですから、私も手伝いますわ」

 

「いいのよ、朱乃。今日は翔と私が、ふ・た・り・で! 夕食を作るから、貴方はゆっくりしてて」

 

「あらあら、流石にこの人数を二人で作るのは大変でしょう。私も手伝いますわ」

 

二人、という部分を強調するリアスに、朱乃の額に青筋が浮かび上がるが、それでも笑みを崩さずに、もう一度手伝うと告げる。

すると、リアスと朱乃の間に翔が割って入って、朱乃に申し訳なさそうに告げる。

 

「すまないな、朱乃。今日はリアスと二人で作るって約束したから、今日のところは遠慮してくれ。

また次の機会にでも頼む」

 

「翔がそう言うなら仕方ないわね・・・」

 

翔の言葉を聞いて、朱乃は少し残念そうな表情を浮かべながら諦めた。

すると―――

 

「ちょっと、朱乃。貴方、何時から翔のことを呼び捨てにするようになったのよ!」

 

「あら、口が滑りましたわ♪」

 

いやいや、絶対わざとリアスの前で言っただろ・・・

 

朱乃の言葉に、翔は内心でそう思う。

 

「ほら、リアス。朱乃と睨み合ってないで、さっさと晩飯の支度をするぞ」

 

そう言って、翔は自分専用の黒いエプロンを身に纏いながら、キッチンへと歩いていく。

 

「そうね。あまり待たせるのも皆に悪いしね」

 

リアスも同じく自分用のエプロンを手に持って、翔へと続いた。

 

二人が作ったご飯は全員に大絶賛されて、翔とリアスは満足げな表情を浮かべるのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。