ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

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第28話 禍をもたらす者達。泣き虫吸血鬼の覚悟

 

目に見えない波動には、翔は覚えがあったため、今この場で何が起きたかを正確に把握している。

 

「小猫とアーシア、朱乃。そしてソーナは停止したようだな・・・」

 

動きを停めている四人を見て、翔は顔を僅かに歪める。

だが、アザゼルに話しかけられ、表情を何時ものに戻す。

 

「おい、赤龍帝。これはあの吸血鬼の仕業だよな?」

 

「ああ、そうだな。それ以外考えられない。・・・だが、あいつが自ら望んでやったわけじゃないぞ」

 

「そんなのは分かってるって。だから、そう睨むんじゃねよ。俺の言い方が悪かったから」

 

頭を掻きながらそう謝罪するアザゼル。

 

「翔、これがギャスパーがしたことなの・・・?」

 

翔とアザゼルの言葉を聞いて、()()()リアスは二人に怪訝な表情を浮かべながら問いかける。

 

「そうだよ・・・ったく、まるで計ったかのようなタイミングだったな。お前さんは赤龍帝に感謝しとけよ。咄嗟にそいつがお前の手を握ってなかったら、お前までもが停止されてたんだからな」

 

リアスの問いに翔の代わりにアザゼルが答える。

そんなアザゼルにリアスは、貴方には聞いてないわよ、と言いたげな表情を浮かべる。

それにアザゼルは苦笑で返す。

 

「他に動けるのは、祐斗とゼノヴィアか。二人は咄嗟にお互いの獲物を出して、邪眼の能力を無力化したようだな」

 

翔は動ける祐斗とゼノヴィアに話しかける。

 

「僕の場合は勝手に聖魔剣が反応してくれたって言ったほうが言いかもしれないね。

この剣が僕のことを護ってくれたんだ」

 

そう言って、祐斗は握っていた聖魔剣を優しげな眼差しで眺める。

 

「流石にあれだけ停められたら体が覚える。ギャスパーの能力を感じ取った瞬間にデュランダルを顕現させれば防げると思ったんでな、どうやら賭けは成功したようだ。・・・でも、隣にいたアーシアまでは無力化できなかった」

 

悔しげに顔を俯かせながら言うゼノヴィアに翔はポンポンと頭を撫でる。

 

「次から出来るようにすればいいだろ? 今は出来なかった後悔よりも今をどうするかを考えろ。

停止能力からは護れなかったが、停まっている彼女達を護ることはできるだろ?」

 

翔の言葉にゼノヴィアは顔を上げて力強く頷く。

 

「だが、問題なのは―――」

 

「何故、ギャスパーが暴走したの・・・?」

 

翔の言葉に続くようにリアスが言う。

 

そうギャスパーが暴走した理由だ。

翔達との訓練によって余程のことが起きない限り、今のギャスパーは暴走はしない。

だというのに何故、彼が暴走したかが重要だ。

 

「そんなのとっくに分かりきってるだろ。テロだよ、テロ。赤龍帝は停められる前に何かに気づいたようだがな・・・」

 

「ああ、ギャスパーがいる旧校舎に突然、複数の気配が出現したのを察知できた。動こうとした瞬間、ギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)が発動した。・・・・・・気づくのが遅すぎた」

 

無意識のうちに、翔は拳を強く握りしめる。

 

「いや、むしろ気づけたことに驚きだ。俺やサーゼクス達ですら、邪眼の発動は予測できなかった。・・・どんだけの察知能力だよ」

 

呆れたように言うアザゼル。

だが、その言葉の裏には、翔にあまり気にしすぎないようにという、彼なりの気遣いがあった。

翔もそれを察したため、一度深く息を吐いてから、気持ちを入れ替える。

怒りに呑まれるのではなく、それを深く呑み込み、冷静に状況を把握する。

 

「状況から察するに、今受けている襲撃はアザゼルの言っていた組織によるものだろう。

三大勢力の和平に不満を持つ者達が、この会談を潰す気なんだろうな。それにギャスパーが利用されたというわけか。・・・無理やり暴走させられたな」

 

可能性はいくつかある

何かしらの力によって神器(セイクリッド・ギア)の暴走を促したか、ギャスパーに精神的な攻撃を行ったか・・・・・・出来ればどれも当たってほしくはないがな

 

暴走された可能性を考察して、内心で舌打ちをする。

 

「そうだろうな。さっきは言えなかったが、組織の名は『禍の団(カオス・ブリゲード)』。ありとあやゆる存在が集まった集団だ。

どっかの誰かが無理やり禁手(バランス・ブレイカー)状態にしたんだろ?

神器(セイクリッド・ギア)の中にはお前の同様に自身の力を他者に譲渡出来るのもあるからな」

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』・・・。そんな組織が秘密裏に結成されていたとは・・・」

 

「ええ、迂闊でした。まさか会談の日にテロ行為を許すとは」

 

サーゼクスとミカエルは苦虫を噛んだような表情を浮かべて言う。

学園周辺にはサーゼクスとミカエル、アザゼルの三人が強力な結界を張っているため、外からの侵入は防げるし、仮に侵入してきたとしても、結界内部には各陣営が警備をしていたのだが・・・・・・今ではそれは意味がない。

何故なら―――

 

「外の警備をしていた奴らは全て停められたみたいだな。まったく、グレモリー眷属は末恐ろしいぜ」

 

窓の外を眺めながら、やや呆れたように呟くアザゼル。

 

そう。ギャスパーの暴走により、外で警備をしていた者達は、全員その体を停止させていた。

ギャスパーの潜在能力の高さが窺える。

 

だが、これによって今、学園の外を警備している者達は誰もいなくなった。

それはつまり―――

 

「手薄になったこの時を見逃すほど馬鹿じゃないようだな・・・。敵が侵入してくるぞ」

 

翔がそう言ったと同時くらいに、学園の校庭に幾つもの魔方陣が展開された。

 

―――転移の魔方陣だ。

 

魔方陣が光り輝くと、魔方陣から黒いローブを着込んだ者達が現れた。

 

「所謂、魔法使いって連中だな。悪魔の魔力体系を伝説の魔術師『マーリン・アンブロジウス』が、独自に解釈し。再構築したのが魔術、魔法の類だ。・・・威力から察するに中級悪魔クラスの魔力をもってやがるな」

 

出現した魔法使い達は一斉に翔達がいる学園に炎、氷、水、雷と様々な現象を魔力によって引き起こした、それらを容赦なく放ってきた

 

「あれが魔法使いか・・・。この世界の魔法使いは、俺の世界と定義が違うようだな・・・」

 

「へぇ~、その辺の話はまた今度にでもじっくりと聞きたいな・・・・・・ま、今はこの状況をどうするかってのが先だな。敷地内のどっかに外の転移魔方陣と繋げている奴がいるってことだな。それにしてもタイミングといい、手口といい、こっちの内情に詳しいやつが相手にいるってことだな―――どっかの誰かが裏切った可能性があるな」

 

後半は誰にも聞こえないように静かに呟くアザゼル。

 

「外で停止している者達を早く回収しなければ、今はこちらの結界を破壊しようとしていますが、停止している者達に手を出さないとは限りません」

 

「確かに・・・だが、どうやってそれをなすか」

 

ミカエルは外で停止ている者達の身を案じて、サーゼクスは思案顔で打開策を考える。

ここに転移してきてる魔法使いだけが敵ではないかもしれない。まだ出てきていないだけで、さらに強敵が潜んでいる可能性も捨てきれないため、サーゼクス達はどう動くかを慎重に考えなければならないのだ。

すると、今まで黙っていたヴァーリが何の戸惑いもなく言い放つ。

 

「旧校舎のテロリストごと問題になっているハーフヴァンパイアを吹き飛ばした方が―――」

 

早いんじゃないか?と言おうとしたヴァーリであったが、その言葉は続けられなかった。

ヴァーリのみに放たれる殺気・・・・・・それは思わず構えそうになるほどの鋭く、そして冷たいものだった。

彼女は表情を引き締めて、殺気を放ってきた人物へと視線を向けた。

 

「どうした? 最後まで言ってみるがいい・・・だがその瞬間、その口を強制的に閉じさせてもらうがな」

 

普段と特に変わらない表情は浮かべているが、龍のように鋭い視線をヴァーリに向けながらそう告げる。

翔と視線を混じらせたヴァーリは笑みを浮かべて、今にも襲いかかりそうな雰囲気を醸し出している。

 

「むしろ私としては願ったり叶ったりだ。君とは是非とも戦いたいと思っていたんだよ」

 

「少しは空気を読むってことを学べ、ヴァーリ。今ここで赤と白がぶつかってもらってじゃ困るんだよ。これから和平を結ぼうって時によ・・・」

 

「悪いけど、アザゼル。私はじっとしているのが性に合わないんでね」

 

「なら、お前は外に出て魔法使いどもを適当に蹴散らせ」

 

「私がここにいることは向こうも把握済みだと思うが?」

 

「それでもだ。白龍皇が出れば、多少は相手に動揺を与えられるし、そっちに注意が行けば、あのハーフヴァンパイアの救出も楽に進められることになる」

 

「・・・了解」

 

やれやれといった風に肩を竦めながらも、ヴァーリはアザゼルの言葉に頷く。

そして、その背中に青い翼を青い光の翼―――白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を展開させた。

光翼が眩しい光を放った。

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

静かな呟きであったが、翔にはやけに大きく聞こえた気がした。

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

ヴァーリの声に続いて、光翼から音声が響き渡り、ヴァーリの体に白い鎧が覆った。

それは何処かドラゴンを彷彿とさせるその姿。

 

―――|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》。

 

翔の宿す神器(セイクリッド・ギア)・・・赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の対となる存在の禁手(バランス・ブレイカー)

 

鎧に覆われたヴァーリは翔を一瞥した後、窓を突き破って上空から魔力弾を雨のように降り注いだ。

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)以外にも譲渡の能力がある神器(セイクリッド・ギア)があるんだな・・・」

 

「当たり前だ。恐らくどの勢力も神器(セイクリッド・ギア)の正確な種類と数を把握しているところなんてねえよ。てか、創った本人ですら分からねぇじゃねぇか?ってぐらい豊富にあんだよ。

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は、ほぼ無尽蔵の倍増能力と譲渡の能力を合わせている。これらはそれぞれ単独の神器(セイクリッド・ギア)が存在してるんだよ。『神滅具(ロンギヌス)』ってのは、どれも何かの能力と何かの能力を足したものばかりだ。

本来、組合せてはならない強力な能力同士が合わさってるんだよ。『神が構築した「神器プログラム」のバク、エラーの類から生み出されたのが『神滅具(ロンギヌス)』じゃないか?』ってのが、俺達『神の子を見張る物』の見解の一つだ」

 

アザゼルというより堕天使の考えにサーゼクスやミカエル達は神妙な表情を浮かべて頷く。

 

「そうなのか? 俺はてっきり、人間が自分達を護る(すべ)だと思っていたがな・・・」

 

「・・・どういうことだ?」

 

何気ない翔の呟きにアザゼルは興味深そうに訊く。

近くに居た者達も気になるのか耳を傾けている。

 

神器(セイクリッド・ギア)は『神滅具(ロンギヌス)』のように神さえ殺せるものもあるのだろ? それはつまり、『聖書の神』が他の神話の神や悪魔、天使、堕天使、妖怪、魔物といった存在達に人間が対抗できる様に遺したのではないのか? そいつらに人の世界が滅ぼされないように自分達の世界を護る(すべ)として、神がいなくても人間が生きていけるように・・・って、な」

 

『ッ!?』

 

翔の言葉に全員が目を見開いて驚きを示す。

 

「そうか、そう考えれば辻褄が合う! 自分を殺せる道具を何故人間に宿したのか・・・!!」

 

「ですが、それが真意かまでは・・・」

 

「くくく、俺も興味があるが、その話は後にしようぜ」

 

実際のところ、仮に人という種族の存続にかかわる出来事が起きたとしたのならば、『アラヤ』が黙ってはいない。人という種の存続のために『アラヤ』は守護者を召喚するだろう。

 

「そうだな。まずはギャスパー君を助け出さねば・・・。我々は結界の維持のために、ここから離れるわけにはいかない・・・」

 

「お兄様、私が行きます。私が責任をもって、下僕を取り戻しますわ」

 

強い意志を瞳に乗せたリアスがサーゼクスの前に進み出る。その行動が予想通りなのか、サーゼクスはふっと、小さく笑みを零すだけだ。

しかし、ここで問題がある。旧校舎までどう行くかだ。

ヴァーリが暴れているため、注意は新校舎に向けられているが、旧校舎に通常の転移も何らかのジャミングで阻まれているだろう。

 

「相手の虚をつく方法はないのか・・・」

 

思案顔でサーゼクスが呟く。

それに翔は、リアスに視線を向けて言葉を発した。

 

「あるだろ? ・・・王の入城がな」

 

「あっ! 旧校舎の部室に未使用の残りの駒である《戦車》があるわ!」

 

「なるほど『キャスリング』か・・・。それならば相手側に虚をつける」

 

翔の助言を受けて、、リアスははっとしたように思い出した。

サーゼクスもリアスと同じように翔が言いたいことが分かり、感嘆したように呟く。

 

キャスリングとは、《王》と《戦車》の位置を瞬間的に入れ替わる事が出来る。

これならば、普通の転移とは違い、相手にも邪魔されることなく転移できることが出来る。

 

「リアス一人で行くのは無謀だな。グレイフィア、『キャスリング』を私の魔力方式で複数人転移可能に出来るかな?」

 

「はい。リアスお嬢様と、もうお一方くらいなら」

 

グレイフィアがそう言うと、リアス、サーゼクス、グレイフィアの視線が一人に集中される

―――翔だ。

 

「ああ、言わなくても行くさ。約束したからな」

 

不敵な笑みを浮かべてそう告げる翔を見て、翔に惚れているリアスやゼノヴィアは勿論。この場にいたセラフォルーっとガブリエル、そしてあのグレイフィアですら、翔の姿に見惚れていた。

 

「おいおい、こいつは根っからの女誑しなんじゃねぇか?」

 

「翔くんを題材に何か作ることは出来ないだろうか?」

 

「彼の魂の輝きが素晴らしいということですよ」

 

アザゼルは呆れたように呟き、サーゼクスは真剣な表情で不穏な言葉を漏らし、ミカエルは微笑みを浮かべていた。

 

そんなトップの視線を背に感じながらも、それらを無視して、翔は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を顕現させる。

 

『Clothes!!』

 

そんな音声が宝玉から響くと、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を起点に赤黒い輝きが迸り、翔の全身を包み込んだ。

だが、それも一瞬ことであり、翔を包み込んだ輝きは消え去ると―――

 

「何時でも構わない」

 

そう告げた翔の服装は先ほどまで着ていた制服とは違い、ライザーとの勝負の際、そしてコカビエルとの戦闘の際に着ていた黒いロングコートのような独特の着物を身に纏っていた。

 

「そんな機能は従来の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)にはなかったぞ!?」

 

目を輝かせながら問い詰めてくるアザゼル。

周りにいる者達も興味津々の顔で翔に視線を向けていた。

特にサーゼクスは、少年のようなキラキラとした視線を向けている。

翔は苦笑いしながらも、軽く説明をする。

 

「前は基本、この服装でいることが多かったんだが、こっちに来てからは制服とかでいる時があるから、瞬時に着替えられないかと、試行錯誤していたら、俺の想いに神器(セイクリッド・ギア)が応えてくれたらしい」

 

「確かに神器(セイクリッド・ギア)は所有者の想いに応えるが・・・そう簡単にはいかないはずだ。

それに確か、他にも今までにはない機能を使っていた報告があったな・・・今代の赤龍帝は面白い進化をしているな・・・これは禁手(バランス・ブレイカー)も亜種で目覚める可能性が高いかもな」

 

ぶつぶつと呟きだしたアザゼル。

内容は翔の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)についてだが、一人でぶつぶつと呟き続ける姿は、少しばかり恐怖を感じてしまうのは仕方ないだろう。

 

「転移の準備が出来ました」

 

『キャスリング』による転移を二人に設定していたグレイフィアが言う。

 

「おっと・・・赤龍帝、これを持っていけ。これは神器(セイクリッド・ギア)の力を抑える能力がある。例のハーフヴァンパイアに使いな」

 

先ほどまでぶつぶつと自身の世界に入っていたアザゼルは、翔が転移をしようとしたのを見て、懐から腕輪を取り出し、翔に投げ渡した。

見覚えのない文字が彫られているが、それを除けばシンプルな形の腕輪だった。

 

「礼を言う、アザゼル」

 

アザゼルに礼を言いながら腕輪を懐にしまう。

隣にいるリアスはグレイフィアから特殊術式を施してもらっている。

そろそろ、転移が出来そうというところで、室内に新たな魔方陣が展開された。

 

「ッ!? この魔方陣は・・・!? そうか! 今回の黒幕は・・・・・・グレイフィア!

リアスと翔くんを早く転移させるんだ!」

 

新たに出現した魔方陣を見て、サーゼクスは焦ったようにそう告げた。

グレイフィアはそれに頷き、転移魔方陣を発動させる。

 

「お嬢様、翔様。ご武運を」

 

グレイフィアの一言に頷くと共に翔とリアスは魔方陣から放たれた光に包み込まれた。

 

翔とリアスの二人が転移された後、会議室には緊張した空気が張りつめていた。

 

「―――レヴィアタンの魔方陣」

 

サーゼクスの静かな呟きがやけに大きく響いた。

 

「ヴァチカンの書物で見た事があるぞ・・・・・・あれは旧魔王レヴィアタンの魔方陣だ」

 

ゼノヴィアは背筋に冷たい感触が伝わるのを感じながら、そう呟いた。

 

「ごきげんよう、偽りの魔王のサーゼクス。そして、天使長に堕天使総督」

 

魔方陣から現れたのは一人の女性。

胸元を大きく露出させ、深いスリットの入ったドレスを身に纏い、眼鏡をかけた褐色の肌を持つ女性。

 

「・・・先代レヴィアタンの血を引く者―――カテレア・レヴィアタン。これはどういう事だ?」

 

目を細めて、やや鋭い視線を女性・・・カテレア・レヴィアタンに向けるながら問いかけるサーゼクス。

それに対して、カテレアは表情を変えることなく淡々と告げる。

 

「旧魔王派の者達は殆どが『禍の団(カオス・ブリゲード)』に協力する事に決めました」

 

「新旧魔王サイドの確執が本格的になった訳か。悪魔も大変だな」

 

アザゼルは他人事のように笑う。

 

現在、悪魔は大きく分けて二つに分けられる。―――新魔王派と旧魔王派である。

ルシファー、ベルゼブブ、レヴィアタン、アスモデウスの四人が四大魔王として君臨していたが、先の大戦でその全てが亡くなってしまった。

そのため、魔王は先代の血筋ではなく当時最強であった悪魔四人へ引き継がれた。

 

だが、それを良しとしなかった者達がいた。

それが、旧魔王派と呼ばれている者達のことだ。

先代魔王の血筋であり、彼らは『先代の血を引く我らこそが次の魔王になるべきだ!』と主張し、強さだけで魔王を選出することを最後まで反対したのだ。

だが、結局それは通らなかった。

さらに、旧魔王派は他勢力との徹底抗戦を主張したため、新魔王派によって冥界の片隅へ追いやられた。

 

「カテレア、それは言葉通りと受け取っていいのだな?」

 

「その通りです。今回のこの攻撃も我々が受け持っております」

 

「カテレア、何故だ?」

 

「サーゼクス、今日この会談のまさに逆の考えに至っただけです。神と先代魔王がいないのならば、この世界を変革すべきだと、旧魔王派はそう結論付けました」

 

サーゼクスの問いかけに、カテレアは同様に淡々と告げる。

それにサーゼクスやアザゼル達、トップの者達は違和感を感じた。

だが、それは些細なもので特に気にせずに話を続けた。

 

「オーフィスの野郎はそこまで未来を見ているのか? そうとは思えないんだがな」

 

アザゼルの問いかけにカテレアは息を吐く。

 

「オーフィスは力の象徴としての、力が集結するための役を担うだけです。彼の力を借りて一度世界を滅ぼし、もう一度構築し、新世界を作り出して、旧魔王派達が世界を仕切るつもりです」

 

「・・・天使、堕天使、悪魔の反逆者が集まって自分達だけの世界、自分達が支配する新しい地球を欲した訳か。それのまとめ役が『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』・・・これはやっかいだな」

 

サーゼクスが思案顔で呟く。

 

「カテレアちゃん!どうしてこんな!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

セラフォルーの問いかけに、カテレアは彼女を一瞥はするが、それだけで特に何も言うことはなく、すぐに視線を外した。

 

ますます違和感が大きくなるサーゼクス達であったが、それが何なのかまで分からないでいた。

すると―――

 

ドォオオオン!!

 

突然、会議室の壁が破壊された。

 

「新たな襲撃か?」

 

アザゼルは怪訝な表情を浮かべながらも、何が起きてもいいように備える。

周りの者達もアザゼル動揺に何時でも動けるように備えていたのだが―――

 

「少しやり過ぎたか・・・」

 

破壊された壁から現れたのは、翔であった。

 

「ちょっと、翔! 降ろしなさいよ!」

 

「ふわぁ~翔先輩・・・速すぎですぅ・・・」

 

両脇にリアスとギャスパーを抱えて・・・。

 

『え・・・?』

 

誰もが、突然の出来事に頭の中が真っ白になった。

 

翔とリアスが『キャスリング』を行って部室に転移した。

一つの失敗を除けば、問題なく転移も出来たし、旧校舎に辿り着いた。

その失敗とは―――

 

「くっ! まさか直接転移してくるなんて!?」

 

「転移の警戒はしていたというのに!?」

 

翔とリアスの目の前には、黒いローブを身に纏った者達が数多くいた。

それに―――

 

「ぶ、部長! 翔先輩!!」

 

ギャスパーという人質がいる。

そのため二人は迂闊に行動がとれない。

ギャスパーは部屋の奥で椅子に座らされ、縄で縛られている。見たところ目立った外傷は見られない。

 

「ギャスパー!・・・良かった、無事だったのね」

 

ギャスパーの無事を確認し、リアスはほっと息を吐き出した。

 

「いきなり転移してきたから驚いたけど・・・いいのかしら? こっちにはこの吸血鬼という人質がいるのよ。下手に動けば、こいつを殺すわよ」

 

リーダー格と思われる魔法使いの女が奥から出てきて、縛られて動けないギャスパーの頭に杖を突き付けながら翔達にそう告げる。

 

「それにしても馬鹿よね・・・リアス・グレモリーは。こんな使えないハーフヴァンパイアをそのままにしておくなんて。こんな危なっかしいのは道具として使って有効活用した方が効率も良く、評価も上がるのでしょうに・・・。情愛深く力が強って旧魔王派から聞いていたけど、ただの馬鹿な女ね」

 

リアスを嘲るように笑いながら言う魔法使いの女。

 

「私は下僕を大切にしているの」

 

相手の侮蔑的な態度に対して、リアスは激昂することなく冷静に返す。

 

「・・・悪魔のくせに生意気ね。それに美しいなんて気に入らないわ」

 

女の魔法使いの嫉妬にまみれた言葉。

すると―――

 

「部長、翔先輩・・・もう、嫌ですぅ・・・」

 

今まで黙っていたギャスパーはボロボロと大粒の涙を零しながら言葉を紡いだ。

 

「僕は死んだほうがいいんです。お願いです、僕を殺してください。頑張って特訓したけど、結局駄目でした・・・。この力で誰かに迷惑をかけるくらいなら、いっそ僕を・・・」

 

「ほんとよね・・・。てっきり楽にことが運ぶと思っていたけど、意外と抵抗してくれてさ、このハーフヴァンパイア。おかげで無駄な体力を使ったじゃない! 私まで停めやがって、本当に気味が悪いわね!」

 

ゴンッ!

 

手に持つ杖で容赦なくギャスパーの頭を殴る女魔法使い。

 

「私の下僕を傷つけて! 万死に値するわ!」

 

ギャスパーを殴られ、激昂するリアス。

しかし、未だにギャスパーは捕えられたまま、翔とリアスは手を出すことが出来ない。

歯がゆい思いを押し殺すように、リアスは拳を握りしめる。

 

「・・・ギャスパーからの様子を見て、洗脳されたわけでもないところを見ると、貴様らは何かしらの魔術でギャスパーの過去を呼び覚まし、それを増長させて、精神を崩壊させた。そして、神器(セイクリッド・ギア)の力でギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)を暴走させた・・・こんなところだろう」

 

すると、今まで黙っていた翔が口を開いた。

 

「へぇ~、見事な推測よ。ええ、そう。貴方が言った通りよ。悪魔の眷属なんてって思ってたけど、貴方は中々イイ男じゃない。情報では貴方人間のままなんでしょ? なら、私の所へ来なさい。そんな小娘のところにいても退屈でしょ?」

 

翔の推測を聞いて、感心したように言葉を漏らす女魔法使い。

そして、翔の顔をよく見ると、気に入ったようで、自身に下る気はないかと提案してきた。

勿論、それを聞いてリアスが黙っているわけない。

 

「ふざけないで! 誰か貴方なんかに翔を渡すものですか!!」

 

彼の痛みも、想いも、背負っているものも知らない者に、翔を渡すことなのできない!

 

内心でそう思いながら、リアスは女魔法使いを睨みつける。

 

「誰もあんたに聞いてないわよ。私はそこにいる坊やに話しているの?

ねぇ? 黙ってないではっきり言ったらどうなの? そうすれば、そこにいる煩い小娘も現実を受け止めることが出来るじゃない」

 

もう彼女の中では、翔が自分のものになったと思っているようだ。

だが、翔はまるで聞こえていないといった風に、女魔法使いには目もくれずに、ギャスパーへと漆黒の双眸を向けて、静かな声で問いかけた。

 

「・・・また逃げるのか、ギャスパー・ヴラディ。部屋の封印を解かれた時のように、誰かを停めてしまった時のように、泣き叫んで拒み続けて逃げるのか?」

 

静かだが、よく通る声だった。答えに窮するギャスパー。

不意に翔の額に何かが派手な音を立てて直撃する。さっき翔に問いかけた女魔法使いが魔力弾を放ったのだ。

 

「翔!」「翔先輩!」

 

リアスとギャスパーは心配する声を上げる。

魔力弾が直撃した額からは鮮血が流れ落ちる。

翔ならばあの程度の不意打ちを喰らうこともないし、例え喰らっても咄嗟に防ぐことも出来るはずなのに、翔はそれをせずに無防備な状態で攻撃を受けたのだ。二人が心配するのも当たり前だ。

 

「ふん! 私の質問を無視して、こんなハーフヴァンパイアに話しかけるなんて、苛つかせる坊やだわ。もういい、あんたみたいな礼儀知らずなんていらないわ。リアス・グレモリー諸共―――」

 

殺してあげるわ、とは続けられなかった。

 

「―――少し黙っていろ」

 

ゾク・・・ッ!?

 

脳に直接届くように感じられた鋭く冷たい声。

翔の言葉により、女魔法使いを含め、ギャスパーの周りを囲っていた魔法使い達も無意識のうちに一歩、後方へと下がっていた。

人は恐怖すると、それから逃げようとする本能が働く。今の彼らはまさに意識する前に本能が悟ったのだ。

 

―――自分達では目の前にいる男には勝てないと・・・。

 

背中に冷たい感触を感じながらも魔法使い達は、怯えたことを素直に認めるずに、翔を睨み返す。

それらに翔は反応せずに、ギャスパーを真っ直ぐと見つめるだけ・・・。

すると―――

 

「ギャスパー! 私に何度でも迷惑をかけてちょうだい! 私はその度に貴方を叱ってあげるし、その度に慰めてあげる! そう何度だって!―――私は決して貴方を離さないわ!!」

 

リアスは厳しくも、優しさが籠った声で語りかける。

 

「さぁ、どうする! 今こそ決断する時だ。死んで楽になるか、生きて悲しみと戦うか・・・自分の心で感じたままに、物語を動かす時だ!」

 

翔の問いかけの言葉を聞いて、ギャスパーは顔を俯かせる。

 

「・・・・・・たい」

 

―――小さな呟きが部屋に響いた。

 

「・・・僕は、生きたいです! 翔先輩や部長達と生きていきたいです! 辛くても、悲しくても、生きたいです!!」

 

俯かせていた顔を勢いよく振り上げたギャスパー。

目元には涙を溜めながらも、真っ直ぐと翔を見つめながら力強く叫ぶ。

 

翔は涙に濡れた彼の赤い瞳の奥に秘められたものを見た。。

小さくてまだ弱々しくはあるが、どんな輝きにも負けないくらい眩しく輝く、未来へと進む強い意思・・・。

 

そんなギャスパーを見て、翔は優しく微笑みを浮かべる。

それを間近で見ていたリアスは勿論のこと。真っ直ぐと見つめていたギャスパーは頬を紅く染めた。

 

翔は額から流れていた血を意義の親指で拭って、コインをトスするかのような構えをとった。

誰もが首を傾げる行動であったが、次の瞬間その意味が分かった。

 

翔はコインをトスするかのように親指についた血を飛ばす。

飛ばされた血は、ギャスパーの口元付近に付着する。

 

「餞別だ、ギャスパー。力の権化と言われた赤い龍の帝王の血だ」

 

ギャスパーは強い眼差しで頷き、舌で口元に付いた血を舐め取った。

その瞬間、空気が変わった。

 

「ッ!? ハーフヴァンパイアがいない!?」

 

魔法使い達の戸惑いの声を上げる。

椅子に縛られたはずのギャスパーが、その姿を消していたのだ。

だが、翔だけには見えていた。

 

「この無数のコウモリがギャスパー・・・。吸血鬼の力を解放させたのか」

 

天井を眺めながら翔はそう呟く。

翔の血・・・即ち赤龍帝の血がギャスパーの内に眠る吸血鬼の力を呼び覚ましたのだ。魔

魔法使い達の動揺も収まりを見せ始め、翔達に攻撃を仕掛けようとしたが、彼女達の足下にある影から何本もの影の腕が伸び上がってくる。

 

「何なのよ・・・!?」

 

「か、影が襲ってくる・・・ッ!?」

 

「くるな・・・ッ!?」

 

悲鳴を上げながら影の腕を攻撃する彼らだが、影は四散するだけですぐに再形成される。

 

「これでも潜在能力の一部か・・・」

 

感心したように眺めていると、魔法使いの一人がリアスに杖を向けた。

 

「これでもくらえぇええ!!」

 

魔法使いから放たれた魔力による攻撃が、リアスに放たれるが、それは途中で停止した。

 

「無駄です。貴方達の攻撃は僕が停める!」

 

「さてと、ギャスパーも一歩踏み出したことだ。協力を感謝するぞ。だから、少しの間眠っていてくれ」

 

翔が魔法使い達を威圧すると、次々と気を失って倒れていく。

 

「・・・最初からそうすれば済んだんじゃないんかしら?」

 

若干睨むように目線を送りながらそう言ってくるリアスに、翔は肩を竦めて返す。

 

「かもしれんな。だが、今回の件でギャスパーは、立ち止まっていた場所から一歩を踏み出した。

そう思えば、これはこれで良かったのかもしれないだろ?」

 

「それはそうだろうけど・・・・・・貴方もしかしてギャスパーに勇気を持たせるためにわざと手を出さなかったの?」

 

翔の言葉に理解はするけれど、納得は知れいないといった様子のリアス。

 

確かに、今回の出来事はギャスパーにとって、良き経験になったといってもいいだろう。

ただ、いくら眷属が成長するためとはいえ、危険な目に合わせるのは、リアスとしては納得できないのだろう。

 

ポンポンとリアスの頭を撫でてから、翔は無数のコウモリに姿を変えたギャスパーに話しかける。

 

「ギャスパー、元に戻れ。とりあえす、会議室へ戻って、お前の無事を報告しないとな。

それに―――」

 

―――そろそろ相手の切り札が動き出すだろうしな

 

その言葉は口には出さずに。心の内で呟く。

 

「そうだ。ギャスパー、これを腕にはめとけ。神器(セイクリッド・ギア)の力を抑えられるらしい」

 

「は、はいぃ!」

 

懐からアザゼルに渡された腕輪を取り出してギャスパーに渡す。

 

「そうね。早く戻って、お兄様に報告しないと。でも、外は敵ばかりよ。慎重に動かないと無駄な戦闘を行うことになる」

 

「どうやって移動するつもりなんですか?」

 

姿を元に戻したギャスパーが翔に話しかける。

 

「こうするんだ」

 

「えっ・・・?」

 

「きゃ!?」

 

突然、翔は二人を両脇に抱えた。

そうして、部室の窓から飛び出した。

 

「どうやら、話の途中だったようだが・・・何を話していたんだ?」

 

両脇に抱えていた二人を優しく降ろしながら、翔はアザゼルに問いかける。

 

「ああ、お前らが転移した後に―――」

 

アザゼルが、翔達がいなくなった後の事を掻い摘んで説明する。

すると―――

 

「なるほどな・・・」

 

それだけ呟て、翔は考えるような仕草を取る。

そして、リアス達の制止の声を無視して、翔はカテレアと近づき対峙する。

翔は真っ直ぐとカテレアを見つめて、問いかける。

 

「・・・カテレア・レヴィアタン。一つ聞く。今回の件は、君のやりたいことか?」

 

「ええ、そうです。これは旧魔王派の―――」

 

「そうじゃない。旧魔王派とか、『禍の団(カオス・ブリゲード)』とかは関係ない。これが()()()がやりたいことなのか、ということだ」

 

「―――ッ!?」

 

ここで初めて、カテレアの表情に変化が見られた。

先ほどまで、淡々として機械のように冷たく、感情を押し殺した表情を浮かべていたが、顔を歪めて言葉に詰まらせる。

だが、それも一瞬のこと。すぐに表情を元に戻し、今まで同様の冷たく機械的な表情を浮かべる。

 

「それは貴方には関係ないことです」

 

毅然とした態度でそう言い放つカテレア。

だが、翔にはその姿は酷く儚げに見えた。

すると、隣にアザゼルが来て、翔の肩を掴みながら口を開いた。

 

「これ以上は何を言っても無駄の様だぞ、赤龍帝」

 

「ええ、そうです。始めから会話など不要。私達はテロリスト、貴方がたの敵。それ以上でもそれ以下でもない」

 

カテレアから吹き上がる魔力。

流石は旧魔王の血筋の者。魔力の質は上級悪魔であるリアスを悠々上回り、最上級悪魔に匹敵するほどだ。

 

「くっ!? これが旧魔王のレヴィアタン末裔の力・・・!?」

 

戦慄した様子を見せるリアス。

それに祐斗達も頷きを示すが―――

 

確かに力を有しているが、サーゼクスさんやセラフォルーに比べると・・・どうしても劣る

欲望に溺れ、周りが見えなくなっているわけでもない。なら何故・・・?

 

翔は冷静にカテレアの実力を見る。

どうやっても、今のカテレアではサーゼクス達には勝てるとは、到底思えない翔。

だというのに、こんなテロを起こして、無謀にも単身で会議室に攻めてきたのかが分からない。

魔法使い達の他に協力者がいるとは思うが、それも未だに姿を見せてはいない。

それなのにカテレアは余裕の態度を崩さない。

 

余裕? いいや、違う・・・

きっと彼女は、現時点で自分の力では敵わないことを理解しているはずだ

・・・・・・悲しいな

 

「旧魔王のレヴィアタンの末裔。『終末の怪物』の一匹。カテレア・レヴィアタン。俺といっちょハルマゲドンとシャレこもうぜ?」

 

「相手にとって不足なし。いいでしょう、堕ちた天使の総督」

 

翔が内心でそう考えていると、アザゼルが12枚の漆黒の翼を広げると、カテレアも蝙蝠の羽を広げた。

壊れた壁からアザゼルが外へと出ると、カテレアもそれに続き外に出ようとする途中で翔とすれ違う、その時―――

 

「―――悲しいわよね」

 

「―――ッ!?」

 

まるで翔の心の内を読んだかのような言葉と共に、一瞬だが優しく悲しそうに笑みを浮かべていたカテレアが目に映った。

だが、翔が振り返ると、そこにはもうカテレアはおらず、外でアザゼルと衝突していた。

 

「・・・ああ、悲しいな」

 

悲しそうに目を伏せながらそう呟いた翔。

だが―――

 

「だがな、俺は諦めが悪いぞ」

 

伏せていた目を上げた翔は、不敵な笑みを浮かべてそう呟く。

 

相手の切り札が出るのは、おそらくこの襲撃の終盤だろう

なら、今すべきことは―――

 

「サーゼクスさん。俺らは外に出て転移してくる奴らを叩く」

 

外に視線を向けると、魔法使い達だけではなく、何時の間にか悪魔も混じっていた。

カテレア・レヴィアタンの出現と共に、温存していた戦力を投入してきたのだろう。

 

「そうだね。私達は結界の強化で、ここから離れられない。

アザゼルとカテレアが戦闘の余波は、さっきまでの結界じゃ防げない。人間界に被害を出すわけにはいかないからね。翔くん達に任せる他ない。今、グレイフィアが転移の術式を解析している。それまでの間、頼めるかい?」

 

「了解した、今の祐斗やゼノヴィアならば、あの程度無力化できるだろうしな。

行くぞ、祐斗とゼノヴィア。魔王様直々の頼まれごとだ」

 

「はい、光栄の極みです。それに翔くんとの修行の成果を見せないとね?」

 

「そうだな、木場。翔にあれだけ扱かれたんだ。それを今見せないで、何時見せる」

 

笑みを浮かべながらも戦意を瞳に宿す祐斗と、不敵な笑みを浮かべるゼノヴィア。

 

「じゃあ、行くぞ。二人とも」

 

翔の言葉に二人は力強く頷く。

すると―――

 

「翔先輩。ぼ、僕は・・・」

 

ギャスパーが僅かに震えながらも翔に近づいて来た。

そんな彼に翔は、ギャスパーの頭に手をのせて、ポンポンと軽く撫でながら言う。

 

「お前は十分やったさ。だから、リアスやサーゼクスさん達とここにいろ。

後のことは、俺達に任せて今はゆっくりと休め」

 

そう言われ、ギャスパーは少しの沈黙後、スカートの裾をぎゅっと握りしめながら翔に告げた。

 

「・・・今は無理でも何時か! 何時か絶対に翔先輩達の隣に立って戦えるようになります!!」

 

真っ直ぐと見つめるギャスパーに、一瞬は驚いた表情を見せるが、すぐに優しい微笑みを浮かべて言う。

 

「ああ、待っているぞ」

 

今度は、やや乱暴に頭を撫でてから、翔は壊れた壁から外へ行った。

祐斗とゼノヴィアも翔へと続いた。

 

外に出た三人はそれぞれ自身の獲物を手に取った。

祐斗は聖魔剣を創りだし、ゼノヴィアは異空間からデュランダルを取り出した。

そして、翔は―――

 

「さてと、お前のお披露目だ。あまり気張るなよ?」

 

そう言いながら、左腕に顕現させた赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)から一振りの剣を取り出した。

 

「行くぞ―――アスカロン」

 

聖剣アスカロン。

先日ミカエルから授かった龍殺しの聖剣。

 

静かに輝きを放つアスカロン。

その輝きは悪魔が苦手とする聖なる光・・・だというのに、悪魔に転生した祐斗とゼノヴィアは、その輝きに脅えることも、肌を焼くような痛みもなかった。むしろ、優しく心を照らすかのような輝きに、見惚れるほどであった。

 

「アスカロンが翔くんを担い手と認めている・・・」

 

「ああ・・・でなければ、これほどの優しくも力強い輝きは放たないだろう」

 

祐斗とゼノヴィアがそう言葉を漏らす。

 

「意識を呆然とさせるな!お前らがいるのは戦場だ、その一瞬が命取りになるぞ!」

 

翔の一言に意識を取り戻し、戦いに集中させる二人。

 

「祐斗は心を静めて、冷静に戦え。ゼノヴィアはデュランダルと呼吸を感じ取るんだ。

実戦は何よりもお前らの糧となる」

 

「うん!」「ああ!」

 

翔の言葉に頷く二人。

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

その声と共に、祐斗とゼノヴィアは魔法使いや悪魔達へと突っ込んで行った。

 

しばらくの間、三人が戦っていると、分かれていた祐斗とゼノヴィアが背中合わせになって、敵を警戒しながら会話をする。

 

「相変わらずだけど、翔くんとの差は中々縮まないね?」

 

「ああ、そうだな。あの領域には、まだ達していない」

 

二人は翔の方へと視線を向ける。

そこには、片手にアスカロンを持ちながら、もう片方の手に黒鍵を手に持って、次々と敵を無力化させていく姿があった。最小限の動きのみで襲いかかる攻撃を避けながら、敵に攻撃を与えていく。まるで戦っているのではなく、舞を踊っているかのような光景だ。

だが、それだけではない。

 

「殺気や戦意がある者とそうでない者とを一瞬で見極めている」

 

「ああ、その上で攻撃の方法を変えているんだ」

 

翔が戦いを見ていると、不自然なものがあった。

一撃で絶命している者もいれば、傷を負わせたが致命傷には至っておらず、行動を不能にする程度で済んでいる者と分かれている。

 

二人の言う通り、翔は相手の戦意などを感じ取って戦っている。

ただ破壊や殺しに愉悦を見出している者やこのテロに賛成的な者達には容赦なくその剣を振るい。

逆にこのテロに自ら進んで賛成しているのではなく、強制されて仕方なく賛成している者達には手心を加えて剣を振るっていた。

どうして、それが分かるかというと・・・先ほども言った通り、敵の放つ戦意や敵意で判断して言うのだ。

どんな敵であっても、殺気や敵意、戦意というものが存在する。

 

しかし、人によってそれは様々である。

テロに賛成的で、自らこのテロに参加している者には何の迷いのない敵意や殺意、戦意を感じるが、それらを放ちながらも、その意思には迷いがあり、どこか自分を偽っているように感じられる者もいる。

 

さらに言うのなら、殺さずに行動不能にした者達は戦場の端の方へと吹き飛ばされており、戦いの余波に巻き込まれないようにしている。

 

翔はそれらを一瞬で見極めて戦っているのだ。それは常人が出来る芸当ではない。

 

「『達人級(マスタークラス)』・・・」

 

「それも特Aクラスだろうな」

 

二人はそう呟きながら、前に翔から聞いた話を思い出した。

 

武術家には、その実力に応じたクラスがある。

大まかに分けると『弟子級』、『妙手』、『達人級(マスタークラス)』である。

 

まず始めは、『弟子級』と呼ばれる最下層に位置する武術家。

ほとんどの武術家は弟子級に分類され、武術を始めたばかりの初心者から、常人とは比較にならない者まで実力の幅は広い。

 

その次に来るのは『妙手』と呼ばれる弟子以上達人未満の強さに達した武術家。

戦闘力は『弟子級』を大きく上回っているが、実力、精神共に不安定で危険な状態であり、才能の無い者にとっては、基本的に武術家としての最終到達地点となる。一般的には『師範代』と言われている者のことを示す。

 

そして『達人級(マスタークラス)』。多大な才能を持ち、努力を怠らなかった武人のみが到達する完成された武術家。

最下層の達人であってもその実力は『弟子級』、『妙手』を遙かに上回っている。

 

そして『達人級(マスタークラス)』の中でも強大な者に対して、尊敬の念を込めて『特A級の達人級(マスタークラス)』と呼ばれる存在がある。B級やC級などのランク付けがあるわけではないく、並の達人が束になっても敵わないほど強大なためそう呼ばれているに過ぎない。

 

さらに上の存在、『超人』と呼ばれる領域があるのだが、これに辿り着く者はそうそうおらず、辿り着いた者は、その実力から伝説的な逸話を持ち、武術界に限らず高い名声を浴びることになる。

 

祐斗達も身体能力という面だけで見れば、『達人級(マスタークラス)』に届きうるかもしれないが、魔力や悪魔の身体能力に頼らずに、純粋な技術等では良くて『妙手』といったところに位置している。

 

「私達は、あの頂まで辿り着けるのか・・・?」

 

「翔くんは師曰く『登りつめるじゃなく、達人という崖から転がり落ちる』って言っていたね」

 

「そういえば、そんなことを言っていたな」

 

二人は翔が言っていた言葉を思い出して、戦場だというのに思わず苦笑してしまう。

そして、顔を見合わせながら強く言葉を言い放つ。

 

「「でも、何時かは彼の隣に立って見せる!」」

 

「そのためにも―――」

 

「今はここで背一杯戦うとしよう!」

 

そう言って、二人は再び、敵へと突っ込んでいった。

 

「やはり、強制されている者達もいるようだな・・・」

 

鋭い視線を巡らせて、そう呟きながらも、翔は攻撃の手を緩めない。

殺気や敵意などを感じ取って、それに応じて攻撃を変えながら戦い続ける。

 

『つくづく、相棒の規格外さには驚かされる』

 

と言うと?

 

『相手の敵意や殺意、戦意を瞬時に感じ取り見極めて、それに応じて攻撃の仕方を変えるなどと、今までいろいろな宿主や敵を見てきたが、そんな芸当できる者などはいなかったぞ?』

 

そうか?

俺の師匠達は余裕でできたぞ?

ま、そうは言っても、俺の師匠は全員、特Aの達人であったがな

 

『弟子が弟子なら師も師だな・・』

 

呆れたように言葉を漏らすドライグ。

 

戦いながらもドライグと会話をするほど余裕を見せる翔。

すると、無制限に転移してきていた敵の勢いが弱まり始める。

 

「どうやら、グレイフィアさんが術式の解析が終わったようだな・・・」

 

そう翔が呟いていると、完全に敵の勢いがなくなった。

グレイフィアが敵の術式を解析を行い、転移できないようにしたのだろう。

翔は空を見上げる。

そこには、アザゼルとカテレアが空中で戦いを繰り広げていた。

すると、アザゼルに白い閃光が襲いかかる―――が、赤黒い閃光がそれを止めた。

 

「人の勝負に手を出すのは無粋だと思うぞ。ヴァーリ」

 

「やはり止めにくるか。御剣翔」

 

ヴァーリの攻撃を赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を顕現させている左手で受け止める翔の姿があった。

 

 

 

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