ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

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第五章 冥界合宿のヘルキャット
第31話 夏休みは冥界へ


第五章 冥界合宿のヘルキャット

第31話 夏休みは冥界へ

 

張りつめた空気・・・・・・あまりに緊張をしている空気に誰かが無意識のうちにゴクリと唾を飲み込む。

 

「疾ッ!!」

 

一気に加速して駆け出す祐斗。

手に持つのは禍々しいオーラと神々しいオーラが一つになり、形を剣と成した聖魔剣。

目にも止まらぬ速度で動きながら相手の右側から左へと薙ぎ払うように斬りかかる。

 

対する相手である翔は無手であり、自然体で構えている。

迫りくる聖魔剣を避ける素振りも見せずに、その刃は翔の脇腹に襲いかかる。

斬られたッ!?と誰もが思ったが、それは違う驚きで変わる。

 

「ッ!!??」

 

斬りかかった祐斗は目の前で起きた出来事に驚きで思わず、動きを止めてしまう。

 

翔はただ単純にその場で回って祐斗の斬撃を躱したのだ。

言葉で言うのならば簡単であるが、行うのは難しい。

祐斗の斬撃が翔の身体に触れた瞬間、翔はその斬撃の流れに逆らわず、その軌道に合わせるように体全身を回転させたのだ。まるで風に靡く羽毛の如く。

 

そして相手が体を硬直させ、隙を晒したのだ。やることは一つ・・・。

翔は回転により発生した遠心力を利用した手刀を祐斗へと放つ。

祐斗は咄嗟に聖魔剣の刀身の腹を利用して攻撃を防ごうとするが―――

 

「思わぬ不意打ちに対して、咄嗟に防御するのは構わないが、その瞬間は剣に魔力を籠めろ。

それでは容易に破壊されるぞ―――刃金斬り」

 

「なっ!?」

 

翔は祐斗の聖魔剣を砕くのではなく、手刀で叩き斬る。

それを見て、祐斗は驚きの声を上げる。

 

「驚いている暇なぞないぞ。戦いは思考を停止させた者から消えていくからな」

 

驚きで再び固まってしまった祐斗に翔は強烈な廻し蹴りを放つ。

咄嗟に祐斗は両腕を交差させて翔の蹴りを防ぐが、あまりの衝撃に祐斗はその場から吹き飛ぶ。

吹き飛ばされた祐斗は空中で体勢を立て直し、地面には衝突することなく着地するが―――

 

「ほら、敵が攻めてきたぞ?」

 

「くっ!?」

 

既に目の前に翔が迫ってきていた。

祐斗は聖魔剣を創造して、間合いを取るために牽制の一撃を入れようとするが―――

 

「骨子の想定が甘い。常に頭の中では作り出す聖魔剣の基本設計を瞬時に浮かべるようにイメージを固めておけ」

 

振り上げられる右脚により祐斗の聖魔剣は脆く砕け去ってしまう。

そして、翔の右脚は聖魔剣を砕いただけでは止まらず、祐斗の頭に迫り―――寸止めをする。

ボワッ!と襲いかかる風圧により祐斗の金髪が揺れる。

 

「チェックメイトだ」

 

「ま、参りました・・・」

 

今日の組手が終了を迎えた。

 

「やはり、翔は規格外すぎるぞ」

 

「そうだね。どんなに攻めてもその全てが受け流されるなんて。それも聖魔剣の一撃をあんな避け方するなんて・・・・・・」

 

呆れたように呟くゼノヴィアに続くように乾いた笑みを浮かべる祐斗。

先程までいた道場から場所を移して、翔達は全員で居間で話をしていた。

 

「あれはな、中国拳法でいう『消力(シャオリー)』と呼ばれる技法だ。日本の古流武術なら『流水』と呼ばれているな。攻撃の流れに逆らわず、全身の力を完全に脱力させること・・・太極拳極意の一つ捨己従人だな」

 

祐斗とゼノヴィアの言葉を聞いて、翔は先程の自身が使った技について説明をした。

 

「流れに逆らわず・・・」

 

翔の言葉を聞いて、小猫が神妙な面持ちで呟く。

 

「言葉にするのは簡単だが、現実はそう簡単にはいかない。筋肉に、骨格(ほね)に、(けん)に、身体の奥底に居座る強張りまで、全てを抜き去る必要がある。それは容易なことではない」

 

「確かにそれは厳しいね。無意識に入っている力すらも抜けなければ、逆に大きなダメージを受けてしまう・・・」

 

祐斗が冷静な考えをして呟く。

 

「そうだな。厳しいことを言うが、今のお前達では無理だ。実戦で使おうと思うなよ。特にゼノヴィア」

 

そう言いながら、翔は主に近接で戦う者達・・・つまり、祐斗とゼノヴィア、そして小猫に視線を向けて告げる。その中でもゼノヴィアに対しては念を入れて・・・。

 

「む!? 私だって、そのくらい理解しているさ」

 

「ほう・・・」

 

翔の言葉に僅かに怒ったような表情を浮かべるゼノヴィアに対して、翔は僅かに視線を鋭くさせる。

 

「うっ・・・・・・成功させればいいのだろ?」

 

「はぁ・・・」

 

鋭くなった視線に負けたゼノヴィアは思わず本音を漏らしてしまう。

それに対して、翔は深く溜め息を吐く。

 

「成功しなかった時はどうするんだ・・・。お前達二人は俺と違って才能もあるし、成長は早いだろう。それに達人級(マスタークラス)に至る可能性も大いにある。だが、現段階では到底無理な話だ。それ相応の鍛錬や経験が必要となる。確かに実戦で得られるモノは多いが、相応のリスクが存在する」

 

諭すように告げる翔にゼノヴィアは怒られた子供のような雰囲気を放ちながら俯く。

それに対して、翔は苦笑を浮かべながらゼノヴィアに頭を乗せて、軽く撫でる。

 

「今は無茶をする時ではない。ゆっくりとでいいんだ・・・。お前達は強くなれるさ」

 

「ああ!」

 

そう言われ、ゼノヴィアは力強く頷く。

 

「無論、ゼノヴィア達だけに限った話ではないぞ? リアス達も成長の余地はまだまだ沢山ある。焦ることなんて必要ないんだ」

 

「そんなの言われるまでもないわ。焦った結果、取り返しのつかないことになったら大変だからね」

 

翔の言葉を聞いてリアスは何故か胸を張ってそう言い放つ。

 

「あらあら、うふふ。それなら、私に個別指導でもしてくださいな。ねぇ、翔くん?」

 

そう言って、朱乃は翔の隣に座すとそのまま翔の腕に抱き付き、耳元で囁くように告げる。

 

「ちょ、ちょっと!? 朱乃! 少し近づき過ぎよ!!」

 

それを見て黙っているリアスではなく、バン!と力強くテーブルを両手で叩きつけながら言い放つ。

その他にも、アーシアやゼノヴィアも面白くなさそうな表情を浮かべながら翔を見つめる。

 

「朱乃、一緒に鍛錬するのは構わないが、お前やリアスは主に魔力を用いた中距離から遠距離で戦闘を行うのがお前たち二人のスタイルだ。だから、祐斗達ほど助言はできないと思うぞ? それと暑苦しい、近づき過ぎだ」

 

そう言って朱乃に離れるように促す。

 

「約束も出来ましたし、今回はこの辺でやめるとしましょう」

 

朱乃自身もリアス達・・・主にリアスをからかうために行っていたためにあっさりと身を引いた。

 

「さて、悪ふざけもこのくらいで・・・。ここに全員を揃えた理由を聞かせてもらいたいものだな、リアス?」

 

「ええ、そうね。毎年の恒例なのだけれど、冥界に帰るわよ!」

 

「ふむ・・・つまり、お前の帰省に眷属である俺達も一緒についていくという認識でいいのだな?」

 

「そうよ!」

 

翔の言葉にリアスが自信満々に胸を張って頷く。

 

「やれやれ・・・。だとさ、お前はどうするんだ。―――アザゼル?」

 

翔が視線を目の前のリアスから外して、()()()()()()アザゼルに話しかけた。

 

「ああ、俺もついてくぜ? これでもお前らの顧問だからな」

 

そう言って、アザゼルは()()()()()()お茶を片手に、テーブルに置かれていたお茶請けに手を出す。

 

『・・・・・・えっ?』

 

翔を除いた者達が素っ頓狂な呟きを漏らすと共に面を喰らった表情を浮かべる。

声がした方へと視線を向けると、麦茶の入ったコップを片手に何時の間にか部屋に居座っているアザゼルの姿があった。

 

「やっぱり、日本の夏と言えば、冷えた麦茶だな! 煮出したものも捨てがたいが、時間はかかるもさっぱりとした水出しも旨い。それに塩が混ぜられてあって塩分も手軽にとれるようにしてあるとは・・・気の利いた一杯だな!」

 

ぶはっ!と勢いよく飲んだ麦茶について考察しているアザゼルに対して、リアスは僅かに顔を引き攣らせて話しかける。

 

「ど、何処から入ってきたの?」

 

「普通に玄関からだぜ?」

 

「・・・・・・気配すら感じませんでした」

 

リアスの問いかけに平然と答えるアザゼルに対して、祐斗を含めたゼノヴィアや小猫は自身が気付けなかったことに対して悔しそうに呟く。

 

「それはお前らの修行不足だな。俺は普通に入って来たぞ。まぁ、翔は普通に気づいていたがな」

 

もっとも話していた翔が()()()悟られることなく俺にお茶を出したことのほうが恐ろしいと思うがな・・・

 

心の中で言葉を付け足したアザゼルは翔にチラリと視線を向ける。

それに気づいた翔は、苦笑しながら肩を竦ませるだけで何も言わない。

そして、翔は話題を変えるかのようにリアスに話しかける。

 

「それでいつ頃、冥界に向かうんだ?」

 

「予定だと明日にはもう行くつもりだから各自、今日の夜のうちに準備を済ませておいてね?」

 

『はい!』 「了解」

 

リアスの言葉に頷きを返す翔達。

 

「すると、一応冥界に始めて行くのはゼノヴィアだけになるんだな・・・」

 

「うん。冥界―――地獄には前々から興味があったんだ。でも、私は天国に行くため、主に仕えていたわけなんだけれど・・・。悪魔になった以上は天国に行けるはずもなく・・・。天罰として地獄に送った者たちと同じ世界に足を踏み入れるとは、皮肉を感じるよ。ふふふ、地獄か。悪魔になった元信者にはお似合いだな」

 

翔の問いかけに答えたゼノヴィアは喋っていくうちにその雰囲気を沈ませていき、最終的には自嘲したかのような乾いた笑みを浮かべた。

普段は大胆不敵といった雰囲気で中々臆することを知らない彼女ではあるが、意外とネガティブ思考の持ち主であり、以前にイリナが言っていたように一度沈むととことん沈むタイプなのである。

そんな彼女に対して翔は、やれやれ・・・と苦笑しながらも気持ちが落ち着くまで頭を軽く撫でるのが最近の流れとなってきた。

 

すると、アザゼルは不意に懐からメモ帳のようなものを取り出すし、書かれている内容を読みあげていった。

 

「冥界でのスケジュールは・・・リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。あと、例の新鋭若手悪魔達の会合。それとあっちでお前らの修業だ。俺は主に修業に付き合う訳だがな。お前らがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクス達と会合か。ったく、面倒くさいもんだ」

 

アザゼルは心底面倒くさそうに嘆息する。

 

「地獄で修業とはな・・・。新たな環境での修行はいい刺激になる。少しばかり楽しみだ」

 

「そうだね。この機会に時間があれば、一度師匠の元に帰って、基礎鍛錬をやり直した方がいいかもしれない。勿論、翔くんにも何かしらの課題は出してもらいたいけどね?」

 

「それは私も希望したいな。翔が出してくれた課題を熟せば、私達はより高みに近づける」

 

翔が小さく言葉を漏らすと、それに反応する祐斗とゼノヴィア。

 

「ほう・・・。どんな課題を出しても構わないのだな?」

 

それに対して、翔は不敵な笑みを浮かべ、どこか凄みのある視線を二人に向ける。

 

「いや、出来れば命に関わらない程度の内容がいいかな・・・・・・あははは」

 

「そ、そうだな! しゅ、修行で死んでしまっては意味もないからな!!」

 

すると、祐斗とゼノヴィアは口元を引き攣らせて、背中に冷や汗を掻き始める。

 

「・・・おいおい、普段からどんな内容で修業やらせてんだ?」

 

「別にそれほど追い込んではいないさ。精々、心肺停止が1、2回ある程度だ」

 

「それは精々とは言わないわ」

 

流石のアザゼルも二人の様子を見て、顔を引き攣らせながら翔に問いかける。

すると、翔は至って普通なことを言っているように言葉を返すと、それに対して冷静に言葉を返すリアス。

その横では祐斗とゼノヴィアが肯定を示すように何度もその首を動かして頷いていた。

 

誰も自身に賛同してくれないと悟った翔は、話の続きを促す。

それに対して、リアスは小さく溜息を吐きながら話を進める。

 

「では、アザゼル・・・・・・先生はあちらまでは同行するということでいいのかしら? それなら行きはこちらで予約をさせて貰いますけど?」

 

「ああ、よろしくな。悪魔側のルートで冥界入りするのは初めての経験だ。いやぁ~何時もは堕天使ルートからだから楽しみだぜ!」

 

渋々と言った様子でアザゼルのことを先生と呼んだリアスに対して、アザゼルは子供がワクワクとした雰囲気を見せていた。

 

それにしても―――

 

周りの様子を見ながら、翔はある人物に視線を向ける。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そこには上の空と言った様子の小猫の姿があった。

 

この前のテロ以降、何かしら思いつめた様子を見せていたが、ここ最近はさらに顕著だ

一緒に鍛錬をやっているときも焦っているような感じだったな・・・

・・・周りがあまりに急成長しているから、小猫自身は己が成長を遂げていないと思っているかもしれない

そのようなことはないのだが、ああいったのは自分自身で乗り越えないと意味がないからな

・・・・・・少しばかり様子を見るか

 

小猫の様子について翔は思考を巡らしながら、冥界での修行内容の予定を決めていく。

冥界へと向かう日となった。

翔を含めたグレモリー眷属とその主であるリアス、そして顧問であるアザゼルは駒王学園の最寄り駅に集合していた。

服装は夏仕様の駒王学園の制服と指定されていたため、軽く遠足のような気分になる。

何故、制服化と言われれば、リアス曰く『冥界入りするのなら、これが一番の正装』とのことだ。

 

リアスの誘導の元、駅に設置されているエレベーターへと着いた。

 

「じゃあまずは翔とアーシアとゼノヴィア来てちょうだい。先に()()()()

 

「降りる? この階より下は存在しないはずだが・・・?」

 

リアスの言葉を聞いて、怪訝な表情を浮かべる翔。

 

「いいから、こっちに来なさい」

 

苦笑しながらも手招きをするリアスの言葉に従い、すでにエレベーター内部に入っているリアスに続き、翔とアーシア、そしてゼノヴィアの三人はエレベーターへと入る。

 

「朱乃と祐斗、小猫はアザゼル先生と一緒に後から降りてきてね。それじゃ、後でね」

 

そう言って扉を閉めると、リアスはカードを出してエレベーター内部に設置されている電子パネルにかざすと、上にしか進まないはずのエレベーターが下へ降り始めた。

 

「特別ルートか・・・」

 

「ええ、これが悪魔専用のルート・・・。普通の人間は一生辿り着けないようになっているわ。こんな風にこの町には悪魔専用の領域が結構隠れているのよ? 驚いた?」

 

まるで悪戯が成功した子供のように解説するリアスに翔は苦笑いをしながら頷く。

 

「ああ、これは少しばかり驚いたな」

 

エレベーターが停止して扉が開く。

扉が開いた先には、広い空間が広がっていた。

空間の造りは駅のホームと酷似しており、線路も設置されていた。

 

「駅の地下にも駅があるとはな・・・。まるで魔法の世界のようだな」

 

辺りの様子を見渡して、翔は苦笑しながら感想を漏らす。

 

「あら、これでも悪魔なのよ? ヒトが持つイメージは大事にしているつもりよ。まぁ、あの本の主人公は魔法使いであって、悪魔ではなかったけどね」

 

リアスとそんな会話を繰り広げていると、朱乃達も下の降りてきた。

 

「それじゃ、皆揃ったことだし三番線へと行くわよ」

 

リアスの先導の元、広いホームを歩いていく。

注意深く見てみると、壁には魔法的な明かりが灯っており、翔達の他に人影はなかった。

 

「地下の空間とは思えないほどの規模だな」

 

翔は想像以上の空間の広さに驚きを示す。

すると、何時の間にか隣にいた朱乃がそれに微笑みを浮かべながら話す。

 

「そうですわね。私も始めて来たときは同じような反応をしましたわ」

 

「だろうな。この町にはここ以外にも不思議になパワースポットに似た何かが所々にあるようだからな、それらも此方関連のものなんだろうな」

 

「ええ、そうよ。よく気付いたわね?」

 

朱乃に対抗するように先導していたリアスも翔の隣を陣取り、彼の言葉に返す。

 

「まぁな・・・。それより、目的の三番ホームについたようだぞ?」

 

目的地へと到着した一行。

三番ホームと書かれた看板があるそこには通常の列車とは異なるものが停車していた。

紅がメインカラーとして使われており、そのフォルムは一般のものより鋭角的である。

車両にはグレモリー家の紋章が描かれていた。

 

「グレモリー所有の列車よ!」

 

自慢気に紹介するリアスの言葉に従い、翔達は次々と車両へと乗車していく。

 

全員が車両へと入ると、汽笛の音と共に列車が動き出す。

リアスを除いた翔達、眷属の者達は中央から後ろの車両にある席に座っており、その場にはアザゼルも座っていた。主たるリアスは一番前の車両におり、主と眷属の線引きがきっちりしているようだ。

 

窓の外を確認すると、景色は何もなくトンネルのような薄暗い場所を走行している。

 

「どの程度で着くんだ?」

 

翔は向かい側の席に座っている朱乃に尋ねる。

席の配置としては翔の隣にはアーシアが据わっており、朱乃の横にはゼノヴィアが座っている。

通路を挟んで向こう側の席には祐斗、小猫とギャスパーが座っており、アザゼルは別の席を占領して寝ていた。大物なのかただの馬鹿なのか判断し辛い・・・。

 

「一時間程で着きますわ。この列車は正式な方法で冥界に辿り着けるようになってますから」

 

「一時間ほどか・・・。それにしても今更だが。リアスの婚約騒動の時は転移魔法で一瞬で行ったのだが、今回は違うのだな」

 

「ええ、通常ならばそれでも構わないのですが、翔くんやアーシアちゃん、ゼノヴィアちゃんは新たな眷属として一度正式な悪魔側のルートで冥界入りして入国手続きを済まさないといけませんのよ」

 

「はわわ、翔さんと私は前に勝手に冥界に行ってしまったのですが大丈夫なんですか!?」

 

朱乃の言葉を聞いて、アーシアが慌てた様子で問いかけると、朱乃は彼女を安心させるようにニッコリと笑みを浮かべて言葉を返す。

 

「大丈夫ですわよ。あれはサーゼクス様とグレイフィア様がちゃんと処理しましたので不法入国ではありませんよ。まぁ、二度目はないと思いますけど…」

 

朱乃の言葉を聞いてアーシアはそっと胸を撫で下ろした。

 

「それは感謝しないといけないな」

 

何もない窓の外を見つめながら翔は小さく呟いた。

 

仮にあの時の出来事が問題となってリアス達に迷惑をかけるようなことになれば、翔は迷わず彼女達の前から姿を消していただろう。全ての業を背負って・・・。

 

「ん? どうしたんだ、アーシア?」

 

不意に隣に座っていたアーシアが翔の服の一部を掴んだ。

翔は不思議に思いながら隣に視線を移すと、そこには不安そうな表情を浮かべたアーシアの姿があった。

 

「いえ・・・ただ、なんとなく。翔さんがどこか遠くへ行ってしまう気がして・・・」

 

ぎゅっとより強く翔の服を握りしめるアーシア。

そんな彼女に対して、翔は内心で苦笑しながらも、表面上は優しく微笑みながらアーシアの頭を撫でる。

 

「そんな事はないさ」

 

アーシアは鋭いからな・・・

 

そんなことを考えながら彼女の頭を撫でていると―――

 

「えい」

 

そんな声と共に翔は膝の上に朱乃が乗ってきた。

 

「いきなりどうしたんだ?」

 

彼女の唐突な行動に驚きを示す翔。

 

「もう、翔くん。アーシアちゃんばかりに構ってズルいですわ~。―――私にも構って・・・」

 

翔の耳元で甘い吐息と共に囁く朱乃。

 

「いや、別にそう言うつもりではないんだが・・・。とりあえず、俺の膝から降りて座っていた席に戻れ」

 

「嫌ですわ♪ ああ、こうして近づくだけで体が疼いてしまいますわ」

 

「朱乃さんの影響で翔さんがえっちになっちゃいます!」

 

「あら、男の子はえっちなくらいが健全ですわ」

 

「いや、それは可笑しい」

 

より一層、抱き付こうとした朱乃を翔の隣に座っていたアーシアが止め、朱乃を翔の上から退かす。

だが、その程度で止まる朱乃ではなく、少しばかりおかしな理屈を言い放つが、それに対して翔は言葉を挟むが残念ながら朱乃は聞いていない。

すると―――

 

「副部長やアーシアばかりズルいぞ、翔。私にも構ってくれ」

 

今まで静観していたゼノヴィアまでもが参戦。

混沌と化した場に思わず溜息を吐いた翔。

どう止めるか思考を巡らそうとしたところで―――

 

「まったく・・・何を騒いでいるのよ、貴方達は・・・」

 

額に手片手を当てて、やれやれと言った雰囲気を見せながらそう呟きをこぼすリアス。

どうやら朱乃達が騒いでいる間にこの車両に移動していたようだ。

 

彼女の隣には、白い顎鬚を携えた車掌姿をした初老の男性がいた。

 

「初めまして、リアス姫の新たな眷属の皆さん。私はこのグレモリー専用列車の車掌をしているレオナルドと申します。以後お見知りおきを」

 

非常にきれいな動作で帽子を取って、一例をした初老の男性・・・レオナルド。

それに対して、翔は立ち上がり、彼の前に立つと、軽く右手で握り締め、それを左胸に置き軽く一礼する。

 

「こちらこそ、初めまして。リアス・グレモリーの《兵士》である御剣翔です。騒ぎ過ぎてしまって申し訳ない」

 

優雅な動作に誰もが見惚れてしまうが、翔はチラッとアーシアとゼノヴィアに視線を向ける。

その視線の意味を読み取った二人は慌てた様子で立ち上がり、翔と同じようにレオナルドの前に立つ。

 

「《僧侶》のアーシア・アルジェントです! よろしくお願いします! そして、騒いでしまってすみません!」

 

「《騎士》のゼノヴィアです。今後ともよろしくお願いします。アーシアと同じく、騒いでしまって申し訳ありません」

 

謝罪の言葉を交えて挨拶をした二人にレオナルドは、柔らかな笑みを浮かべて気にしていないことを告げる。

そして、彼は懐からモニターが付いた特殊な機器を取り出すと、それをアーシア、ゼノヴィア、翔の順でモニターに捉える。

 

三人はその行動に首を傾げていると、レオナルドの隣に立っているリアスが苦笑しながら説明をする。

 

「今のは貴方達の身体にある『悪魔の駒』を確認していたのよ」

 

「この機械はあなた方の確認、照合をするための物です。この列車は冥界に正式に入国する重要かつ厳重を要する移動手段です。これに不手際があれば様々な深刻な問題が起こってしまいます」

 

「なるほどな・・・。『禍の団(カオス・ブリゲード)』という物騒な組織が裏で蠢いているこのご時世、この列車を占拠でもされたら一大事となるからな」

 

「その通りです。流石は赤龍帝」

 

「世辞は止せ。この程度、少し思考を巡らせば誰にでも理解できるさ」

 

称賛を送るレオナルドに翔は肩を竦めて答える。

 

「ほほほっ、ご謙遜を」

 

そう言ったレオナルドは手元の機器を操作して、三人の駒を確認、照合していく。

すると、一瞬だけレオナルドはその柔らかな笑みを決して、信じられないものを見る目でモニターに映されたデーターと画像を見るが、すぐに表情を元に戻し、誰にも悟られることなく操作を続ける。

だが、そんな一瞬を見逃さなかった人物が二人いた。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

目の前でレオナルドの事を見ていた翔と、少し離れた座席で寝ていたはずのアザゼルだ。

2人は僅かに目を細めて、レオナルドの様子を窺っていると彼が操作していた機器から軽快な音が鳴り響いた。

 

「・・・これで照合等は終わりました。駒に登録されたデータと冥界にあるデータが一致しています。

姫、これでニューフェイスの入国手続きも終了です。後は到着するまでごゆるりとお休みください。

次は堕天使の総督殿ですな」

 

「おう、よろしく頼むわ」

 

少し離れた座席に座っていたアザゼルが返事を返し、翔達と同様に機器で照合を済ませると、レオナルドは先頭車両に戻って行く。

その際、リアスとすれ違った際に彼女にしか聞こえない程度の声量で言葉を投げかけた。

 

「・・・姫、後ほど重要なお話があります」

 

「―――ッ!? ・・・ええ、わかったわ」

 

いきなりのことで動揺をしたが、すぐにそれを抑えて静かに言葉を返す。

 

「それじゃ、私は少しやり残したことがあるからまた先頭車両に戻るるけど、また戻ってくるわよ」

 

リアスはそう告げて再び先頭車両へと戻っていった。

 

「それで私に話って、何かしら?―――レオナルド」

 

先頭車両へと戻ったリアスは着いて早々、レオナルドに問いかけた。

 

「・・・・・・姫、冥界に着きましたら一度、サーゼクス様にご相談をしたほうがよろしいかと思ったことがありまして」

 

先程まで浮かべていた柔らかな笑みはなりを潜めて、真剣な表情を浮かべる彼にリアスも思わず険しい表情を浮かべる。

 

「・・・何かあったのかしら?」

 

「はい。・・・・・・実は―――」

 

「―――俺の駒に何かしら問題があったのだろ?」

 

「「―――ッ!?」」

 

レオナルドの言葉を引き継いだように放たれた言葉にリアスとレオナルドは驚きで身を硬直させ、すぐさま声が聞こえた方へと視線を向ける。

そこには―――

 

「そうなんだろ? レオナルドさん」

 

何時の間にか先頭車両の出入り口に背を預け、腕を組んで立っていた翔の姿があった。

 

「翔! 貴方いつの間に・・・!?」

 

「悪いな、リアス。なんせ自分に関係する話のようだからな、俺も参加させてもらう」

 

「・・・・・・姫と私に悟られることなく、ここに来るとは・・・」

 

「いいから、続きを話してくれ」

 

驚きで呆然と呟くレオナルドに翔は話の続きを促す。

だが、そこに異を唱える者がいた。

 

「何で翔の駒に問題があるってことに繋がるのよ? 今のところ悪魔になれなかったということだけでそれらしい異常はないじゃない。貴方にも不調があったわけじゃないし」

 

翔の主たるリアスだ。

彼女の言い分はもっともだ。

以前に、リアスが翔の駒の状態を調べるために一度冥界へと行って詳しい調査をしようと提案したのだが、翔自身がそれを拒否して、何かしらの不調があったら報告すると話はまとまっていた。

そして、今まで翔は何の不調も訴えなかったため、リアスは問題ないと思っていたのだ。

だが―――

 

「そもそも、そのこと自体が異常なんだろう」

 

翔自身がそれを否定する。

 

「駒を核に元の種族から悪魔へと変異する機能が正常に働かずに、さらに俺自身に影響が出ていないこと自体がな・・・。そして、レオナルドさんが持つ機器で駒の状況を見たところ、普通ではない何かが起きていた・・・・・・そうなのだろう?」

 

翔はリアスに向けていた視線をずらして、レオナルドに向けて、問いかける。

それに対して、レオナルドは苦い顔をしながら告げる。

 

「・・・ええ、そうです。一見、正常に見えますが、駒の機能が普通のそれとは違う。

・・・これは一度、開発者に詳しいことを窺った方がいいでしょう」

 

「・・・魔王の一角、アジュカ・ベルゼブブか」

 

サーゼクスとセラフォルーと同じ現在の冥界を支える四大魔王の一人・・・アジュカ・ベルゼブブ。

同じく魔王であるサーゼクスと並ぶ実力者でありこの二人の実力は同じ魔王でも他の二人とは一線を画す。彼は術式プログラムの構築を得意としており、レーティングゲームの基礎理論を構築した張本人である。

 

「ええ、彼の魔王ならば今翔様の身に起きていることが分かるかもしれません」

 

「・・・分かったわ。冥界に着いたのなら一度お兄様に相談してみるわ」

 

神妙な面持ちで頷くリアス。

すると、パンッ!と響く乾いた音。

急に響いた音に驚いたリアスとレオナルドが発生源へと視線を向けると、そこには両手を合わせた翔の姿があった。

 

「それじゃ、俺は元の車両に戻るぞ」

 

そう告げた翔は踵を返していった。

 

「あ、私も行くわ」

 

翔に続くようにリアスも元の車両へと戻っていった。

 

「やれやれ・・・散々な結果だな」

 

「翔って、本当に運要素が関わると弱いわよね」

 

溜め息を吐きながら呟いた翔に対して、リアスは苦笑したように呟く。

 

「ええ、本当に。こんな弱い翔くん初めて見ましたわ・・・・・・・・・意外といいかもしれませんわね」

 

片手に頬を当てながらリアスの言葉に続く朱乃。

後半は小さく不吉なことを呟いたのは気のせいだろうか・・・。

 

「何ででしょう?」

 

「私も弱い方だとは自覚していたが、翔ほどではなかったみたいだね」

 

アーシアは不思議そうに首を傾げて、ゼノヴィアは安心したように呟いた。

 

実は翔とリアスが来る前まで、朱乃とアーシア、ゼノヴィアの三人でトランプゲームをしていたのだ。その殆どを負けていたゼノヴィアであったが、翔とリアスが混じってからは翔がずっと負けていた。

 

「こういったゲームは昔から勝ったためしがないな・・・」

 

昔を思い出すような表情を浮かべて、苦笑しながら呟く。

すると―――

 

「楽しんでるとこ悪いが、ちょっといいか?」

 

アザゼルが翔達のところに顔を出した。

 

「どうした?」

 

「いやな、少し翔に話があってな」

 

「ああ、構わんぞ。それじゃ、少し席を外す」

 

アザゼルに言われ、リアス達に一言告げてから翔はその場から立ち上がる。

 

翔とアザゼルの二人は別の車両へ移動した。

そこはまるでバーカウンターを模した空間のようで、棚には様々な種類のお酒が置かれていた。

アザゼルは手慣れた様子で、棚から適当な酒を取り出すと、氷の入った二つのグラスに注いで、片方を翔への前と置く。

 

「・・・一応、俺は未成年だぞ?」

 

「それは()()ではだろ? ()()()でなら呑んでも大丈夫だっただろ? ならいいじゃねぇか。硬いこと言うなよ、一人で呑むより誰かと飲んでる方が楽しんだ。少しだけ付き合えよ」

 

「・・・はぁ、仕方ないか。一杯だけだぞ」

 

そう言って翔は置かれたグラスを手に取る。

 

「おっ! そうこなくちゃ! じゃあ、乾杯!」

 

「乾杯」

 

二人は互いのグラスを軽くぶつけて口に含む。

 

お酒独特の味が口の中に広がり、それを楽しみながらも喉に通す。

 

一口程度の量を口に含んで、それを味合うように飲む翔に対して、その横では一気にグラスの酒を飲み干して新たに注ぐアザゼルの姿があった。

その光景に若干呆れながらも翔は呼び出された理由を尋ねる。

 

「それで俺に何かしらの用があったのだろ?」

 

「・・・・・・実はな、『禍の団(カオス・ブリゲード)』について新たな情報が分かった」

 

「ほう・・・、それで何が分かったんだ」

 

僅かに目を細め、話の続きを促す。

 

「前に話したような? 『禍の団(カオス・ブリゲード)』には大まかに三つの派閥があるって」

 

「『旧魔王派』と『ヴァーリチーム』、そして『英雄派』だろ?」

 

先日アザゼルから伝えられた内容を思い出しながら答える。

 

「ああ、そうだ。・・・だが、カテレアからの証言でもう一つ新たな派閥が存在するかもしれないことが分かった」

 

「・・・新たな派閥だと?」

 

その言葉に翔は怪訝な表情を浮かべる。

 

「先日の段階ではカテレアはその情報を明かさなかったのか?」

 

「いや、明かさなかったというより、よく分からなかったと言ったほうが正しい。あいつ自身の()()()()に対してな・・・」

 

「そいつら? つまり複数いたのか?」

 

「そうらしい。それにまるで自分達の存在を目立たせないように『旧魔王派』の陰にいたらしいぞ」

 

「『旧魔王派』の陰にか・・・・・・気になるな。カテレアは他になんと?」

 

「・・・全員ローブを被って素顔が分からなかっったらしいが、これだけは言えると―――」

 

―――少なくとも今の全ての魔王と堕天使総督、天使長が共闘して戦っても、勝ち目は限りなく低い。

 

「とさ・・・。ったくよ、また面倒な奴らが出てきやがって・・・」

 

片手で頭を掻きながら深い溜め息を吐き出すアザゼル。

 

「・・・・・・他に何かしら情報はないのか?」

 

「あー・・・確か、リーダー格と思う奴は女で、そいつを含めて計八人くらいか居たってことしか分からないだとよ。ま、今はそいつらの存在が分かっただけでも儲けもんだ」

 

リーダー格が女で、メンバーが七人の計八人か・・・

 

アザゼルの言葉を聞いて、ふと頭の片隅によぎる者達・・・。

そして―――

 

 

―――私は貴方を救うためにこの世界を滅ぼす・・・―――人類に終焉を(もたら)

 

 

人々が生み出し創り上げた『業』・・・。

 

・・・・・・いや、まさかな

 

軽く頭を振ってその考えを消し去る。

 

「ん? どうした?」

 

「何でもないさ」

 

・・・そんなはずはない

だが、用心しておく必要があるかもしれないな

仮にそうだとしたら、俺が始末をつけなければならないのだから・・・

 

アザゼルの問いかけに答えつつ、翔は隣に座る彼に悟られることなく、内心で思いを巡らす。

 

『まもなくグレモリー本邸前、まもなくグレモリー本邸前。皆さま、御乗車ありがとうございました』

 

レオナルドのアナウンスが車両内に響き渡る。

 

「おっ? どうやら着くようだな」

 

「そのようだな・・・」

 

その言葉に翔はただ頷いた。

 

翔とアザゼルはリアス達がいる車両へと戻っていると、リアスが新人であるアーシアとゼノヴィアにグレモリー領について話していたので、翔とアザゼルもその話を聞くこととなった。

その結果―――

 

「まさか、日本の本州と同じとはな・・・」

 

「僕も初めて知った時はそんな顔をしていたっけ?」

 

「あらあら、翔くんがそんな表情を浮かべるなんて」

 

呆れと驚きが混じった表情で呟いた翔。アーシアとゼノヴィアはあまりの規模に驚きで固まっており、すでに知っていた朱乃や祐斗は苦笑いを浮かべていた。

 

「冥界は地球と大体面積が同じなのけれど、人口が人間界に比べて少ないのよ。それに海がないから、その分土地が有り余っているの」

 

「それにほとんどが未開拓の土地ばかりだからな。森や山ばかりだ。まぁ手入れする奴がいねぇからそうなるわな」

 

リアスの言葉に続きアザゼルが軽く補足する。

すると、列車が完全に停車したため、その話は一旦終わりとなった。

 

「アザゼルは降りないのか?」

 

翔達が降りる準備をする中、アザゼルだけは降りる気配は無かったため、翔がアザゼルに問いかけた。

 

「ああ、俺はこのままグレモリー領を抜けて魔王領の方へ行く予定だ。サーゼクス達と会談があるからな。所謂『お呼ばれ』だ。終わったらグレモリーの本邸に向かうから、先に行ってあいさつ済ませて来い」

 

「ああ、了解した。後でな」

 

「お兄様によろしく」

 

「おう」

 

やる気なさげに手を振るアザゼルを見送り、駅のホームに下りた翔達を出迎えたのは―――

 

『リアスお嬢様、お帰りなさいませ!!』

 

天地を揺るがしそうな大音声。

そして空砲と楽隊の演奏、グレモリー家の執事やメイド達であった。

それは地上だけでなく、空にも出迎えと思しき謎の生物に乗った兵士達もいる。

翔は人数の多さに面を喰らった表情を浮かべ、ゼノヴィアは目をパチクリさせ、アーシアとギャスパーは咄嗟に翔の背後に隠れた。

 

「ヒィィィィィィ!! ヒトが一杯・・・ッ!!」

 

ギャスパーに至っては背後に隠れるだけでなく、彼の背中にしがみついて震えていた。

彼の対人恐怖症は翔のおかげである程度は緩和されているのだが、流石にこれほどの大勢の者達の視線が一斉にこちらに向けられれば、軽く恐怖するのも仕方がないことだと言えるだろう。

 

「ただいま、みんな。こんなお出迎えしてくれてありがとう」

 

先頭にいるリアスが満面の笑みを浮かべて、自分の執事とメイド達に挨拶をしていると、そこに歩み寄ってくる見覚えのある一人の女性・・・グレイフィアだ。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。それに眷属の皆さま。道中、何事も無くて何よりです。

馬車をご用意したのでこれにお乗りください。グレモリ―家の本邸までこれで移動します」

 

優雅に挨拶を済ませると、彼女の誘導されて一同は豪華絢爛な造りの馬車の元へ。

馬も普通のものではなく人間界にいるものと比べて体が大きく、眼光が鋭かった。並みの肉食獣なら一睨みされただけで逃げ出すだろう。

だが―――

 

「ちゃんと手入れされてるな。馬も幸せだろう」

 

何事もなく翔は馬に近づき軽く頭を撫でる。

すると馬は嬉しそうに目を細め、翔に顔をすり寄せる。

 

「本当に翔には何でも懐くのね?」

 

「そんなことはないぞ。こいつらに敵意がないからこそ、こうやってくれるんだ。

警戒心が高く、敵意が強い動物にはすんなりと出来ないさ」

 

呆れたように呟くリアスに答えながら、翔は馬車へと乗り込む。

 

リアスの家まで馬車で移動をしていた。

馬車は二つ用意されており、先頭を走る馬車には翔とリアス、アーシア、ギャスパーが乗り込んでおり、後方の馬車には朱乃と祐斗、ゼノヴィア、小猫が乗っている。

パカパカという見た目に反して馬の蹄の音が妙に可愛らしいのが印象的であった。

馬車の窓から顔を覗かせて、視線を走らせていた翔の視界に何か巨大な建造物が飛び込んでくる。

 

「結構大きな城があるんだな」

 

「あら、あまり驚かないのね? 朱乃達が最初見たとき目を見開いて驚いていたのを思い出すわ」

 

昔の朱乃達の反応を思い出し、リアスは笑みを浮かべる。

そして、あまり驚きを示さない翔に疑問を持つ。

 

「まぁな、あれよりも大きい城で執事をやってた時があったからな・・・」

 

そう呟いて、頭に思い浮かべるのは首元まで伸びたショートヘアの金髪に、血のように赤い眼をした美女。自由奔放な猫のように、明るくしなやかなで吸血鬼のくせに太陽をなんか怠い程度で済ませる。

 

まったくあの我がまま吸血鬼が・・・

 

内心であの頃の事を思い出して苦笑をする翔であったが、その心はとても穏やかであった。

すると、目の前に座っていたリアスがむっとしたような表情を浮かべ、若干翔の事を睨むような視線を向けていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「何となく、嫌な気がしたのよ。例えば、翔が他の女の事を考えていた・・・とか?」

 

的確過ぎる言葉に流石の翔の苦笑を禁じ得ない。

 

「まぁ、色々とあったのさ。お前が気にすることじゃない」

 

そうして、暫く馬車で揺られていると、場所の窓から冥界とは思えないほど美しい花々が咲き誇っており、右斗な造形の噴水が設置されていたりととても素晴らしい光景が広がっていた。

 

馬車はリアスの家らしき城の庭と思しき道を進んでいき、暫くして止まった。

 

「着いたわね」

 

リアスがそう小さく呟くと、場所の扉が開かれる。

先に降りたリアスに続き、翔達も外に出ると―――

 

「・・・凄まじいな」

 

「はわはわ・・・」

 

「ヒィイイイイイイイイッ!!」

 

翔は感嘆の声を漏らし、アーシアは唖然とした様子を見せ、ギャスパーはただ悲鳴を上げながら翔の背中にしがみついていた。

翔達の眼前には大勢のメイドと執事が両脇に整列し、一本の道を作っており、その道には赤いカーペットが奥にある城の入り口へと続いている。

 

「お嬢様、皆様。どうぞお進み下さい」

 

もう一台の馬車が到着し、朱乃達と合流するとグレイフィアに促され、歩き出そうとした時。メイドの列の間から小さな人影が飛び出した。

 

「リアス姉様、お帰りなさい!」

 

「ただいまミリキャス。大きくなったわね」

 

駆け寄ってきた可愛らしい紅髪の子をリアスは愛しそうに抱き締める。

 

「この子は・・・サーゼクスさんとグレイフィアさんの子か?」

 

小さい子供のことを見て、翔は驚いたようにリアスに問いかける。

 

「ええ、この子はミリキャス・グレモリー。お兄様―――サーゼクス・ルシファー様の子供なの。

私の姪という事になるわね。ほら、ミリキャス。あいさつして。彼が私の新しい眷属なのよ」

 

「はい。ミリキャス・グレモリーです。初めまして」

 

ミリキャスはリアスから離れ、可愛く一礼する。

大して、翔は片膝をついてミリキャスと視線を合わせながら優しく微笑みながら挨拶を返す。

 

「こちらこそ初めまして。俺は御剣翔だ。気軽に翔で構わない。ミリキャスはその見事の紅髪はサーゼクスさんから受け継いで、そしてグレイフィアさんの面影もある・・・将来はきっと美人さんになるだろうな」

 

そう言って、優しく頭を撫でる。

撫でられている本人は最初はきょとんとしていたがすぐに自分が何をされているのか理解すると恥ずかしそうな表情を浮かべるが、あまりにも気持ち良すぎたため、黙って撫でられ続けていた。

 

「ああ、魔王であるサーゼクスさんとその《女王》であるグレイフィアさんの子供にこんな対応したらいけないか・・・」

 

途中でそのことに考えが至った翔がミリキャスから離れようとするが、それより前にグレイフィアが翔に近づき小さく耳打ちした。

 

「翔様のお好きなようにしてくれて構いません。それをこの子も望んでます」

 

「そうなのか? 貴方がそう言うのならば気にしないが・・・」

 

「そこまで気にしなくて大丈夫よ。魔王の名は継承した本人しか名乗れないから、この子はお兄様の子供でもグレモリー家なの。私の次の当主候補でもあるのよ」

 

「なるほどな。確か現魔王は血筋ではなくとの実力で選ばれたからな、そう言われるとそうか」

 

リアスの言葉を聞いて納得した翔はミリキャスにリアスと手をつないでいくようにと促した。

 

「さぁ、屋敷へ入りましょう」

 

ミリキャスと手を繋いで門の方へ進みだすリアス。

翔達も置いていかれないようについて行く。その間、アーシアとギャスパーはずっと翔の背中に引っ付いたままだった。

巨大な門を潜り抜けるとそこには大きく広がる玄関ホール。そして二階へと続く階段に天井の巨大なシャンデリアを見て、アーシアとゼノヴィアは現実離れしたスケールにただ呆然とするだけだった。

 

「お嬢様。早速、皆様を部屋にご案内しようと思うのですが・・・」

 

「そうね。私もお父様とお母様に帰国の挨拶をしたいと思ってたところだし」

 

リアスの言葉にグレイフィアは予定帳と思しきものを取り出す。

翔は二人の話に耳を向ける。

話の内容だと母親は現在この屋敷にいるらしいが、父親は現在外出中とのこと。

夕食までには帰ってくるので、そこで顔合わせする事になるだろう、と。

 

「それじゃ、お父様が返ってくるまで時間があるから各自案内された部屋で休んでて構わないわ」

 

そうリアスが告げると―――

 

「あらリアス。帰ってきてたの?」

 

上のほうから声が聞こえてきた。

見れば、階段からドレス姿の美少女が降りてくる。

容姿がリアスとそっくりであり、違う点を挙げるとすれば、髪が亜麻色であることとリアスより目つきが少し鋭く感じられる。

リアスの姉か何かだと思い、翔は頭を下げようとしたところ―――

 

「お母様、ただいま帰りましたわ」

 

「・・・ん? お母様? なぁ、リアス? 俺の聞き間違えじゃなかったら、お前はあの綺麗な女性をお母様って言ったな?」

 

ええ、言ったわ・・・と苦笑しながら翔の問いに答えるリアス。

 

「あら、綺麗だなんて嬉しい事をおっしゃいますのね」

 

リアスの母親は頬に手をやり上品に微笑む。

 

「悪魔は歳を経れば魔力で見た目を自由に出来るのよ。お母様は何時も今の私ぐらいの年恰好なお姿で過ごされているの」

 

「なるほど・・・悪魔は見た目を変え、人を誘惑すると言われるからな」

 

そう納得していると、リアスの母親は翔に視線を向けながら口を開いた。

 

「リアス、その方が御剣翔くんね?

初めまして、リアスの母、ヴェネラナ・グレモリーです。よろしくね、御剣翔くん」

 

挨拶をする彼女。

だが礼儀作法を身につけたそれはとても美しく、まるで一枚の絵画のようであった。

 

玄関ホールでリアスの母、ヴェネラナとの衝撃的な顔合わせから数時間後、翔達はダイニングルームにいた。大きく、それでいて長いテーブルの上にはとても食べ切れなさそうな料理が並んでいる。

席についているのはリアスと眷属悪魔、リアスの両親とミリキャスだ。

 

「遠慮せずに楽しんでくれたまえ」

 

リアスの父親の一言で晩餐は始まった。

出される料理はどれも豪華であり、流石は上流階級である。

 

それにしても、案内された部屋は広かったな、あそこで暮らせるほど設備は整っていたしな・・・

アーシアとゼノヴィアは広い部屋に馴染めずに俺の部屋に来ていたし・・・

 

並みの家の敷地なみに広い部屋には何人も寝れそうなベット、その他にもテレビや冷蔵庫、生活に必要な家具が全て揃っていた。広すぎる部屋にアーシアとゼノヴィアが翔のところに転がり込んできたのだ。

翔が軽く周りを見ると、リアスは勿論のこと。《女王》と《騎士》である朱乃と祐斗の食べ方は非常に綺麗だった。

アーシアとゼノヴィアは四苦八苦しながらも様になる食事をしている。まだ小さいミリキャスも上手に食べていた。そして、対面に座るギャスパーに視線を向けると、縮こまり涙目になりながら料理を食べている姿があった。結局アザゼルは食事までには間に合わなかった。

 

まぁ、そろそろ食べるか・・・。出されたからには食べなければ失礼だしな

 

そう思い料理に手を出す翔。

翔は前の世界などでこういう場での食べ方は身についているので、リアス達同様―――いや、それ以上に優雅に食事をする。

小猫はといえば、食事その物に手をつけていなかった。見かけによらず健啖家である彼女にしては珍しい。

 

これは思っていた以上に深刻のようだな・・・

自分の強さについて・・・それもあるが他にも悩んでいることがありそうだな

その二つの悩みは恐らく似たようなものの感じがする・・・

・・・・・・・・・自分の力の根源か

 

小猫が思い悩んでいることに思い至った翔は、チラッと小猫から視線を朱乃へと移す。

昔から面識があるためリアスとその両親と楽しそうに談笑をしながらも、その表情にはどこか暗いものが感じられた。

 

自身の生まれ、力の根源・・・

否定している者がそれらに向き合うのは生半可なことではない

朱乃にしても小猫にしても・・・

それはいずれ越えなければならないものだ

 

食事をしながらも翔の意識は朱乃や小猫に向けられており、彼女らの問題について自分は何が出来るかを思案していると―――

 

「リアスの眷属諸君。ここを我が家と思ってくれたまえ。欲しい物があったら遠慮なくメイドに言ってくれ。すぐに用意させよう」

 

とリアスの父親である、グレモリー卿が言ってくれるが、求めるものが何も無いので苦笑を浮かべる翔。

 

「御剣翔くん」

 

すると唐突に名を呼ばれる翔。

彼の事を呼んだのはグレモリー卿であった。

 

「すまないが、こちらに滞在中に一度だけでいいから、料理を作ってくれないか?」

 

「料理ですか?」

 

いきなりの要望に流石の翔もわずかに驚いた様子を見せる。

 

「ああ、以前に君の家で食べた料理がとても美味しくてね。

妻や孫に食べさせたいのだが・・・構わないだろうか?」

 

「はい、光栄です。誠心誠意作らせていただきます」

 

そう言って、翔はその場で軽く一礼すると、グレモリー卿は満足そうに笑みをこぼす。

 

「御剣翔くん」

 

続けて己の名が呼ばれるとは思っていなかったので、少し驚いた表情を見せた翔であるが、すぐに平静を取り戻し返事をする。

どのような話題なのだろうと考えていた翔であったが、彼にとって予想外の言葉が耳に入り込んだ。

 

「今日から私のことをお義父さんと呼んでくれても構わない」

 

「ッ!?」

 

予想外すぎる言葉を聞いて、飲んでいた水を噴き出しそうになるが、何とか我慢をする。

だが、流石に辛かったようで軽く涙目になりながら小さく咳を繰り返しながらも平静を取り戻そうとしていると、近くにいたメイドの一人が気を利かせてくれ、背中を摩ってくれた。

 

咳が治まると、翔は軽く笑みを浮かべながらメイドに礼を告げる。

その際にそのメイドを含め、近くにいた他のメイド達も顔を紅くする。

 

そのおかげで、リアス達がジト目を翔に送る。

そんな彼女らを無視して、グレモリー卿に翔は視線を移し、言葉をかける。

 

「いえ、それは流石に・・・」

 

「あなた、それは性急過ぎますわ。物事には順序があるでしょう」

 

翔がどう反応していいか迷っていると、妻であるヴェネラナが諭すように言葉を放つ。

 

「うむ、しかしだな・・・他にも彼に目をつける者など多く居るだろう・・・それに紅と赤なのだ。めでたいではないか」

 

「それならリアスがしっかりと繋ぎ止めるでしょうから心配ないでしょう。それに浮かれるにはまだ早い、ということですわ」

 

「そうだな。私は少し心配性のきらいがあるようだ」

 

妻に諭されて溜め息を吐いたグレモリー卿。

見たところ妻の尻に敷かれているのは理解できた。

きっと、リアスが結婚したらこんな感じになるんだろうな・・・と関係ないことを頭の隅で考えている翔は、チラッと視線をリアスに向ける。

そこには顔を真っ赤にしているリアスの姿が見えた。食も進んでない様子・・・。

 

「御剣翔さん。いえ、翔さんと呼んでもよろしいかしら?」

 

すると、今度はヴェネラナの方が翔の事を呼ぶ。

 

「構いません」

 

特に問題ないので、翔は頷いて快諾の旨を示す。

 

「暫くの間はこちらに滞在するのですよね?」

 

「そうらしいですね、主がこちらで様々な行事があると仰っていたので、それが終わるまではこちらに滞在するつもりです。余程の事がなければ」

 

「そう、ならちょうど良いわ。貴方には必要ないかもしれないけれど、念のため紳士的な振る舞いや上流貴族としてのマナーを勉強してもらいます」

 

「それは―――」

 

何故?と問いかけようとしたところで、バンッ!と誰かが力強くテーブルを叩きつける音が響いた。

発生源に視線を向ければ、見ればリアスが眉を吊り上げて立ち上がっていた。

 

「お父様、お母様!

先ほどから黙って聞いていれば、私を置いて話を進めるなんてどういうことなのですか!?」

 

リアスの一言にヴェネラナはすっと目を細めた。

憤怒の形相を作っているわけではないが、その表情からはどこか背筋が寒くなるような凄みが感じられる。

まだ未熟であるリアスとは違って、感情を表には出さずに内側に抑え込んでいる。

 

「お黙りなさい、リアス。ライザーとの婚約を解消したのを忘れたりはしてないわね?

私達がそれを許してるだけでも破格の待遇だと思いなさい。お父様とサーゼクスがどれだけ他の上級悪魔の方々に根回ししたと思っているの? 一部からは『グレモリーの我がまま娘が伝説のドラゴンを使って婚約を解消した』と言われているのですよ?」

 

「私はお兄様とは―――」

 

母親の言葉にリアスが顔を怒りに歪ませて反論しようとするが、ヴェネラナがそれを許さない。

 

「サーゼクスが関係無いとでも? 表向きはそう言う事になっています。けれど、誰だってあなたを魔王の妹として見るわ。三大勢力が協力体制になった今、貴女の立場は他の勢力の下々まで知られた事でしょう。以前の様に勝手な振る舞いはできないのです。そして何よりも今後の貴女を誰もが注目するでしょう。リアス、貴女はそういう立場に立っているのですよ?二度目の我が儘はありません。甘えた考えは大概にしなさい。―――いいですね?」

 

その言葉はまさに正論。

リアスが何と言おうと今後、彼女は魔王の妹として見られるのは仕方がないことだ。

三大勢力を含め、他の勢力とも協力体制を行おうとすればするほど、リアスは魔王の妹として見られる機会が以前より確実に増えていく・・・。

それに赤龍帝である翔が眷属にいるのだ。良い意味でも悪い意味でもこれから先、リアスは注目されるのは仕方がないことと言えるだろう。

 

リアスは悔しそうにしながらも何も言い返せない様子だ。

納得が出来ないまま、椅子に勢いよく腰をおろす。

そんな彼女にヴェネラナは小さく溜め息を吐くと、今度は笑みを眷属達に向ける。

 

「リアスの眷属の皆さんには、御見苦しいところを見せてしまいましたわね。

話は戻しますが、ここへ滞在中、翔さんには特別な訓練をしてもらいます。

少しでも上流階級、貴族の世界に触れてもらわないといけませんから」

 

少しばかり面倒なことになったな・・・

それにしても―――

 

「・・・どうして俺なんだ?」

 

小さく呟かれたその言葉は、どうやらヴェネラナには聞こえたようで、彼女は真面目で、そしてどこか優しさが含まれた表情で真っ直ぐと翔を見据えて告げた。

 

「貴方は―――次期当主の娘の最後の我が儘ですもの。最後まで責任を持ちますわ」

 

見る見るうちにリアスの顔が紅くなっていくが、今の翔にそのことを気にする余裕はなかった。

 

子のことを思う優しい母親の表情で告げたヴェネラナはとても魅力的であり、翔は無意識のうちにそんな彼女に見惚れてしまう。

 

以前どこかで・・・記憶にはないが確かに似たような表情を俺は知っている・・・

 

何も覚えていない翔であるが、ヴェネラナが浮かべた表情に既視感を覚えた。

 

「・・・どうしたのですか? 」

 

「何がです?」

 

突然のヴェネラナの問いかけに意味を計りかねた翔は逆に問いかける。

 

「そんな・・・・・・いえ、何でもありません」

 

何かを言いかけたヴェネラナであったが、それは途中でやめた。

彼女の傍で控えていたグレイフィアを除いて、他の者達も理解が出来なかった。

 

誰も気づかないのね・・・

いえ、グレイフィアだけは気づけたようだけれど

 

チラッと傍に控えている彼女の方へと視線を向けると、そこにはいつも通り職務を全うするグレイフィアの姿があったが、長年一緒にいるヴェネラナには、今の彼女が悲しげな表情を浮かべて、翔の事を見ているのはすぐに理解できた。

 

・・・子を持つ母親ならばきっと気付く

彼が、翔さんが誰にも悟られることなく内心で泣いていたのを・・・

きっと本人も気づいていない・・・

 

ヴェネラナは子を思うような視線を翔に向けるのであった。

 

 




エヴァも更新したのですが、やはりメインはこちらなので
エヴァのほうは遅くなります。
楽しみにしている皆様には申し訳ありません。
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