ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~ 作:satokun
はぐれ悪魔
爵位持ちの悪魔に下僕となった者が、自身の主を裏切り、または主を殺して主なしとなる事件が極稀に起こる。その者達のことを『はぐれ悪魔』と読んでいる。はぐれになった者達は人間界に身を潜めて、人を喰らう化け物へと変わり果てる。そのため見つけ出し次第、主人もしくは他の悪魔が消滅させることとなっている、それが悪魔の決まり。これらは他の存在でも危険視されていて、天使や堕天使側もはぐれ悪魔がいたら見つけ次第殺すよう命じられているらしい。
今回はそれを討伐するよう、この地を管理し活動している上級悪魔であるリアスに悪魔上層部から依頼が来たのだ。
「無駄に雰囲気あるな」
はぐれ悪魔が潜伏してるであろう廃墟にきた翔は呑気な感想を漏らす。
「血の臭い・・・」
小猫は匂いに敏感のようだな・・・
この奥にいる気配は黒い・・・いや、汚れていると言った方が適切か?
兎に角、醜悪なものだ
小猫は廃墟から血の臭いを感じとり、無表情な顔を僅かに歪める。
そして、翔も廃墟の中にいるであろうはぐれ悪魔の気配を感じ取り、僅かに目を細めて廃墟を見つめる。
「翔、いい機会だから悪魔の戦いをしっかり見ておきなさい」
ギィ、と嫌な音をたてながら扉が開く。
「ついでに下僕の特性も説明しておくわ」
「特性?」
「悪魔・天使・堕天使の三つ巴の関係は前にも説明したわね。長い戦いの中でどの戦力も疲弊し、やがて戦争は勝者を生まず終結した。悪魔も純血を失い軍団を率いる事が出来なくなったの。そこで始まったのが小数精鋭の制度。翔はチェスのルールを知ってるかしら?」
「ああ、人並みにはな」
「下僕をチェスの駒に見立ててるの、私達はこれを『悪魔の駒』と呼んでいるわ。それで、チェスの駒には《王》《女王》《騎士》《戦車》《僧侶》《兵士》とあってそれぞれ特性が異なるの。
これと同じように下僕悪魔にそれぞれの特性を授ける事で少数でもより強大な力を発揮できるようにしたの。
今では『悪魔の駒』を使ってその強さを競う『レーティングゲーム』と呼ばれるゲームが爵位持ちの間で流行しているくらいよ」
「強さを競うゲームね・・・」
「簡単に言えば、下僕を駒にして実際に戦う大掛かりなチェスね。でもこれが地位や爵位に影響するようになっていったの」
「じゃあ、俺もその内ゲームに参加するのか?」
「私はまだ成熟した悪魔ではないから公式の大会には出場できないの」
「僕達もまだ出た事はないんだよ」
翔の疑問にリアスが答え、それを補足するように祐斗が言う。
「出場するにはいろいろと条件があるから、まぁしばらくはゲームする事はないって事ね」
「・・・近い将来にゲームに参加する気がする。それで、俺の駒は《兵士》か・・・」
「そんなことはないわよ。それに貴方の駒には―――」
「美味そうな匂いがするなぁ・・・不味そうな臭いもするなぁ・・・」
「きたわね」
リアスの言葉を遮り、部屋の奥からズシッ、ズシッと重々しい音が近付いてくる。
「酷いな・・・(人の死臭がする・・・。こいつと
小猫も臭い、と青筋たてながら鼻を塞いでいる。
朱乃も、あらあら・・・とか言ってるけど割りと平気そうだ。
だが、翔だけは厳しい表情をしていた。
「はぐれ悪魔バイザー、あなたを消滅しにきたわ!」
「ひゃはははははははは」
狂ったような笑い声が響くと、奥の影から何かが飛んできた。
それは翔達の少し前の落ち、それを見ると、上半身だけの女性の死体だった。
それを認識した翔は一瞬、鋭い眼をするが、誰のも気付かれることは無かった。
「いい匂いだなぁ。その髪のように肉も新鮮な紅い色なのかなぁ」
はぐれ悪魔がその姿を現す。
「この世界に来て最初にやったのと似てるな」
「品性のかけらもない風貌だわ。とてもお似合いよ」
バイザーの姿は上半身に裸の女でその両手に槍を持っているが、下半身は更に異様で巨大な犬のようなものだった。
「こざかしい小娘が・・・・・・その紅の髪のごとく鮮血で染め上げてやるわ!」
「雑魚ほど洒落た台詞を吐くものね」
「貴様ぁあ!!」
リアスの言葉にバイザーが怒り、槍を振り上げるが―――
「祐斗!」
「はい!」
「翔、さっきの続きをレクチャーするわ」
祐斗がバイザーに突っ込む。
「祐斗の役割は《騎士》。《騎士》の特性は目にも止まらない『速さ』」
振り下ろされた槍を躱して行く。
「そして祐斗の最大の武器は・・・捉えきれないスピードと達人級の剣捌きによって繰り出される。高速の剣撃よ!」
素早い動きでバイザーを翻弄し、すきをついて腕を肩口から切り飛ばした祐斗。
だが、翔は―――
あの程度の速さはそこまでではないし、剣捌きも達人とまではいえないな
速さ頼りな感じがするが・・・・・・ああ、リアスが言ってるのは通常の達人の事か・・・
俺が知っている達人達は別次元だからな・・・
自分の師匠達の事を思い出して苦笑する翔。
「ギエエエェェ!この小虫がァァァァ!」
バイザーが巨大な足を使い祐斗を潰そうとすると、小猫がそこに入り潰される。
だが、誰も心配はしていない。
何故ならば―――
「小猫の役割は《戦車》。特性はバカげたパワーと防御力」
小猫はバイザーの足を放り投げるが、バイザーの尻尾で壁に打ち付けられてしまった。
それでもリアスは余裕の態度を崩さない。
「あの程度の攻撃じゃ小猫はつぶせないわよ」
「それでも、ビジュアル的にはアウトだな」
くだらない翔の呟きは全員に無視される。
「吹っ飛べ・・・・・・」
小猫のジャンプアッパーをもろにくらいバイザーは吹っ飛ぶ。
「そんなバカな・・・・・・こんな小僧どもに」
弱っ、とボソッと言いながら手をはたく小猫。
「最後は朱乃ね」
「はい部長。うふふ・・・どうしようかしら♪」
朱乃は笑顔だな・・・
「朱乃の役割は《女王》」
「あらあら? まだ元気みたいですね・・・・・・それなら、これはどうでしょうか?」
手からパリパリと雷を作り、バイザーに放つ。
「《兵士》・《騎士》・《僧侶》・《戦車》。全ての力を兼ね備えた無敵の副部長よ」
「全部の力ね・・・。確かに全体的に能力が高そうだが、個々の能力で見ると劣ってるな・・・
要は上手くバランスのとれた駒ってわけか・・・」
「あらあら、まだいけそうですわね。どこまで耐えられるかしら?」
「始まったわね・・・・・・何より朱乃は―――究極のSなの」
舌嘗めずりしながら雷を放ち続ける朱乃。
誰が見て今の朱乃は生き生きとしている上に、誰もが見惚れるような笑顔を浮かべていた。
もっとも彼女が行っている光景を見れば、誰も見惚れずに引き攣った笑みを浮かべるだろう。
極一部の者達には喜ばれそうではあるが・・・。
・・・・・・ん? バイザーの腕が動いてるな
斬り落とされたバイザーの腕がピクピクと動いているのを見た翔は己の
「リアス。ちょっと悪い」
「何? きゃあ!」
バイザーの腕が飛んできてリアスを狙っていたので、翔はリアスを引っ張り寄せて飛んできた腕を籠手で殴り飛ばした。
「あ、ありがとう・・・」
「ちょっと油断のしすぎだ。気をつけろよ」
「お手柄ですね翔くん♪ では、トドメは部長におまかせしますわ」
リアスが焦げてるバイザーに近づく。
「最後に言い残す事はあるかしら?」
「殺せ・・・」
「そう、それなら・・・消し飛びなさい」
リアスから真っ黒な魔力が放たれてバイザーが跡形もなく消える。
「部長は消滅の魔力を使えるんだよ」
「消滅か・・・」
強力な力だな・・・。才能はあるがリアス自身が未熟なため力を上手く使いきれてない
もっとも、それはリアス以外にも言えることだがな・・・
翔はリアス達の戦いぶりを見て、ある程度の実力を予想する。
「終わりね、皆ご苦労様。 帰ってお茶にしましょう。」
その一言にメンバーの面々も、いつもの陽気な雰囲気を纏い始めた。
翔だけはまだ何か警戒している様子だが、リアス達は気付いていない。
依頼をこなした事で翔以外は晴れ晴れとした表情をしていたが、リアスだけは不満そうな顔で俯いていた。
「(本当なら、翔の力も見てみたかったんだけど、ついつい、いつもの調子で終わらせてしまったわ)」
翔に視線を向けるが、すぐに頭を振って気持ちを切り替える。
「(・・・ま、焦ってしまっても仕方ないわね。堕天使側も妙な動きをしているみたいだし、ここで事を急ぐのはエレガントじゃないわ)」
自分にそう言い聞かせ、リアスは翔達に向き直り言う。
「さて、そろそろ帰るわよ。明日も学校あるんだし、早く支度なさい」
手を叩き、祐斗達を此方に振り向かせた。
その時―――
「油断するな、と言っただろ。―――避けろッ!」
リアスを抱きかかえ、横に避ける翔。
その直後、リアスのいた場所には巨大な物体が通り抜け、朱乃達に向かって突っ込んでいく。
だが、朱乃達は翔の言葉により迫り来る物体に気付き、避ける三人。
「・・・迂闊だったわ。まさかもう一体いたなんて」
自分の甘さにリアスは苦々しい顔で物体へ睨み付ける。
舞い上がる砂塵の中から露わになる輪郭。上半身は裸の男で下半身はバイサーと同じ獣。
しかし大きさは一回り以上大きくなった巨大なバケモノ。
そして両手にはバイサーとは違いその図体に見合った巨大な斧が握り締められていた。
「部長、どうやら大公の方で情報のトラブルがあったみたいです。今回の依頼は『一組のはぐれ悪魔を仕留める事』だそうです」
端末機らしき物を耳に付け、今回の依頼の本当の内容を告げる朱乃。
「全く、大公もいい加減な仕事をしたものだわ。・・・それとも、そうさせるだけの力がアイツにはあるって事かしら?」
額に手を添えた後、嘆息と共にバケモノを睨み付ける。
「・・・・・・ごめんなさい、部長。油断してました」
「貴女が謝る必要はないわ、小猫。全ては雑魚だと思って侮っていた私の責任よ。
それに翔は気付いてたみたいだし、何で言ってくれなかったのよ?」
しょんぼりと俯く小猫にリアスは優しく彼女の頭を撫でながら、翔の方を向く。
「ま、実力をみたかったのはお前だけじゃないってことだな」
おどけたように言うが、視線ははぐれ悪魔から外さない。
「我が名は悪魔ゲルド。貴様等を喰らい我が血肉とする者よ!」
「あまり図に乗らない方がいいわよ? 今の私は少々苛立っているのだから」
バイサーよりも一回り以上巨大なバケモノに一切動じず、リアスは先ほどと同じように左手を掲げ、消滅の魔力を放とうとするが―――
「そうだ! 翔、貴方がやりなさい」
掲げていた左手をおろし、翔に戦うように言った。
「―――俺の力が見たいのか?」
「ええ、そうよ」
誰もが魅了するような笑みを浮かべながら、リアスは翔の言葉に頷く。
それに僅かに溜め息を吐いてから、了承する。
「・・・・・・了解した」
そう言って、翔はリアス達より前に出て、はぐれ悪魔のゲルドと対峙する。
「そう言う訳で、お前の相手は俺がすることになったんだが、いいか?」
「誰が来ようと変わらん」
ゲルドは余裕の笑みを浮かべている。
どうやら相手は翔と自分の実力差が分からないようだ。
こいつ、本当に主の悪魔を倒したのか・・・?
この程度にやられるんなら、その主も大したことなかったようだな・・・
内心でゲルドの態度などに呆れる。
左腕に赤い籠手、
「・・・一つだけ訊く。人をどれだけ喰らった?」
その問いにゲルドは嫌な笑みを浮かべて答える。
「さぁ、知らんな。そんな事覚えていない」
「そうか・・・」
その言葉を聞き、翔は瞳を閉じる。
そして、開けた途端に翔の瞳には冷たいものへと変わるが、その奥には悲しみが秘められているような感じがした。
「―――貴様を殺す」
「出来るものならやってみろッ!」
相手は右手に持っていた巨大な斧を振り下ろしてくるが―――
「遅いうえに力が全然乗ってない。それじゃ容易に防がれる」
それを易々と籠手を装備している左手で受け止め、掴む。
「ッ!!こ、このぉぉぉぉ!」
ゲルドは受け止められた斧を引き戻そうとするが、翔はビクともしなかった。
「ああ、悪かったな」
と言いながら、翔は斧を離す。
すると、力を入れて引こうとしてた相手は急に離されたのでそのまま後ろにこける。
「き、貴様ぁあ!おちょくりおってぇぇぇ!」
ゲルドは立ち上がり、体制を直し今度は左の斧で薙ぎ払うように横から振るう。
「無駄だ」
それに対しても翔は自然体で立ち、薙ぎ払うように振られた斧を籠手で受け止め、逆に斧を押し返し、またもやゲルドは後ろへと下がらされる。
すると―――
『Boost!』
籠手から機械的な音声が流れる。
これが倍加か・・・・・・体にかかる負担はそこまでないな・・・
『それは相棒の身体が異常なほど鍛えられているからだな。
神器を通して、相棒の身体を軽く調べてみたが・・・・・・何だこのふざけた身体は? 無駄なく絞り込まれているじゃないか。これほどの肉体は歴代でもトップだぞ?』
それは嬉しいことだな・・・
理由はアレだな・・・・・・師匠の一人の特殊な鍛え方のお蔭だな・・・
『師匠? それに特殊な鍛え方とは?』
翔の言葉に興味を持ったドライグであるが、翔は、後で話すと告げて、この話題を終了させた。
「本当はこの力を使わなくとも、貴様程度なら
「きっ貴様ァアアアアアア!!」
挑発するような言い方の言葉にさらに激昂するゲルド。
すでに最初に会った紳士的な仮面は剥がれ落ちており、醜いの本性が全身から放たれている。
無造作に。だが、今まで以上に力を籠められた両手の斧を突進しながら翔へと振り下ろそうとするが―――
『Explosion!!』
先ほどとは違う音声が籠手から響くと同時に、翔から放たれる魔力の威圧が増す。
「これが
「・・・・・・凄すぎです」
「うん。翔くんから放たれる威圧が急に上がった」
「確かにそうだけれども・・・(私の眷属になったけど・・・悪魔でもなく、魔術師でもない翔がこれほどの魔力を秘めているなんて・・・。今まで気づかなかったけれど、本当に私は運が良かったみたいね♪)」
後方では翔の戦いを見ていたリアス達が感想を述べ、主であるリアスは翔が自分が思っていた以上に凄いことを認識する。
「・・・・・・お前も悪魔にならなければ穏やかな人生を送れたのかもしれない。
だが、お前の魂は醜悪に染まっている・・・。
俺が出来ることは精々、お前をこの場で殺す事だけだ・・・。―――ごめんな」
向かってきたゲルドに翔は誰にも聞こえない声量で静かに呟く。
その瞳には悲哀の色が満ちていた。
翔は僅かに腰を降ろして、左手をゲルドに向けて、右手を腰へと移す。
ゲルドは翔の目前に迫り、両手に持つ巨大な斧を両方力の限り振り下ろそうとした瞬間・・・・・・姿を消した。
そして―――
ドォオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!
何かが崩れる音が響いた。
リアス達は何が起きたのか分からなかったが、まず音がなった場所へと視線を動かすと、そこには壁が崩れ瓦礫になっていた場所にゲルドがいた。
だが、胸の部分。つまり心臓の位置する場所には穴が開いており、血が止めどなく溢れていた。両手に持った斧は無残にも砕かれており、原形をとどめていなかった。
そして、翔は腰へと移していた右手を前方に突き出し、そう丁度、空手の正拳突きをした動作で動きを止めていた。
一瞬何がどうなったが理解できなかったリアス達であったが、絶命しているであろうゲルドと翔の姿を見て、何が起きたのか理解した。
そして、眼を見開いて驚愕するのであった。
翔が行ったことは単純。向かってきたゲルドに、翔は右手で正拳突きを放った。
ただそれだけである。
だがその突きは、ゲルドが持っていた斧の刃も容易に砕き、そのままゲルドの胸を穿ったのである。
並大抵の者には、出来ない。いや、上級悪魔であるリアス。そして力がある《戦車》の小猫でも真似は出来ないだろう。
「終わったぞ」
その事に呆然とするリアス達であったが、翔に声をかけられ、現実に戻される。
翔は先ほどの悲哀の色を浮かばせた表情ではなく、普通のものに戻っていた。
「えっ、ええ・・・。お疲れ様。まさか・・・・・・これほどとわね」
「じゃあ、とりあえずは部室に戻るのか?」
「そうね。じゃあ、みんなお疲れ様! 今日の依頼はこれで終わりよ。
まず部室に戻りましょう。話はそれからよ」
そう言って、魔方陣を朱乃に準備させるリアス。
これで翔がリアスの眷属となって初めての戦闘は幕を閉じたのだ。
だが、これは翔の力の一端でしかない。
後日、リアス達はそれを思い知るのであった。