キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦 作:ゆーえゆ
ある日、人は星の内層に眠る力を得た。力の名を星霊と言い、力を得た人々を星霊使いと言う。
彼らは超常の能力を振るい、そうでない者はその力を恐れた。そして彼らを魔女・魔人と呼んで迫害する。
その迫害に反逆した大魔女ネビュリス——始祖と呼ばれる星霊使いが帝国の首都を火の海に変え、星霊使いの国を作り上げてから百年。
軍事国家であり『機械仕掛けの理想郷』と呼ばれる帝国、そして帝国人が魔女と呼ぶ星霊使いが暮らす『全ての魔女の楽園』ネビュリス皇庁。
その二大国の戦争は、今でも続いている。
これは、そんな国に生まれた黒鋼の後継と呼ばれる剣士と氷禍の魔女と呼ばれる王女の宿命の戦い————に巻き込まれていく、双子の妹の物語である。
「はあ、そうですか。それは良かったですね。アリス」
「ちゃんと聞いてるの、アーシャ? これは重要な問題よ!」
ネビュリス皇庁、王宮。星の塔と呼ばれる王族の居住区。
二人の少女が向かい合って座っている。
——その姿は鏡合わせのようにそっくりだった。
輝くような金髪、紅玉色の瞳。流れるような鼻梁。年頃の平均を大きく上回る肉感的な身体。可憐さと美しさを両立する少女として完成された美貌。
髪の長さと、整った顔に浮かべた表情の違いが無ければ判別もつかないであろうその二人こそ、ネビュリス皇庁にその名を知らぬ者のいない双子の王女。
第二王女、アリスリーゼ・ルゥ・ネビュリス9世。
第三王女、アーシアニア・ルゥ・ネビュリス9世。
憤懣やる方ないといった風情で胸元で手を握りしめて詰め寄っている、腰まで届く豪奢な長髪の少女がアリスリーゼ。そのアリスに対してどこか呆れたような表情で引き気味に対応する、肩くらいに髪を切り揃えた少女がアーシアニアである。
夜更けの談話室。双子だけの会話の時間。
「それで、お母様に前線に行くように言われたのでしたか? なんという場所なのです?」
「もう、やっぱりまともに聞いていないじゃない! ネウルカの樹海ってところよ。帝国軍がかなり兵を集めてるらしいわ」
「そうですか。あまり心配はしていませんが、せいぜい怪我をしないように頑張ってきてくださいね」
「やけにあっさりしてるわね。姉が戦場に行くっていうのに、それだけなの?」
「別にいいでしょう。それとも涙目で引き留めて欲しいですか?」
ふう、と溜息をつくアーシャ。
「アリスにとってはいい話ではありませんか。存分に働いて戦功を挙げれば、それだけアリスは女王の座へ近づく。アリスはお母様や皇庁の民にも認められている最強の星霊使いなのですから、その名がより知れ渡ればその立場も盤石になるというものでしょう?」
「そういうアーシャは本当に女王になる気はないの? アーシャの実力はわたしが一番よく知ってる。わたしが言うのもなんだけど、あなたがその気になればわたしと同じくらい……あるいはそれ以上に次期女王になってもおかしくないのに」
ネビュリス皇庁の現王家を知る者は口々に囁く。
——曰く、女王の娘四人の中で、特にやる気がない王女が第三王女である。
——曰く、星霊術を使った戦闘の強さならば双子の姉のアリスリーゼに伍するほどにも関わらず、戦いにも出ずに城にて書類仕事だけして過ごしている。
——曰く、たまに書類仕事すらサボる。
——曰く、王家で最も怠け者の王女である、と。
アーシャは軽く首を振る。
「買い被りすぎです。わたしとしてはアリスでもイリーティアお姉様でもシスベルでも、あるいは他の血族の誰が次期女王になっても大して気にしませんが、わたし自身が女王というのはどうも器じゃないと思いますから。アリスだから言いますが、わたしにとっては実の姉妹で争ってまで手に入れるほどの価値がその座にはありませんので」
「……お母様にはその発言は秘密にしておいてあげる。わたしも姉妹で争いたくないという気持ちはわかるもの」
「わたしがどういう立場で何を発言しようとアリスの行動が変わるわけでもないでしょう? アリスにはわたしと違って『帝国を倒して世界を統一する』という目標がある。それを目指して一途に頑張ればいい。わたしは邪魔しません。無理するほどの協力もしませんが」
その言葉をまるでなんともないかのように語る時点で、王位継承権を持つ王女の一人としては相当な変わり者である。そして双子としても、対照的な二人だった。
「それで、いつ発つのですか?」
「明日よ」
「繰り返しになりますが、わたしはアリスのことをあまり心配はしていません。アリスがわたしを知るようにわたしはアリスを知っている。あなたの星霊は皇庁でも最強ですし、護衛の燐もいます。
それでもどうか油断だけはしないようにしてくださいね。どんな強い獅子であれ、慢心すれば兎にも噛み殺されますから」
「……分かってるわ。戦場での経験は貴女よりも上なのよ。わたしは」
「ええ。戦場に絶対がないことは、わたしよりもアリスの方が詳しいでしょう。一般兵にはそうそう遅れは取らないと思いますが、帝国にもわたしたちに並ぶほどの強さを持つと言われる戦力はありますから」
「——使徒聖、ね、でも彼らは滅多に帝都から出てこないって聞いたわ」
「確かに私もそう聞いていますが、万が一というものはあり得ます。アリスが負けて帝国に囚われるなんてことになればわたしも戦わざるを得ませんし、どうかちゃんと帰ってきてくださいね。わたしを働かせないように」
「もう、心配する言い訳まで怠け者なんだから」
「イリーティアお姉様やシスベルが万が一戦場に立つような事態になれば代わりにわたしが行くのもやぶさかではないですが、そうでも無ければ戦いなんて御免です」
そう言い残すとアーシャは自分の寝室に行ってしまう。
一人取り残された双子の片割れ、アリスは嘆息する。十七年間、生まれた時からの付き合いだが、妹の思考は彼女にもなかなか理解しづらいのであった。
無論アリス自身も戦いを好むというわけではないが、戦わざるを得ないのが皇庁の血族として生まれた者の使命だと理解している。しかし彼女の双子の妹は、そもそも王女という立場自体を疎んでいるようにすら思える。
アリスはもう一度ため息をつく。明日以降の戦いへの緊張が、今一つ削がれてしまった気がした。
翌日、ネウルカ樹海へと向かったアリスは、そこで宿命の好敵手と相見える事になる。
その運命は双子の怠惰な片割れも巻き込んで帝国と皇庁の戦争に波紋を広げていくのだが、まだ誰もそれを知らない。
続く予定はあります。