キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦 作:ゆーえゆ
「ふう。とりあえずは抜け出せましたね。こういったエスケープはちょっと久しぶりな気がします」
中立都市エイン。その街中に入ったアーシャはぐぐっと伸びをしながらそう呟く。飛行装備は目立つのですぐに貸しロッカーに預け、比較的地味な服装を街の服飾店で見繕って着替える。
「あのまま座り作業を続けていては体も頭も錆びついてしまいます。羽を伸ばす、とはいい言葉ですね。今のわたしにぴったりです」
彼女の癖である独り言も、仕事から解放された喜びでやや軽く流れ出る。
眩しい日差しに、服と合わせて購入した日傘をさして弾むように歩くその姿は人目を引き、普段の彼女の落ち着きぶりを知らない周囲の歩行者たちから見ても浮き足立っているように見えた。
「さてさて、まずはどこから見て回りましょうか。何処かの劇場に……いや、まずは軽く散策でもしますか。歩きながら道に流れる音楽に耳を澄ますというのも乙なものです」
エインという都市は音楽や美術の集まるところ。そこかしこから楽しげな歌声や笑い声が、雑多に混じり合った楽器の響きと共に流れてくる。
アーシャはこの都市のそんな雰囲気が好きだった。
「……ああ、良いものですね。実に平和な空気です。つまらない戦争にばかり明け暮れるどこぞの国と国も早いうちにこうなって欲しいものですが」
他人事のようにそう呟くと目を閉じる。どこの二国かは言うまでもない。
『機械仕掛けの理想郷』こと帝国と、『魔女たちの楽園』皇庁との間で百年続いている戦争は一向に止むことなく、むしろ激化の一途を辿っている。先日もアーシャが関わらざるをえなかった
アーシャははあ、とため息をつき、道端の自販機で缶のお茶を購入する。冷たい飲み物でも飲んで頭を休めよう。せっかく仕事から逃げてきたと言うのに、面倒なことばかり考えてしまう。
「
それはアーシャにとっては敵国の兵に当たる人物二人。戦いの最終盤で、星霊エネルギーの溢れる星脈噴出泉の中に落ちていった二本の剣を操る黒髪の少年剣士と小柄な青髪の女性兵士。
「名前はそう、イスカさんにミスミスさんと——」
「へ? あ、アタシの名前?」
「ん?」
名前を思い返した瞬間に、聞き覚えのある声、と言うより今まさに連想していた人物の声が聞こえた気がする。
アーシャが買った自販機の隣の販売機に並んで立っていたのは、誰あろう、星脈噴出泉に落ちて生死不明のはずのミスミス・クラスその人であった。
二人の目が合う。
「「!」」
お互いに相手の顔と名前が一致した瞬間、ミスミスはずざざと全力で後退り、アーシャはあらあらと口元を手で覆う。
「ミスミスさんではありませんか。これはまた随分と数奇な巡り合わせ……。仮面卿に蹴り落とされていたので心配していましたが、ご無事だったのですね」
「あああ! あ、あなたはアーシャさん……じゃなかった! 『ビームの魔女』! こんなところに!?」
「…………あの、まさか違うとは思うのですが、その『ビームの魔女』とかいう気の抜ける名前はもしやわたしのことを示しているのですか?
アーシャで構いませんよ。帝国の方々がわたしたちのことを差別的に魔女と呼んでいるのは知っていますけれど、それとは別の意味で酷い呼び方になっている気がするので……」
アーシャはその呼び方に対して遺憾の意を表するが、ミスミスはそれを聞いてはおらず、彼女なりに切迫した叫びを上げた。
「————こんなところで待ち伏せて、またイスカ君を傷つけるつもりですか!? あの戦いの時みたいに!」
その言葉にアーシャの笑顔が一瞬途絶える。
ミスミスが生きていたのだ。イスカだって生きていたのだろう。そしてどうやらこの都市にも一緒に来ていたらしい。そしてミスミスの言う通り、あの時の戦いではアーシャは一方的に不意打ちでイスカを攻撃しただけ。警戒されても仕方ない。
そうは思いつつ、彼女は軽く息を吐いて安堵を示す。
「そうですか。イスカさんもご無事だったのですね。それは何よりです。怪我のお具合はいかがなのでしょう。火傷は結構残りやすいものなのですが、帝国の医療技術があれば数日で治るのでしょうか?」
「っ! 答えてください! あなたは一体何をするつもりなの!?」
「そんなに怖がらなくともここは中立都市ですし、そもそもわたしは今仕事をサボって一人で遊びに来ているだけなので何もするつもりはありませんよ? これを言うのは二回目になりますがわたしは戦いは嫌いなのです。仲良く致しませんか? ほら、いつぞや喫茶店でお会いした時のようにお喋りでも」
アーシャは正直に言ったが、ミスミスは未だ警戒したようにぷるぷる震えている。その小動物っぽい振る舞いに思わずくすりとしてしまうアーシャであった。
「ふふ、可愛らしい方ですね、ミスミスさんは。
こんな自動販売機の前で立ち話もなんですし、確か近くに広場があったと思いますからそこまで歩きませんか?」
「広場? え? だってそこは、イスカ君が待ってるところで……」
「あら、そうなのですか? ちょうどいいです。わたしも彼とはもっとお話してみたいと思っていたのですよ。ミュドル峡谷ではただ自己紹介しただけで終わってしまいましたからね」
すたすたと歩き始めるアーシャに、慌てて手に持った飲料の缶と買い物袋を抱え直しながら追いかけるミスミス。
「ま、待ちなさーい『ビームの魔女』! アタシの目が届くところではイスカ君に手出しはさせないんだから!」
「だから何もしませんと言っておりますのに。
……あとその呼び方はそろそろ辞めて頂けませんか? 百歩譲って『ビーム』の部分を無くすだけでも構いませんので……はあ」
しかし、そんなコミカルさも漂う会話は二人が広場に辿り着くと同時に途絶える。
————なぜなら、普段であれば大抵のことに動じない冷静沈着なアーシャですら言葉を失うほどの、驚くべき光景がそこにあったからだ。
「ビームの魔女」というのは第907部隊……というかミスミスによってつけられた仮称です。アーシャの星霊も判明していないため、見たことある技のプラズマ砲から名付けられました。正式な識別名はまたいずれ。