キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦 作:ゆーえゆ
「さてと、燐には休めと言われましたし、わたしもエインから飛んできて汗をかいているので軽くシャワーでも浴びたいのですが。アリス、あなたはどうしますか?」
「そういえば、アーシャは車や列車で来たわけじゃないのね。そんな風に好き勝手に飛び回ってるとまたお母様に怒られるわよ?」
「……わたしがここにいることはお母様には内緒にしておいてください。実は仕事を抜け出して来ているので」
「もう! そんなだからいつも心配されてるんじゃない。王家の怠け者って評判がまた広まっちゃうわ」
「事実ですから。わたしは気にしません」
「他のみんなが気にするの!……わたしもイスカのことがあるからお母様には言わないでいてあげるけど、帰ったらちゃんと謝っておきなさい」
「分かっていますよ」
ホテルの最上階の廊下。
見目麗しい双子の姉妹は話しながら歩いていた。
「それで、この後どうするのですか? ルームサービスでも頼みますか? 内容はアリスに任せますが——」
「あ、しまったわ。しばらく休憩はいいけど、大事なことを忘れてるじゃない」
「? なんです?」
「イスカの夕食よ! わたし達と燐だけじゃいけないわ。捕虜とはいえ冷遇しちゃいけないもの」
「確かに彼の分も必要ですね。燐に頼んでおきましょう。メニューもわたし達と同じものがいいと思いますが、彼は何か好き嫌いなどあるでしょうか……?」
アーシャが首を傾げると、イスカの好き嫌いを知るアリスが顔を緩める。
「そうね。今日は冷製トマトのパスタにしようかしら」
「……構いませんが、それはアリスの好みなのでは?」
「前にイスカも好きだって言ってたんだもん!」
「はあ。そうですか」
また毒を盛ったと思われないといいですけれど、と呟くアーシャだったが、そんな彼女を置いてアリスはイスカと燐の部屋に向かっていく。どこか浮かれた足取りの姉に呆れた顔をしたアーシャは食事の件をアリスに任せ、自分はシャワーを浴びようと自分用の部屋に行こうとしたのだが……
「ねえ燐? 大事なことを忘れてたわ。今日の夕ご飯だけど————————————燐?」
「ぐっ! 貴様、手錠のままでも私のナイフを受け止めるとは!」
「そう簡単にやられてたまるか!」
アリスが扉を開けたイスカ達の部屋から、何やら騒がしい叫びが聞こえてきた。
「あ、アリス!? ほら従者、お前の主人が戻ってきたぞ! 諦めてナイフを引っ込めろ!」
「はっ! 馬鹿を言うな。アリス様とアーシャ様は今しがたお部屋に向かわれたばかりだ」
アーシャが姉の肩越しに部屋の中を覗き込むと、ソファの上で燐がイスカにのしかかり、その手に握った果物ナイフを突き刺そうとしているところだった。
「…………」
彼女が暴走しがちなのは
「そんな出任せに騙される私ではない!」
「本当だって!」
「ふん。アリス様たちがいるというのなら、なぜ止めに入らない」
「——いま止めに入ろうと思ったところよ」「ええ。何をしているのですか、燐?」
「へ?」
姉妹揃って従者の少女と捕虜の少年を見下ろし、声を掛けた。
その声に振り返った燐から、アーシャはナイフを奪い取る。
「楽しそうねぇ。わたしも混ぜて貰えるかしら」
「あ、アリス様……!? アーシャ様も……」
「イスカはわたしの
「アリスのモノかどうかは疑問を挟みたいところですが、まあわたしも言いたいことは同じですよ、燐? わたしは彼を丁重に扱うように指示したはずですが」
王女二人の冷たい視線に晒され、燐はひきつった愛想笑いを浮かべる。
「燐」
「は、はい」
「これで二度目よ。三度目はないと思いなさい。もし破ったら」
「や、破ったら……?」
「一ヶ月、あなたのご飯は一日三食、生クリームたっぷりの苺ケーキよ。朝も昼も夜も、カロリーたっぷりのケーキを頬張るの。一月後、見るも無惨な姿になるのよ」
「いやですうぅぅっっっ!?」
「もしかしたら燐のその断崖絶壁の如き胸に多少は脂肪がつくかもしれませんよ。胸ではなく腹についたら目も当てられませんが」
「だ、断崖絶壁!?!?」
双子による的確な口撃を受け、燐は轟沈した。
「本当に困った従者です。イスカさん、お怪我はありませんか?」
「なんとかね」
「燐に見張りを任せたのは間違いでした。これからはわたしが直接あなたのことを見ますので」
「え? ちょっと、ダメよアーシャ。イスカはわたしが見張るの」
「アリスには任せられません。ダメ従者の教育でもしていてください」
「…………」
「…………」
燐を止めるのには協力した姉妹だが、イスカを巡ってバチバチと火花を散らし、挟まれたイスカはどう声をかけたらいいかと目を白黒させる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「アリス様、アーシャ様、ご用意いたしました。私としては不本意ですが、お二方がそこまで仰るのならやむを得ません」
「あなたがイスカに二度も手を出すからよ。燐、もう下がりなさい」
「……は。くれぐれもお気をつけて」
二人が燐に用意させたのはイスカの手錠とチェーンで繋げられた腕輪。
今はそれがアリスの片手に嵌っている。話し合いの結果、見張りは二人交互に行うことになったのだ。
イスカは自らの手錠とアリスを見比べて、
「これ、ずっとこのまま?」
「一時間置きにわたしとアーシャが交代するわ。この鎖で繋がっている間はキミは迂闊に動けない。鍵は繋がれてない方が持ってるし、これでキミはわたし達の監視下よ。ふふ、こういうのも偶には面白いわね」
「本当ならこんな拘束はしたくありませんが、わたし達の目の届かないところでまた燐が危害を加えようと考えるといけませんので、申し訳ありませんが我慢してくださいね」
「…………あのさ、すごく変なこと聞いてもいい?」
「なんでしょう」
「……トイレってどうするの? お風呂とか、あと寝る時とか」
「そういう時は鍵を持つもう片方が外して差し上げます」
「抜かりがないね」
「あら、わたし達と一緒に入浴したかったですか?」
「ぶっ!? そんな訳ないだろ! 僕のことをなんだと思ってるのさ!?」
「わたしもアリスも見られて困るような身体をしているつもりはありませんし、そうやってはっきり否定されると結構傷つきますね」
「なに言ってるのアーシャ!?」
そういえば燐の襲撃があったので忘れていたが、そろそろシャワーを浴びたいと考えていたことをアーシャは思い出す。
「ではわたしはお風呂に入ってきますね。戻ってきたら交代しましょう」
「この流れで!?」
「覗きにくる時はアリスに許可を得てくださいね」
「ちょ、変なこと言わないでアーシャ! イスカも許さないわよ!?」
「そんなことしないってば!」
「冗談です。本気にしないでください」
アーシャは浴室に向かって歩いていく。残されたイスカとアーシャは気まずく顔を見合わせたが、ふとアリスがもじもじと身じろぎする。
「アリス?」
「……鍵はアーシャが持ったままだったかしら」
「どうしたの? まさかトイ————」
「それ以上言わないで! キミはもっと
「なら恥ずかしがる必要ないだろ! とっとと妹を呼び戻して来なよ!」
「あ、アーシャ! 緊急事態よ! 今すぐわたしの鍵を外して——」
「なんでしょうか? 騒々しいですよアリス」
「って、なんでもう半脱ぎなの!? イスカこっちに来ちゃダメよ!?」
「いやだって、チェーンでアリスと繋がってるから引っ張られて」
「もー! 何でこうなるのよ! アーシャの馬鹿ーッ!!」
「今のはわたしが悪いのでしょうか?」
双子に振り回されっぱなしのイスカは、僕は一体何をやっているんだろう、と割と真剣に考えるのだった。
本当ならアリスの星紋のくだりまでやるつもりだったのですが、キリのいいところで分割することにしました。
『双子の一番長い夜(3)』に続きます。