キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦   作:ゆーえゆ

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2話目です。


星脈噴出泉争奪戦
Chapter.1 裏と裏の遭遇


 

 

 始祖ネビュリスが中立都市エインで暴れ、アリスたちが鎮めてから一週間ほど経ったある日のこと。

 

 遊楽都市ジュラク。

 中立都市の一つで、カジノを主要産業とする高級リゾートである。

 そんな都市の、街角のとある喫茶店にて、アーシャことアーシアニアは連れも伴わず、一人でお茶を飲んでいた。

 姉であるアリスリーゼがお忍びの休暇で出掛けるというので自分の息抜きも兼ねて付いてきたのだが、ギャンブルなど全くやる気が起きないし、軽く散策するに留めていたのである。

 アリスとその従者がギャンブルに興じている間、彼女は一人別行動で都市を彷徨い、大通りにほど近いこの場所へと流れ着いていた。護衛を連れないというのは王族にあるまじき振る舞いだが、彼女にとってはいつものこと。

 

「……それにしてもアリスがこんな都市で行われるような遊戯に興味があるとは知りませんでした。いえ、ここは燐が決めた行き先でしたっけ。アリスならギャンブルよりも芸術鑑賞でもしたがるところですね。わたしもそちらの方が良かったのですが」

 

 お忍び用の地味な服装をしていても、麗しき少女が一人でぶつぶつと呟きながらカップを傾ける姿は大変目立っていた。お昼時、店内は観光客で混み始めている。

 

「最近、アリスは挙動が変です。妙に息抜きをしたがる、というより皇庁の外に出たがる、というべきですか。帝国との戦争から目を離してくれているということであればとうとう戦いの無益さを理解してくれたかと思うところですが、さすがに違うでしょうね……」

 

 悩ましげに首を傾けるその仕草は実に絵になっていて、周囲の人間を男女問わずに魅了する。

 と、そんな彼女にウェイターの一人が近づく。

 

「あの、お客様……申し訳ありません。少々よろしいですか?」

「? はい。なんでしょう?」

「只今満席になってしまったところにお客様が来店なさいまして……このテーブルで相席にさせていただいても差し支えないでしょうか?」

「ええ。どうぞ。わたしももうすぐ飲み終えますので。短い間ですから」

「ありがとうございます! それではご案内させていただきますね」

 

 店員が離れていき、そして男女二名の客を連れて再び戻ってくる。黒髪の少年と、少女に見紛うほどに小柄な女性である。

 

「こちらでございます」

「あ、ありがとうございます。相席にしてもらっちゃって」

「いえ」

 

 声をかけられたアーシャは軽く首を振る。

 二人がアーシャと向かい合うように座った時、黒髪の少年とアーシャの眼が合った。

 少年の眼が見開かれる。

 

「ってアリス!? なんでこんなところに!?」

「?」

 

 探し求めていた人物が見つかったと思う少年と、少年に見覚えのない少女。

 人違いであることに気付けたのは、姉と間違えられることに慣れているアーシャの方である。

 

「え? なになに、イスカくん、知り合い? そういえばアタシもどこかで会ったような」

「え、ええっと……」

「人違いでしょう。わたしは貴方に会ったことはありません」

「ええ!? そんな!?」

 

 ネウルカの樹海で、あるいは中立都市エインで、何度も会ったはずのアリス(と同じ顔の少女)からそんなことを断言され、思わず声を上げてしまうイスカ。

 一方で、アーシャの方はそんな彼が誰なのか、頭の中で考えを巡らせる。

 

「(アリスの知り合い? でも王女であるアリスのことを愛称で、かつ呼び捨てにする人間なんてそう多くはない。皇庁の中でも家族の他では、歳の近いミゼルヒビィくらい……皇庁の人間ではない?)……貴方、お名前は?」

「それも覚えがないのっ!? イスカだよイスカ! 忘れたの!?」

「イスカ……?」

 

 やはり覚えはない。皇庁と繋がりのある国のお偉方の誰かとも思われたが、思い当たる名前はなかった。

 

「イスカさん。貴方の言うアリスという人物とはどこでお会いしたのですか?」

「え? いやそれは……(とぼけてる? いや本当に別人なのか? 確かにアリスにそっくりだけど、髪が短いし、どことなく雰囲気も違う気がする。だとしたら戦場で会ったなんて言えない……)いや、人違いならそれでいいんです。ごめんなさい。忘れてください」

「はあ、そうですか」

 

 アーシャは一旦引き下がる。しかしその陰で彼女はイスカの正体を考え続けていた。

 ……どうやら、彼と自分の姉アリスとの関係は公には出せないようなモノらしい。その割に随分と親しげだった。そんな相手となると最早、姉にとって秘密の恋人だとか、それくらいしか思いつかない。王女の恋愛など国民にバレたら大スキャンダルである。

 しかも双子であるアーシャのことも知らないとなると、皇庁の外の……もしかすると帝国の人間ですらあり得るかもしれない。とんでもない厄ネタである。

 いずれにせよ、自分はお忍びで来ているし、姉との関係もこんな人の多いところでは言えない。相手のことは気にはなるが、ここで深入りはするべきではないと判断した。

 

「まあいいでしょう。ここで会ったのも何かの縁です。わたしのことはアーシャとお呼びください。お二人は観光か何かで?」

「え? ああ。そうなんですよ。ちょっと大変な仕事が控えてるもので、その前にギャンブルで気晴らしがしたくて。結果は散々でしたが」

「あらあら、賭博なんて挑戦者が負けるのが当たり前とは聞きますが、残念でしたね。でも幸運と不運は交互に来ると言いますし、その大変な仕事とやらはきっとうまくいきますよ」

「あはは、それならいいんですけどねー。えっと、アーシャさん、でしたっけ。アーシャさんもカジノ目当てでこの街へ?」

 

 小柄な女性——ミスミスの質問に、アーシャはかぶりを振って、

 

「わたしは貴方がたとは逆に、仕事が一段落したので息抜きに来ました。身内と一緒に来たのですけど、わたしはあまり賭け事は嗜まないもので、こうして一人でお茶しているのです」

「ははあ、そうなんですねー。でも、ギャンブルって夢があると思いませんか? さっきも同じカジノで大当たりを出してる人がいてですねー」

「それのお裾分けでコインを貰ったのに、それも全部溶かしちゃったんですよね……」

「も、もうイスカ君! 思い出させないでぇ!」

 

 二人のやりとりに、まさかその大当たりを出した人物が自分の姉であるとは知らないアーシャはくすりと笑う。

 

「それはそれは。幸運な方もおられるものですね」

「アーシャさんも是非是非っ! 一度やってみたらいいと思います!」

「ミスミス隊長……人をギャンブルに誘うのはどうかと」

 

 と、イスカたちにお茶が運ばれてくる。対してアーシャの方はもう既にカップの底が見えていた。

 アーシャは伝票を手に席を立つ。

 

「では名残惜しいですがわたしはそろそろお暇させて頂きます。少しの時間でしたが、お喋り楽しかったですよ」

「あ、こちらこそ」

「またどこかで会えたらいいですねー」

 

 アーシャはイスカの顔をもう一度見る。純朴なように見えて、その割に意志の強そうな双眸。

 見られたイスカは不思議に思いつつも、アリスそっくりのその可憐な顔に見つめられ照れたかのように顔を赤らめて目を逸らす。

 アーシャはにこりと笑みを浮かべて言った。

 

「お二人とも、良い休日を」

 

 ちょうどアリスと燐が一通りカジノを回り終え、皇庁へと帰るために合流する時間だった。店を出て、太陽の眩しさに目を細めながら、アーシャは喫茶店での出会いを思い返す。

 

「イスカ、イスカ……少し調べてみましょうかね。アリスに問い詰めるのが早いですが……まあ、最後の手段ということで。内緒にしておきましょう」

 

 黒髪の少年の名前を舌の上で転がしながら、彼女は帰途についた。

 これが双子の妹と黒鋼の後継との、最初の出会いとなる。

 

 

 




アリスと燐はカジノでジャックポットを出しているころの裏話。
アーシャは賭博も占いも興味がありません。
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