キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦   作:ゆーえゆ

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戦闘がない回が続きます……


Chapter.10 「超越」の魔人

 ホテル最上階。全面ガラス張りの窓から見える(アルカトルズ)の風景は絶景と評するほかないもの。

 アーシャとアリス、そしてイスカはその景色を見ていた。従者の燐は中央州と連絡を取るために部屋を離れている。

 並んでアルカトルズを眺める双子に視線を向け、捕虜の少年はぽつりと呟く。

 

「……本当にそっくりなんだな。今更だけど」

「双子だもの。今はアーシャが髪を短くしてるからまだ分かりやすい方ね。子供の頃は二人揃ってたら周りのみんなに見分けがつかないって言われてたわ」

「ええ。お母様でも時々間違えるくらいでした」

「君たちの母親って——それはネビュリス女王のこと?」

 

 アーシャが出した名前を確認するイスカ。

 

「そうです。帝国兵のイスカさんからすれば皇庁の女王というのは最大の宿敵に当たるでしょうし、やはり気になりますか?」

「それはまあ。色々と噂も聞いてるし」

 

 現女王であるミラベア・ルゥ・ネビュリス8世が帝国と本格的に戦っていたのはイスカが生まれるよりも前の話だが、その当時の様子は記録に残されており、イスカのような若い軍人にも教育されている。

 純血種らしい強大な星霊とそれに応じた戦闘能力で、百年を通じた両国の戦歴を鑑みても最大級の被害を帝国に与えた星霊使い。

 

「帝国軍の間じゃ、判明してる中で一番強い純血種だって言われてる。それって要するに、現役の星霊使いの中で一番強いってことだろ?」

「「それは——」」

 

 姉妹は視線を交わし合う。

 確かに女王は凄まじい戦歴を持つ。だが皇庁の中で最も強い者は誰か、と問われると簡単には答えられない。実際に戦えば三血族の他の当主たちも相応の強さを持っているだろうし、星脈噴出泉(ボルテックス)の一件でイスカと戦ったキッシングのように隠された戦力がないとも限らない。

 そして何より、言葉には出さないがアリスとアーシャ自身も、自分が母親である女王よりも既に実力で上回っているという思いがある。

 

「……まあ、一概に言えるものではないですが。お母様が強いのは間違いありません」

「そうね。帝国との戦争以外でも、星霊部隊の戦闘訓練の監督をしたり、皇庁の凶悪犯罪者を捕まえたりしてるわ」

「凶悪犯罪者? 星霊使いの?」

「ちょうど今わたし達がいるアルカトルズの監獄に収監されている方々ですね。もちろん全員が強力な星霊使いという訳ではありません。……一箇所を除いてはですが」

 

 アーシャの言葉を継ぐように、アリスはイスカに窓から見えるとある建築物を指し示す。

 

「見えるかしら。あの地平線に見える三本の監獄塔。その一つがオーレルガン監獄塔。この州で一番監視が厳しい施設で、燐がイスカを閉じ込めようとしたところね」

「初耳なんだけど……」

「わたしとアリスにその気はありませんからご安心を」

「————その一番深い地下牢にこの国最大の犯罪者が閉じ込められてるわ。囚人の名前は『超越』の魔人サリンジャー。さすがのキミも知らないと思うけど、まさか聞いたことあるかしら?」

 

 イスカは首を振る。

 

「いいや全然。でも、それは囚人だから?」

「何がかしら」

「アリス今、『魔人』って言ったろ。帝国人がそう呼んだら怒るかと思ってた」

「怒るわよ。わたしだって使いたくないわ。でも決まりなの」

皇庁(わがくに)は全ての星霊使いを受け入れ、保護しますが、星霊使いでも罪を犯した者には罰が必要です。そのため監獄に囚われている者たちのことは魔女・魔人と呼ぶことになっています」

「…………」

「魔人サリンジャーは先代女王に刃向かったの。その呼び方は国家転覆を図った大罪人の印なのよ」

 

 イスカの知らない皇庁の内部事情。

 

「刃向かったって……それは女王に不満があったから?」

「いいえ」

「じゃあ自分が王になろうとして?」

「惜しいけどハズレね。あの魔人は、自分が()()()()()()になろうとした」

「っ?」

 

 イスカが更にその言葉の真意を問おうとした時、アーシャが歯止めをかけた。

 

「アリス、その辺りで。一応重要機密ですので」

「……そうね。もう、よくないわ。イスカに聞かれると話しすぎちゃう。帝国で言いふらしちゃダメよ?」

「……分かってる」

「あと燐にも内緒よ? こんなこと話したってバレたらますますイスカを生かして返すなって言いそうで————」

「アリス様、アーシャ様」

「きゃんっ!? な、何かしら燐」

「アリス様、なんですか今の子犬のような悲鳴は。全く、王女としての心構えというものが——」

「……燐、アリスへのお小言はまた今度でいいでしょう。何かありましたか?」

「は。いくつか報告がございます。ただ……」

 

 そこで従者は居合わせているもう一人の人物の方をちらりと見る。

 捕虜とはいえ敵兵。都合が悪いこともあるだろうと思うアーシャだったが、

 

「イスカが邪魔かしら?」

「いえ、問題ないと判断します。むしろこの男がいた方が好都合かと」

「……帝国絡みの話ですか?」

 

 アーシャのその言葉に図星を突かれて目を瞠りつつ、燐は頷きを返した。

 

「何者かが国境を超えて侵入した疑いがあります」

「……なんですって?」

「中央州を除く十二州で、住民が奇妙な集団を目撃しています。帝国の隠密部隊である可能性を考慮し、既に警戒宣言が発令されました」

「わたしたちが中立都市から追跡されていたってこと?」

「いいえ。もちろん追跡されていた可能性はゼロではありません。が、そもそも帝国軍が我々の国境を越えるのは至難のはず。……そうだな帝国剣士?」

「僕は何も知らない」

 

 その言葉に、ふっと目を細めるアーシャ。

 イスカはそれに気づかずに続ける。

 

「二日間、僕はずっとここにいた。所持品調査(ボディチェック)も何度もされたし、通信機だって取り上げられた。それに皇庁の国境警備が厳しいのはソッチの方が詳しいだろ」

「…………」

 

 嘘ではない。少なくともイスカによる手引きではないのは確かだった。

 アリスもそう思ったようで、

 

「そうね。キミを疑うつもりはないわ。ずっと一緒にわたしたちがいたもの。そうよねアーシャ?」

「…………そうですね」

 

 アーシャが口籠もったのは、何も知らないというイスカの言葉とは裏腹に、彼の体温が一瞬だけ上昇したのを感じ取ったから。

 嘘はついていないが、心当たりが全くないでもない。という反応。しかし今はそれを追及するよりも話を進めた方がいい、とアーシャは判断した。

 アリスは自身とイスカを繋げていた腕輪を外して、

 

「燐、アルカトルズ以外でも怪しい集団は目撃されているんでしょ? なら彼の扇動ではないのは明らかだし、わたしたちが尾行されたわけでもないわ」

「はい、極めて組織的な動きです」

「対応は女王(おかあさま)の命令を待ちましょう。わたしは散歩がてら外を見てくるから、燐とアーシャはここに残ってて」

「かしこまりました」

「そしてイスカ。わたしはキミを温和に釈放したいの。でも、今聞いての通りよ。状況がそれを許してくれない。離れたくても離れられない。つくづくキミとの因果は不思議ね」

 

 アリスはそう言い残して部屋を出ていく。

 

 残された三人。

 最初に口を開いたのは燐だった。

 

「アーシャ様。ついでというわけではないのですが、中央州の女王様からアーシャ様の現在地についての探索命令が出ていました。こちらにいらっしゃることを連絡しても構いませんか?」

「……まあ、緊急事態のようなので仕方ありません。お母さまを心配させすぎるのも心が痛みますし。本当はもっと休日を楽しみたかったのですが」

「今回の件で私が何か言える道理もありませんし今更の話ですが、家臣の一人として、公務をズル休みするのは控えて頂けませんか?」

「……時と場合によります」

 

 アーシャは燐の小言を聞き流し、先程の話の中で気になったことを言葉にする。

 

「そういえば、中央州以外で不審な集団が目撃された、と言いましたね」

「はい。この十三州(アルカトルズ)でも」

「もし帝国が侵入しているのなら、目的はお母様を始めとした王族でしょう。王宮のある中央州で目撃されていないのは不自然です。もちろん中央州の警備が他に比べて厳しいという理由もあるとは思いますが、わたしたちが気づいていないだけで既に侵入されている可能性も否めません。あるいは他の州の目撃情報が陽動であるとか。お母様にはそのように伝えてください」

「! それは、確かに仰る通りですね。了解致しました」

 

 燐は目を見開くと、話を黙って聞いていたイスカをひと睨みする。

 

「帝国剣士。わたしも少し出るが、くれぐれもアーシャ様に何もするなよ?」

「何もしないって。ただでさえきな臭い状況なんだから」

 

 その返事に何か言いたそうにしながらも、燐も王族専用賓客室(プレジデンシャルスウィート)から去って行った。

 

 双子の妹と、捕虜の少年。二人だけが部屋に残る。

 

 




概ね原作通りのサリンジャーの話と帝国軍の侵入報告でした。

女王が星霊部隊の戦闘訓練を監督しているというくだりはオリジナル設定です。あまり本筋には関係ありませんが。
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