キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦   作:ゆーえゆ

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某ソシャゲの新章が面白くて少し間が空いてしまいました。許してください。


Chapter.13 王女と魔人

 炎の弾丸。

 アーシャの放ったそれは計10発。その全てが過たずに魔人へと迫った。

 

「ふん。少ないな」

 

 サリンジャーが手を翳すと、その攻撃は彼の目の前で透明な壁にぶつかったように堰き止められる。

 

「ミラベアの娘というからどんなものかと思えば、この程度の星霊術であればそこらに居る星霊部隊の者どもとそう変わらんぞ?」

「……風の星霊ですか」

 

 魔人が奪った数知れぬ星霊のうちの一つ。圧縮された空気の障壁が炎を防ぐ。

 

「所持していないとでも思ったか? 俺がこの地に捕らえられる以前に何をしていたのかは知っていよう」

 

 しかし彼の期待した反応はなく、王女はふっと笑った。

 

「……質問を返しましょう。わたしはあなたを知っていますが、あなたは第三王女(わたし)を知りません。()()()()()()()()()()()()()()()

「何だと? ————ッ!!」

 

 風の壁と拮抗し渦巻いていた炎が、爆発した。

 サリンジャーはそれをまともに受けて吹き飛ばされ、芝の地面に跡を残しながら後退する。

 

「引き起こす爆風だけで俺の持つ風の星霊を上回るか……!」

「あまり周囲の建物に被害を出したくないので数を絞ったつもりでしたが、それが不足と仰るのであれば、お望み通り増やして差し上げます」

 

 告げるアーシャの周囲に無数の炎弾が浮かび上がる。先程とは比較にならない程の数。それはランタンのように夜の監獄塔を明るく照らし出した。

 天から降り注ぐ神の審判。あるいは世界の終わりのような光景に、流石の魔人も息を呑む。

 

「大地を拭え。『泡火(ほうか)流星群(りゅうせいぐん)』!」

「……ちっ。俺を相手に加減していたと抜かすか。その侮りの代償は高く付くぞ!」

 

 少女の星霊術の威力は理解した。サリンジャーとしても確実に防がなければタダでは済まない。

 

「その炎の全て、撃ち落としてくれよう!」

 

 魔人と少女の間に竜巻が生まれる。周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら迫るそれを見て、アーシャも星霊術を解放した。

 轟音を鳴らして流星と竜巻は激突する。監獄塔の敷地にいた者たち——星霊部隊も、帝国兵も、囚人たちも、皆一瞬その方向に意識を傾けた。

 

 炎の壁が爆発の余波を受けて揺らぐ。

 立ち込めていた煙が薄くなり、アーシャは対峙していた魔人の姿を認めた。細かい傷は与えられたようだが、残念ながら彼女の星霊術の大部分は相殺されてしまったらしい。

 

「————やれやれ。これ以上は被害が莫迦になりませんから、あまり立ち上がらないで頂きたいのですが」

「……ふ。王族と戦うのも久しいが、その相手がこれほどの使い手とはな。

 認めてやろうではないか。小娘(ミラベア)は星霊使いとしては実に取るに足らない女だったが、女王としての最低限の素養はあったらしい。鳶が鷹を産むとはこのことよ」

「褒めてくださるのは光栄ですが、お母さまを悪し様に言うのは聞き捨てなりませんね。自身が勝てない相手を腐すとは、いかにも不埒者らしい振る舞いといえばその通りですが」

「はっ。俺がミラに勝てないだと? 気に入らんな。三十年前も今も、俺は奴を歯牙にかけたことすらない」

 

 アーシャの母のことを語るサリンジャーの口調にどこか親しさのようなものを感じて訝しみつつも、彼女は顔を顰める。

 

「……あなたがお母さまをどう思っていようが今は関係ありません。それよりも訊ねなければならないことがあります。あなたを牢から出したのは帝国兵ですか?」

「さあ、どうだかな。誰が手を貸そうと貸すまいと、それこそ俺にとってはどうでも良い話だ。いずれオーレルガンからは出るつもりであった。そのタイミングが今日になっただけのこと」

 

 まともに答える気はないのだろう。アーシャとしても期待していたわけではない。

 

「まあ、ここで話すのも牢に叩き込んでから話すのも大して変わりません。その上で苦痛を伴う方を選ぶと仰るのであれば是非もない。わたしは戦いは嫌いですが、家族を狙う犯罪者に容赦をするほど甘くもありませんので」

 

 アーシャの背中。星紋が真紅に輝いて、溢れ出した熱気がゆらゆらと翼を形作る。

 

「先程の攻撃でわたしの力は理解したでしょう。あなたの持つ()()()星霊の力ではわたしに押し勝つことはできません。相殺するだけでは結果を先延ばしするだけだと思いますが、まだ抗いますか?」

「思い上がるな。俺とて未だ手の内を晒したつもりはないぞ?」

 

 アーシャの聞いているサリンジャーの持つ星霊は「水鏡」の星霊と呼ばれるもの。他の星霊使いの星紋に触れることでその力を最大で50%奪い取る。つまりは元の術の半分しか力を発揮しない。いくら星霊の数を揃えても、単体でそれに倍する力を持つ純血種のアーシャを上回ることはできないはずだ。それに相性差で簡単にひっくり返されるほどアーシャは脆くない。

 

「手の内を出し惜しむとは、それこそ侮りと言うべきですが……しかし虚勢というわけではなさそうですね」

 

 アーシャも先の攻防では実力の全てを出したわけではない。というより彼女の全力を振るってしまえばこの街(アルカトルズ)も無事では済まないためセーブしているのだが、それを差し引いても、この魔人が何か切り札を隠しているとすればアーシャも脅かし得るかもしれない。

 警戒するアーシャが睨みつける先。

 魔人は不敵に笑う。

 

「ふっ。あの女王の娘にしては、随分と物分かりがいい。

 元は始祖の血脈が生み出す化物たちを相手にするために用意した我が秘奥だが、貴様であれば拝謁するに値しよう。星霊の力の真髄を目にするがいい!」

 

 サリンジャーが()()の掌を上に向ける。

 

 二人の間の緊張が一気に高まる。

 ————しかしそこに割り込む声があった。

 

「アーシャ様! こちらにおいでですか!」

「……何事だ」

「燐ですか。アリスに付いていると思っていましたが……心配性ですね。わたしの姉は」

 

 乱入者は姉の従者である燐。先の爆発音を聞いたアリスが寄越したのだ。

 アーシャが付近の気配を探ると、先程まで混乱していた星霊使いたちの動きが随分と統率の取れたものへと変わっている。提案した通り姉が陣頭指揮をとってくれているようだ。

 ……彼女にとっては朗報というべきその従者の登場は、しかしいささかタイミングが悪かった。戦いを邪魔された魔人が、不機嫌そうに目を細める。

 

「ふん。興醒めだな。誰の許しを得て俺の戦いに水を差した、端女よ?」

「貴様がサリンジャーだな? アーシャ様お下がりください。此奴の相手は私が」

「! 待ちなさい燐、あなたでは——」

 

 制止の声を上げようとしたアーシャだったが、向き合っていたサリンジャーが星霊光を発するのを見て、はっと身構える。

 魔人の視線の先にいるのは、王女ではなく従者。

 

「っ!? 避けなさい燐っ!」

「————『轟歌』よ」

 

 瞬間。

 衝撃が走る。

 

「ほう。従者を庇ったか?」

「…………全く、世話の焼ける……」

 

 辺りの土埃が一瞬で吹き飛ばされる。

 サリンジャーが放った『轟歌』——「音」の系列の星霊による不可視の音波攻撃。

 本来従者の少女では認識することも防ぐこともできない代物だったが、その攻撃が対象であった彼女に届くことはなかった。

 魔人と従者の間に即座に踏み込んだ王女の星霊術がそれを逸らしたからだ。

 

「アーシャ様!? 一体何を!」

「……怪我はありませんか、燐?」

 

 そう問いかけるアーシャのドレスのあちこちが切り裂かれ、従者を守るために掲げた掌にもいくつも傷が生まれていた。

 咄嗟のことだったので、防御のための星霊術の展開に自身を巻き込んでしまったのだ。

 魔人は感心したように手を叩く。

 

「熱波を発して大気を急膨張させ、俺の星霊の攻撃を散らしたか。よくぞ気付いたものだ。俺の攻撃の正体も、その弱点もな。大した理解力と反応速度。

 やはりミラベアの娘の割に出来物(できぶつ)だな。アーシアニアとか言ったか、どのように感付いた? それが貴様の星霊の力なのであろう?」

「……わたしの星霊は『熱』の星霊。周囲のあらゆる熱の分布はわたしの手の上にあります。大気中の分子運動が乱されれば、そこに何かがあるのは必然。不可視と言えどわたしにとっては()えている攻撃に過ぎません」

 

 そう平然と返すアーシャに半分悲鳴のような声をかけるのは、守るべき王族に庇われてしまった従者の少女。

 

「アーシャ様っ? なぜ私などを庇ったのです!? お身体に傷が!」

「……五月蝿いですよ燐。あなたが倒れたらアリスが悲しむでしょう。このくらいどうということはありません」

「っ……!」

「敵との力量差が分からないあなたでもないでしょう? 巻き込まれないように離れていなさい」

 

 唇を噛み締める燐を背中に、アーシャは改めてサリンジャーに向き直る。

 

「わたし直属ではないですが、よくもわが家の付き人を狙ってくれましたね」

「ふん。純血種ですらない端女が王の道を阻むなど許されることではない。王族の星霊の力を見せてやっただけ感謝すべきではないか?」

「……王家から奪ったというのか!? サリンジャァァァッッ!! 貴様の大罪、百の惨死でも余りあるぞ!」

 

 燐の叫びを後ろ手を伸ばして制止しつつ、アーシャも敵を鋭く見つめた。

 

「ええ。虫でも踏むように人を傷つけるその傲慢。到底許容できるものではありません。

 ……強き力とは弱き人々を救うために存在するもの。思うがままに振るうあなたのそれは王と呼べるものでは断じてない」

「ふん。力とは高めるもの。相容れぬな王女よ」

「元よりわたし達はそういう関係でしょう」

 

 戦いを好まない彼女にとって、戦いを是とするサリンジャーは受け入れられない。

 彼女の傷ついた手の上に、小さな炎が生まれる。

 

 

 

 

 

 




というわけで会話を交えつつ軽く手合わせ。
アーシャはサリンジャーから割と高評価をもらいました。
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