キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦   作:ゆーえゆ

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Chapter.14 王女と剣士、並び立って

 

 じわり、と手の傷から血が滲む。

 アーシャは可憐な顔を苦痛で歪ませながら、それでも敵から目を離さない。ここで逃げられる訳にはいかないからだ。

 

「収束」

 

 その一言で、炎の色が変わっていく。

 赤から白。白から蒼へ。

 それを見たサリンジャーは未知の星霊術にも関わらず笑みを浮かべる。

 

「ふ。くだらん邪魔が入ったが、まだ幾分か楽しめそうではないか」

「何だとッ!」

「燐はこの若さで王宮守護星に選ばれるほどの逸材。邪魔などと、彼女への侮辱は王家への侮辱に等しいと知るべきです。尤も反逆者であるあなたにそれを説いても無駄だとは思いますが。 

 ——————臨界」

 

 アーシャの手の中にあった炎は既に眩しいほどの光に変わり、放たれるのを今か今かと待っている。

 魔人はその星霊術が今までのものとは明らかに違うと察した。

 

「穿て、『(つい)光芒(こうぼう)』」

「っこれは……! 大地の星霊よ!」

 

 放たれた一条の光線が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、空へと消えた。

 帝国軍の対星霊盾(ライオットシールド)すら貫く一撃。サリンジャーが防御のために展開した土砂の壁も意味を成さない。防御と同時に地面を動かして回避の動作に入っていなければ、魔人といえど消し炭になっていただろう。

 アーシャの持つ星霊術の中でも最大の貫通力を持つ術である。

 

「躱されましたか。今までのように防御や迎撃を選んでいればその時点で終わっていたのに、案外慎重ですね」

「……この俺を退かせるとはな。褒めてやろう。大した術だ」

 

 アーシャはこの敵を分析する。

 力で圧倒するタイプに見せておいて、その実は慎重に戦いを進める策士。アーシャも似たような気質があるので理解できる。

 油断はない。相手もこちらを警戒している。

 

「とはいえこうしているうちに星霊部隊も集まってきますし、わたしはそれまで足止めしていればいいわけですから、相手としてもそろそろ焦れてくる頃でしょう」

「アーシャ様?」

「仕掛けてきます。燐、注意しなさい」

 

 そう言って睨みつける先。

 サリンジャーは両手を天に掲げる。

 

「その研鑽に敬意を評して俺の秘奥も見せてやろう。先程貴様は俺の星霊が力を他者から盗む物だと言ったな」

「違うのですか?」

「違うな。勘違いも甚だしい。それは星霊というものを理解していない人間の表現だ。

 俺の水鏡(コレ)は『星霊を二つに分裂させる』星霊」

「……戯れ言を! 貴様のそれは言葉の言い換えだ! 貴様に星霊を奪われた術者の力が半減しているのは事実——」

()()()()()()()()()()()()()()()、と言っている」

 

 星紋が強く輝き、サリンジャーの右手と左手に二つの異なる星霊光が灯る。

 土色と翠色。属性の違う星霊術。

 

「……!」「っバカな!?」

「『揚棄(ようき)』『廃棄し、(たか)めよ』」

 

 その光に戦慄を覚える二人。

 

「確かに、俺の持つ半分の星霊の一つ一つではその王女の星霊には及ばない。だがこれならばどうだ? 対立する二概念をより高い次元に引き上げ、統合する」

「っまさか!?」

「個の星霊では決して到達できぬ『揚棄』の境地を知るがいい」

 

 

 

 ——土と風の星階唱(サンクトゥス)

『万物は朽ち、砂へと還る。無明の流れすら主の手の中に』

 

 

 

 サリンジャーを中心に風が巻き起こる。ただの風の星霊術ではない。触れたものを風化させる枯渇と退廃の旋風。

 サリンジャーの持つ水鏡の星霊の真髄とは、対となる二つの星霊の足りない部分を相補し、掛け合わせることで通常の星霊術以上の力を生み出すこと。

 

 風を受けた付近の建物に罅が入り、崩れていく。

 人間が触れればどうなるかなど、想像もしたくない。

 

「……業火よ、来たれ!」

 

 アーシャは迎撃を選択した。このまま受ければ、彼女はともかく後ろの燐は消し飛ばされかねない。

 防ぐためには彼女の星霊術で寸分違わず燃やし尽くすしかない。

 

 互いの星霊術がぶつかり合い、紅蓮の渦となって空を焼いた。

 監獄塔の敷地は昼間のような明るさに包まれる。雨のように火の粉があちこちに飛び散り、引火していく。炎熱の結界は既に吹き散らされ、周辺は地獄のような有様だった。

 アーシャは歯噛みする。

 監獄塔のある区画の建物は防火素材で作られているが、強大な星霊の力はそれを意に介さない。燃え広がれば市街地にまで被害が出るかもしれない。

 姉アリスと違い、アーシャの星霊術は制圧よりも直接的な破壊に優れる。ただでさえ制御の難しい大規模星霊術。元より街中での戦いには向いていない。

 争いを厭う彼女自身の性格とは真逆の純血種としての力は、時に本人に対しても不利に働く。

 

「だから戦いは嫌いです……」

「よくぞ防いだ、と言いたいところだが、足りんな。女王(ミラベア)であれば隙は見せなかった」

「……言ってくれますね」

 

 炎の中、一瞬の揺らぎ。

 アーシャがコントロールしきれなかった空隙を、烈風が突き抜ける。

 

「アーシャ様! っくそ。通じないというのか!?」

 

 燐が土のゴーレムの盾を出そうとするも、サリンジャーの星霊術に触れた側から崩れていく。

 目前に迫った攻撃に、アーシャが最後の奥の手を以て迎え撃とうとしたその時。

 

 

 

「————今回だけだ」

 

 

 風が、断ち切られた。

 この場にいた誰にとっても予想外の闖入者。

 それはそうだろう。こんな地上に現れた地獄のような空間にわざわざ入ってこようなどど思う酔狂な人間は普通はいない。

 だから三者三様、驚きと困惑を持ってその人物を見た。

 

「——今回だけ、手を貸すよ。この白髪が君たちの敵ってことでいいんだろ」

「イスカ……さん?」

 

 なぜここに? 

 ホテルにいたはず。抜け出してきた? それなら手錠の鍵はどうしたのか。

 いくつもの疑問がアーシャの中を回る。

 

「いやそれよりも、今手を貸すと————」

「帝国剣士……貴様一体何を」

「そうしないと僕が帝国に帰れない」

 

 未だに事態が飲み込めないアーシャだったが、少年の握っている黒白の星剣が目に留まる。アーシャにとっては見るのは二度目。黒鋼の後継の異名を持つ彼の主武装にして代名詞。皇庁に誘拐された時には持っていなかったものだ。

 

「約束してほしい。僕がこいつを倒す。その交換条件(ひきかえ)に、僕と部隊(なかま)が国境を通過するまで一切の妨害をしないこと。アリスが見当たらないけど、彼女も近くにいるんだろ?」

「……あなたの仲間がアルカトルズに来ていると? いえ、そのこと自体は理解できるとしても、この騒乱はその帝国軍が起こしたものではないのですか? なぜ皇庁(わたしたち)の味方をするのです?」

「その質問には答えられないし、悠長に問答してる時間もない」

 

 アーシャは黙り込み。

 そして、彼の隣に並んだ。

 

「あなたを無事に帝国に帰す、というのが()()との約束ですから。危険な魔人を相手に一人で戦わせるわけにはいきません」

「了承だね」

「納得したわけではありません。後できちんと説明をして頂きますから」

 

 だがその前にまずは目の前のサリンジャーを捕縛する。

 アーシャにとっては初めてとなる、帝国人の誰かと肩を並べて戦う機会。

 不思議と抵抗感はなかった。

 




イスカ到着まででした。決着は次回になるかと思います。
今回サリンジャーの原作にないオリジナルの星霊術を使っております。
土と風の『揚棄』ってなんぞ、と思って考えたのが風化でした。割と危険。
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