キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦   作:ゆーえゆ

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前回までのあらすじ

共闘するよ。


Chapter.15 陽炎

 

「理解に困るな。貴様は帝国兵か? 帝国兵がなぜその王女を庇う?」

 

 並ぶ王女と剣士。彼らを眺めて、魔人は苛立ちを隠そうともせずに言葉を発する。

 

「そして俺の秘奥たる星霊術を受けて立っているということもな。どんなカラクリだ?」

 

 サリンジャーにとっては奥の手。アーシャを強敵と認めたが故に使った『揚棄』の力。それが突然現れた目の前の剣士に斬り捨てられたことは、魔人にとって不可解であり、認め難いことでもあった。

 

「曲芸か神業か、偶然か実力か。見極めてやろう。この術をその身に受けることを誇りに思え」

 

 魔人はその右手の星紋を輝かせる。

 

「さっきみたいな風の星霊術か?」

「彼の星霊は他者の星霊を分割して奪い、己が力とするもの。その上で複数の星霊を組み合わせ、相乗効果を得る……先程のものも只の風の星霊ではなく、土の星霊も混じったものでした」

「なんだって?」

「つまりはイスカさんの知る既存のそれとは全く違う星霊術、ということです。皇庁の歴史上、あのようなことをできる星霊使いなんて恐らくは始祖様くらい……警戒してください」

 

 アーシャが言い終えた瞬間、サリンジャーの術が放たれる。

 

 

 ————火と水の星階唱(サンクトゥス)

『人の始まりに炎あり。凍てつく大河の畔より興れ』

 

 

 凍った炎。そうとしか表現できない異端の星霊術。

 イスカが剣を構えて迎え撃とうとするも、アーシャが前に出る。

 王女はその術理を見抜いていた。

 星剣による両断ではなく星霊術による相殺を選択する。

 

『終の光芒・散火(さんか)

 

 翳した手から溢れた灼熱が氷の外殻を溶かし、そのまま内部の爆炎を同等以上の火力を以て呑み込んだ。

 イスカと燐、防がれたサリンジャーも目を見張る。

 

「これをも凌ぐか」

「っ! 氷の中に炎……!? 二重の星霊術だったのか!」

「あのまま斬っていれば内部の炎に飲まれていました。イスカさんなら両方に対処できたかもしれませんが、念のためです」

「……きみの星霊術を見るのは二度目だけど、炎を燃やす炎なんて、さすがはネビュリス王族っていうべきなのかな」

「アーシャ様、流石です!」

 

 イスカたちの言葉には答えず。王女は魔人と睨み合う。

 

「邪魔立てするか王女よ」

「元よりあなたの相手はわたしのはず。わたしも別に助力を頼んだ覚えはないですが……まあ、あなたを捕らえるためです。一対一に拘る理由もありません」

 

 アーシャは一旦場を整えるべく、サリンジャーと対話する。

 

「異なる星霊術同士の合成、なるほど脅威的と言えましょう。それがあなたの、『水鏡』の星霊の本質というなら、『超越の魔人』という僭称もあながち間違いではないのかもしれません」

「ふん? 俺は全ての星霊使いを——貴様ら純血種も超え、更に上の階梯へと至る。断じて僭称などではない」

「上の階梯?」

「貴様らも知っているであろう? 星霊使いの域を超え、第三次の統合(トライステージ)へと、()()()()()()()()へと至った存在。始祖ネビュリスをな」

「「…………!」」

 

 星霊と人間の統合、という常識外の言葉。そして彼らにとっては忘れようもない強大な原始の魔女の名前を聞き絶句するイスカと燐を尻目に、純血種として星霊への造詣が深いアーシャはその真意を咀嚼する。

 

「……なるほど、納得できることもありますね。その若々しい風貌は星霊との適合率を高めた結果というわけですか。始祖様の星霊は不明な点が多いですが、王家でもない罪人がどこでそのことを知ったのやら、まだ調べなくてはならないことがありそうですね」

 

 しかし、これ以上は獄に繋いでからでいい。

 相手がどんな化け物であろうが、相手の目的がなんであろうが、彼女のやるべきことは変わらない。

 

「敵もまだ手札を出し切っていないでしょう。わたしの星霊術では迎撃はできても被害が増えてしまう。燐では防御を突破できない。となると————」

「僕が斬る。警戒されてるけど、近付ければなんとかなるはずだ」

「……そうですね。ではわたしはその手助けを。いい加減、この戦いも終わりにしましょう」

 

 アーシャは敵目掛けて星霊術を放つ。取り立てて強くもない炎弾。しかし数は揃えた。

 

「その程度で——」

「そうですね。これで仕留められるとは思っていません」

「何だと?」

 

 防がれるのは分かっている。狙いは目眩し。アーシャの星霊術はサリンジャーの目前で炸裂し、白熱の光が視界を遮る。

 その奥からくる、本命の一撃を通すために。

 

「行ってください!」

 

 少女の起こした爆風に乗り、双剣を構えた少年が空中を突き抜ける。

 

「小癪! 諸共に吹き飛ばしてくれよう!」

 

 魔人としてもこの剣士の力は得体の知れないものであり、近寄らせるつもりはなかった。余裕を持って構えているように見せて、その実は慎重にことを運ぶのが彼の性質である。

 

「大気と雷。踊れ! 狂おしく!」

 

 風と雷の星階唱(サンクトゥス)

 

 雷鳴と共に砂塵を含んだ烈風がイスカを襲う。弾丸にも等しき速度で飛び交う礫を食らえば、いくら使徒聖といえど無事では済まない。

 しかし、それも王女の読み筋。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「なッ!? これは……!」

陽炎(かげろう)(とばり)

 

 大気中の温度を操り、蜃気楼を作り出すアーシャの星霊術。

 サリンジャーの攻撃はイスカ本人ではなく映し出された幻影を撃ち抜いたのだ。

 

「終わりだ魔人!」

 

 魔人が見失った刹那、監獄塔の頂上にて。

 夜光に照らされた宙空に、黒鋼の剣士が浮かび上がる。

 

「馬鹿な! たかが剣客が、この俺の高みに辿り着くなど、認めぬぞ!」

 

 アーシャと燐。そして遅れてやってきたもう一人の王女(アリス)が見上げる中で、剣士は魔人を撃ち落とした。

 

 

「お前の負けだ、サリンジャー」

「ええ。わたしたちの、勝利です」

 




一ヶ月も間が空いてしまって申し訳ありません。

魔人との戦いは決着しました。
次回、一悶着。
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