キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦   作:ゆーえゆ

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Chapter.4 星と月

 

 

 女王の執務室に着くと、そこには部屋の主以外にもう一人、来客が来ていた。

 

「アーシアニアです。失礼します」

「あらアーシャ。何か話でもあるのかしら? 少し待っていて頂戴。先客が来られているの」

「ほう、これはこれは、双子姫の妹君の方かな? 間違っていたらすまんのう。このおいぼれの眼にはお主らは区別が付きにくいでの」

「いえ。合っていますわ、グロウリィ卿」

 

 ゾア家当主——『罪』のグロウリィ。

 齢七十を越える老人だが、三血族の一角を統べる当主である。

 

「御当主自ら女王に談判とは珍しいですね。一体なんのご用件です?」

「ちょうど良かったわ。アーシャ、貴女もここで聞いていきなさい。緊急の事案ですから」

「うむ。実はの、新しい星脈噴出泉の可能性がある地下運動の兆候が見つかったのじゃよ」

 

 このタイミングでの女王への報告。情報がこちらに漏れたことを察したのか、あるいはもう既に手回しが終わっている余裕からか。

 簡単に会話の流れを察し、敢えて初めて聞く風に装って頷くアーシャ。

 

「なるほど、それは重大事です。ゾア家の管轄でのことでしょうか? 帝国に察知されていたりすると厄介です。ルゥからも応援を送った方が良いのではないですか? お母様?」

「ええ、今まさにその提案をしようとしていたところです。グロウリィ卿。星脈噴出泉は皇庁にとっての重要資源です。いわんや帝国に奪われでもしたら将来的な損失は計り知れない。ゾアだけで対処するよりも皇庁全体で動いた方が良いと思いますが」

 

 老獪な(ゾア)の当主は女王と娘の攻め口を嘲笑うように否定する。

 

「おうおう、それには及ばんよ。もう既に彼方には我がゾア家の最高傑作であるキッシングが向かっておるでの。帝国兵も星脈噴出泉もあやつならば上手くやるだろうて」

「おや懐かしい。キッシング嬢とわたしが最後に会ったのはいつのことだったでしょうか。あの時はまだ随分と小さくて愛らしい少女でしたが、さて今ではどのように成長なさっておられることやら。久しぶりに会ってみたいものですね」

「ほっほ。そうじゃの。この一件が落着した後で月の塔に遊びに来ると良い。あやつも喜ぶじゃろうて」

「……ええ。是非に」

 

 笑顔の裏、一枚剥がせば敵意と悪意が溢れ出すような会話。

 女王は状況の不利を見てとった。

 

「……ゾアの秘蔵っ子と称されるキッシング嬢の実力を疑う訳ではありませんが、帝国とて我々が全力で星脈噴出泉を確保しに行くことは理解しているでしょう。それに応じた戦力を用意してくるであろうことは予想ができます。

 星の未来に関わることです。こちらも万全の態勢で臨まなければなりません。これはあくまで保険ですが、ルゥ家からもこのアーシアニアを応援として送りましょう。キッシング嬢と協力して、きっと我ら皇庁に良い結果をもたらしてくれることでしょう」

 

 鶴の一声、とまでは行かないが、現女王の言である。妥協案として出されたものであれば王家でも最長老の一人であるグロウリィとしても簡単には断れない。

 

「……良かろう。お主がそこまで帝国軍ごときを恐れるのであれば、そこの娘一人程度は構うまい。オンにはこちらから伝えておく。

 とはいえ時間はあまり無いと思え? 現地に着くのに間に合わなければ、あるいは帝国兵共が差し迫る時に至っては星脈噴出泉は我らゾア家の選出した者たちに使わせてもらうぞ」

「ええ、それで良いでしょう。アーシャ。構いませんね?」

「……はい。お母様」

「ほ。それではの。此度の件の結果によって、星の怒りがどの道を選んだかはっきりするだろうて。せいぜい足掻いて見るのじゃな」

 

 会話を終え、グロウリィは自ら車椅子を押して部屋を出ていく。従者は外に待機させてはいただろうが、その余裕のある背中にアーシャは苦虫を噛み潰したような顔をする。麗しい王女がしてはいけない表情だったが、幸いにも(?)母親である女王も似たような面持ちだった。

 

「お母様。それで、今回の件についてタリスマン卿にお伝えしてきましたが……」

「ええ、ご苦労様です。その反応からしてヒュドラは今回は噛んでいないようですね……あちらこちらに動いてもらって申し訳ないですが、グロウリィ卿に今しがた話した通り、アーシャにはこの後問題のミュドル峡谷に行ってもらいます。これからすぐ準備なさい」

「……分かりました。では」

 

 段々と事態が面倒な方向に転がっていく、と思いつつも、女王の言葉は娘であるアーシャにとっては絶対の命令。拒否することはできない。

 アーシャは準備のために部屋を出る。本当に面倒だが自分が渦中の場所へ赴かねばならないらしい。

 

 ……ちなみに、これを覚悟するよりも先に姉アリスが既にミュドル峡谷へと向かって旅立っていたことは、この時点の彼女はまだ知らない。

 




というわけで戦場へ。
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