キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦 作:ゆーえゆ
「はあ、どうしてこうなってしまったのでしょうか。大図書館で平和に昼寝をしていたはずなのに、気がつけば国境を越えて遥か彼方の荒野まで遠方出張。しかもわたしの嫌いな戦場です。まったくもって気に入りません。なぜわたしが行かねばならないのでしょう。
ゾアだの帝国だの、
「何を言っているのですか。その全体的に問題の多い発言は聞かなかったことにしてあげますから、さっさと出発してください。今はアーシャの速さだけが頼りなのです」
「申し訳ありませんお母様。分かりましたからアイアンクローはやめてください。お母様の握力だと割と洒落になりませんので!」
女王宮。その最も高い階層のテラスにて。
アーシャは女王に見送られながら出発しようとしていた。服装は常の
「ではお願いしますね。全速力で向かってください。貴女の翼に皇庁の未来が載っていると言っても過言ではありません」
「重いものを載せないで下さいませ。飛べなくなります」
「馬鹿を言ってないで早くお行きなさい」
「了解いたしました。お母様」
アーシャの背中。
双子の姉と同じ場所。そこに刻まれた真紅の星紋が輝く。
と同時に、彼女の背中と足下に、それぞれ二つの円が発生する。それは星霊によって生み出された熱気の塊が大気を突き抜ける時の余波である。
——轟、と音を立てて彼女の身体が地を離れ宙に浮き、そして加速した。
「『星よ』」
「『我が灼熱よ』」
「『我が翼となりて、我を導け』!!」
彼女の星霊は「熱」の星霊。種類としては炎の星霊の亜種に当たるものだ。単なるヒーター程度の輻射熱からプラズマ砲に至るまで、熱を様々な形で放出するという星霊だが、彼女のそれは使い手の技量と純血種の特徴たる高出力によってヒトをジェット機へと変えることすら可能にする。彼女の纏う移動装備はその高速移動のGや風圧から生身の術者を守る耐熱・耐圧装備である。
この星霊の力を振るうアーシャは現役の全星霊使いの中でも稀少な長距離飛行能力を持つ星霊使いであり、あるいは一人で敵国の首都を火の海にした始祖ネビュリスに近いこともやろうと思えば可能だろう。
第三王女、アーシアニア・ルゥ・ネビュリス9世。
本人の気質から滅多に戦場には出ないものの、彼女を知る者からはその戦闘能力は姉・アリスと並び皇庁で一二を争うとも言われる。
その戦力が、瞬く間に戦場へと近づいていった。
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そして、ミュドル峡谷の北東部。
皇庁のキャンプ地となっている場所にアーシャが到着したのは、もう日も沈みかけた頃だった。
「え!? アーシアニア様っ!?」
「なぜここに……」「前線に出られることはないと……」「今空から……!?」
陣中のど真ん中に降下し、それに混乱するゾア家お抱えの星霊使いたちを睥睨して、アーシャははっきりとした声で告げる。
「仮面卿、それか駐留部隊の司令官殿はいらっしゃいますか? 本国から通達がきているはずですが、ここに
「ええ!? しかし、その」「星脈噴出泉のことをもうご存知なので?」「仮面卿は今キッシング様やアリスリーゼ様と共に
「そうですか。ではわたしも下に……って、アリスリーゼ? 今アリスリーゼと言いましたか? なぜアリスがここに?」
「ご連絡なされていないのですか? アリスリーゼ様はちょうどこの付近を通るご用事があってそのついでに、と部隊の支援に来てくださったのです!」
「はあ。聞いていませんが……。誰か案内してくださる方はいますか?」
「い、今連絡班が向かうので、不肖ながらその者たちが案内させて頂きます!」
「結構。ではよろしくお願いします」
あの姉は一体こんなところまで何をしにきたというのか。まったく暇なことである。
アーシャはそう思いながら、本部へと歩いていく。
長時間星霊術を使って空を飛んで来たためかなり疲労が溜まっていたのだが、残念ながら状況は休憩の猶予も許さない。
星霊部隊の司令本部。
アーシャがそこに顔を出すと、姿があったのはゾア家の仮面卿オン。そして人形のようなドレスを身に纏い、両目を眼帯で覆ったあどけない少女、キッシング。
「やれやれアリス君。今さっき帝国部隊の元に向かうと張り切って出て行ったばかりなのに、もう戻ってくるとは。何か忘れ物でも?」
「生憎と人違いです仮面卿。……この状況を簡潔にご説明願えますか。帝国部隊の動向と、
瓜二つな双子とはいえ服装も髪の長さも違う。仮面の男はすぐに気付いた。
「ん? おや、君はもしやアリス君ではなくアーシャ君かな? 今皇庁から着いたところだと? 連絡があってからそう時間も経っていないが」
「いかにもわたしはアーシアニアです。仰る通りたった今ここに到着したところで、情報の多さに混乱しています。なぜか予告なくこちらに来ているらしき我が双子の姉についても、今どこで何をしているのかご存知なら教えて頂きたいです」
「————なんとまあ、よくよくこちらの調子を乱してくれるな君たち姉妹は。ほらキッシング。先程のアリス君の妹君のアーシャ君だ。挨拶をしなさい。……見分けがつかない? 確かにどちらも見目麗しい少女ではあるが、違いはあるだろう? よく見比べてみたまえ」
仮面の男にしがみついていた眼帯の少女は、頭ひとつ高いアーシャを眼帯越しに見上げる。果たしてそれは見えているのか。
「アリ……ス…………? アリスリーゼ……? アーシャ……アーシアニア……?」
「お久しぶりですねキッシング嬢。見ないうちに随分と大きくなられたようで。確かあなたと以前お会いした時はわたしもアリスと髪の長さが同じくらいでしたし、格好も同じようなものでした。見分けがつかず覚えていないのも無理からぬことです。お気になさらず」
「————」
「ハハハ。微笑ましい再会の挨拶だがこれくらいにしておこうか。実はそろそろキッシングの出番が迫っているのでね」
二人の顔合わせが済んで間もなく、仮面卿はキッシングを連れ立って本部基地の建物の外に出た。
アーシャもそれを追いつつ、その言葉の意味を問う。
「出番とは?」
「帝国軍の部隊が間もなくこの
「もはや星霊エネルギーの独占の是非について追及するのは手遅れ、というのは来る前から予想していましたが、帝国との諍いに関してはまた随分と穏やかならざる状況のようですね」
「その辺りの話はもう既にアリス君と一通り済ませてしまったからね。後で彼女から聞くといい。今は目の前の危機に対応するのが先決だ」
「……まあいいでしょう。わたしは女王からこの
「それは心強い。帝国の兵たちときたらこちらに捕虜がいるにも関わらずこの周囲一体を纏めて吹き飛ばそうというんだからね。手に入らないのであれば破壊してしまえ、ということなのだろうし、効率的な手ではあるが、帝国らしい野蛮さだ。まったく度し難い」
「捕虜? 敵部隊と交戦したのですか?」
「我らが諜報潜入部隊の手腕さ。このミュドル峡谷の戦いに於いては彼女らが最も戦果を挙げた者たちだと言えるだろう。生憎と敵方の使徒聖に妨害されてこれ以上の捕虜追加はないが、ルゥの姫である君からも同志たちを褒めてやってくれたまえ。……尤も既にそれもアリス君が先刻やってしまっているのだがね」
「はあ。それはそれは。報告する事案が増えますね……」
そんな風にアーシャが真顔でぼやいた時のこと。
星霊部隊の陣地の端の方から何やら爆発音が聞こえてきた。
「——ミサイルというのはあれのことですか。初弾とはいえ随分とコントロールの悪い……」
「か、仮面卿! 襲撃です! 爆撃と同時に帝国軍の車両が一台、陣地内に突っ込んできました!」
「……? 一台だけ……?」
銃声が何発か鳴り響き。陣地内が火のついたように慌ただしくなる。その原因を聞いてアーシャは首を傾げる。
「ふむ。捕虜の奪還か、はたまた我々のような皇庁の要人を狙ってか、少数精鋭で突入してきたようだね」
「ゾア家のお歴々がご用意された星霊部隊がどの程度の規模なのかは存じませんが、集まっている者たちだけで対処できるでしょうか? 随分と撹乱されているようですが」
「爆撃による混乱はキッシングがミサイルを防げば止まるだろう。そうすれば部隊の者たちでも少数の襲撃者程度は対応できるだろうが……あまりかき回されるのは気に入らないな。襲撃者もキッシングに任せるとしよう。アーシャ君にはその補佐を頼もうか。無理にキッシングの戦いに参戦する必要はないが、乗り込んできた敵兵が複数であればいくらか引き受けてくれて構わない。私は一度司令部に合流して撤退の指揮を取ろう。王家に名高い双子姫の片割れとしての実力、存分に発揮してくれたまえ」
「承りました」
仮面卿はそう言い残すと「門」の星霊を使って何処かに消える。
アーシャが周囲を見渡すと、命じられたキッシングが混乱の渦中へとトコトコと歩いていくところであった。
「さて、お手並み拝見、と言ったところでしょうか」
アリスと燐は帝国部隊の駐留地点へと向かい、使徒聖ネームレスと交戦中です。
原作に書かれている通り最初のミサイルの着弾地点がずれたのはネームレスの命令で発射がかなり急がされたためです。当然アーシャはそんなことは知りませんが。
アーシャの星霊は双子であるアリスの氷(冷気)と対になるように熱としています。星紋の場所は同じですが色はアリスの青と違って赤色です。