キミと双子の最後の戦場、あるいは正解を探す聖戦   作:ゆーえゆ

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Chapter.7 時間切れ

 

 二人の帝国人に走った衝撃はいかほどか。

 魔女が目の前で礼儀正しく名を名乗るなど。

 

「……そんな、いやでも」

「イスカさんはアリスをよく知っておられるようでしたが、アリスからそっくりな双子の妹がいるということは聞いてはいなかったですか?」

「双子!? アリスが?」

「ああ、そういえば帝国ではアリスの素性は知られていないのでしたね。では告げている筈もないか。アリスリーゼはわたしの姉です。……これは他の帝国軍の方々には内緒にしておいてくださいね?」

「アリスの、妹……だって?」

「それほどに驚くことでしょうか? 星霊使いだって兄弟姉妹はいますし、中には双子だっていてもおかしくないでしょう。ネビュリス皇庁の初代たる始祖様も双子です」

「……そうかも知れないけど……でも」

 

 あのアリスリーゼの双子の妹。「氷禍の魔女」と呼ばれ最強の敵として帝国軍から恐れられる純血種に、それに近い強さであろう純血種の近縁がいたという事実は、いち帝国兵として脅威に思わざるを得ないイスカである。

 ミスミスの方はアーシャが純血種という発言の段階で処理できる許容量を越えたのか、話についていけず惚けてしまっている。

 

 意識を戦場に戻し。

 よろよろと、剣を支えにして立ち上がるイスカ。熱線が掠めた箇所は黒く焦げ、じわじわと出血すると共に灼かれた痛みが体を侵す。それでも立たなければ抵抗もできないということを彼は感じ取っていた。

 

「そんな王族がこんな辺境に来てるのは、そこの星脈噴出泉(ボルテックス)を守るためか……?」

「愚問ですね」

 

 さら、と肩くらいに切り揃えた髪を靡かせて振り返り、胎動する星光の泉を眺めるアーシャ。

 

「わたしには、そこのキッシング嬢と協力してこの星脈噴出泉(ボルテックス)を防衛せよ、という命令が与えられています。キッシング嬢が倒されてしまえば帝国のミサイル爆撃によってここは破壊されてしまうでしょう。そんなことをされては困ります」

 

 そう言いつつ。アーシャはイスカの近くで座り込んだままのキッシングを盗み見る。

 実際に攻撃はされなかったが、それでも自身の全力の攻撃が通用せず、妨害がなければ敗北していたという幼いキッシングにとっては未知の体験、その衝撃で一時的に戦意を喪失してしまっている。

 アーシャはそう判断した。

 

「経験不足が祟った、というところですか。これではいけませんね」

 

 イスカは目の前の星霊使いが何を考えているのか計りかねていた。

 彼女がその気なら、わざわざ話しかけて来なくても自分たちのことを殺せたはずなのだ。キッシングとの戦いで消耗した自分と武器を持たないミスミス隊長の二人くらい、強大な星霊を持つ純血種にとっては赤子の手をひねるより簡単に処理できたことだろう。

 アーシャはそんなイスカの目線に気づく。

 

「ああ、そんなに怖い顔で睨まないでください。不意打ちで攻撃をしておいて何をと思われるかもしれませんが、わたしは戦いというものが嫌いなのです。今日はずっと飛んできたので疲れていますし、使徒聖に昇り詰めるほどの戦士と争うなんて御免ですから。

 ……お二人とは一緒にお茶を楽しんだご縁がありますし、殺すなんて物騒な行為はしたくありません。大人しく投降してくださるのであれば、捕虜として丁重に扱うことをお約束いたしますが」

 

 とぼけた言葉の陰に、戦っても勝負にならないから諦めろ、という威圧が見え隠れする。

 イスカとて負傷した状態で手の内の分からない純血種を相手にすることの圧倒的な分の悪さは理解できていたが、聞き逃せない言葉もあり、星剣を手放すことはしなかった。

 

「僕のことを、知ってるのか……?」

「ええ。あの喫茶店でお名前を聞いて、失礼ながら調べさせていただきました。アリスのことを知っていてわたしのことを知らない、という人間は皇庁にはいませんし、他国の人間だと思って調べたのですが、これがなかなか興味深い話でしたよ。『イスカ』という名前の帝国最年少の使徒聖がいたこと、星霊使いの捕虜脱獄幇助の罪でその座を剥奪されたこと……。

 一兵卒としてこの戦いに参加しているとは思いませんでしたが、こんな見事な戦いぶりを見せておいてまさか別人だとは仰いませんよね?」

「…………」

「そうそう。それであなたにはアリスとの馴れ初めについて訊きたかったのですが……それはまたの機会にしましょうか。残念ながらこの戦いは時間切れになってしまったようです」

「なんだって? 

 

 ————ッ!!?」

 

 先程とは異なり本当に残念そうに呟くアーシャの「時間切れ」という言葉に正体不明の戦慄を覚えたイスカの背後。

 音もなく現れた仮面の男が、彼に向かってナイフを突き出していた。

 イスカは瞬間的に身を捩ってなんとか致命傷を回避する。

 

「シャノロッテ君の報告通り。なるほど二重の意味で驚いた。背中を一突きするつもりだったが、あの一瞬で私の気配を感知して咄嗟に身を捻ったか。凄まじい反応速度と体捌きだ」

「っ……く……何者だ」

「そして二つ目、まさかキッシングがここまで抑えられているとは。キッシング? 立てるかね?」

 

 座り込むキッシングに手を伸ばす仮面卿。アーシャがそこに声をかける。

 

「仮面卿。キッシング嬢はお疲れのご様子です。もうお休みになられた方がよろしいでしょう」

「……アーシャ君。君がキッシングの代わりにミサイルから星脈噴出泉(ボルテックス)を守ると?」

 

 仮面の男の視線が金髪の姫君の方を向く。

 少女は軽く頷いた。

 

「致し方ありません。撃ち漏らしはわたしが、と言ってしまいましたからね。この場はお任せあれ」

「ではお言葉に甘えるとしよう。今日はここまでだ。なにせこの子はまだ調整が終わっていないからね。……名も知らぬ帝国の(つわもの)よ。彼女が『完成』した時にはまた遊んでやってくれたまえ」

 

 その言葉と共にキッシングを抱え上げる仮面の男に、全身に傷を負った体で必死に虚勢を張りながらも待ったをかけるイスカ。

 

「待て、逃すと思うか。ここで決着を——」

「君たちの隊長のことを心配したらどうかな?」

「っ! ミスミス隊長!」

 

 イスカとアーシャの会話を聞いてへたりこんでいた小柄な女性隊長。そのすぐ横に転移した仮面の男が、彼女を大きく蹴り飛ばす。

 深く底知れない光を湛えた泉の中へと。

 惑星の中枢へと通じる大穴。そこまで沈んでしまえば浮上する術はない。衝撃で気絶してしまった彼女は力なく落下していく。

 黒髪の少年は迷わなかった。自らの隊長を追いかけて自身もその穴に身を投げる。

 ボロボロの体でそんなことをすればどうなるか、アーシャはわかっていても止める言葉が追いつかず唇を噛む。

 とはいえ助けにいく義理もない。アーシャとイスカは敵同士である。

 彼とはここでお別れのようだ、アーシャはそう思った。

 

「ままならないものですね……もっと話していたかったのに」

 

 

 




アーシャは大体本心で話していますが、あまり説得力はありません。
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