藤丸立香は死に戻る   作:ららら

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第十五話 雪花の盾

 壁に叩きつけられていたレフが、ぐらりとよろめきながら床へと崩れ落ちた。

 血の混じった唾液を吐き捨てると、タイルの白に、黒ずんだ赤が飛び散る。雫の中に転がったのは、砕けた男の歯。

 その光景を見て、状況を見守っていた女スタッフが「ひっ」と息を呑んだ。

 

「なるほど……なるほどなるほど」

 

 顔をしかめるレフに、もはや余裕の笑みなど残っていない。

 

 殴られたのだ。それも歯が砕けるほど強い力で。真正面から、たかだが一介の子供風情に。

 

 殴られるまでの工程を、レフは冷静に理解できている。

 無理やり魔術回路を駆動させ、令呪を踏み込みとパンチでそれぞれ一画ずつ費やしての、純粋な飛び掛かり右ストレート。

 

 そこには、なんの小細工もない。

 技巧もなければフェイントもない。

 ただ幼子が振りかざす暴力と言っても差し支えのない右拳。

 魔術師であれば、原理を解明しようとするのすら馬鹿らしく思えるほど、単純明快な攻撃。

 

 それなのに、レフはまんまと血を流されてしまった。

 

「まさか、君のような矮小な人間に、この私が殴り飛ばされるとは……実に不愉快極まれりだよ、藤丸立香」

 

 怒気を孕んだその声音を、レフは隠す気もない。

 だが、それは瞬時に笑いへ転じることになる。

 

「しかし残念だよ――この怒りをぶつけようにも、肝心の君はすでに虫の息なんだからね」

 

「――――ごふっ!」

 

 レフがそう言冷笑を浮かべたのと同時、立香の喉奥から濁った血が噴き出す。

 搾り出されるような咳とともに、吐血を繰り返す立香。肺の奥が焼けるように痛むのか、胸を苦しそうに抑えながら、まるで四つん這いになるように身を丸めた。

 

 誰が見ても理解できる。

 あの一撃は、立香の肉体に致命的な反動をもたらしていることに。

 あのレフをも弾き飛ばした身体能力が、無償で受けられているわけがない。もとより、決して健全とは言えぬ状態の傷を、立香は既に負っていたのだ。

 

 瀕死の身体に、令呪と礼装による強化を無理やり施せばどうなるのか。

 

 答えは明快だ。魔術回路は傷み、筋肉は断裂し、骨は砕けてしまう。それらは立香に死を連想させるほど、悍ましい苦痛をもたらす。息をするのすら億劫で、頭を動かすだけでひどい耳鳴りがする。

 

 こんな状態でレフに一撃を決めたのは、もはや奇跡と言えるのかもしれない。

 だが、奇跡とは再現性のないもの。ラッキーパンチなんてものは、そうそう連続で決まったりしない。

 

 だが――それでも。

 

「あ゛ああああああああああ!!」

 

 喉を裂くような絶叫とともに、立香は、折れた膝を伸ばす。

 血塗れの指で床を支え、震える脚に力を込め、重力を裏切るようにして、再びその身を起こす。

 

 だからその姿を見たレフは――――いいや彼だけではない。

 本来であれば、立香を止める立場にあるべきロマニやダ・ヴィンチまでもが、立香の行動をただ目を開け、口を噤み、おもわず一歩後ずさった。

 

「レフ……レフ……レフレフレフレフレフレフ!!!!」

 

 その名を呪詛のように連呼しながら、立香はよろめきつつも一歩を踏み出す。

 

「やれやれ……聞こえているよ、藤丸立香。どうやら君のそれは、もはや論理とは埒外な方向へと行っているようだね」

 

「返"せ!! あ"の娘を、返"せよ!!!!」

 

 立香の咆哮。獣のようなその雄叫びに、レフはわずかな寒気が背筋をなぞるのを感じた。

 

(なぜ、そこまで私を憎む……その原動力は、いったい何処からきている?)

 

 レフは細めた目で立香を見つめながら思考する。

 猛獣であれ害獣であれ、生命体というものはもう少し理論的に行動するものだ。決して、目の前で吠える男が、それらと肩を並べる霊長類の長とは思えない。

 

 ずっと違和感はあった。

 今日初めてカルデアに新任してきたはずの立香が、中央管制室に爆弾を仕掛けていると見抜いたことに対して、ではない。

 その犯人をレフだと断定し、多くの仲間を集めたことに対する疑念でもない。

 

 それらは総じて、手段を考えるだけ無意味だとレフは理解している。

 魔術師に誰がやったのか(Who done it)は意味がない。どうやったのか(How done it)など考えるだけ無駄だ。

 重要なのは、なぜそのような(Why)怒りをいだかざるを得なかったのか(done it)

 

 しかし、それが分からなかった。

 ここまで痛ぶられて。ここまで酷い目にあわされて。普通の人間なら、いつ投げ出してしまってもおかしくない苦痛を味わされて。それでもレフを確実に排除する意思だけは、誰よりも強い藤丸立香の根底。その底が、あまりにも見えてこなかった。

 

(いや、それよりもだ……なんだ、この違和感は……私は、何かを見落としている……?)

 

 レフが顎を抑えて考えていると、ようやく自身へと向かってこようとする立香を、ロマニが後ろから羽交い締めし、制止するのが目に映った。

 

「もう、よすんだっ、藤丸君!」

 

「離して……っ、離してぐださい、ドグダーッ!!」

 

「いいや、離さないよ、僕ぁ! これ以上は、君が本当に死んでしまうっ! レフを倒したとしても、君が生きていないんじゃ意味がない!」

 

「お"れ"は、どうなっても、かまいません……っ!!」

 

「僕がかまうんだよっ!? マシュが君をなんのために庇ったと思うんだ! 彼女は、君に復讐してほしくて命を投げ出したわけじゃないだろ!!?」

 

 その言葉に、空気が一瞬凍りつく。

 そして、沈黙を破ったのは、コフィンの近くから動けないダ・ヴィンチだった。

 

「……ロマニの言う通りだ、藤丸君。もうこれ以上進めば、本当に君は命を落とす。それでもいいのか?」

 

「い"い"ですよ……っ! 俺なんかの命で、あいつを倒せるならっ……どうなっても!!」

 

「俺なんかの命で、か……そうだね。今の君を見ていたら、そう答えると知っていながら、私はそれでも聞くしかできなかった。……いいだろう、君の意思を尊重しよう。悔しいけど君はもう誰かに言われたらといって、止まりそうにない」

 

「レオナルド!!?」

 

「ロマニも、もう離してやりなよ。君だって理解できているはずだ。彼はどうあっても止まらない。いや、止まれないんだよ。そうさせる原動力は私にも分からないが……それでも、すべてが理解できないわけじゃない」

 

 ロマニにそう投げかけながら、ダ・ヴィンチは彼らの後ろで横たわるマシュへと視線を移した。

 

 本当に、眠っているようだ。

 

 もし彼女の体があれほどの血に濡れていなければ、まるでおとぎ話に出てくるお姫様のようにも見えたかもしれない。けれど実際は、血色を失ってしまっているだけの、ただ糸切れた肉塊が倒れているだけ。

 

 大切な者を奪われた人間は、時として愚かな選択も辞さないという。

 藤丸立香にとって、マシュ・キリエライトとはそれだけ大切な人間だったということなのだろう。

 あるいは、マシュにとってもまた、藤丸立香はそれほどまでに大切な存在へとなっていたのかもしれない。

 

 彼女も命に代えて立香を、レフの凶刃から守り抜いた。己の身体を盾として。

 その死に顔が、まるで穏やかな眠りのように見えるのは、きっとその選択に悔いがなかったからだろう。

 

 ダ・ヴィンチはマシュから目を離し、そして今もまだ立香を羽交い絞めにするロマニを見る。

 立香が止まれないように、きっと医者であるロマニも自分の(さが)を捨てきれないのだ。マシュを死なせてしまった責任は、たぶんロマニが人一倍感じている。

 だからこそ、彼は――医者としての信念をもって、これ以上誰かを失わないために、立香を止め続けている。

 

(……馬鹿ばっかりだ。本当に、救いようがないくらいにね。ま、私もそのひとりなんだけど)

 

 たった一人の少女の死が、すべての歯車を狂わせた。

 ダ・ヴィンチは小さく、呆れたように、そして少しだけ優しく笑いながら、「さて、私もやるべきことをやろうか」と壁沿いにたちすくむスタッフたちへ告げる。

 

「今、この中央管制室にいるスタッフのみんな、聞いてくれ! ここには私と藤丸君、そしてロマニだけが残る。他のみんなはどうか、このカルデアから無事脱出することを考えて、全力で逃げてほしい」

 

 その言葉に、他のスタッフたちにどよめきが起こる。

 

 ――逃げてもいいのか?

 ――そもそも、逃げられるのか?

 

 へたに動き、レフに殺されないという確証はない。戦闘訓練も積み、戦力になり得る可能性が高かったマスター候補生はほぼ全てコフィンの中にいる。今、この場で管制室の壁沿いに立つスタッフは、どれもレフによって選別された、殺すのに手間のかからない非力な人員ばかりだ。

 

 それを理解したうえで、ダ・ヴィンチは優しく、しかし力強く言葉を重ねた。

 

「君たちが恐れていることは理解できる。ここから動けないのも重々承知のうえだ。……だからこそ、ここはあえてと強く言おう。無理に戦わなくていい。ただ、生き延びるために走ってくれ。全員で一斉に逃げれば、生存率は確実に上がる。たとえ数名が犠牲になったとしても、君たちが未来を外に繋ぐんだ」

 

 それでもなお、恐怖に凍りつくスタッフたち。

 レフがそれを見て、くつくつと低く笑い始めた。

 

「くくく……ふはははは! 笑わせてくれるじゃないか、レオナルド・ダ・ヴィンチ!  ここから逃げる? 未来を外につなぐ? いやはや、君のお気楽さには、ほとほと感服してしまうよ! この私が、容易に逃亡を許すはずないだろう!?」

 

「レフ教授、君のほうこそ何か勘違いしているんじゃないのかい? さっき、君は言ったね。ここの8割は道連れにできる、と。でも私の見立てじゃ、それは叶わない。さっきの藤丸君との攻防を見てはっきりした。君がどんな手段を取ろうとも、彼ら彼女らが全力で逃げれば、おおよそ逆の8割は生き残れる」

 

「万能の天才ともあろうものが、どんな手段を取っても、とあまりに不明確で不正確な表現を使うのか? 貴様が私のなにを知っている!? 貴様のそれは、ただ理想論をかがげているだけだ。誰も逃すつもりはない。お前も、そこの下等生物も、この場にいる全員に未来など与えるはずもない!」

 

「そうか。じゃあ、試してみるといい。ただし、君が逃げ惑う彼らの殺しを楽しんでいる間に、私はコフィンに既に搭乗したマスター候補生全員を救ってみせることになるけどさ。……今度は、君が“選ばされる”番だ」

 

「……」

 

 ダ・ヴィンチは不敵に笑うと、こんこんと仕込まれた爆発物を叩いた。

 そう、彼がまだ動けずにいるのは、コフィンに仕掛けられた爆発物の処理のため。

 逆を返せば、レフが爆発物を放棄し、この場にいる人間の殲滅に動くようであれば、その隙にダ・ヴィンチはさっさと爆発物の解体を終わらせてしまうだろう。

 

 どちらを守るかの選択を強いられた彼は、今度はレフに、どちらを殺すかの選択を強いている。

 

 その事実を思い知らされたレフは、まるで蛆虫を見るような目でダ・ヴィンチを睨んだ。

 

「おー、怖い。君ってそんな目もするの? 私はもっと紳士的な人間と思っていたんだけどさ」

 

 煽るようなダ・ヴィンチの言い草に、レフは「ふっ」と鼻で笑うだけにとどめた。

 そうして男は腕に装着された端末で時間を確認する。

 

(逃げるのであれば、逃がせばいい……どのみち、奴らは死に絶える。私が殺すか、焼却されるかの些末な違いだ。問題は、既にコフィンに搭乗している人間の排除。こればかりは、どうなるか私にも予想がつかない)

 

 レフはそう考え、時間を確認していた端末から顔をあげると、紳士的な態度で、壁沿いに立っていた他スタッフたちに「どうぞ」という風なジェスチャーを送る。

 それに困惑を示すカルデアスタッフたちであったが、ひとり命欲しさに逃げたスタッフを皮切りに、ひとりまたひとりと脱兎のごとく中央管制室から蜘蛛の子を散らすように飛び出し始めた。

 

「随分と簡単に選ぶじゃないか、レフ教授」

 

「君と違って、私の仕事は半ば終わっているということだよ。余計な労力はかけたくないのさ」

 

 レフはそう言うと、ダ・ヴィンチのもとへとゆったりとした歩調で歩き出す。

 

「さて、そこを退いてもらおうか。時間も惜しい」

 

「やれるものなら、やってみなよ。私はこう見えて、案外頑丈だぜ?」

 

 ダ・ヴィンチがそう告げると、腕に装着された機械的な巨腕をレフにかざした。

 

「宝具か。おー、怖い。私もそれをくらえば、ひとたまりも無さそうだ」

 

「普段であれば、そんな安っぽい嘘に騙されたりはしないんだけどね。今はそのお言葉をありがたく信じさせてもらうとしよう」

 

 そう言って、ダ・ヴィンチの巨腕が駆動を始める。

 レフはそれを見つめながら、ふと踵を返した。

 

「なんだ、本当に離れるんだ」

 

「言っただろう? 私の仕事は半ば終わっていると。お前は私を攻撃している暇があるのかな?」

 

「? どういう――」

 

 レフの狙いに気づいたのは、その直後だった。

 

 ダ・ヴィンチがレフに迫った。

 コフィンに搭乗しているマスター候補生と、その他のスタッフ、どちらを殺すのかと。

 

 そしてレフは選んだ。コフィンに搭乗しているマスター候補生の確実な殺害を。

 

 だが、そこで気づくべきだったのだ。

 レフの狙いは、決してそこでロマニに食い止められている藤丸立夏の殺害でもなければ、マスター候補生の殺害を阻止するダ・ヴィンチの殺害でもない。

 目的は一貫したほうが強いもの。

 レフが爆弾を起動させれば、ダ・ヴィンチは確実にそれの処理に手を回さなければいけなくなり、そうすれば、レフを止める者が誰一人としていなくなる事実に。

 

 爆弾が、起動する。

 レフは何も押していない。爆弾を起動する仕草すら見せていない。

 

 なにを基準として起爆させているのかは分からないが、起きた事象に疑問が介入する余地はない。

 

 レフが、爆弾を起動させたという事実――――。

 

 その事実だけは、どうあっても覆らないのだから。

 

「さあ、今度は貴様が二択を迫られる番だ。爆弾によってそこのマスター候補生を殺すか。私の手によってマスター候補生を殺すか。そういう、どうしようもない二択をなぁ!」

 

「っ……!!」

 

 ダ・ヴィンチはレフの皮肉に応える余裕もなく、彼に向けていたその巨腕で爆破物を握りこんだ。

 どれだけ爆発力が大きかろうと、神秘がなければサーヴァントである彼の肉体は傷ひとつつかない。だからこその、爆発物の覆いこみ。

 

 しかしそれは、ダ・ヴィンチが傷つかないのであって、その他の物は傷つく可能性が高いということ。

 

 どれだけ丁寧に握りこもうと、その余波は確実に外に漏らされる。

 中央管制室を火の車にした量の火薬だ。たかが腕ひとつでどうこうできる量ではない。

 確実にそれらを外に漏らさないようにするためには、腕だけでは足りない。片手だけでは不可能だ。

 だからこそ、ダ・ヴィンチは瞬時にその爆弾の威力を察し、それを握りこんでから、己の身体で包むように抱きかかえた。

 

 そんな隙を、レフが見逃すはずもなく。

 

「レオナルド――――!!!」

 

 ロマニの絶叫が響く。

 

「ダ・ヴィンチ、ちゃん――!」

 

 立香の声がこだまする。

 

 ダ・ヴィンチの身体にかかる、一人の男の影。

 レフ・ライノールが、爆弾を食い止めるダ・ヴィンチへ、ゆっくりと手を伸ばした。

 

 しかし、その手は――――。

 

 

 

 

 1

 

 

 

 声が聞こえた気がした。

 どこか優しく、清涼感のある声。

 

 その声が尋ねてくる。

 

 ――生きたいか、と。

 

 けれど私は、すぐには答えられなかった。

 いや、答えようとしたけれど、声が出なかった。

 自分の身体が、ここにあるのかさえ分からなかった。

 

 声帯も、唇も、まぶたさえ感じない。

 それでも私は、確かに「分からない」と思った。

 

 自分の身体を認識できない私に、肉体的言語での回答はできない。

 思っただけでは、どこにも届かないはずなのに――

 

 だけど、その声は私の想いをくみ取ってくれたらしい。

 

 ――じゃあ、質問を変えよう。

 

 その声はそう言って、私に続けた。

 

 ――守りたいか、と。

 

 その瞬間、世界が明滅する。

 何かが、私の中に、流れこんでくる。

 

 誰かの叫び。

 誰かの怒り。

 誰かの涙。

 

 いや、誰か、ではない。

 

 ……せん、ぱい。

 

 私が命を投げ出して守ろうとした人。

 私の心が、どうしようもなく温かくなってしまう人。

 

 なんであんなことをしたのか、自分でも分からない。

 彼と出会ったのは今日が初めてで、彼と会話したのだって両手の指で足りる程度だったはずなのに。

 

 ――手に火傷、なし。体に穴も、開いてない。服に汚れ、なし。そして当然……君にも異常なし! よかった!

 

 ――あの、えっと、先輩……?

 

 ――つい、嬉しくてさ。本当にごめん。でも、これでようやく君に”青空”を見せてあげられる。

 

 その時に見せた笑顔が、誰よりも人間らしく、どんな光景よりも綺麗に見えてしまったから。

 

 あー、この人は……この人だけは失っちゃいけない。この人だけは、守らないといけない。

 そう心の奥底で、思ってしまったから。

 

 ――それが、君の願いか。

 

 優しい声が続く。

 

 願い……これが、私の願い……?

 

 分からない。

 そんなものは考えたこともない。

 

 ただ、レフ教授の凶刃が振り下ろされた、その瞬間。

 私は失うことが怖いことしか考えていなかった。

 ただ、あの人が――先輩が、傷つくことが我慢できなかった。

 だから、がむしゃらに手足を振って、無我夢中で前に躍り出た。

 

 もしこれが、”私の願い”だというのなら。

 守らなければと、そうどうしようもく願ってしまうのなら。

 

 ――守りたい。私は先輩を、守りたいです。

 

 例え、傷ついても。

 例え、自分が壊れても。

 例え、もう戻れなくても。

 

 守りたい。先輩を。私が信じた人たちを。

 それが、私の命の意味だと思うから。

 

 静寂が、少しだけ変わった気がした。

 あの声はもう聞こえない。けれど、代わりに――

 

 遠く、かすかに、誰かの声がした。

 

 

 

 

 2

 

 

 

「ダ・ヴィンチ、ちゃん――!!」

 

 立香がそう叫び、レフがダ・ヴィンチへと手を伸ばしかけた、そのときだった。

 

 ――空間が、軋んだ。

 

 何かが、空気を押し返した衝撃。

 いや、違う。何かが、目覚めた鼓動とも呼べる、そんな拍動だった。

 

 そして。

 

「……ッ⁉」

 

 何者かが、レフと立香たちの間に割って入った。

 

 その影を見て、レフが思わず足を引く。

 その場に吹き出すように広がる、膨大な魔力。

 視界が軋み、温度が数度、一瞬で跳ね上がったような錯覚に包まれる。

 

「……馬鹿な。貴様は、死んだはずだ……あのサーヴァントとの融合も、不完全だったはず……!」

 

 あたり一帯の空間が歪む。

 魔力のうねりが天井を焼き、床を振動させる。

 

 それは奇跡というにはあまりにも美しく、あまりに出来すぎていた。

 神様が書いたストーリーのように、誰かが願ったものを実現させた、そんな幻のような現実と思えた。

 

 死んだはずの少女が起き上がり、敵へと毅然に立ち向かう。

 

 その少女の背中はとてもきれいで、とても可憐で、とても凛としていた。

 そんな少女の背中を、もう二度と見れないと思っていたからこそ、藤丸立香は呆然と声を出してしまう。

 

「マ、シュ……?」

 

「問わせてください――先輩」

 

 そう言った少女は、立香へと振り返る。

 

「あなたが、私のマスターですね」

 

 そう言った少女の顔を、立香は一生、忘れないだろうと思えた。




FGO10周年おめでとーーーーーー!!
このために間に合わせた感じがあるっ!!
終章もきまったことですし、このまま盛り上がっていきたい!



ということで。あと、すこし、あとすこしだけつづくぞ…!


この話、というか、この小説は半分くらい
問おう、あなたが私のマスターかをマシュバージョンで言わせたかったからできています…!
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