藤丸立香は死に戻る 作:ららら
「——以上で説明会を終わります。これから30分後、BからDチームはコフィンの個人登録を行います。それまで各自、こちらで設けた待機室で休んでいなさい」
長い説明会も終わり、立香は凝り固まった体をほぐすために一度背伸びした。
ここからが立香の本当の課題である。どうやって所長に爆発事故について言うか。先程のように考えもなしに話しかければ、きっと適当に扱われて終わりだろう。何かしらの策を用いて話し合いに臨まなければいけない。
「て、言っても何も思いつかないんだけどなぁ……」
人が居なくなった管制室で、今も光が段々と消滅しているカルデアスを眺めながら呟く。
やはり全てを馬鹿正直に言ったほうが、所長には伝わるのではないかと錯覚してしまう。変に遠回しで言っても、煙たがられる未来しか見えてこない。それよりも、正々堂々と感情を剥き出しにして伝えれば、多少は温情を貰えるではないだろうか?
しかし、どれもこれも確証が無いため、全ては立香の推論で幕を閉じた。
「とりあえず会ってから軽く話して、隙を見て相談してみよう。話が完全に通じない人なんていないはずだし」
そう言いながらも内心では冷や汗をかいている。あの所長は少し排他的な考えを持っているように見受けられたからだ。組織のパンフレットにも所長のプロフィールは載っていなかったくらい慎重な女性。その彼女を屈服させるだけのトークスキルが、自分にはあると立香は到底思えなかった。
なので、とりあえず世間話から始めることにする。
例えばこの組織に着任してからの苦労話だとか、やりがいだとか。
そうやって距離を縮めてから本題を切り出そう。全ては時間との勝負だ。
「って、今更だけど所長はどこに向かったんだろ」
考え事に夢中になりすぎて、すっかり所長の後を追うのを忘れていたのに気が付く。ぱっ、と辺りを見渡しても誰もいない。全員、待機室に移動してしまったらしい。これでは所長に話を聞いてもらうもなにも無い。
「どうかしたのかい?」
そんな時だった。後ろから声がかけられる。
振り向くと、そこには緑の制服を来た壮年の男性がノートパソコンと思われる端末を持って立っていた。
「えっと、あなたは……」
「ああ、これはすまない。自己紹介がまだだった」
そう言って差し出される手。
「俺はダストン。ここで技師をやっている者だ。よろしく」
朗らかに笑いながらダストンは握手を求める。立香はそれを見て、悪い人じゃなさそうだと思い、「藤丸立香です」と言いながらそれを握り返した。すると握手されたダストンは、そんな反応が嬉しかったのか少し笑みを深める。
「説明会を聞いていたよ。君はどうも魔術師っぽくないね」
そう言われた立香は思わず苦笑した。
「実は俺、一般枠なんですよ」
「え? 藤丸候補生は魔術師じゃないのかい?」
「あははは……ここに入る時にシミュレーションをやったくらいで訓練もしてないですし、完全に素人です」
立香のそのセリフにとても驚いたのか、ダストンは目を丸くする。特務機関のカルデアが、一般人を起用していることに信じられないのだろう。キャリアとか、実力とかが全てを決める超実力志向の機関である。立香が入れた要因は、その稀有な才能だけでしかない。
「そうか道理で……。だったら、ここは魔術師上がりのスタッフが多いから気苦労もあると思う。これも一般人出身のよしみだ。何か困ったことがあったらいつでも相談してほしい」
「ありがとうございます」
親切そうなその態度に思わず立香の顔も笑顔になった。
ダストンと言う人間はドクター・ロマンとは違った意味で、とても親しみやすそうな人柄をしている。この人も未来の爆発事故に巻き込まれるのだろうか? そんな考えが過ぎってしまうと、立香は途端に嫌な気持ちになった。
(絶対にこの人も助けなきゃ)
その覚悟だけが、立香の中で強まっていく。
「あのダストンさん」
「ん? 何かな」
「所長がどこに行ったか分かりませんか?」
立香の質問に応えるためなのか、ダストンは「そうだな……」と呟きながらパソコンを操作し始めた。技師の役職だけのことはあり、彼の操作スピードは尋常じゃなく早い。
やがて30秒も掛からないうちに、目的のものを見つけられたのか、ダストンは手の動きを止めて、画面を立香へと覗かせる。そこに映し出されていたのは、各部屋への入出ログであった。
「1分前に所長室に戻っているね。多分だがファーストミッションに向けての準備でもしてるんだろうさ」
「所長室、ですか」
「ああ、場所ならここを出て突き当たりを右に曲がったところにあるよ。部屋のプレートに『所長室』って書いてあるから、行けばすぐに分かるはずだ」
そう言ってパソコンを閉じるダストンは、出入り口の方を指差す。
「悪いけど、俺はこれからコフィンの最終調整を任せられているんだ。なんの用事があるかは知らないが、所長には気をつけろよ」
ダストンは苦笑いを浮かべてそう言った。
気をつけろよ、とはどういう事なのか。
考えてみた結果、多分あの所長の気難しさのことを言っているのだろうと思った。説明会の時は落ち着いて話していたが、時々、すぐに怒鳴ったりしていたし。長い間、就任しているとダストンのように思うところが出てくるのだろう。
「まあ、怒らせないように気をつけます」
「それが良い。所長の怒りボルテージはどこで上がるか分からないからね」
実体験に基づいた忠告はなんとも身に沁みる。カルデアという組織の人間関係が、少しだけ不安になってきた立香であった。
「それじゃ、ありがとうございます!」
ダストンにお礼の言葉を言い、立香はそのまま管制室を出る。所長室は突き当たりを右と教えてもらったので、その通りに足を進めた。
道中、隠しきれない激情が立香を駆り立てる。興奮とは違う、体の芯から湧き上がる震え。心臓は高鳴り、拍動の速さも尋常ではない。いつもは感じることのない全身を血が巡る感覚が、顕著に立香へ語りかける。
そうして誰ともすれ違うことなく所長室前にたどり着いてみれば、手足が重くなっているのに気がついた。口内は無性に乾いている。これが緊張というものなのだろうか。生まれてこの方、感じたことのない身体の現象に思わず立香は思わず長い息を吐いた。
——失敗するわけにはいかない
思わず息を呑んで、立香の脳裏を思い出したくない光景が過ぎる。
冷たくなった彼女の手。燃え盛る崩壊した管制室。最終的には自身にも降り注ごうとした瓦礫が、目に焼き付いて離れない。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫……! 絶対に失敗しない! 分かってもらえるはずだ……!」
頭を激しく揺らしながら、自分にそう言い聞かす。そうして己を奮い立たせれば、意を決して前を向き扉の前に立った。
カルデアの建物は全て自動扉のはずなのだが、何故か所長室の扉は開かなかった。何かのセンサーに反応しなかったのかと思い、位置をずらしてみるも開かない。
立香は震えた手で、扉を仕方なしにノックする。そもそもこんな近未来的な施設でノックなどしても内側に聞こえるのかは疑問だった。しかしそれでも立香は自身の使命感に囚われたまま声を上げる。
「所長、いますか」
1秒。2秒。3秒……。
静けさに堪えながら待ってみるが、扉が開かれることはない。ダストンに教えてもらったことが間違いだったのか、それとも聞こえていないだけなのか。
立香は後者であることを願い、さらに強く扉を叩き、声をあげる。
「所長……! 話があるんです、ここを開けてください」
ここで話ができなければ、もう打つ手などない。
また爆発事故が起きて多くの命を失ってしまう。
藁にもすがる思いで、立香は扉が壊れんばかりに拳をぶつける。あまりの激情に、頑強な扉ではなく立香の手が赤く染まり始めた。
そんな時になって、
「——ああ、もうやかましいわね! ゆっくり着替えも出来ないじゃない!!」
目の前の扉が右から左へと勢いよく開いた。それと同時、叩くものを失った立香は前のめりに倒れそうになる。しかし、それは危ないと本能が察知したのか、どこから吹き出したかも分からない力で、立香はグッと体勢を元に戻した。
そのまま立香は視線を眼前へと戻してみる。瞳の中に映ったのは、開かれた入り口前で顔を真っ赤にさせた所長の睨み顔だった。
「って、またアナタ? 今度はなに! そんなに私の邪魔をして楽しいの!?」
すさまじい勢いで所長は距離を詰め、その端正な顔つきで立香を問い詰める。
まさか出てきた瞬間から怒りのボルテージが振り切っているとは。ダストンに忠告されていた立香としては、なんとも言えない気持ちになる。
これからどうやって、落ち着いて会話をしよう。
立香はそれだけを脳内で検討するが、何を言っても怒鳴り声で返されそうで苦笑いを浮かべる。
「と、とりあえず、所長隠してください」
そう言って視線を上へと上げた立香。
所長は何を言っているのか分からず、ゆっくりと己の格好に目線をやる。そこには、なんとも可愛らしいピンクの下着と、黒の特注ブレスレットだけを付けた己の裸体が存在した。
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頬に五発ほどのパンチをお見舞いされた立香は、所長室へとようやく招き入れられた。
入り口から入ってすぐの応接スペース、そこに備え付けられた黒革の固定ソファに座り、居心地悪く尻の位置を直す。また頬にはじんじんといまだに痛みが伴っており、目の前の所長も怒りが収まっていないのか、心なしか怒髪天の形相に見えた。
「で、話とはなんですか。くだらないことだったら本気で殺すわよ」
「下着姿に関しては、俺じゃなくて所長が悪いと思うんですけど……」
「あ”ぁ?」
「いえ、拙僧が全て悪かったです!」
(ちくしょう。これが社会か!?)
対面のソファに座する所長の圧に負け、立香は心にもない謝罪を口にした。
それで少しは満足したのか、所長はさらっと己の肩に掛かった銀髪を払い、すっと奥の機械を見る。
「……ねえ、アナタ。コーヒー淹れられる?」
「え? どうしたんですか急に」
「淹れられるなら淹れてくれないかしら。そこに最新のコーヒーメーカーっていうのがあるから」
そう言って所長は、次にカップや水、さらにコーヒー豆が置かれた場所を指さす。
お願いのようで命令にしか聞こえないため、立香は黙って所長のためにコーヒーを淹れることにした。
コーヒーメーカーに近寄って電源を入れれば、注入口から熱いお湯が出る。
「えーと、お好みありますか? アイスがいいとか、ホットがいいとか」
「こんな寒いところでアイスなんて飲むわけないでしょ。ホットコーヒーにして。あと味は濃いめ」
くるくると襟足から流れる銀髪を指で弄りながら答える所長。
濃いめの味にするためには、確か挽き方を細くすればいいんだったよな、と思い出しながらコーヒー豆を図で指定された場所に入れ、ダイアルを「極細」に合わせる。
コーヒーメーカーの駆動音を聞きながら、立香はふと所長室を見渡した。
見た感じ、簡素な部屋という印象が強い。私物と思われるものはほとんど無く、棚には小難しそうな本が乱雑に入れられている。
そんな立香の視線に気付いたのか、座っている所長は意味ありげに目を細めた。
「なによ、ジロジロと見て。今日はたまたま礼装の着替えをしていただけで、別にここは私のプライベートルームじゃないわよ」
「そうなんですか?」
「当たり前じゃない。ここで寝泊まりしていたら身が持たないわよ」
所長の言葉に内心頷きながら、立香は水とフィルタをセッティングする。あとはコーヒーメーカーのメニューから、コーヒーの量と温度を選んでやれば放置するだけ。
ようやく作業にひと段落ついた立香は、コーヒーができるまでの間、再びソファに座り直して所長と目を合わせた。
「所長、本題の前に少し聞いてもいいですか」
「なによ」
立香の言葉に所長の片眉が上がる。
これを言えば、また怒鳴られるかもしれないけど、一応、確認はしておかなければならい。
「レイシフトをすることで、本当に未来は変わりますか?」
もし、もしこれで未来が変わらないのだとしたら。それはあの惨劇を繰り返すことの裏付けでしかない。
確かに立香は、最初とは違う行動をしている。その時点で、小さく未来に変化をもたらしていると言えるだろう。
しかし大きく変わったところなど、今のところほとんどない。説明会中に所長には怒られているし、マシュには先輩と呼ばれた。変化があるのだとすれば、それは微々たるものでしかない。
立香の視線を受け、所長はしばし眉間を揉むと、ふぅと小さな息を漏らす。
「何を言い出すかと思えば、アナタ説明会の時もレイシフトについて聞いていたわね……。良い? 特異点に限れば確実に変わると言えるわ。いえ、正確には元に戻る、かしら。もともと存在しなかった汚れを掃除するようなものよ。今回の2004年の特異点で言えば、過去と未来から独立した存在とも言えるもの。本来ありえないモノなんだから、当たり前よね」
呆れた質問に心底嫌気が差したのか、所長は「聞きたいことは、それだけ? 素人魔術師」と立香を蔑む。正確には素人魔術師以下なのだが、前回とは違いI Dも見せていないので、立香が一般人協力者ということを所長は知らない。
だが、立香が聞きたいのはそういうことでは無かった。説明会の時も、本当に聞きたかったのはそれではない。
いま所長が話しているのは特異点にレイシフトする場合の話である。つまり、数時間前にレイシフトするのとは訳が違うことになる。そのため立香は違う形での質問で切り込んだ。
「なら、今から1時間前にここへレイシフトした場合はどうなりますか?」
「1時間前? 特異点でもないカルデアに?」
そう言って、所長は下顎に手を当てて考え込んだ。
「そもそもレイシフト自体が出来ない可能性があるわね。特異点だから通常の時間旅行より安定してシフトできるし、どのように改変しても時間の復元力に影響されないもの。というより、世界の修正力に後押しされると言っても過言じゃないわ。それをただの過去改変のために使うとなると……」
所長はそこまで言って、言葉を止める。何か思いついたような顔をしているが、すぐさま頭を左右に振って誤魔化した。
「いいえ、なんでもないわ。無理よ、無理! そんなことできないと思いなさい」
少し血の気が引いたように思える所長の顔は、まさに恐怖している顔だ。これ以上、立香が問い詰めても答えてはくれなさそうに見えた。
そのため立香は「そうですか」とだけ言って、ソファの背もたれに体を預ける。レイシフトが出来ないと所長は言ったが、現に立香は出来ているため、何かしらの方法はあるのだと思うことにした。
そこまで話すと、後ろでカチャリと音が聞こえる。振り向いてみれば、コーヒーメーカーが出来上がったのを知らせてくれたらしい。
ちょうど話の腰も折れたことだし、立香は気分転換がてらに出来上がったコーヒーを所長に淹れてやる。その淹れたコーヒーを所長は受け取ると、小さく一口飲んで、
「それで、そろそろ話の本題に入ってもらっていいかしら」
そう急かすように立香の瞳を睨んだ。
(とうとう来たか、俺がここに来たわけを話す時が……)
立香にとって、今回の爆破について話しても信頼してもらえる自信はあるかと聞かれたら、それは断じて否である。結局、所長の信頼を勝ち得ることは立香には無理だった。たった十分程度しか話していないのだ。そこで信頼関係もクソもない。
しかし、それでもやらなければいけないことを立香は理解できていた。
爆破事件を未然に防ぐこと。そして、多くの人の命を助けること。
これがどのような結果を齎すのか分からないが、それでも今できるだけのことを必死にやり遂げるため、立香は話を切り出す。
「所長、落ち着いて聞いて欲しいんですけど」
緊張感が張り詰める。言葉の一言一言が非常に遅く感じた。
それでも立香の口は止まらない。失敗が許されないこの状況で、彼は必死に誠意を込めて言葉を紡ぐ。
「今日……ファーストオーダー開始直前、ここが爆破されます」
「——はあ?」
立香の言葉を聞いた瞬間、所長の顔が蒼白へと塗りつぶされた。
「信じられないかもしれませんが事実です。中央管制室が爆破されて、多くのカルデアスタッフが死にます……」
そう言いながら立香の拳には自然と力が入った。
今、立香の頭で再生されているのは、自分を先輩と慕ってくれる一人の女の子の死に体。死の間際まで他人のことを気にかけていた、あの優しい少女の最期である。
そのシーンを思い返すだけで、立香の体は震えが止まらなくなった。額からは脂汗が滲み、呼吸も動悸も荒くなる。
爆破されたら最後、あの場にいなかった人間以外、ほとんどが死に絶えるだろう。当然、目の前に座っている所長だって無事なはずがない。説明会に参加していたおよそ四十人もの人間が死んでしまうかもしれないのだ。
それを回避するためにも、立香は自然と言葉を強めて、
「だから今回のファーストオーダーを中止したい。お願いです……危険がないと分かるまで、中央官制室への立ち入りを封鎖してください!」
テーブルに額を擦りつけるように、頭を下げるのだった。
だが、現実とは無慈悲である。
「無理よ……」
頭を下げている立香の真正面。そこに座する所長は声を荒げて、発言を繰り返す。
「無理に決まっているでしょ、そんなこと! 突然、部屋に訪れて管制室が爆破される!? そして、多くのカルデアのスタッフが死ぬですって!? 新参者のアナタの言葉をどう信じろっていうのよ!!」
怒りのあまり、所長は手に持っていたコーヒーカップを立香へと投げ当てた。
彼女の言うことも当然だ。今日、新任してきたばかりの素人に、カルデアが爆破されるなんて縁起でもないことを聞かされれば、誰だって怒る。
しかも、立香には信じてもらうための材料があまりにも少なすぎた。手元にあるのは、タイムスリップしてきたと言う自身の記憶のみ。犯人が誰かもわからなければ、動機だって分からない。あれだけ広い中央官制室のどこに爆発物が仕込まれたのか、そんなの聞かれたって立香には答えられないのだ。
「お願いします……信じてください」
だから立香は頭を下げて懇願することしかできなかった。たとえコーヒーカップを投げつけられようと、熱い液体が体に掛かろうと、彼はそれでも頭を下げるしか無いのである。
しかしそれを見た所長は、さらに憤怒に駆られる。
「信じてくださいって……。これは冠位指定、魔術世界に置いて最大級の義務と同じなのよ! それを証拠も出さない、犯人も分からない、それでも自分を信じてって!? まずは物的証拠を提示するのが筋でしょ!」
「証拠はありません……それでも信じてください」
「この……!!」
そうやって振り上げられる所長の拳。
しかしそれは振り下ろされることはなく、やがて彼女は諦めたようにポツリと言葉を漏らした。
「……そこまでファーストオーダーに参加したくないなら、しなくていいわ。別に人員は足りてるもの……。アナタみたいな組織の輪を乱すだけの存在なんて、
その言葉はまるで死刑宣告のようだった。
断頭台に送られる死刑囚のような気持ちでもある。
結局のところ、立香は説得に失敗し、さらには最初と同じく、ファーストオーダーからも外された。誰かを救うために頑張ろうとしたはずなのに、結局は誰も救えずに終わる。
さっき所長が言っていた通り、特異点でもない過去は時間の修復力によって揉み消されるのがオチなのだろうか。
だったら何のために自分は数時間前の過去に送られ、何のために今こうして身を張っているのか。
全てが分からなくなってしまうほど、立香の頭の中は真っ白で、真っ暗だ。
けれど———、
「ただ……アナタの言葉を信じるわけじゃ無いけど、ほんの少しだけ、本当に一抹の不安を覚えるのも確かよ。何かしらの危険性が孕んでいないか考慮し、極秘にレフへ不審なものが無いか調べてもらうわ」
腕を組み、やけに偉ぶった態度で所長はそう告げる。
それを聞いた立香は咄嗟に下げていた顔を持ち上げた。
「そ、それって」
「勘違いしないで。私はやるからには完璧がいいの。ファーストオーダーを完遂するために、やれることはやっておくだけよ」
「っ、ありがとうございます!!」
どうやら立香の行動は確かに小さな実りを生むことはできたらしい。彼が必死に懇願することで、何かしらの不安要素を覚えた所長を動かすことができた。
そのため立香は、心なしか身体が震えてしまう。
もうダメかと思ったが、まだ希望は残っていることに歓喜した。
爆破物が見つかれば、きっとファーストオーダーも中止になる。その事実が堪らなく彼を喜ばせたのだ。ある一点の見落としがあることにも気付かずに。
やっぱりこの時期の所長はレフなんですよ
どこまで言っても、レフレフレフレフレフ……
全ての結末を知っている皆からすれば、これがどういうことなのか分かるでしょ?