英雄に憧れる少年の英雄譚   作:葉振藩

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はじめてのたたかい

 【槍海商都(そうかいしょうと)】のあちこちには、「闘技場」が存在する。

 

 武法士であれば、何かのキッカケで揉め事となり、それを解決すべく闘うことが必ずある。

 

 しかしこんなに栄えた都の中で争っていては他の人々に迷惑がかかってしまう。

 

 だからこそ、闘うならその闘技場の中で決着をつけることが決まりとなっている。

 

 ……決まりと言っても不文律だが。

 

 闘技場とは言っても、大掛かりなものはこの都の中央にある巨大闘技場【尚武環(しょうぶかん)】のみで、それ以外の闘技場は円い土晒しの地面の周囲に石の囲いを施した程度の簡素な作りである。

 

 中天に差しかかりつつある太陽が見守る下、街のいたるところにある小さな闘技場のうちの一ヶ所。

 

 その中では、一組の少年少女が向かい合っていた。

 

 リンフーの目の前には同い年か、あるいは一、二歳ほど上くらいの少女が立っていた。

 

 華やかながらも愛嬌のある顔立ちに、右側頭部で結んで垂らされた薄茶の髪。

 

 シンフォほどではないが結構な膨らみを見せる上衣は、道場の白い稽古着。その裾から下は、健康的な素肌をさらした美しい足が伸びていた。

 

 まさか何も穿いてないのかと一瞬焦った。だが稽古着の裾の下にあるとても短い穿き物がチラリと見え、リンフーはひとまずホッとした。

 

「わたし、宋璆星(ソン・チウシン)っていうの! あなたは?」

 

「ボ、ボクは汪璘虎(ワン・リンフー)……よろしく頼む」

 

「リンフー……良い名前だね! よろしくっ!」

 

 ニコニコと元気よく自己紹介を済ませた少女——チウシンは、手を差し出してきた。

 

「よ、よろしく……」

 

 リンフーは緊張を残しながらおずおず頷き返す。

 

 この都に来た以上覚悟はしていたが、やはり初めての実戦なので、緊張もする。

 

 少年少女が握手を交わす闘技場の外周部では、比武の匂いにつられてやってきた人集りと、そしてシンフォとユァンフイが見守っていた。片や面白そうに笑みを浮かべ、片や厳粛な顔つきで。

 

「……チウシン、普段より少し本気を出すんだ。そうでなくては、試す意味がない」

 

「はい、お父さん!」

 

 チウシンは元気よく返事した。

 

 そう、目の前にいるこの元気少女は、【無影脚(むえいきゃく)】ユァンフイの一人娘なのだ。

 

 どうやったらあの厳つい父からあんな綺麗な娘が出来上がるんだ、という疑問はとりあえず置いておき、気を引き締めるリンフー。

 

 彼女は、リンフーの力を試すために用意された相手だ。

 

 年が近いと思って安心したのはほんの一瞬。

 

 チウシンを一目見た瞬間、リンフーの胸の内に二つの問題が生じてしまった。

 

 一つは、何度も言うが、その名高き【無影脚】の娘であるという事実。

 

 凄腕の達人が親にいるという、リンフーからすれば大変羨ましい生まれ育ちだ。しかも一人っ子。

 

 であれば、いずれ流派を背負って立つ後継者として、小さい頃から特別な教育を受けている可能性が高い。

 

 つまり、めちゃくちゃ強いかもしれないということだ。

 

 もう一つは、相手が「女の子」だという事実。

 

 男勝りな母親から「男とはかくあるべき」という趣旨の教育の一つとして、「女は守るものである」というものがあった。

 

 今の状況は、そんな母の教えを踏みにじることに繋がるのではないだろうか。

 

「どうしよう……」

 

 リンフーは一人呟く。だが、嘆いていても時間は容赦無く進む。

 

「それじゃあ、始めようか。では両者、名乗りを上げて!」

 

 シンフォの張り上げられた言葉に従い、二人は右拳左掌の抱拳をしながら互いに名乗りを上げた。

 

「【六合刮脚(りくごうかっきゃく)】、宋璆星(ソン・チウシン)!」

 

「て、【天鼓拳(てんこけん)】、汪璘虎(ワン・リンフー)……」

 

 試合が始まる。

 

 次の瞬間、遠くにあったチウシンの姿が、視界の八割を埋め尽くした。

 

「うおぁ!?」

 

 刀の一薙ぎのごとき鋭い回し蹴りを、リンフーは体を仰け反らせて避けた。

 

 しかし、それは【天鼓拳】における「正しい動き」ではなかった。不正な動きをした代償に、重心の安定を崩して尻餅を突く。

 

 蹴りを外してもなお、チウシンは止まらない。

 

 迅速に軸足を踏み換え、素早い回転力を維持したまま振り向きざまに踵を叩き込んだ。

 

 かろうじて反応が間に合い、両掌で踵を受け止めたリンフーだが、

 

「っ痛ぅっ……!」

 

 その細足から、まるで巨人の振るう鉄槌に殴られたような衝撃が全身を突き抜ける。

 

 骨が軋み、体が吹っ飛び、壁に肩口からぶつかる。

 

 瞬く間に受けた二種類の痛みで体が強張る。

 

 蹴っ飛ばされるのがこんなに痛いなんて。

 

 リンフーは初めてやる対人戦の苛烈さを早速思い知っていた。

 

 しかし、すでに始まってしまった試合だ。

 

 リンフーは渾身の気合いで痛覚を誤魔化し、素早く立ち上がる。

 

 前を見る。すでにチウシンが目前まで近づいていた。

 

 チウシンの大きな胸がリンフーから見て左へ揺れたと思った瞬間には、すでに踵が矢の如く突き進んでいた。

 

 当たれば腹から背中へ突き抜けそうなほどの圧力が感じられた。おまけに、蹴り伸ばす過程がほとんど見えないくらいに速い。

 

 ——けれど、「知覚」は出来ている。

 

 美脚の形をした剛槍が、リンフーの腹から背中へ貫通した。

 

 だが、それは霞のごとく残った残像だった。

 

 蹴りがその残像に触れた時には、すでにリンフーはチウシンの横合いを取っていた。

 

 【游雲踪(ゆううんそう)】——「最速の一歩」を踏み出す、【天鼓拳】の基本歩法。

 

 人間は一歩前へ足を踏み出す時、足しか動いていないように見えて、実は体の内側でたくさんの「無駄な動き」を行なっている。

 

 そのため、たった一歩進む動作のために、実際は何拍子もの無駄な時間を費やしている。

 

 その「無駄な動き」を極限まで減らし、発生する拍子を大幅に短縮させることで「最速の一歩」を踏み出す歩法。それが【游雲踪】。

 

 「知覚」さえ出来ていれば、たとえ薄皮一枚の距離まで迫っている矢でさえも「最速の一歩」で回避が間に合う。

 

 さらにそのまま相手の死角に入り込み、【天鼓拳】の持ち味である強大な術力を叩き込む一瞬の好機を得る。……今、この瞬間のように。

 

 しかし、リンフーはその「一瞬」を、躊躇に費やしてしまった。

 

 女だから。

 

 女を殴ろうとしているのだと考えた瞬間、体が固まってしまった。

 

 たった「一瞬」だが、それは限りなく致命的な「一瞬」であった。

 

「ぐはっ!?」

 

 一瞬息が止まるほどの重々しい衝撃を腹に受ける。チウシンに蹴られたのだ。

 

 今度はまともに食らってしまい、リンフーの体が紙屑同然に飛ぶ。壁に背中からぶつかる。

 

「けほっ、かはっ、ごほっごほっ……!」

 

 遅れて痛みがやってくる。喘息のように何度も咳き込んだ。

 

 そんなリンフーに、チウシンは歩み寄った。

 

 加速ではなく、悠然な歩調で。

 

「「優しい人」だね、あなたは」

 

 少し怒った顔をしていた。

 

「人間的には、とても好ましく思う。でもね、武法士としては、ちょっとどうかと思う。……女の子だから、わたしを殴れない? もしわたしに殺意があっても、あなたはそうやって攻撃しないつもりなの? わたしが真剣にあなたと手合わせしたいって思っていても、あなたはその思いに応えてくれないの?」

 

 リンフーはハッとした。咳もピタリと止まる。

 

 ——自分は、何と無礼な真似をしていたのだろう。

 

 武法の英傑の中には、女性も少なくない。

 

 だが彼女達は、周りの男性武法士から手加減されていたから英傑になれたのか? ……否だ。

 

 武法は筋力ではなく、【術力(じゅつりき)】で戦う武術。

 

 筋力は男女差があるが、術力にはその差が無い。努力次第で誰でも強くなれる。

 

 男女の違いは勝敗の理由にならない。

 

 今、女の子だからといって手心を加えるのは、真摯に武を高めてきた彼女と、その武への、この上なき「侮辱」。

 

 リンフーは自分の両頬を両手で張り、ゆっくりと立ち上がった。

 

 呼吸を整え、真っ直ぐにチウシンを見据えた。

 

「……すまん、ボクが間違ってた」

 

 チウシンは、元の愛嬌のある笑みを浮かべてくれた。

 

「これからはマジだからな」

 

 笑みのまま頷き、再び臨戦態勢を取る蹴り使いの少女。

 

 リンフーは相手の出方を待つ。

 

 試合に対する心構えは、これで整った。

 

 あとは、自分が四年間愚直に鍛え続けてきた武法を信じて戦うのみ。

 

 確かに彼女は、優れた師匠から、優れた教育を受けたのかも知れない。

 

 けれど、自分も四年間、懸命に修行したのだ。

 

 【天鼓拳】の戦い方を思い出せ。自分は一体、何を教わった? その教えを信じろ。信じて戦え。負ける想像をするな。

 

 やがてチウシンが、豪然と回し蹴りを繰り出す。

 

 その蹴りが首を刈り取るまさにその刹那、リンフーの姿が消失した。大刀の一振りのごとき回し蹴りは、代わりに煙のような残像を斬ることになった。【游雲踪】である。

 

 チウシンは即座に背後に「存在」を察知するや、

 

「そこっ!」

 

 蹴り足を踏み換え、迷わずそこへ突き刺すように靴裏で蹴り込んだ。

 

 しかし、またもリンフーには当たらなかった。煙のような残像の腹を穿ったと思った瞬間には、女顔の美少年の立ち位置が懐深くまで潜り込んでいた。

 

 衝突。

 

「はぐっ——————!」

 

 それはまるで、城郭が猛烈な勢いで滑り込んできたかのような圧力だった。

 

 軸足を柔らかくしならせて衝撃を大地へ逃す脚法【黐脚(ちきゃく)】を使わなければ、その圧力で勝敗は決していたかも知れない。

 

 されども勢いを殺しきることは叶わず、チウシンの体が大きく弾き飛ばされた。

 

 土晒しの地面を靴で削って勢いをねじ伏せたチウシンは、リンフーを見た。右肩を先んじて深く踏み込んだその体勢は、明らかに体当たりだった。

 

 【天鼓拳】の技法……【硬貼(こうてん)】。

 

 小さな少年が肩を突き出すその姿は一見頼りなさげに思えるが、そこに込められた術力が重々しいことは先ほど身をもって体験した。

 

「……すごいね。こんなすごい術力、かなり久しぶりかも。おまけに避けるのも死角を取るのも上手」

 

「そりゃどうも」

 

 互いに不敵に笑い合う。

 

 【天鼓拳】の技術的特徴は二つ。

 

 「強大な術力」と「攻撃を必ず当てるための歩法」。

 

 あらゆる攻撃を【游雲踪】で避けつつ、自分が最も攻撃を当てやすい位置へ移動し、重い術力を叩き込んで打倒する。

 

 それこそが【天鼓拳】の基本戦術だ。

 

 チウシンが再び肉薄する。

 

 そのまま真っ直ぐ攻めると見て、リンフーは矢のごとく身を進めての正拳突き【頂陽針(ちょうようしん)】で迎え撃とうとするが、直撃寸前でチウシンが急旋回。

 

 重厚な術力のこもったリンフーの拳は空気を穿ち、チウシンは踊るようにして背後へ回り込んだ。

 

 リンフーは迅速に【鋼】を背中に施した。

 

 次の瞬間にやってきた回し蹴りを、不可視の鎧に守られた背中で受け止めた。痛みは無いが、ビリビリとした衝撃は全身で感じる。

 

 鋭く背後を向くが、そこにチウシンの姿は無い。

 

 また背後へ回り込んだのだと分かったのとほぼ同時に、撞木で衝かれたような衝突感が背中に浴びせられた。

 

「ぐっっ!?」

 

 【鋼】を解いていたので当然めちゃくちゃ痛い。

 

 痛みを無視してまた振り向くが、またもチウシンの姿がない——と思った瞬間に背中へ衝撃と痛覚。

 

 チウシンは今、死角に回り込んで蹴りを入れるという戦術を取っていた。

 

 【游雲踪】の弱点、それは……目で知覚出来なければいつ当たるか分からないこと。

 

 見えない位置に相手がいると、いつ、どの時機(タイミング)で蹴りが来るのか、見て判断できない。

 

 いかに「最速の一歩」を持っていても、見えて知覚できていない攻撃は避けようがない。熟練の武法士ならば正確な先読みも可能だろうが、今のリンフーにそこまでの技量はなかった。

 

 【聴】ならば目を使わずとも攻撃軌道を知覚できるだろうが、あれは使用するために高い集中力を要する。この猛攻の中で集中なんて無理だ。

 

 チウシンは戦いの中で、そんな現在のリンフーの欠点をなんとなく察していた。だからこそ、その弱点を積極的に狙いにかかっている。

 

 ここに来て、戦闘経験の差が出てしまっていた。

 

 これを覆すには、自分の持っている技を上手に使うしかない。

 

 リンフーは四年に及ぶシンフォとの共同生活の中で、技の特性を良く活かした戦い方を教わっていた。

 

 周囲にまとわりつかれるなら、弾きとばせばいい。

 

 一瞬の静寂を挟んでから、リンフーは足先から手先までを一気に捻り込んだ。

 

「はぁっ!!」

 

 五体で螺旋を描きながらの正拳突き。

 

 鋭く突き出された拳は虚空を突くのみであったが、全身を猛烈な螺旋の力場が包み込んだ。

 

 その力場にシンフォの蹴りが触れた途端、さながら回転する独楽にぶつかった小石のごとく弾かれた。

 

 【纏渦(てんか)】。強力な渦状の術力を身にまといながら敵を打つ、攻防一体の技。

 

「っ……!」

 

 蹴り足を弾かれた勢いでチウシンは重心を崩す。両足が浮き上がった「死に体」と化した。

 

 リンフーは即座に振り向いて攻撃しようとするが、宙に浮いた状態のチウシンはそれをさせまいと苦し紛れの前蹴りを振ってリンフーの接近を妨害。それによって一瞬できた猶予を使って後退。彼我の距離を広げようとこころみる。

 

 だがリンフーはなおも食らいつく。相手との距離を再び潰し、【頂陽針】で追い討ちを狙う。

 

「なんのっ!」

 

 着地したチウシンも、拳を先にして急迫してきたリンフーへ負けじと回し蹴りで迎え撃ちにかかった。

 

 拳と脚がそれぞれの目標へとぶつかるまで、薄皮一枚の距離へと達した瞬間、

 

 

 

「——それまでっっ!!」

 

 

 

 地をビリッと震わせるほどの一声。

 

 ピタリと止まる拳と脚。

 

 声の主は、ユァンフイだった。

 

「……二人とも、よく戦った。もうそこまででいい」

 

 先ほどより穏やかなその声を聞いて、両名はともに拳脚を納めた。

 

 ユァンフイは歩み寄り、その大きな両手で二人の肩をそっと叩いた。融和を無言で促していた。

 

 リンフーはおずおずと言った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「こちらこそ! すごいねリンフー、今日が初めての実戦とは思えないよ! 才能あるんじゃないかなっ?」

 

「へっ? いや、そうかな……」

 

 ずいっと顔を近づけて称賛を送るチウシンに、リンフーはほんのり顔を赤くして目を逸らした。

 

 シンフォは意地悪そうなニヤニヤ顔で寄ってきた。

 

「どうしたどうしたぁ? もしかして惚れちゃったかぁ?」

 

「惚れっ……な、何言ってんだよっ!? 違うからなっ!? ただ単に褒められたことが照れくさかっただけだからなっ!? ていうか酒臭っ! いつの間に酒買ってんだよっ!?」

 

 さらに真っ赤な顔で抗議するリンフーを、シンフォは笑いながら受け流す。その手にはいつの間に買ったのか、酒瓶が握られていた。

 

 それからシンフォはすぐにユァンフイへと向き、挑むような微笑を見せた。

 

「で? 【無影脚】殿のお眼鏡に叶う試合だったかな? 私は身贔屓を抜きにしても、なかなか良い試合だと思ったけどなぁ」

 

「……そうだな。俺も良き試合だと思った。娘も言っていたが、初めての実戦でここまで戦えるのは、なかなかに見込みがある。道筋を間違えずに精進し続ければ、立派な武法士になれると思う」

 

 有名な豪傑に褒め言葉を頂き、リンフーの頬がまたも赤く熱を持つ。

 

「……分かった。お前達の条件を呑もう。家賃は四〇〇綺鉄、及び我々への無償治療。これで良かったのだな?」

 

「おうとも! 気前が良くて助かるよ。さすがは【無影脚】と呼ばれた英雄好漢だ」

 

 シンフォは親指を立ててにぱっと笑った。

 

 住まいが決まって師弟揃って笑顔を交わしていると、不意にユァンフイが歩み寄ってきた。

 

 その大柄な体をかがませ、小柄なリンフーと同じ目線に合わせた。

 

 リンフーは何事かと目を見張った。

 

 ユァンフイはそんな少年の目を真っ直ぐ見つめていた。そこら辺のゴロツキが裸足で逃げ出しそうなほど鋭い彼の眼差しの隙間から、おもんばかるような光を垣間見た。

 

「……坊や。君は、英雄になりたいのか」

 

 脈絡のない問いにきょとんとしてから、リンフーは強く笑い、強く首肯した。

 

「はい! なりたいです! 大陸の誰もが知っているような、強く、勇ましい武法士に!」

 

「……そうか」

 

 ユァンフイは瞑目してから言った。

 

「……ならば、これだけは忘れてはならない。本物の英雄がいるのだとすれば、それは強い者でもなければ、多くから称賛された者でもない。……「守りたいものを守り抜いた者」だ。どれだけ傷つこうと、どれだけ恥辱にまみれようと、どれだけ孤独になろうと、守りたいものや守るべきものを守り抜いた者こそが、最後には「英雄」と呼ばれるのだ。それに比べれば、強さや称賛などゴミのようなものだ」

 

 聞き入っているリンフーに対し、ユァンフイは最後に次のように訴えた。

 

「……君は実戦経験こそ乏しいが、まだまだ伸び代がある。だが力に驕り、溺れ、守るべきものを見失わないように、気をつけるんだ」

 

 そんな彼の饒舌さに呆気にとられつつも、リンフーは「はい……」と頷いた。

 

 

 

 ——そんな中、シンフォが先ほどとは違う、浮かない顔をしていることに、リンフーは気づいていなかった。

 

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