しかし…なにやら嫌な胸騒ぎを感じますね…(主より)
啓介「それじゃ車並べてくれ!!カウント始めるぞ!!」
池谷「いよいよ…だな…」
健二「あぁ……」
拓海「………」
樹「やべぇ……心臓のバクバクが止まんないっスよ……俺……」
祐也「奇遇だな……俺もだ…」
FDとハチロクのエンジンが始動してゆっくりと目の前を通過していきつつ啓介の指示にしたがってスタートラインに車を止めようとしている2台を見つつ顔に冷や汗を浮かべながら池谷達は眺めていた。
「赤城の歌姫対白いカリスマ……最速同士のドライバーが激突か……展開が読めねぇぞ……」
「そりゃ俺だってそうだ…。こんなバトル…下手すりゃレツドサンズ涼介や秋名のハチロク、エンペラーの須藤よりもヤバいんじゃないか……?」
「間違いないだろうな……」
だがそれは池谷達だけではなく、観戦に来てここにいるすべてのギャラリーや走り屋達も同じような気持ちになっていた。何せ今回のバトルは首都高最速といわれ、迅帝と張り合えるドライビングテクニックを持つ白いカリスマ、そして群馬エリア最速といわれる赤城の歌姫の二大バトルなのだ、そうなるのも無理もない。
ー頼むぞ……絶対に勝てよ…友奈…ー
ハク「一応言っておくけど、今からならリタイアも可能よ?」
友奈「まさか…♪私は受けた勝負は必ず受ける性格なので…!」
ハク「…ふっ♪面白い子…、あとでじっくりお話したい気分だわ」
啓介「それじゃ!カウント始めるぞ!!」
スタート合図をするために啓介が二台の間に立つように陣取り5本指を見せながらカウントを開始する。
啓介「スタート5秒前!!
4!!
3!!
2!!
1!!
GO!!」
啓介のスタート合図とともに2台は後輪を激しくホイルスピンさせながらまるでカタパルトから放たれる戦闘機のような勢いで飛び出していく。
「いよいよ始まったぞ…!!」
「あぁ…!最速同士のダウンヒルバトルが……っ!」
「やべぇ……見てるだけでも心臓がドキドキとしてはち切れそうだ……」
目の前を怒涛のスピードで通過していく2台を見つつあまりの気迫に思わずギャラリー達は息を飲み込んでしまう。
史浩「スタートダッシュは互角か……流石といったところだな……」
涼介「あぁ…あのドライバーは見ただけでもわかる……かなりやるぜ…!!」
啓介「……(ゴクリ)」
ーさてと…ここはあっちのホームコース…、どんな感じで走るかお手並み拝見といきましょうかー
隣を疾走する友奈のハチロクをちらりと見ながら笑みを浮かべたハクは踏み込んでいた足を少し緩める。すると先ほどまでハチロクにも劣らない加速を見せていたFDがギャラリー達に気づかれない程度で僅かに鈍り、そのために全開で走っていたハチロクがじわじわと前に出ていく。
ー減速した……?相手の腕なら数日走っただげも把握は出来そうだけど…。…いや…、これは私を試してるのかも……どれくらい速いか…、実力があるのか…ー
もちろん友奈はそのことに気づいており、じわじわと後ろに下がってこちらの後ろにつこうとしているFDをバックミラーで確認しつつ眉を潜める。
ー上等じゃない…そこまでやられたらやってあげるわ…!!どこまでついて来れるかな…!ー
だがそこまでされたら乗らないわけにはいかないのが友奈の性格、覚悟を決め込みつつアクセルを強く踏み込んでさらにハチロクを加速させていく。FDもそれに続くように加速する。
ーせいぜい私をがっかりさせない走りをすることね!ー
「第3コーナー!!ハチロクが先頭で突っ込んでくるぞ!!」
「っておいおい…!?あの速度域で来るのか!!?」
「相変わらず赤城の歌姫はぶっ飛んでるぜ…!!」
ーここ…!!ー
1コーナーに陣取っているギャラリー達が呆気に取られている中、フルスピードでハチロクが突っ込んでくる。ギリギリまで引き付けた友奈はここぞと言わんばかりにフルブレーキングして4速から2速へ叩き込みつつステアリングを切り込む。
テールランプが点灯すると同時に後輪を滑らせたハチロクは摩擦で白煙をタイヤからあげながらガードレールにリアバンパーやフロントバンパーが当たりそうで当たらないという微妙なコントロールを見せつつ思いっ切り流していく。
「すげぇ…!!ガードレールとの距離こんくれぇしかねぇぜ!!相変わらず感覚が化け物染みてるぜ…!」
「あのドライバーじゃ想像できねぇテクニックだよな…、悔しいが…女性の走り屋もなかなかやる…!」
ハチロクが過ぎたすぐあとに、続くように白いカリスマのFDもコーナーに突っ込んでくる。同じようにフルブレーキングしつつ2速に放り込むハク、そしてステアリングを切り込んで友奈と同じようにガードレールギリギリのドリフトで流していく。
「うひゃー!?白いカリスマもなかなかにぶっ飛んでる!!首都高ではあそこまで詰めてるのは見たことがないのに…!」
「首都高と峠じゃスピードレンジが違うからな……、それに白いカリスマも実力は確かだ…!やろうと思えればなんでもできるってことだよ…!」
「迅帝でもやっとで勝てたらしいからな……、恐ろしいぜ……ナンバー2の迫力は…」
ー改めて凄さを思い知らされる……このFDのドライバーの凄さを……ー
ー見込んだ通りの実力ね…、ここまでハチロクを操れる人間は初めて見たわよ…ー
かくして二人は互いのドライビングテクニックの凄さを改めて思い知らされつつ夜に包まれた赤城峠のダウンヒルを疾走していた。
ーだからこそ…!貴女には体験して欲しいわね、ストリートのバトルではこんな抜き方もあるってー
ストレートでもぴったりとハチロクの背後に張り付きつつハクは友奈に対して圧力をかけていく。後追いの精神的有利、そしてそれだけではなくなにやら策略があるようでハクは笑みを浮かべる。
ー…圧力かけてきたか……けど…!そう簡単にへたばるような私じゃないよ…!伊達にいろんな走り屋と走っただけあるんだから…!!ー
バックミラーにしっかりと写り込むFDのヘッドライトをチラリと視線を向けて見つつ、プレッシャーには負けないという闘争心を露にする。その期待に応えるかのようにハチロクは甲高いエンジン音を響かせつつさらに加速していく。もちろん、FDも負けまいと加速して追い縋っていく。
「きたきた!!来るぞ!!」
「おぉ…!!ハチロクがまだ頭だ…!!」
「いや!!FDもケツぴったしに張り付いて煽り倒してら…!!」
中間セクション手前のコーナーで陣取っていたギャラリー達は聞こえてくる2台のエンジン音を聞くなりそちらに視線を向ける。直後陰から勢いよくヘッドライトの光とともにハチロクが最初に、それに続くようにFDが現れてギャラリー達が声を次々とあげる。
ーくっ…!!ー
コーナー手前でフルブレーキしつつ2速へ放り込んでステアリングを切り込み、誰もを魅了する華麗なドリフトで思いっきり流していく。そう、友奈が得意としている走りでありこれが赤城の歌姫と言われる由縁の一つだ。
ーギャラリーとして見てるときもそうだけど…やはり直接見た方が美しさがはっきりと伝わってくるわ…。まだ18歳という若さ…なのに走りは熟練の走り屋とほぼ同じ……いや……下手すりゃそれ以上かも…ー
その凄さはハクも体感しており、走れば走るほど彼女に対しての興味が湧いてくるほどであった。もちろんギャラリー達も友奈の走りに呆気をとられていた。
「相変わらず綺麗な走りだぜ……なんて現せばいいのか……」
「言葉にできねぇというか……ドリフトなのに美しいという気持ちになったのは生まれて初めてだ…」
「なんというか…ドリキンやドリフトがうまい走り屋とはまた一味違った感覚を味わってる気分だぜ…」
「流石は…『赤城の歌姫』って言われるだけあるな…。親子揃って走りの天才だよ…」
ーでも…そんなに飛ばして大丈夫かしら…?そろそろ効いて来るんじゃない?ー
スタート地点
史浩「そうか…、あぁわかった(ピッ)、今中間セクションに入ったそうだ。ハチロクはまだ頭だがFDもぴったしに張り付いている。」
賢太「やっぱりすんなりは勝たせてくれなさそうですね……、見ただけでもオーラがハンパなかったですから…」
頂上では中間セクションに陣取っていたレッドサンズメンバーからの報告を無線で受けた史浩が会話を終えて涼介達に視線を向けつつ現状を報告する。それを聞くなり涼介を覗くメンバーの眉が細まってしまう。
啓介「オーラだけじゃねぇ…赤城の歌姫にとって有利な条件でのバトル…それなのにアイツは表情豊かにしていた……。俺がその立場ならあそこまではできないぜ…」
涼介「スタートダッシュを見ただけでも白いカリスマの実力がピリピリと伝わってくるな……、正直今回のバトルは有利そうに見えて赤城の歌姫の方が苦しい展開になるだろう…」
史浩「……?それはどういうことなんだ涼介」
涼介の意味深な言い方に疑問を持った史浩が首を傾げつつ訪ねてくる。もちろん彼だけどはなく啓介以外のレッドサンズメンバー達も同じように首を傾げていた。
涼介「さっき気になって調べて見たんだがあの白いカリスマは俺と同じ分析派…、後ろについたということは彼女の実力はバレバレだろうな…」
賢太「えっでも…それならあのエンペラー戦や涼介さんとの戦いでも同じことが……」
啓介「ケンタはわかってないな、アニキが言いたいのはそんな話じゃねぇ」
賢太「…と言いますと……?」
賢太の疑問に突っ込みを入れる啓介、どうやら彼は涼介の言いたいことがわかっているようだ。
啓介「実力がバレているっていうのは正直上手い走り屋同士のバトルならよくある話だ。手の内隠してもいずれモロが出るからな…、だがそれよりも問題なのが…」
涼介「啓介はわかっているようだな。そう、一番の問題は歌姫がペース配分ができてないということだ…」
史浩「あの赤城の歌姫が…!?どういうことだよ涼介…!」
まさか涼介の口から飛んでもないことが飛び出てきたことに驚きを隠せない賢太達、思わず史浩が反射的に問う。
涼介「先ほど区間タイムを調べたんだが……明らかに俺の時よりもタイムが異常に早くなってる…、おそらくだが……最初から彼女は全開で飛ばしているな……尋常じゃないほど……」
史浩「……確かに……かなりタイムが早くなってる…、だがあの娘はそこまで下手じゃないだろ…?一体なにが……」
啓介「これは俺の勘なんだが……、白いカリスマの女ドライバー…ペースが上がるように上手いこと歌姫を誘引しているな」
賢太「誘引……、まかさ…!?」
涼介「いくら凄腕の走り屋とやり合った彼女とは言えど…峠でのバトル経験はまだ浅い。それにあの娘の性格を考えれば…」
史浩「ちょっとの誘導でもあっさり乗ってしまうってことか……、なかなか向こうのドライバーはエグいことをしてくれるな……」
確かに友奈は現役の走り屋の中でもトップクラスの実力を持っているし走りの経験も豊富だろう…。だがストリート、つまり公道でのバトル経験はまだヒヨッコと言ってもいいということだ。それに気づいていたハクは走りではなく経験でものを言わすという勝負に出たというのが涼介や啓介の分析ということだ。
涼介「…こればっかりは経験だからどうしようも出来ない…、彼女はこれまでにない劣勢を強いられるだろう」
ー乗れてる…エンジン載せ変えて初めてのガチなバトルだけど……意外いい感じ…!ハチロクも絶好調だしこれなら…!!ー
ステアリングを握りながら今までにないような好調な走りが出来ていることに自然とテンションが上がっている友奈。その影響も車にモロ出ており、先ほどよりもハイスピードでダウンヒルを駆け抜けていた。
ーいいわねぇ…、いい感じの走りだわ…!けど…そろそろ効いてくる頃ね…ー
そんなこんなしていると右コーナーに2台は差し掛かっていく。ほぼ同時にブレーキペダルをリリースしてフルブレーキング、2速に叩き込んでステアリングを切り込み先ほど同じように突入していく………はずだった…
ー……!!?ー
いつもと同じようにドリフトをした友奈であったが、コーナーの途中で突然フロントタイヤの感触が鈍くなってしまい一瞬ふらついてしまう。
ーここ…!!ー
そのせいでハチロクがじわじわとアウト側に膨らんでしまう。もちろん美味しいチャンスをハクが見逃すはずがなくがら空きになったインにFDを滑り込ませて、何事もないかのように抜いて前に躍り出ていく。
ーうっ嘘……抜か…れた……ー
あまりにもあっさり過ぎる抜かれた方に友奈でさえも唖然とした表情になってしまい、なにが起こったのか理解が追い付いていないようだ。
ーどんなに速くても……結局はバトルって言うのは経験がものをいうのよ…!!…この勝負…!私が貰ったわ!!ー
ハクの策略によって
いつの間にか……ペースをあげすぎてしまい予想以上にタイヤを損耗させてしまいあっさりと抜かれてしまった友奈……
一体どうなってしまうのか…