ー…こんな…あっさりに抜かれるなん…て……ー
一体何が起こっているのか理解が追い付いていない友奈、いや今はタイヤが余力がないなかでなんとかFDについていくことしかできずにいた。
ー今まで…抜かれてこんな感覚になったことなんてない…のに……ー
今まで峠やサーキットでのバトルでも、抜かれたときは驚いたりすることはあった…。だがここまで大きなショックを受けるような衝撃は一度もなかったのだ。
ーやっぱりね……かなりショックが効いてるみたい。読んだ通りだわ…。確かにあの娘は速い…、けど…どんなに連勝してもストリートでは経験が物を言うのよ…!!つまり…あなたの弱点は経験が浅い分こうゆうのに耐性がない…ってこと…!!ー
やはりという表情を浮かべつつ、ハクはアクセルを踏み込む力を強めてハチロクを振り切りにかかる。FDも完全に余裕があるとは言えないため、タイヤの余力があるうちに振り切りにかかろうという算段だ。
ー……っ…!離される……!逃がしてたまるか…!!ー
圧倒的苦しい状況だがここで離される訳には行かず、友奈はアクセルを思いっきり踏み込む。それに答えるかのように4AGサウンドが唸りを上げてハチロクも追い上げる。
ータイヤがへたれようとも……簡単に負けるつもりはないから…!!ー
スタート地点
史浩「何…!!?あぁ…!わかった…!!」ピッ
啓介「どうした…?そんなに慌てて…」
史浩「…赤城の歌姫が抜かれたそうだ……」
「「なっ!?」」
なにやら慌ただししく話していた史浩に首を傾げながら啓介が問うとまさかの回答が出てきたことによって周囲にいた人達がざわめき始める。
「赤城の歌姫が抜かれた…!?」
「群馬エリアやエンペラーでも歯が立たなかったのに……ありえないぜ…夢でも見てるんじゃねぇか…」
「あれだけの速さを持っているのに……一体なぜ…」
ネル「いくら速さを持っててもそれ相応の経験がなけりゃストリートは勝っていけないわ」
未だ理解が追い付いていないギャラリー達に代弁するかのように先ほどまで静かにNSXに寄りかかっていたネルが歩み寄ってくる。
ネル「確かに私から見ても速いと思う、ハチロクをあそこまでのりこなせるドライバーは他には滅多にいない。…けど、あの娘には致命的な弱点があるのよ」
啓介「ちょっとでも挑発すれば乗ってしまう…だろ?」
賢太「っ……!?」
ネル「そっ、そこの高橋啓介のいう通り。途中からだけど私とハクはあの娘バトルを何回も見てきたの、もちろんただ見てるだけじゃなく分析もしていたわ。」
涼介「…それで…調べた結果、あの娘は後ろから揺さぶれば誰でも乗ってしまう…ということがわかったんだな…」
史浩「そこまで見ていたとはな…」
まさか白いカリスマや夢見の精霊がそこまで見ていたとは思わなかった史浩は驚きの表情を隠しきれない。もちろん高橋兄弟以外、池谷達も同様の表情を見せていた。
池谷「つまり…上手いことやられたってことか……」
祐也「ですね……、確かに友奈はそういうところはありますが……まさかそれを巧く利用するとは思いませんでした…」
健ニ「一枚やられたな……、流石は十三鬼将の一人……」
樹「これ…もしかしたら友奈ちゃん不味いんじゃ……」
拓海「………」
ネル「ハクの予想通りの走りをしていれば今頃タイヤはタレタレでしょうね~。いくら速くてもタイヤが使い物にならなきゃ車の性能は発揮できない。この勝負…もう決まったわね」
涼介「それは…どうかな?」
この後の展開を予測したネルの発言を否定するかのように涼介が口を開いて寄りかかっていたFCから離れる。
ネル「あら?あなただってわかってたじゃない、それなのに否定するのかしら?」
涼介「お前達の思ってるほど彼女は柔くはないぞ…?バトルした俺だからこそわかる。」
ネル「いっとくけどハクも簡単には引かないわよ?しかも赤城の歌姫はかなり苦しい立場なのにどうするっていうの」
涼介「ふっ…君はわかっていないな…。ストリートというのは確かにお互いの技量はかなり響いてくる…だが一つそちらの考えに間違いがある……」
ネル「間違い……?」
涼介「ストリートで決着をつくのは技量だけじゃないぜ…!どっちが勝利するのか…それはゴールを通るまでは誰にもわからないってことさ…!!」
ータイヤが…けっこうヤバい……!調子こいて飛ばしたのが仇になってる……ー
完全にタイヤの余力がなくなってしまい思うようなステアリング操作が出来ない中、なんとかいう思いで前のFDに追随していた。だがやはりそんな状態でついていけるわけがなくコーナーを過ぎる度にじわじわと距離が開いていくのが伝わってくる。
ー屈辱ね……自分が得意と思ってたコーナー勝負で負けるなんて……っ…、でも…タイヤがこれじゃ……ー
どうにかして突破口を見つけたい友奈であったが、いくら技量に自身がある彼女でもタイヤがこうなってしまった以上、どうにか出来るはずもなくただ時間だけが過ぎ去っていた。
ー予想よりも離れるスピードがかなり遅い……、見事ね…そっちはかなり苦しいはずなのに…ギリギリをキープしつつついてこれるなんて…ー
バックミラーで後ろからついてくるハチロクをチラリと見つつなかなか離れないことに驚きを隠せない。彼女の計算ではこの時点でかなりのアドバンテージをとれると予想していたのだが……
ー地元でコースを熟知しているから出来る走り……いや…それよりも群馬エリア最速の走り屋てしての意地があるのかもね…抜かれてからオーラの迫力が尋常じゃないわ……!ー
だがいくら走れどスッと離れる気配はなく、ジリジリと離れていた車間も今は一定になっていた。それだけではない抜かれからというものハチロクからは今まで彼女が感じたことのないようなとてつもないオーラが漂っていたのだ。
ーこんなの…迅帝とのバトルでも感じたことがなかった………何者なの…この子…!!?ー
友奈がタイヤなどで余裕がない反面、ハクはタイヤにまだまだ余力があるのにも関わらずプレッシャー面でほとんど余裕がなくなっていた。首都高でトップ1位を争うほどの実力の持ち主である彼女でさえもこのような相手は想定外だったのだろう。
ー…っ…、離れない……?というよりか…一定距離開いたら開かなくなった…。これなら…残りのコーナーは少ないけど……ワンチャンスにかける!!頼んだよ…ハチロク!!あなたが頼りなの…!!ー
相手の勢いが衰えてきたことに気づくないやな、ここからが本番と言わんばかりにシフトアップしてアクセルを強く踏み込む。甲高いエンジンサウンドを響かせながらハチロクはフル加速、ジリジリと追い上げていく。
ー追い上げてきた…、だけど負けるつもりはない…!!こっちはまだタイヤに余力がある…逃げ切らせて貰うわよ!!ー
ハチロクの咆哮に答えるかのようにFDのロータリーサウンドが唸りを上げてこちらも尋常じゃないほどのオーラを漂わせつつ暗闇に包まれた峠を疾走するのであった。
「きたきた!!2台がそろそろ来るぞ!!」
「まだFDが頭だ…!!けどハチロクもあきらめてない!!」
とあるコーナーで陣取っていたギャラリー達の視線の先に、ヘッドライトの光に少し遅れるように物凄い勢いで2台が姿を現してコーナーへ突っ込んでいく。
ー…!!ー
ーくっ……!!ー
先に突っ込んだFDがフルブレーキングでテールランプを点灯し、それに少しタイミングがずれる形でハチロクのテールランプも明るく光だす。
ほぼ同時と言ってもいいタイミングで2速に二人はギアを叩き込んでステアリングを切り込む。後輪から白煙をあげつつ2台は滑らせながらガードレールギリギリのコーナリングを披露する。
「うひゃー!!やっぱうまいやつのドリフトは一級品だぜ…」
「全くだよ…!あの速度域で正確なコントロールが出来るんだから凄いもんだよ…!」
「今のところFDが優勢だが……この感じだとまだどう転ぶかわからねぇな…」
ー向こうはタイヤに余力はない…となれば抜くチャンスを作りさえしなければ強引にはいけないはず…!こっちもプレッシャー面で余力はあまりないけど……あとはテクニックで逃げきる…!ー
バックミラーで張り付いているハチロクを見つつ、このまま逃げ切らせて貰うと言わんばかりにFDを加速させていく。確かにハクの言う通り、今の友奈とハチロクにはチャンスが来なければ強引に抜かすほどの余力がない。理論上では彼女が有利なのは合点がいく。
ーなかなかチャンスがこない…向こうもわかってるわね……こっちに強引でも抜き返す余力がないってこと…ー
なかなかチャンスが巡ってこないことに相手がこちらの状況にあわせて走りをしていることに思わず眉を細めてしまう。
ー確かに…その通りだけど……、手段がないって訳じゃないわ…!一流の走り屋って言うのは…奥の手を持ってるんだから…!ー
最終コーナー手前にあるコーナー
「いまだにハチロクは張り付いてるが…!白いカリスマも簡単にはいかせないつもりらしい…!」
「不味いよ…この先が最終コーナーなのに…このままじゃ赤城の歌姫が負けちまうぞ…」
中里「予想以上に白熱しているらしいな……」
慎吾「間違いないな…、流石は白いカリスマ。噂通りの実力だぜ…」
無線を聞いたギャラリー達が白熱しているの目に中里と慎吾は話を進める。まだここまで来ていないがスキール音やエンジンサウンドが上から聞こえて来るので近づいていることは察していた。
慎吾「話を聞く限りじゃ、主導権は白いカリスマが握っているらしいが…俺はこのままいくとは思えないな…」
中里「奇遇だな…俺もだよ…。アイツは簡単には負けやしない…、これだけは何故かハッキリするんだ…。」
慎吾「だな……っと…そろそろ来るんじゃねぇか?」
状況は赤城の歌姫が不利なはずなのにこの二人だけは何故か落ち着いた様子を見せていた。一体なぜ…落ち着いて要られるのだろうか……。
「きたきた!!2台揃って突っ込んでくるぞ!!」
「くぅ~…!!相変わらずイカれた速度だぜ…!!」
ーここを過ぎれば…私の勝ちよ…!!ー
勝利を確信しつつハクはフルブレーキングで2速に叩き込みつつステアリングを思いっきり切り込む。それとほぼ同じタイミングでFDは後輪をスライドさせつつコーナーを過ぎようとする。
ーっ!ここしかない…!一か八かで賭ける!!ー
ここしかないと思った友奈はアクセル踏み込んで空いているアウトのスペースにハチロクを放り込ませる。
ーなっ…!?このタイミングで…!!ー
「行きやがった!?」
「無茶だ!!そのタイミングじゃ曲がりきれないぞ!!」
まさかこのタイミングでこられるとは思ってなかったハクは目を大きく見開く。同じようにギャラリー達も驚きの声を上げて慌てるように指摘する。
ーそのタイヤで来るのはリスクがありすぎる…!!このタイミングじゃ絶対に曲がれない!!ー
ハクやギャラリー達の言う通り、垂れきったタイヤでこれほどの突っ込みをしては曲がりきれなくなってしまい現に友奈のハチロクはジリジリとアウト側に膨らんでいきガードレールに近づいていく。
「にっ逃げろ!!こっちに突っ込んでくるぞ!!」
「ひぃぃぃ…!赤城の歌姫とち狂ったか!?」
あまりの恐怖かギャラリー達が慌てるように退避していく…。しかし中里と慎吾は微動だにせずに突っ立っていた。
ー…!!ー
その間にもハチロクとガードレールの距離はどんどん縮まっていきついには接触してまう……はずだっだ。
…ガードレールにぶつかる音は全くせずハチロクは減速したりバランスを崩すどころか先ほどよりも加速してFDと並ぶ。
ー何…!?この加速は…!!ー
一体何が起こっているのか理解できてないハクは混乱する頭をなんとか堪えながらも最終コーナーにFDを突っ込ませる。ハチロクも同じように並びながら同じタイミングで頭をねじ込ませる。
ーいっけぇぇぇ!!!!ー
しかしインとアウトが入れ替わるこの最終コーナー、先ほどの勝負でポジションが変わっているためハチロクがジワジワと前に躍り出ていく。
ー…完敗…ね……、まさかここまで諦めの悪い子だとは思わなかったわ……。峠は奥が深いわね…ー
中里「やはりな……峠っていうのは魔物がいるもんだ……」
慎吾「…だな…、それに…赤城の歌姫がここまで成長するなんて……こりゃまだ化けそうだ…」
「歌姫だ…!!赤城の歌姫が勝ったぞ!!!」
「おぉぉぉ!!!!」
樹・池谷・健二「「「うぉぉぉぉいい!!(涙の歓喜)」」」
拓海「ふぅ……ドキドキしっぱなしでしたよ……」
祐也「それは同意だな……」
友奈が勝利したという報告を聞いたスタート地点のギャラリー達は歓声を上げて池谷達も抱き合って喜んでいた。拓海と祐也は一息つきつつ笑みを浮かべている。
賢太「うっしゃ!!!!やりましたよ啓介さん!!歌姫が意地を見せてくれました!!」
啓介「あったり前だケンタ、俺達を倒した走り屋だぜ?こんなところじゃくたばらないさ…!」
涼介「ふっ……」
そんなレッドサンズメンバーやギャラリー達を見つつ涼介は笑みを浮かべて空へと視線を移す。そこには…彼女の勝利を祝福するかのようにきれいな星空が広がっているのだった。
友奈「ふぅ……」
なんとかギリギリで勝利できた友奈は思わずため息を吐いてしまう。勝てたとは言えど今回のバトルで自分の未熟な所が露になってしまったせいか何か浮かない顔をしている。
友奈「……私…ちゃんとハチロクの期待に答えられてるのかな……」
ポツリと彼女が放ったそんな言葉……それはエンジンサウンドの音に書き消されていくのだった……。
なんとか勝利することに成功した赤城の歌姫
白いカリスマとのバトルで彼女は何を得たのだろうか…?